邂逅
一人の少年がいた。
彼は失った記憶を求め続け、その過程で多くの仲間や新たな思い出を作り出す。
長い戦いの果てに、彼は自分が忘れようとした記憶を取り戻した。そして自分が持つ力が人々を傷つけ、命を奪ってしまいかねない危険をはらんでいるという事を思い出す。
「僕は、ここにいてはいけない」
迷いなく、そう言い切れた。
「未練はある。だから未練はない」
未練ならある。
やり残したことが多くある。まだやりたい事が数えきれないほど存在する。
失いたくないほど大切なものがたくさんできた。
故に、それら全てを終わらせてしまいかねない自分はいるべきではない。
ここに残る事に未練はなかった。
『みんなが僕を忘れますように』
最後に少年は世界に向けて願いを籠める。
自分に色をくれた人々に、自分を失った悲しみを味合わせないように。全てが泡沫の夢のように消えてほしいと。
彼の願いは確かに叶い、大きすぎる代償として彼はその力を失った。
「——時の歩みを止めないでくれ! 俺は、明日が欲しい!」
少年の眠りから約一年後。同じ力を持つ友が、同じ場所で、同じように世界に願いをかける。
固定された過去も、停滞する今日もいらない。人々が求め続ける明日を欲しいと力の限り叫んだ。彼の願いも平等に叶い、この地で眠る少年にも叶う事となる。
ただしこことはまた異なる場所、世界にて。
————
『
三門市。
人口28万人を有する日本の街は突如開いた
「よっしゃ。今回は俺達が一番乗りか?」
今日も新たに出現した
得意げに笑うのは米屋陽介。数いるボーダー隊員の中でも精鋭と謳われるA級の隊員だ。
A級三輪隊
「無駄口を叩くな。さっさと
「わかってるって」
対して冷たい口調で米屋を諭したのは彼の部隊の隊長・三輪秀次。
A級三輪隊
二人は建物の屋根伝いに最短距離で門が発生したという場所に向かっていた。
警報からすぐに本部を出れた為に見回りしていた隊員よりも先に現着できるだろう。早急に任務を果たそうと考え、現場が視界に映る距離になって違和感を抱く。
「……おい、秀次」
「ああ。何かおかしい」
「だよな」
米屋も同じように疑問を感じたのだろう。短いやり取りでお互いの意見は伝わった。
それにも関わらず、まだ
「偵察系の敵という可能性もある。急ぐぞ」
「おっけー」
まさかこちらの世界に潜伏するタイプの敵なのか。ボーダーが把握していない存在も捨てきれない。二人はさらに速度を上げ、瞬く間に現着した。
「どーなってんだ。マジでなんもねえぞ? トリオンの形跡もねえ」
「……三輪隊現着した。周囲に
『調べるわ。ちょっと待ってて』
二人が付いた現場には異変は何も見られない。立ち入り禁止とされている警戒区域。かつて人が住んでいた建物が少し崩れた形跡はあるものの、最近できたものではなかった。巨大な生物が暴れたような痕跡は一切ない。
違う部隊が先に迎撃したのだろうか。三輪はオペレーターに通信を繋げる。
『いいえ。先着した部隊はないわ』
「なに?」
「マジで?」
『私たちが一番乗りのはずよ?』
だがオペレーターから予想された答えは返ってこなかった。
味方が仕事を果たしたわけではない。しかしいくら見回しても敵の姿は見られない。
意味がわからず二人は揃って首を傾げた。
「じゃあどういう事だ? 機械の不良か?」
「もしくはまだどこかに潜伏しているかのどちらかだな」
『こちらでも計測を続けるわ。二人は周囲を探索して』
「了解した」
もちろん機械のミスという可能性も捨てきれない。だがまだ敵がどこかに潜んでいるとしたら大問題だ。
念のため警戒を続けた方が良いだろうというオペレーターの指示に従い、二人は手分けして周囲を調べ始める。
そして捜索から約二分。
「おい秀次!」
「どうした?」
米屋が何かを見つけて三輪の名前を呼んだ。すぐに三輪も米屋の下へと急ぐ。
ある建物の入り口に銀髪の少年とも青年ともとれる男が寄りかかるように眠っていた。意識はないようだが傷はなく呼吸も安定している。大きな怪我は特に見受けられなかった。
「……まさか人型の
「いや、生身みたいだし違うと思うぜ。トリガーも身に着けてねえし」
「つまり警戒区域に立ち入った一般人だと?」
「一番可能性が高いのは、な」
人の見た目をした敵も存在する。だが目の前の意識を失っている相手が武器を所持していないという事は米屋がすでに確認していた。
ならば部外者が偶々この警戒区域に立ち入り、何らかの事件に巻き込まれて意識を失っているだけ。そう考えるのが妥当だろうと三輪達は結論を出す。
「とりあえず保護して本部に連れてくって事でいいか?」
「……そうだな。もしもこいつが
「了解」
「本部。こちら三輪隊。これより事件に巻き込まれたと思われる一般人を搬送します」
三輪はボーダー本部に一つ報告を入れて通信を切った。
ボーダーは記憶を消去する技術を持っている。秘密保持のため、
もしもこの相手が本当に無関係の者だとしても、敵を見ているのならば話を聞き、そして記憶を封印しなければならない。三輪は米屋に視線で指示を出すと、米屋が頷いて少年の体を背負った。
「おっ?」
「何だ?」
「いや、だいぶ華奢な体だと思ったんだけどな。こいつ、かなり鍛えてるみたいだぜ」
「ほう?」
米屋が小さく笑ってそう口にする。相手は線が細く、スラっとしている体形だ。だが米屋がわざわざ語る程筋肉がついているのだろう。
「ひょっとしたらかなり
「まさか」
米屋の冗談を三輪は鼻で笑った。
男の顔はとても整った穏やかなもので、身体の細さと相俟って戦闘からかけ離れた印象しか覚えない。
だから三輪はこの米屋の言葉を聞き流す。
この時はまだ、彼の存在がボーダーにとっても大きなものになるとは想像できなかった。
裏サブタイ:一時間後に気を許す三輪
ワールドトリガーとコードギアスLOSTCOLORSのクロスオーバー作品となります。ライはギアス編を経由。ギアスの力そのものは失った状態でギアスの知識はなくても大丈夫なように書いていく予定です。