REGAIN COLORS   作:星月

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守護騎士

「本当に大切なものは、遠ざけておくものだ」

 

 かつて長い時を生きた魔女はそう語っていた。

 何よりも大切なものであるからこそ、己の周囲に置くことで不測の事態に巻き込まれないように、あえて自分と距離を空ける。そうすることで間接的にその存在を守れるのだと。

 今になってようやくその意味が真に理解できた。

 少なくとも今の自分の手元には、彼女を置いておくべきではない。

 

「もう嫌になってしまったんだ。こんなにもあっさりと失ってしまうくらいならば、最初から目指さなければ良かったんだ」

 

 そう考えたライは無二の存在である少女を遠ざけるために、あえて嘘を重ねた。

 少女の悲痛な叫びを前にしても、心の悲鳴をひたすらに隠し続け、仮面を被り続ける。

 何度も何度も説得を続けられても、ライは一向に意思を翻すような事はせず。

 

「――わかりました。それが、ライ先輩の本当の(・・・)想いならば」

 

 日を空けての説得も効果はなく。最後は瑠花の方が折れ、部隊解散の書類に自身の名を書き記した。

 もうこの部屋に来ることはないだろう。後日、彼女自身の私物をとりに来るという約束を取り付け、彼女は数ヶ月の間通い続けた作戦室を後にするのだった。

 

「…………すまない」

 

 部屋の扉が閉ざされ、足音が完全に聞こえなくなってから、ライは誰に告げるわけでもなく呟く。

 当然彼の謝罪は誰の耳にも届くことはなく、一人となった作戦室は静寂に包まれていくのだった。

 

 

――――

 

 

 ある日のポイント外個人ランク戦。

 ライは柄が長い二振りの短剣を手に荒船と切り結んでいた。

 これは現在は試作中の、多対1を想定して彼自身が作り上げた新たなトリガーだ。かつて彼が前の世界でとある研究者の実験データとして試用した武器を模倣したもの。

 両手で弧月を振るう荒船に対し、ライは両手の刀を縦横無尽に振るい、手数で荒船を押していく。

 

「ちっ!」

「荒船!」

 

 太刀川を彷彿させるような鋭い切り込みに荒船が思わず舌を打った。

 するとようやくその場に合流した村上が荒船を救おうと特攻する。

 ライの提案で実施された2体1の戦いだ。故にこの形になるのは当然だったために、ライも焦りはなかった。

 

「コネクター、オン」

 

 瞬間、ライは新しくセットしていたオプショントリガーであるコネクターを起動。たちまち二振りの短剣が根元で繋がり、長い槍と化した。

 そのままライは目前の荒船に向けて連続突きを行い荒船をその場で足止めし、続いて背後から迫る村上へと勢いよく槍を突き立てた。

 

「ぐうっ!」

「くそっ!」

 

 高速の突きを受け、二人の体勢が一瞬とはいえ崩れたのを見逃さず、ライは手を中心にして槍を円を描くように高速回転する。前後から挟撃を狙おうとした二人を一挙に弾き返した。

 

「まじか!?」

「相変わらず、動きが読めないな……!」

 

 弧月を弾かれた二人はたまらず距離を取り、体勢を立て直す。

 2対1で前後から仕掛けているというのに落とすどころかこちらが一転して状態が悪くなってしまった。

 新しいトリガーの試し斬りと聞いていたものの、とてもそうとは思えないほど自在に操る同級生の姿に荒船と村上は揃って背筋が凍る感覚を感じ取る。

 

「ありがとう。二人のおかげで、また改良できそうだ」

「……言ってくれる!」

「ならせめて、その前にここで一矢報いさせてもらう!」

 

 そんな二人を煽るように笑うライを見て、荒船と村上に再度闘志が滾った。

 これ以上好き放題は言わせないと、戦闘員ではなくなった今でもライバルだと信じて疑わない親友へ突撃する。

 

 

――――

 

 

