やがてその意味に気づく物語。
この出会いが未来への分岐点。
「おー。見ました、二宮さん? 鳩原ちゃんが早速アシストを連発したみたいですよ」
「……ふん。見るまでもない。実力は俺達がよく知っていることだろう」
「まあ確かにその通りですね」
鳩原の新部隊での初陣直後。
防衛任務の最中であった二宮隊では、犬飼に話を振られた二宮が当然のように語っていた。
ライから鳩原の了承をもらい、後は彼女がB級に上がるという報告を聞いてからは二宮は彼らに関与していない。下手に自分が話に加わることで複雑化する事を配慮しての事だ。
「いずれにせよやることに変わりはない。敵は全て撃ち落とす。たとえ誰が相手であろうとも。それだけだ」
その相手が鳩原やライだったとしても。
そう言って二宮は踵を返す。
個人総合二位に君臨するだけあって彼の背中には自信に満ち溢れていた。
そしてこの宣言通り、二宮隊は終始他の部隊を圧倒し、B級一位という前評判通りの首位でこのシーズンを終える。
「……あらら。やっぱり援護がつくとさらにすごいね。こりゃもし上位に上がったとしても大変そうだ」
同時刻の那須邸。
新生紅月隊の初陣となったランク戦の映像を見返した熊谷が冷や汗を浮かべながらつぶやいた。
鳩原は自身で直接得点こそ挙げていないものの、部隊への貢献度には目を見張るものがある。
ワイヤーによる時間稼ぎや敵の行動制限。狙撃による武器破壊に相手の援護の妨害。これらが完璧な精度と離れた距離から実行できるという点は非常に大きかった。鳩原の援護によりライの動きはより機敏に映る。加えて自分では得点できないという事をよく自覚しているからか、深入りせず無理をしないため、紅月隊の失点率が増加するという気配もみられなかった。
『そもそも紅月先輩は単独でもB級を勝ち抜ける実力でしたからね。援護が加わればそりゃヤバイですよ』
「何度か狙撃手訓練で見ましたけど、鳩原先輩も狙撃訓練は成績上位です。技術だけなら奈良坂先輩たちくらいかも。それ程の実力です」
「聞けば聞くほど厄介だね。やっぱり伊達にA級に昇格しちゃいないか。本来なら今もA級で戦っていたわけだし」
志岐や日浦も改めて紅月隊の脅威を再認識し、皆苦言を呈する。
二宮隊、影浦隊、紅月隊。A級を経験した部隊は皆対策を立てる事さえ難しいほどの実力を示した。部隊を組んだばかりである紅月隊ならば連携の面であるいは、という事すらない。的確に武器を打ち抜き、隊長を支援する鳩原の援護には高い熟練度が窺えた。それほどの技量である。
「ええ。でも、この先他の部隊も何かしら対策を立てて挑むはず。その間に何かしら突破口も見えるかもしれないわ。それまで、私達は目の前の戦いに集中しよう。少しでも上の順位に行くために」
とはいえ上ばかり見ていても仕方がないと那須が冷静に述べた。
現在の那須隊は中位グループで戦い続けている。
二日目のランク戦で那須隊は二宮隊に蹂躙され、その力を思い知らされた。それ以降、一度も上位グループには上がれていない。新たに加わった二宮隊、影浦隊に押しやられた形であった。
今一度昨シーズンのような成績を残すために。今は次の戦いに専念しようと隊長として、エースとして前を向く。
「……うん。そうだね」
『確かに元A級の三部隊は圧倒的ですが、他の上位グループは今期も変動がありますからね。まだチャンスは十分あります』
「うちもまた頑張りましょう!」
そんな那須の姿勢にあてられて皆士気が向上した。
那須隊も一度は上位グループまで上り詰めたのだ。もう一度あそこまでたどり着こうと意識を一つにする。
(……紅月先輩)
そんな仲間の明るい姿を目にした那須はうっすらと笑みを浮かべ、そして窓越しに外の景色を眺めた。
思い浮かべたのはまさに話題の的であった、彼女の射手の弟子でもあるライの事。日浦を経由して彼に聞いたある出来事の事であった。
『実は那須先輩から紅月先輩に聞いてほしい事があるって言われたんですけど、今良いですか?』
『……僕が答えられることならば』
『ではそのまま伝えますね。——紅月先輩がこの道を自分で決めた事だとしても、やはり思うところはあると思います。それでも紅月先輩は後悔せずに進めますか、と』
