6月から始まり8月まで続く夏季のB級ランク戦は激動の3か月間を迎える事となった。
まず大きな点としては今季より参戦するチームの増加である。
昨シーズンまで弓場隊の一員であった王子が独立し、ランク戦に新規参加を果たす王子隊の他、先日までA級であった二宮隊および影浦隊の参戦。実力ある3チームが突如現れた事で昨シーズンとはまた異なる展開を見せる。
初戦で二宮隊は王子隊と同じ昼の部・下位グループと当たると王子隊諸共敵を虐殺した。夜の部であった影浦隊も実力を遺憾なく発揮して大量得点を獲得する。瞬く間に中位グループ入りを果たすとこの二チームは二戦目も大勝し、三戦目で上位グループ入りとB級ランク戦を駆け上がっていった。
その後も安定した戦いぶりを見せつけて元A級チームの実力を見せつける。
そして彼らと同様にエンブレム持ちとなった紅月隊も昨シーズンの快進撃を再現するようにランク戦を戦い抜いていくのだった。
「鋼!」
「荒船!」
太陽の日差しが降り注ぐ市街地C。
長い階段が連なる街の中心部に広がる平坦な道で、二人の剣士が切り結んだ。
一人は村上鋼。今やNo.7攻撃手と名高い鈴鳴第一のエース。右手に弧月、左手に盾モードのレイガストを構え、敵に食らいつく。
対峙するのは荒船哲次。今シーズンから攻撃手から狙撃手へと転向した異色の実力者。同じく弧月を手に取り村上の振るう刃を受け止めた。
この二人の因縁は非常に大きなもの。
荒船が村上に弧月を教え、鍛え上げた師弟関係であり、そして同じ年代であることから私生活での親交も深い。ボーダー隊員の中でも特に親しい間柄だろう。
そんな二人の関係も一時は危ういものであった。
村上がちょうど荒船の個人ポイントを抜いた頃に荒船が攻撃手をやめ、狙撃手へとポジションを変更。完璧万能手を目指す荒船は元々予定していたことであり、時期は偶然重なってしまっただけなのだがこれを村上は自分が荒船を追い抜いてしまったせいだと自分を責めた。
『鋼は鋼のやり方で強くなって良いんだよ。近界民と戦う時は味方同士なんだから。荒船君だって「鋼が強くてよかった」と言うはずだよ』
しかし隊長である来馬やチームメイトが落ち込む村上を激励。
『荒船。鋼にもきちんと君の目的をすべて話してほしい。言葉やコミュニケーションが足りないせいで仲間が孤立するのはごめんだ』
さらに相談相手であったライも荒船と接触し、彼に村上と本音をぶつけあう事を推奨した。
『——だから俺にはお前とは違う俺の目的があるんだ。攻撃手はお前に任せる。もちろん、戦う時は容赦なく行くけどな』
これにより荒船は立ち直った村上に改まって自身の掲げる完璧万能手を量産するという大望を示す。荒船が自分のせいで攻撃手をやめたわけではなく、自分の追い求める理想のために努力し続けているのだと知った村上はこれを大いに喜び。
『わかった。ならばその時にまた荒船に鍛えてもらえるように、俺も頑張るよ』
荒船の目指す理論が実現する時に向けて腕を磨き続けることを誓うのだった。
こうして元通りの関係に戻った二人は再び各々の訓練の成果を見せつける様に戦場で相対する。
もう二度と迷わないと決めた二人の激突はすさまじさを増していった。
徐々に村上の検速が増していく中、荒船も必死に相手の太刀筋を読みながらかわしていき——
「こりゃだるいわ。すみません」
『戦闘体活動限界。
その間に、他の戦場で動きが生じていた。
高台に陣取っていた半崎のトリオン体が、背後から突き刺された弧月により崩壊。すでに穂刈に撃破されていた太一に続き、戦場を後にするのだった。
「っ!?」
「半崎!」
高台を狙撃手が取れれば有利であるこのステージで狙撃手が脱落。荒船隊にとっては大きな痛手だ。
一体何者の仕業か、と考える必要はなかった。
今度はその半崎が撃破されたポイントから射撃の嵐が二人めがけて降り注がれる。しかもただの射撃ではない。
複雑な軌道を描き、あらゆる速度で迫る自由自在な弾は
「……ライか!」
彼女の弟子であり、紅月隊の隊長であるライだけだ。
ランク戦序盤で姿を消していたライがバッグワームを解除し、エスクードカタパルトで一気に二人の近くへと迫りくる。
「——旋空」
着地するや否や、ライは弧月を右手で握りしめるとその腕を後方へ引いた。
独特な構えは彼が幾度か今季のランク戦から見せていた新技。まずいと、荒船と村上は弧月を構えながら敵の動きを観察し。
「ちっ!」