 同時刻、個人ランク戦のブースの外では諏訪がスクリーンをじっと見つめていた。

 映し出されている映像はまさにライが荒船と村上を二人に切り結んでいるところである。

 仮にもエンジニアである相手に正規隊員が二人がかりで挑むというのはにわかには信じがたいことでは有るのだが、実際互角の勝負を演じているのだから使用者の技量の高さが窺えた。

 

「また今日もやっているのか」

「おっ。風間か。……ああ。また紅月が新しいトリガーを試したいと言ってやってるぜ」

 

 諏訪が椅子で腰掛けていると、彼を見つけた風間が声をかける。

 戦闘の主がライであると知った風間は「やはりか」と大きく息を吐いたのだった。

 

「熱心なのは良いことだが、もはや本当にエンジニアなのかと疑いたくなるな」

「まったくだぜ。てか今のエンジニア界隈やべえだろ。下手な正規部隊よりエンジニア合同部隊の方が強えぞ」

「言い得て妙だな」

 

 ライが戦闘員からエンジニアに転属してはや数ヶ月が経過している。

 あの部隊降格となった事件の後、ライは部隊を解散し、自身はエンジニアへと立場を変えていた。

 隊長を務めていたほどの人物が技術職に移ったことで当時の反響は相当なもの。特に諏訪などは彼以外にも同じ経緯を辿った知人を知っているために余計に複雑であった。

 

「……実に惜しい逸材だがな。確かに支援方面でも力は発揮するだろうが、あれほどの男を前線で見ることはないとは」

 

 風間もライの力を認めているからこそ、このような形となってしまったことを残念に思っている。

 いつかはまた、彼が前のように共に信じあった大切な存在と共に輝ける時が来て欲しいと心から願うのだった。

 

 

――――

 

「……うん。よし、双葉。これでチューニングは終了だ。使ってみてもし何かまた調整が必要ならいつでも連絡してくれ」

 

 数日後。

 ライは黒江の依頼で彼女のトリガーの調整を行っていた。

 特に彼女の場合は専用のトリガーも使う都合上、メンテナンスは欠かせないものだ。

 念入りに確認し、最終調整を済ませて彼女にトリガーを返却する。

 仕事を観察していた黒江はどこか嬉しそうな声色でかつての師匠に礼を告げた。

 

「はい。いつもありがとうございます」

「助かるわー。紅月君はどんな時でも引き受けてくれるし、仕事も早いもの。――いっそ前提案したように、うち専属にならない?」

「誘いはありがたいですが、僕は他にも仕事を引き受けていますので」

「あら残念」

「すみません」

 

 加古の提案を綺麗にかわし、すっと頭を下げる。

 たとえ戦闘員という形以外でも必要とされることは多くあった。

 加古もその一人であり、いっそエンジニアとして直接力を貸してくれないかと以前申し入れたものの、やはりライは中々頷かない。

 

「部隊ランク戦も近いでしょうし、頑張ってください。それでは僕はちょっと行くところがあるので」

「何か仕事ですか?」

「うん。中央オペレーター室の方に、エンジニア職の作業報告を提出するんだ」

 

 だからまたねと、ライは双葉の頭をそっと撫でて二人と別れた。

 戦闘員からエンジニアに移ったライはチーフエンジニアである雷蔵の下、トリガーやトリオン兵の開発、研究に勤しんでいる。

 その仕事上、事務作業も自然と多くなり、戦闘員時代と同様に報告に上がることも頻繁にあった。慣れた足取りで本部の廊下を進んでいく。

 

「あっ。――紅月、君」

「――やあ。元気そうだね鳩原」

「うっ、うん。お陰様で、ね」

 

 途中、彼は反対方向から歩いてきた少女、鳩原と遭遇した。

 ライは自然体で接する中、彼女はぎこちない様子で言葉を必死に振り絞っている。

 原因を考えれば仕方のないことだろう。

 そもそもライはかつて彼女の事件を切欠に部隊を解散する事となった。その上――

 

「二宮隊は相変わらずの強さだね。依然B級トップを突き進んでいるから安心したよ。君の腕も健在でよかった」

「……ありがとう」

 