那須が聞きたかった事は、果たしてライが降格を受けるほどの行動を起こして、それを後悔していないのか、これからこの道を振り返らずに前へと進めるかどうかという事である。
もしも何かしらの思いがあるのならば那須もより深く話を聞こうと思っていた。
その問いに対するライの答えは——
『……後から悔やむからこそ後悔さ。まずは進んでからの事だ』
表情に変化は生まれない。迷いなく、そう言い切った。
『もちろん悔いる事はあったが、それはすでに払拭された。だから僕はもう大丈夫だ。——那須さんにも心配をかけてごめん、ありがとうと伝えてほしい。僕も今度直接伺うよ』
降格の前と変わらぬ調子の問答だ。
日浦からこの答えを聞いた那須は安堵した。そしてこれ以上自分が降格の件に関与する意味はないだろうと考え、以後はこの話題には触れないようにしようと心に決める。
(あなたがそう仰るのならばその通りなのでしょう。……なら、私が心配する方が失礼よね)
那須もライの行動原理に対しては一定の理解を示していたからこそ。
下手な問いかけや心配に意味はない。そう考えていた。
————
| 001二宮隊 |
| 002影浦隊 |
| 003紅月隊 |
| 004生駒隊 |
| 005東隊 |
| 006弓場隊 |
| 007王子隊 |
| 008鈴鳴第一 |
| 009香取隊 |
| 010那須隊 |
| 011漆間隊 |
| 012諏訪隊 |
| 013荒船隊 |
| 014柿崎隊 |
6月から8月にかけて行われたB級ランク戦は以上の通りの結果で終わりを迎えた。
昨シーズンとは上位グループの顔ぶれも一変するなど大きな転換期となったランク戦。
しかしそのランク戦も終わりを迎えると、隊員は再び普段通りの平穏な日々を送っていた。
「——改めて世話になったな、紅月」
「こちらこそ。ランク戦では二宮さんに大変お世話になりました」
「そう言うな」
二宮隊の作戦室。
落ち着いた今、鳩原の加入に関して二宮が再びライを作戦室へと招待し、礼を告げる。
一方のライはランク戦の事を思い返して皮肉交じりにそう返した。
さすが個人総合二位にしてナンバーワン射手。ライも二宮を相手に真っ向から挑んで勝利を収める事はついぞかなわず、ランク戦は終わりを迎えている。
「鳩原の調子はどうだ? お前たちとは上手くやっていけそうか?」
「ええ。瑠花——こちらのオペレーターとも上手く馴染んでいますよ。鳩原も年下の隊員とは接しやすいのか、任務以外でも作戦室でよく話しています。同性だからこそ話せる事もあるでしょう。そういう意味では僕としても助かっています」
「そうか。それなら何よりだ。放っておくとふさぎ込む事もありえるからな。気にかけてやってくれ」
「……了解です」
話題はやはり鳩原の件である。彼女はあまり明るい性格ではないため、もしも新たな環境でなれなかったらどうなるかと二宮も危惧していたが、その心配は無用であった。
直接声をかけられない彼の不器用さに少し苦笑しつつ、ライは了承を返す。
「そういえばその鳩原も二宮さんたちの事を心配していましたよ」
「ほう? 一体なんと言っていた?」
「その——『あたしがいなくなって作戦室大丈夫かな。ちゃんと掃除できてるかな。スーツ姿の二宮さんが掃除してるところとは絶対に鉢合わせしたくないな』って」
「……そうか」
かつて二宮隊では掃除の係は鳩原が一任されていた。
そのためその鳩原が不在となった事で部屋の掃除ができず、散らかっているのではないかと危惧したのだろう。
『確かに僕も掃除中の二宮さんとは顔を合わせたくないな』と考えながら、ライは鳩原の言葉をそのまま二宮に告げる。話を聞いた二宮は言葉に詰まりつつ、短く相槌を打つにとどまった。
「やはり鳩原もその為に伺うのは気が引けるようで。——もしよろしければ、僕が部屋の掃除をしましょうか?」
「その心配はない。鳩原にも伝えておけ。今は各自が掃除を行っているから問題ないと。そもそも個人総合二位でもある俺が他の隊員に掃除を任せているなどと知られれば面子がないだろう」
「……でも僕、
「そうか。ならばなおさら俺達が自分達でやる」