半崎とは違うポジションで備えていた穂刈が隊長を救うべく狙撃を敢行した。
攻撃に転じる瞬間を狙った見事な一撃。銃弾はライの顔面目掛けて発射され、そして命中する寸前で突如展開されたシールドに受け止められる。
「まあ当たんねえか。さすがにな。悪いな、荒船」
わかっていたことだがと舌を打った。
こうしてライの攻撃を妨害する事はかなわず。ライはそのまま腕を突き出し——
「弧月」
ライは握っていた弧月を手放し、荒船めがけて投擲した。
「ッ!?」
「なにっ!?」
掛け声とは裏腹にライは必殺技を放つのではなく、武器である剣を放り投げるという暴挙にでる。予想と反した動きに攻撃の矛先となった荒船も、身構えていた村上も肝を抜かした。
二人ともその場から逆方向へ飛び上がり攻撃を回避しようとした中で虚をつかれた形となる。
荒船はかろうじて弧月でライの刀をはじき返したものの、続いて突進してくる彼への対応は遅れてしまった。
「ちっ!」
咄嗟の判断で突撃してくるライめがけて弧月を振るう。するとライは弧月を握った荒船の手首をつかみ、加速の勢いそのままに彼を投げ飛ばした。
「うおっ!?」
「旋空——!」
地面に叩きつけられた衝撃で荒船が一瞬ひるむ。
これを見て村上は二人の注意が自分からそれている間に得点を狙おうと居合の構えをとった。
『待って、鋼君。危ない!』
『防げ、荒船!』
その時、今と穂刈の通信が二人に警鐘を鳴らす。
直後、ライの着地地点の地面すれすれにいつの間にか設置されていたトリオンキューブが分割。荒船と村上めがけて襲い掛かった。
村上は間一髪レイガストで防御に成功する。
だが荒船はライの姿が影になっていたという事もあり、すべては防ぎきることは出来ずに被弾を許してしまった。
「——ちっ。俺達が反応する事も織り込み済みか」
『戦闘体活動限界。
皮肉を残して荒船も作戦室へと脱出していく。これで荒船隊は穂刈を残すのみと後がなくなってしまった。
「鋼! 穂刈君を発見した。こちらは任せて!」
その穂刈の姿を来馬が捉える。残り一人だけとはいえ狙撃手が優位なステージである以上、潜伏される前に敵を撃破してしまおうと階段を駆け上がった。
『待ってください、来馬さん! まだもう一人近くにいるかも——』
「えっ? あっ!?」
その動きを制そうと村上が叫んだものの、間に合わず。
来馬は途中で何かに足を引っかけてその場で転倒してしまった。
「わ、ワイヤー?」
その正体は地面すれすれに設置されていたトリオンで生成されたワイヤーだ。
視力が回復するトリオン体でも凝視しなければわからない細さの罠に来馬は気づくことができなかった。
『——紅月君。来馬さんが罠に引っ掛かったよ』
「了解した。瑠花、狙いの座標を」
『はい。すでに立体図を送っています』
「ありがとう」
そして罠にかかった獲物を逃す相手ではない。ライは来馬が足を止めた事をチームメイトから報告を受けると、即座に瑠花に支援を要請。彼の視界に来馬周辺の詳細なデータが浮かび上がった。
「悪いな、鋼。先にあちらを取らせてもらうよ」
「まさか!」
「エスクード」
ライはそう言ってエスクードを起動。後ろに下がりながら上空へ飛び上がると、空中でイーグレットを起動。宙に浮いたまま狙撃を決行するのだった。
「スラスターオン!」
仲間を守るべく村上は盾を凄まじい勢いで射出。なんとか弾道上に盾を挟み込もうと試みるもわずかに届かない。無情にも村上の盾の上を通り抜けて銃弾が突き進んだ。
『来馬さん! 来ます!』
「わかってる!」
それでも必死に来馬を助けようと村上は通信をつなぎ続げる。彼の声に応じて来馬もシールドを前面に展開し、防御を試みた。
「いや。それでは防げない」
だが、ライが放った銃弾は来馬ではなく、その後方に並び立つ建物のすぐ横の地面。建物の影に設置されていたトリオンキューブに命中した。
「えっ?」
その銃弾が自分に向けられていると判断した来馬はこの目的に気づくことは出来ず。命中により炸裂した爆風の中に飲み込まれ、緊急脱出をはたすのだった。
「来馬さん!」
「これで残る鈴鳴第一は君だけだよ。鋼」
「——ライ!」
何よりも守りたかった隊長を守れなかった事実を突きつけられ、村上は下唇をかみしめる。
こうなったら少しでも得点を挙げて次につなげるしか村上には残されていなかった。弧月を握る手に今一度力を籠め、ライへと突撃していく。
(……まずいか? やることがなくなったぞ、俺)