 真っ直ぐな称賛を送るライに、鳩原は必死にぎこちない笑みを浮かべて答える。

 そう、鳩原は現在二宮隊に復帰していた。

 時間はかかったものの、ライや弟子である絵馬、クラスメイト達の助言を得てなんとか勇気を振り絞り、自ら二宮やかつてのチームメイトに何度も頭を下げ、改めて再びA級一位を、遠征部隊入りを目指すことを約束して。

 そうして現在降格にはなったものの二宮隊は今もB級一位の座に君臨している。同じく降格した影浦隊すらも寄せ付けないほどの強さは一線を画していた。

 

「その、紅月君は今でも……」

 

 だがライは違う。

 どうして当事者である自分が戻れたのに巻き込まれた形の彼が前のような姿に戻れないのか。

 言葉を選びながら、鳩柄は話を続けるものの、ライは彼女の話を遮って少し語気を強めて言う。

 

「大丈夫だ、鳩原。僕の事は、僕自身で決めたことだから。君がいつまでも気にする事ではない」

「ッ」

「……すまない。僕はまだ仕事があるので失礼するよ。これからも頑張ってくれ」

「う、うん……」

 

 最終的にライは話を打ち切ってその場を後にした。

 これ以上会話を続けても互いのためにはならないだろう。そういう考えが過ったからだ。

 程なくしてようやくライは目的の場所であった中央オペレーター室へと辿り着く。

 しかし受付に人がいなかったため、ライは声を張り上げて人を呼んだ。

 

「すみません。誰かいませんか?」

「あっ、ちょっと待ってください!」

 

 するとすぐに声に応じて奥の方から高い声が返ってくる。

 幼さの残った女の子の声であった。しかも聞き覚えのある声だと察して、思わず書類を握る力が強まる。

 

「お待たせしました! 今日は――あっ」

 

 そして受付にやってきた少女、瑠花と目があって、二人は互いに言葉を失った。

 忍田瑠花。かつては紅月隊のオペレーターとして活躍していた彼女は現在、中央オペレーターの一人として仕事に従事している。

 何度か他の部隊から勧誘の声はあった。しかし他の人と組むつもりはないと固持し、本部長である忍田の薦めで中央オペレーターに復帰したのである。

 

「ラ――紅月先輩、お疲れ様です。本日はどうなさいましたか?」

 

 一瞬だけ瑠花はかつての愛称で呼び掛けて、すぐに他人行儀のような口調に戻し、ライに要件を問いかけた。

 当たり障りのないやり取りに、ライの目が僅かに細まる。だがすぐに冷静な顔を取り戻すと、自然な笑みを浮かべて瑠花に答えるのだった。

 

「ああ。今週分の研究成果の報告を持ってきた。受理のほど、よろしく頼む」

「わかりました。確認しますので少しお待ちください」

 

 ライから書類一式を受け取った瑠花は慣れた手際で報告書に目を通していく。元々中央オペレーターとして働いた経験もあり、再びこの現場で経験を積んですっかり身に付いているようだった。

 

「はい。確かに受け取りました。後の手続きはこちらが担当します」

「ああ、ありがとう。――君もしっかり慣れたようで、少し安心した」

「ありがとうございます。確かに仕事の方は、できるようになりました」

「……そうか」

 

「仕事の方は」と、言葉の裏にどこか別の意味を含んでいるような口ぶりはライにもしっかり伝わる。

 精一杯健在を振る舞っているようでも、まだ幼い少女だ。彼女の心中に抱く寂しさは自然と言葉に乗っていた。

 

「――ライ先輩の方は、どうですか?」

 

 何か想いに変わりはないのか。

 瑠花は今再び前のような呼び方で、声色で、上目遣いで問いかける。

 平静を装うのを止め、訴えるようにまっすぐ自分を見つめる彼女の姿に、ライの決意がぐらりと揺らいだ。

 

(……ダメだ)

 

 思わず「僕も寂しいよ」と発そうとした言葉を飲み込んで、ライは仮面を被り続ける。

 

「心配ないよ。研究職は思いのほか楽しいし、エンジニアにも結構色んな人がいて、飽きないしね」

「そう、ですか」

 