太刀川と一緒にするなと、二宮は呆れすら感じられる声色でそう口にする。
わざとらしくため息を大きくついて、空気を変えようと二宮は新たな話題を挙げた。
「他人の心配をするくらいなら自分たちの心配をしておけ。来月には、新たな悩みの種が生まれるかもしれないからな」
「来月? どういう事ですか?」
「まだ入隊が決まったわけではないが、入隊希望者の中に見覚えのある名前があった」
まだ試験が先の話であるため確定ではない。
しかしこの名前を見過ごすわけにはいかないだろうと、二宮はチラッと見た試験受験者のリストを見て偶然目にした名前をライへと告げた。
「——三雲修。雨取麟児の関係者だ」
「ッ!」
それは二宮はもちろんライや鳩原にとって大きな意味を持つ者の名前である。
二宮からその名前を聞き、ライの目は大きく見開かれた。
————
(本当にボーダーへの入隊を希望したか。……なるほど。どうやら彼の中で雨取麟児という存在はよほど大きなものらしい。あるいは他にも目的があるのかもしれないが)
二宮隊の作戦室から作戦室へと戻る途中、ライは物思いにふけっていた。
考えていることは当然ながら三雲修という少年についてだ。
平穏な生活を送っていた中学生が自らボーダーという戦う組織に加わろうとするなど興味本位でなければよほどの覚悟が必要となる。ライも一度話してみて三雲という少年が明確な目的もなくボーダーに参加するような性格には思えなかった。だからこそ彼がボーダーに入隊しようとするならばよほどの理由があるのだろうと結論付ける。
(となると仮に彼が入隊できたとしても、あまり本部では会わない方がよさそうだな。鳩原の件がある。これからはより行動に慎重さが求められそうだ)
いずれにせよ鳩原が紅月隊に加わった今、三雲と深く関与する事は好ましい現状ではなかった。
二人が遭遇すればどのような出来事が生じるが予想がつかない。
鳩原もつい先日まで心が不安定だったため、しばらくは鉢合わせしないように気を配らなければと決意する。
「ただいまー。戻ったよ」
とはいえ今しばらくはあまり気にする必要はなかった。頭の隅に置いて普通に暮らそうと意識を切り替え、ライは作戦室の扉を開ける。
「——遅い! 何やっとんねん!」
「ん?」
すると、ライが不在の今、紅月隊の作戦室からは聞こえるはずがない男の野太い声が響いた。
そしてその声と同時に一人の男——生駒が駆け寄ってくる。
「……イコさん。どうしたんですか?」
「どうしたはこっちのセリフや。自分どこ行っとんねん。本部暮らしならいつでも部屋にいるようにせえや」
「無茶を言わないでくださいよ。僕にだって他にもやることはありますし」
「俺の気持ちになってみろや。いざ知り合いの男に会いに行ったらなあ、女の子しかおらんのやぞ! 『戻って来るまでどうぞ部屋の中で待っていてください』とか言われたらそら断れんし。けど俺一人やと女の子とも話せんし、すごい気まずかったんやけど!」
「えっ。じゃあ本当に無言で待ってたんですか?」
ライの問いに生駒は何度も頷いた。『それは瑠花や鳩原も気まずいでしょう』と呆れつつ、剣の師匠をなだめる。ある意味こっちの方が面倒かもしれないな、と思いながら要件を問うのだった。
————
「……そういえば、なんか前よりも自分の部屋広くなってへん?」
ようやく落ち着きを取り戻した生駒はソファに腰かけると、部屋を見回してそうつぶやく。確かに生駒の言う通り、以前より人が増えたにも関わらず紅月隊の作戦室は広々と余裕があるように感じられた。
「ああ。その件ですか。一度A級に昇格した件と、あと鳩原加入の件に伴って鬼怒田さんの手で少し増築しましたよ。新たに女性用のロッカールームを増やしたり、ベイルアウト部屋を分けたりしました」
「えっ。おいおい、この部屋女子用ロッカーあるの? ヤバない? 自分いくらでも入れるの?」
「大丈夫です。瑠花と鳩原、二人の認証以外では入れないようになってますから」
「部屋の主が入れない部屋があるのはそれはそれでどうなん?」
「まあ緊急時には解除できますので」