一方、もう一人の生き残りである穂刈は潜伏を続行しながら善後策を講じていた。
すでにチームのエースである荒船が脱落。味方の方針としては隙が出来た瞬間、どちらでもいいから撃つようにと指示をもらったが、そう楽観視する事が出来なかった。
(鋼もライも防御・回避が高い。その気になれば簡単に倒されるだろう、俺が。しかも今はもう一人控えている、
獲物は狙撃をあっさり許してもらえる相手でない上にまだ余力が残っているのだから。
穂刈はため息を一つ吐いて照準器をのぞき込んだ。
その先では村上とライが休む間もなく斬り結んでいる。
「ッ!」
相手の弧月をレイガストで受け止め、弧月で斬り返した。
村上は常に両手に二つのトリガーを展開し、攻防を繰り広げる。手数ではまず負けない速さと技量を持っていた。
「ふっ!」
対するライが常時展開しているのは弧月のみ。その弧月が受け止められ、反撃の刃が振るわれるも返す刀で切り上げて弾き、一旦距離をとると
「くっ」
今度はライが押される番となった。
さすがにスラスターの勢いを殺すことは出来ずに弾き返される。態勢を立て直そうと後退するも、さらに村上は追い打ちをかけた。さすがに回避は間に合わずライは階段を背にして戦う事を余儀なくされる。
(これでは支援は敵わず、敵の攻撃が僕に集まる一方だな)
高台からの支援は村上の姿がライの影になりがちなために難しく、敵の生き残りである穂刈もライへ狙いを定めやすくなった。
立ち位置一つであっという間に不利な状況へと追い込まれたライ。
村上の連撃をさばきつつ、対応策を考えはじめる。
『——紅月君。あたしが言ったタイミングで、伏せて』
『なるほど。わかった。頼むよ』
すると彼の思考を読んだようにチームメイトが助け舟を出した。
要領を得ない提案だったが、この言葉だけでライは彼女の言いたい事を理解し、即座に応じる。
この間にもやむことのない村上の斬撃。袈裟懸けに斬りつける刃をギリギリでかわし、さらに振り下ろされた位置から返す刀で切り上げられた一閃を弧月で受ける。強力な衝撃を受けてわずかにライが後ずさる中、村上は勢いそのままに上段に構えた剣から強力な一撃が振り下ろされて——
『今!』
瞬間、ライの耳に待ち望んだ通信が入った。同時にライはその場で弧月を手にしたまましゃがみこむ。剣先から逃れるような動きではないこの行動に、村上は一瞬迷いを抱きながらも刀をライへと向けて、
「——ッ!?」
その刀が、衝撃によって弾き飛ばされた。
高台から放たれた一発の銃弾が村上の弧月を撃ち抜いたのである。
(狙撃だと!? 俺が振り上げた瞬間を狙って。——ライが態勢を変えたのは、俺の攻撃をかわすためではなく、狙撃の射線を通すためか)
一歩間違えれば狙撃がライを撃ち抜いたか、あるいはそのまま村上の弧月がライを襲ったであろう絶好のタイミング。それにも関わらず何のためらいもなしに実行したこの連携に、村上は思わず息を飲んだ。
「終わりだ、鋼」
「……してやられたな」
『戦闘体活動限界。
そしてこの隙を見逃さず、村上の左胸をライの弧月が貫く。これが致命傷となり、村上もその場を後にするのだった。
「——参ったぞ。さすがに」
一方、もう一人残っている生き残りである穂刈は悔し気に頭をかく。
穂刈も彼とは異なる狙撃手が放った狙撃を目にした。そして穂刈はそれを確認してすかさずその相手を狙おうとしたのだが、敵は狙撃をするや否や自発的に
(お役御免というわけだな、これは。もう自分が脱出しても問題ないと考えたわけだな、向こうは。むしろこちらのチャンスを潰すため、オレが攻撃する前に撤退した。早すぎるだろ、判断が)
あまりにも手際が良すぎた。彼女は自軍の勝利を信じてあっさりと撤退。明確な危機が迫ったわけでもなく、まだ敵が残っている中でそう簡単にできることではないだろう。
「……こりゃ死んだなオレ」
穂刈はこの後の展開を予想し、静かにそうつぶやいた。
そんな彼の言葉を肯定するように、ライは合成弾・
「穂刈隊員も自発的に緊急脱出! 最後まで生き残った紅月隊には生存点の二点が加算されます。——ここで試合終了! 最終スコア6対1対0! 紅月隊の勝利です!」
| 部隊 | 得点 | 生存点 | 合計 |
| 紅月隊 | 4 | 2 | 6 |
| 荒船隊 | 1 | 1 | |
| 鈴鳴第一 | 0 | 0 |
実況の武富が試合の終了を告げる。