 笑顔でそう告げると、次第に瑠花は影を落とした。

 何とか彼女の気を張らしたいとは思ったものの、裏の仕事も請け負うこととなったライはそれ以上できることはなく。

 その後は結局他愛のない話をして、逃げるように中央オペレーター室を後にしたのだった。

 

 

――――

 

 

 その年の冬。

 ライにとって大きな転機が訪れる。

 

「迅さんと城戸司令の派閥が衝突……? 確かなんですか?」

「間違いありません。忍田を介して私の方にも連絡がありました」

「そうでしたか」

 

 瑠花とよく似た少女、ライが護衛を務める瑠花王女から告げられてライは何度も頷いた。

 エンジニアを表の仕事とするならば、こちらは赤の他人には話せない裏の仕事だ。ライは部隊解散の後から王女の護衛の任を引き受けていた。

 彼女を守るために何か用事かある時は付き添い、平時は常に本部で待機し、いざというときに備える。そうすることで結果として同じく本部で仕事をする少女を守ることができた。

 

「この件が長引くことは私にとっても不本意です。後のことは迅が約束するという言質も取りました。だから、お願いできますか?」

Yes,Your Highness(かしこまりました、王女殿下)!」

 

 未来予知により後々の展開も約束されているのならば迷いはない。

 ライは主へ向けて力強く宣誓した。

 こうしてライは本来の未来とは異なり、玉狛支部の援軍として黒トリガー争奪戦に参戦する事となる。

 

 そしてさらに時が進んで約1ヵ月後。

 後に第二次大規模侵攻と呼ばれるネイバーの侵攻でさらに大きな分岐点を迎える事となった。

 最初の頃はボーダーが優勢であった。元々設置していた防衛体制の下、迅の未来予知も活かした忍田の指揮でトリオン兵を徐々に撃破していくボーダー隊員達。

 しかし新型のトリオン兵と人型のネイバーの出現で事態は一変する。正規隊員の中でも倒れる者が出始めた上に、風間ですらも黒トリガーを前に撤退を余儀なくされた。

 最終的に忍田はそのネイバーを放置し、駒として浮かせる方針を取る。しばらくは拮抗した戦況が続くのだが。

 

「――ようネズミども。俺様が遊びに来てやったぞ」

 

 その黒トリガー、エネドラが本部を急襲したことで再びボーダーは窮地に陥った。彼はボーダーの戦力を一挙に減らそうと単独で進撃したのである。

 しかも彼が侵入した先はボーダーにとっては悲運なことに、非戦闘員が集う通信室であり……

 

「うっ、あ……」

 

 そこには、配属されていた瑠花の姿もあった。

 しかも最初の侵入の際の攻撃で彼女のトリオン体は呆気なく崩壊し、元の肉体のままエネドラの前に姿を晒してしまう。

 

「なんだぁ? まだ息があるやつがいんのか?」

「……っ。人、型!」

 

 そんな瑠花の様子をエネドラが視界に捉えた。

 まずい。今すぐに逃げなければいけないのに、先ほどの攻撃の余波で瑠花の足には瓦礫が突き刺さっており、まともに動かなかった。

 敵を睨み付けるのが精一杯で、当然ながらそんなことがネイバーを相手に何の役にも立つわけがなくて。

 

「雑魚はさっさと死んどけよ!」

 

 エネドラの容赦ない攻撃が瑠花に迫る。

 トリオン体も失い、逃げる術もない瑠花にはもはや出きることは何一つなかった。

 

「……ライ、先輩」

 

 だからせめて最後に今最も会いたかった、もう一度手を取りたかった人の名前を挙げて、瑠花は静かに目を閉ざす。

 叶うことならば自分がいなくなったとしてもあまり悲しまないでほしいと、無理なことはわかりきった上でそう祈るのだった。

 

「旋空弧月」

 

 

 その瞬間、聞きなれた声がしたのを瑠花は感じとる。そして男の声と共に幾重の刃が通信室を走った。

 その伸びる刃は瑠花を守るように彼女の周囲を曲がり、襲うはずだった漆黒の刃を全て切り落とす。

 

「あぁん!?」

「旋空? これって……きゃぁ!?」

 