ライが住み込みである以上は仕方ない事だが、やはり男女が同じ部屋(しかも女性の方が多くなった)となれば気を配る点も多い。そこは上層部もよく理解しているため紅月隊の作戦室は幾分か余裕を持てるようにと設計された。
羨ましむ生駒だが、一番住む時間が長いライのスペースの方が実は少なかったりもするのだが、さすがにそこまで生駒が気づく事はなかった。
「それで? まさか部屋の様子を見に来たわけではないでしょう。どうしたんですか、イコさん」
「ああ。ランク戦終わった後やから丁度ええと思ってな。他の隊員も気になっとるやろし、俺が聞いとこと思ってな」
生駒相手に雑談を続けてはいつまでも本題に入らないだろうと、ライが核心に突撃する。
それを受けて生駒も幾分か真面目な顔つきと変わり、ゆっくりと言葉を紡いでいった。
「——自分なにやっとんねん」
「それ先ほども聞きましたよ?」
「そっちちゃうわ! しらばっくれても無駄やぞ。自分どんだけ女の子との関わり増やしとるんや。なんかシーズン変わる事にどんどんつながり増えとらん? 下は小学生から始まって同級生に、上は大学生に加古さんまで。恋愛ゲームの主人公か? ずるいぞ! 女の子と会うならまず俺を紹介するように言うとったやろ!」
「まあ、色々事情もあったので」
特に鳩原の場合は。
生駒の怒りをあしらいつつ、ライは話を進める。
やはり鳩原の加入に関しては生駒も思うところがあったのだろう。むしろよくランク戦が終わるまでこの話題について我慢したと褒めるべきかもしれない。
「というか何で加古さんと大学生を別枠にしたんですか」
「加古さんって大学生というかセレブ枠やん?」
「……なんとなく言いたい事はわかりますが」
確かにどこかミステリアスな雰囲気を醸し出す加古は別枠と捉えても違和感はなかった。生駒の発言にライも同意を示す。
「あのー……」
「ん? どうした、鳩原?」
「いや。ちょっと話が聞こえたから、さ」
すると後ろで控えていた鳩原が、二人の会話に気になるところがあったのか、二人の元まで歩み寄ると話に割って入った。
「えっと、その。生駒先輩」
「えっ。おっ、おう。どないしたんや、鳩原ちゃん」
どこか他人行儀な鳩原に加え、生駒も反応が少しぎこちない。初々しいともいえるような反応をお互い示しつつ、鳩原は促されるまま話を続けた。
「紅月君から生駒さんたちの事も聞いてましたよ。降格の後でさえ師匠たちは私たちの一件の事を気遣って親しく接してくれたって。だから、その——ありがとうございます」
最後にそう言って、深々とお辞儀をする。
直接関与していないとはいえ、迷惑をかけた事に変わらない鳩原にとって、ライ達にも変わらぬ態度を貫いてくれるという姿勢はありがたい事だった。
だからこそこうして真っ直ぐにお礼を告げる。
「……うん」
一方、お礼を言われた生駒は明後日の方向を向き、両手で表情を覆い隠して短く返すのが精一杯だった。
「照れてるんですか、イコさん」
「いや、しゃーないやん。こんなん。……えっ? てかひょっとして自分いいやつだったのでは?」
「……一応誉め言葉と受けっておきます。」
あまりこのような形で褒められたくないけど。
少し面倒だと思いつつ、ライはずっと恥ずかしがっている師匠をなだめ続けるのだった。
————
「……よし。じゃあ話の続きと行こうか」
気恥ずかしさから立ち直った生駒は改めて話を展開していく。
「えっ。まだですか?」
「ああ、さっきの話とはまた別口や。まあ本題終わったからついでにこっちも話しておこと思てな」
「できれば先ほどの話が本題ではなかった事にしてください。なんですか?」
まともなことなのか判断がつきにくかった。
とりあえず話を聞こうかとライはそれ以上は突っ込まず、先を促す。
「これは主に大学生以上の隊員と話し合った事なんやけどな。自分、しばらく防衛任務のシフト増やす事は出来るか?」
「防衛任務の? ええ。可能ではありますが、どうしました?」
生駒が相談したのは防衛任務のシフトについて。普段から定期的に組んでいるため変更については難しいことではないが、一体なぜなのか。ライが疑問を呈する。
「一つは単純な理由や。そろそろA級のトップ3部隊が遠征に行くやろ? それに備えよ思ってな。大学生以上ならある程度時間の融通は効くから、自分もどうかと考えたんや」