この日も紅月隊が大差で鈴鳴第一と荒船隊を退け、元A級の実力を示したのだった。
「やはり上位グループの常連、紅月隊が圧倒という結果に! 解説のお二方はいかがだったでしょうか?」
「うーん。まあ紅月先輩が大暴れした、って事に尽きるよね」
武富に話を振られた佐鳥は頬をかきながら淡々と感想を述べる。
まさにその通りだったために観客席の隊員たちもみな一様に頷いていた。
「そうですね。特に攻防の駆け引きが良かったと思います。相手に動きを読まれたと考えたうえで、さらにその先を行く。紅月隊は初参戦であった昨シーズンより注目度が上がり研究もされていく中、次々とその上をいくようなイメージがありますね」
もう一人の解説役である蔵内もライのフェイントや置き玉であるメテオラの狙撃による起動などのシーンを思い返して冷静に語る。
王子隊
彼も何度か紅月隊と戦ったことはある分、余計にその脅威が目に映っていた。
「対応力が優れている、といえばいいのでしょうか。戦況に応じて場を動かす力がある。紅月隊長の回避能力と個人戦の強さも健在ですし、やはり真正面から当たるのは厳しい相手でしょう」
「ねー。今回荒船隊の得意な市街地Cだったのに、大量得点したのは紅月隊って」
「確かに。荒船隊は移動中の別役隊員を撃破できたものの、それ以外は全て紅月隊に得点を奪われてしまいました。現在トップを走る二宮隊・影浦隊は得点力が高い中、紅月隊も高い得点を誇ると同時に失点を最小限に抑えています。これも強みと言えるでしょう」
やはり伊達に試験を合格し、エンブレムを獲得したわけではない。
皆その実力を知っているからこそ自然と解説にも熱が籠った。
当然の事ながらハイレベルな戦いを目にして訓練生であるC級隊員たちもその強さに感心し、正隊員たちの言葉に耳を傾けている。
「今シーズンは
「ええ。紅月隊はRound6より新たに一名戦闘員が加わり、オペレーターを含めて3人部隊となりました。やはりこの変化は大きいですか?」
「そりゃそうだよ」
「当たり前でしょ」と佐鳥はいつもの調子でそう口にした。
「狙撃手界隈でもトップの技量を持っていると言っても過言ではないからね。得点はないかもだけど、でも手ごわさは数倍あがったと言ってもいいよ」
彼女の腕を知っているからこそ、佐鳥は心からその腕を認め、称賛する。A級隊員のお墨付きともなって、紅月隊の注目度はより増していくのだった。
————
「ふう」
「あ、紅月君。おかえり」
「ライ先輩。お疲れ様です!」
「ああ。今日も無事に勝てて何よりだ」
時間は少しだけさかのぼり、ランク戦終了直後。
最後まで生き残っていたライも紅月隊の作戦室に帰還した。
大量得点を挙げ、部隊に勝利をもたらした隊長にチームメイトがねぎらいの声をかける。
「瑠花、迅速な支援助かったよ。来馬さんの撃破の有無によって鋼のそのあとの動きも変わっていただろうから。来馬さんが立て直す前に強襲できてよかった」
「いえ。できることをやっただけです」
昨シーズンから続く瑠花との関係は良好だ。
降格後のランク戦、当初は批判もあったものの今ではその声はすっかりなりをひそめている。変わらず快進撃を続けているという事もあって二人は今でもお互いを助け、信じていた。
笑顔で瑠花との振り返りを終えると、さらにライはもう一人の戦闘員、ランク戦を支え続けた狙撃手へと視線を移す。
「君もね。スパイダーの仕掛けはもちろんだが、特に鋼への狙撃は助かった。あれがなければあるいは押し切られた可能性もある。非常に有効な支援だったよ。——鳩原」
狙撃手の技量はあの東をも上回るともいわれる、狙撃の名手。
かつては二宮隊に在籍し、一時は訓練生にまで降格した精鋭。
今は紅月隊の一員として戦う鳩原未来の姿が、そこにはあった。
「ううん。あたしには、これくらいしかできないから、さ」
そう言って鳩原は小さく笑う。
紅月隊
彼女は謙遜するものの、鳩原の存在は紅月隊にとって大きな支えとなるのだった。
二宮隊:個人総合二位兼No.1射手。隊員二名も単独で盤面を抑えられる能力を持つ。隊員が一人減ったがむしろ手強くなった(王子談)
影浦隊:個人ポイント詐欺のエース攻撃手。火力が高く場を荒らせる銃手、中学生トップの個人ポイント持ちの狙撃手。
紅月隊:昨シーズン一人でB級トップまで駆け上がった隊長、ボーダー内でトップの技量を誇る狙撃手。
???「自分らなんでB級におんねん! はよA級に戻れや!」