 突然の攻撃にエネドラも、瑠花すらも目を見開いた。

 しかもこの距離を一度に同時に、しかも忍田を彷彿させるこの旋空を放てる人間は、一人しか知らない。

 まさか、と瑠花がその主を察した瞬間、彼女の体が後方へ、少年の胸元へと抱き寄せられた。

 

「ごめん。遅くなったね、瑠花」

「あっ。……いえ、ベストタイミングです。ライ先輩」

 

 それはまるで二人が初めて出会ったときと全く同じような体勢で。

 近くの研究室から逸速く駆けつけたライが瑠花の窮地を救ったのである。

 

「よくもやってくれたな。人型……!」

「なんだよ。一人で吠えやがって。何とか出来るとでも思ったのかよ!」

 

 普段の彼とはかけはなれた厳しい顔つきでエネドラを睨み付けるライ。

 そんな視線を受けてもエネドラは得意気な調子を崩さずさらに追撃を仕掛けるのだが。

 

「いや、一人じゃないよ」

 

 さらに第三者の声が耳朶を打つ。

 直後、一人の男が二振りのレイガストを交差させると、まるでタケコプターのように全身を高速回転させたまま突進し、エネドラの攻撃を弾き飛ばした。

 

「なんだぁ!?」

「まったく。部下が勝手に飛び出したら、俺も行かなくちゃならないでしょ」

「ありがとうございます、雷蔵さん。……瑠花、下がってて」

「は、はい」

 

 レイガストの主は開発者でもある雷蔵だ。彼も研究室を飛び出したライを追ってこの場に駆け参じたのである。

 

「こうなったら仕方ない。俺達で役目を果たそうか」

「はい。どう転ぼうとも、こいつはここで、仕留める!」

「雑魚どもが! やれるものならやってみやがれ!」

 

 こうしてライと雷蔵。二人のエンジニアがエネドラと相対することとなった。

 後に二人は合流した諏訪隊などの助力も得てエネドラを撃退し、さらにライは本部屋上へと降り立った新型トリオン兵二体を狙撃手達の援護もあって撃破に成功。

 最終的に敵の司令官の攻撃にも参加し、エンジニアで唯一の特級戦功を挙げる事となる。

 

 

――――

 

 

 激闘となった大規模侵攻からしばらく時間がたったある日のこと。

 ライは瑠花を呼び出し、彼が今借りているボーダーの宿舎に案内していた。

 

「傷は、どうだい?」

「大丈夫です。もう歩けるようになりましたし。傷は、もう少し残ると思いますけど」

「……そうか」

 

 もうすぐ彼女にとっては重要な高校受験のタイミングでもある。

 そんな時に彼女がこんな怪我を負ってしまった事にライは大きな責任を感じていた。

 

「すまなかった。本来なら君が負う必要のない傷だ。申し訳ない」

「なんでライ先輩が謝るんですか! だって、ライ先輩は持ち場を離れてまで助けに来てくれたのに」

「……だからこそだ」

 

 謝らないでほしいと瑠花は必死に訴えるが、ライの気持ちは晴れない。

 傷ついてほしくないから遠ざけたはずだったのに、結局彼女に余計な傷を負わせることとなった。それはライにとって許せるものではない。

 

「僕が一緒にいればそもそも防げたはずだ。……やっぱり、ダメだな。決めたはずだったのに、君が近くにいないという現状は、不安がかき消せない」

「えっ?」

 

 どういう意味ですかと瑠花が続けると、ライはそこで間を置き、息を整えてから再び話し始めた。

 

「かつて君と共にランク戦を戦い、今は離れて場所で君を見てきた。……僕は自分の心を欺いていた。僕は、君が隣にいないとダメらしい」

 

 真剣な声色のライを前に、瑠花は口を挟む間もない。ライはひたすらに胸の内に溜め込んでいた心の声を一気に解き放った。

 

「僕はまだ未熟だ。だが、それでも。――共に戦ってほしい、瑠花。また一緒に部隊を組んで、また一緒に歩んでほしい」

 

 自分から手を離しておいて今さら合わせる顔がなかったライは一度顔を伏せる。しかし最後は再び顔を上げて、まっすぐ瑠花を見つめて告げた。

 