「ああ、そういえばそうでしたね」
一つ目の理由はまもなくA級トップ3である太刀川隊、風間隊、冬島隊が遠征に赴くという事だった。ボーダーの中でもトップの実力者たちが不在となる時期がくる。その期間に備えて今のうちから残ったメンバーで防衛任務を行おうという事だった。
「んで、もう一つの理由はな。——ちょっとこっちは確信がない事なんやけど」
「なんです?」
「なんか最近、任務とか俺らに会うわけでもないのに迅を本部近くで見かけるねん。なんかあるんやないかと思うてな?」
「迅さんを? 玉狛支部ではなく本部で?」
「せや。おかしいやろ?」
同意を求められるとライはこくりと頷く。
迅は玉狛支部所属の隊員だ。よほどの事がない限りは玉狛支部あるいは彼が任されている街の警戒の為に街中を出歩いていることが多い。本部に赴くことは稀だった。
そんな彼を本部近くで目にする事が増えたという。確かに不思議に思うのも当然だった。
「せやから『なんかあるんやないか』って、俺とか弓場ちゃんは考えとんねん。あいつ暗躍が趣味やし」
「趣味かどうかはわかりませんが。しかし意図はわかりました。了解です。瑠花や鳩原は難しくても、僕単独で他の部隊に合流する事は可能ですから、うまく時間を合わせましょう」
「おう、頼むで」
ライがその場で了承すると、その後二人は他愛のない会話を交えて生駒は作戦室を後にする。
彼も同年代でありよく知る迅が動く以上、何かしらの事態を想定してという可能性が高かった。この考えにはライも同感である。ゆえに生駒の要望通りライも防衛任務に出る機会を増やし、緊急事態に備えるのだが。
そんな彼らの思惑とは裏腹に、物語は進んでいく。
————
ある日の夜。
出歩く人がいない静寂な空気の中、近界民が出現するため立ち入り禁止とされている警戒区域の柵をペンチで切り落とし、ボーダー本部へと向かう人影があった。
(……やはりじっとなんてしていられない)
その人影の正体は三雲修。かつてライが対話した中学生である。
彼はつい先ほどボーダー試験の入隊試験を受け、そして不合格を宣告されたばかりだった。
理由はボーダー隊員の素質であるトリオン量の不足である。戦闘員としてあまりにも才能が不足していると告げられ、試験会場を後にしていた。
(ボーダー基地に入り込んで、偉い人に直談判すればあるいは結果も変わるかもしれない。こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!)
しかし決して諦めたわけではない。
むしろ結果を覆すために三雲は警戒区域に侵入し、ボーダー基地へ赴くという暴挙に出た。
若さゆえの焦り、そして定められた目標が彼を急かす。
B級はおろか入隊さえままならないなど受け入れるわけにはいかなかった。
なんとしてもボーダーに入ってやると三雲は意気込み、ボーダー基地の目前まで迫って——
《門発生、門発生》
「……なっ!?」
突然の警告に冷や汗が頬を伝う。
一体何事なのかと考えるよりも先に、トリオン兵の出現が三雲に事態の急変を告げた。
出てきたのは一体のバムスター。正規の防衛隊員ならば問題なく処理できる相手ではある。
だが、目の前にいるのは武器を持たぬ一般人。倒す事はおろか太刀打ちすることさえできない非力な存在だ。
(やばい、食われる——)
それはほかでもない三雲自身がよく知っている。
だが、知識とは裏腹に体が言う事を聞かなかった。
恐怖のあまり腰が抜かし、その場に倒れこんでしまう三雲に、バムスターが容赦なくその巨大な口を向けて襲い掛かり——
一筋の光が、三雲を襲おうとしたバムスターの首を切り落した。
「——よう。無事か? メガネくん」
誰よりもいち早く駆け付け、単独で敵を撃破したのは迅悠一。
迅は安心させるように大きな笑みを浮かべ三雲へと語りかける。
こうして迅と三雲。後にボーダーへ大きな変化を生み出す事となる二人が出会ったのだった。
やっと原作時系列に追いついた!
皆さんあけましておめでとうございます!
2020年はありがとうございました!
2021年もよろしくお願いします!