「……やっと、ですか。待ちくたびれちゃいましたよ」

 

 これは瑠花にとっても願ってもない提案で。目に涙を溜めたまま、笑みを浮かべて頷いた。

 

「こちらこそお願いします。また、一緒に歩んでいきましょう」

「ああ。ありがとう」

 

 瑠花はライの手を取って、もう一度二人の部隊――紅月隊の再結成を約束する。

 もう絶対にこの手は離さないと、瑠花は掌に力を込めるのだった。

 

「フフッ」

「ん? どうかした?」

「いえ。こんな風にライ先輩がすぐ近くで笑ってるのを見るのは久々だなって思っただけです。――部隊結成の届は、いつ出しましょうか?」

 

 再会を喜びつつ、瑠花は目前に迫った部隊ランク戦のことを思い返してライに問いかける。

 一度解散してしまった以上、正式に部隊として動くのは時間がかかるだろう。だから早ければ早いに越したことはないのだが。

 

「いや、まだ出さない。というか、出せない」

「へっ? どうしてですか?」

 

 何故かライは彼女の提案を否定した。

 

「というのも現在僕はエンジニアとして色々と業務を託されていてね。現状では他の人には託せない、遠征選抜試験にも関する試験――試験といって良いのかあれは? まあとにかく引き継ぐのが難しいものもある。だから今エンジニアから戦闘員には戻れない。ただ、早いうちに君には話しておきたかったからこの場を設けたんだ」

「で、でも! ライ先輩も遠征を望んでいたはずでは!?」

 

 事情を理解しても、瑠花はライの目標を思い出して再度問いを重ねる。

 先日城戸司令が会見の場でも遠征の話を持ち出していた。だから今部隊ランク戦に復帰しなければその道は閉ざされるはずなのに。

 

「構わないさ。それに、さっきも言ったようにまだ僕は未熟だ。だからそう急ぐつもりはないよ。いざというときは仲間に託せばいいし。――今は君の隣にいれば、それでいい」

「……わかりました。ライ先輩がそう仰るならば」

 

 なおも食い下がる瑠花を宥めるように、ライは彼女の頭を撫でてそう締め括るのだった。

 

 こうしてライと瑠花が部隊の再結成を約束してからさらに数ヵ月後。

 ボーダーでは近界への遠征選抜試験が行われていた。

 B級の隊員に加えてA級の隊員が数人選出され、最初の第一試験、一週間の閉鎖環境試験を終えた後のこと。引き続き行われる第二試験、長時間戦闘訓練の説明が忍田本部長より実施される。

 

「最後に、『補充要員』について説明する」

 

 説明も最後の項目となった。

 今回はA級部隊全員対臨時部隊全員の対戦形式の試験となるのだが、今回はA級の部隊から数人が臨時部隊へ参加しているためにA級部隊には欠員が出ている部隊がある。

 その欠員を埋めるための補充要員が参加すると忍田は続けて。

 

「――玉狛第一には烏丸・林藤両名に代わってエンジニアの紅月ライ。中央オペレーターの忍田瑠花が参加する」

「…………はぁっ!!??」

 

 玉狛第一に参戦する二人の名前を耳にして、A級の隊員もB級の隊員も揃って言葉を失った。

 かつて1シーズンで部隊ランク戦を駆け上がっていった二人。彼らが復活して玉狛第一という強力すぎる仲間達と共に表舞台に帰ってくる。彼らの残していった大きすぎる衝撃を知っているもの達は揃って震え上がった。




遅れましたが初投稿から6周年記念の番外編。
降格後、部隊があのまま解散になったIFストーリーでした。予定では6000字くらいにする予定だったんですけどね、いつの間にか普段以上に長くなってました。
結果的に読みきりの実力派エリート迅以来の瑠花と迅が手を組むという展開になりました。なにげに書きたかった話です。
ちなみに勿論ですが烏丸の補充で入ったのでライを倒しても得点は100点です。まさかエンジニアに負ける正隊員はでないでしょうから問題ないですね(遠い目
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