一目散に飛び出した弓場と帯島。
目標まであと80メートルほどの位置に近づいたところで弓場がステージ上に設置されたギミックに気づく。
「ワイヤーか……? 何時も以上に張り巡らされてんじゃねェーか」
「ッス。ただのトラップじゃなさそうッス」
「ああ。さっき二人を速攻で片づけていやがったのもこれを使ってだな。まだ仕掛けてこねェーって事は、飛び込んで来いってわけか」
建物のあちこちに張り巡らされたワイヤーがこの先で敵が待ち構えているという事を告げていた。
射程では紅月隊が上回っている。
それにも関わらずまだ仕掛けてこないという事は狙撃手の位置がばれるのを嫌っての事か、あるいはワイヤー陣の中での勝負によほどの自信があるということか。
いずれにせよ紅月隊が万全の態勢で待ち構えているのはこのワイヤーが——その先でライが半身を引き、居合の構えを取っている事実からも明らかであった。
(抜刀術? 旋空か? ——だが、今ここで旋空弧月を使えば折角のワイヤー陣が崩れるはず)
あの姿勢は彼も得意とする旋空の構えだ。
しかしここで範囲が広い旋空を使ってしまえば折角のワイヤー陣が崩壊し、整えたフィールドは崩壊してしまうだろう。
弓場を足手に足場を崩すのが目的か、あるいはかつてのランク戦のように旋空はフェイントで何か他のトリガーを狙っているのか。
「——上等じゃねえかァ、紅月ィ」
どちらにせよ構わない。
弓場はニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。
乱戦ならば弓場も得意とすること。フェイントであろうとも帯島もいる今ならば十分対応も可能だ。
「行くぞ帯島ァ! 相手が師匠だろうと手ェ抜くんじゃねえぞ!」
「了解ッス!」
今一度士気を高め、弓場隊の二人がワイヤー陣へと向かって突撃する。
さらに速度が速まり二人がライとの距離がおよそ30メートルまで迫ったところで、勝負は動いた。
『距離30メートル!』
「——旋空弧月」
瑠花の掛け声を合図に、ライが渾身の一刀を振り抜く。
振り抜きの際、細かいわずかな捻りの入った抜刀術は旋空によって一気に伸びる刃と化し、そして——ワイヤーにあたるその瞬間、よけるようにその軌道を変えて弓場へと襲い掛かった。
「なにっ!?」
まるで刃そのものが生きているような動き。
ワイヤーにあたると思われていた刃がそのまま自分へ向かってくる光景に、弓場でさえ目を丸くした。
命中の寸前でかろうじて頭を振り、首のかすり傷程度でとどめる弓場。
「旋空——弧月!」
だが、まだ終わりではない。
弧月を振り抜いたライがそのまま旋空弧月の5段突き。
防御不可能の必殺の刃が、容赦なく体勢を崩した弓場へと襲い掛かった。
瞬く間に弓場の体に風穴が5つ生まれてしまう。
(ワイヤー陣を壊さないために、あえて範囲の狭い旋空弧月だと? それにさっきのはまさか、本部長の技か……!?)
ワイヤーとワイヤーの間を通り抜けるような精密な攻撃。さらに最初に放たれた忍田本部長を彷彿させる曲がる旋空。どちらもワイヤー陣とは両立が不可能であるはずの旋空を実現可能とするものだった。
「弓場さん!」
「……チッ。行け帯島ァ!」
『戦闘体活動限界。
不意を突かれた強襲に成す術なくトリオン体に亀裂が走る。
とはいえただでは終わらないのが弓場だった。
叫ぶ帯島に道を作るべく、弓場は斜めにリボルバーを薙ぐ。
ライに目掛けて放った銃弾はかわされてしまうが、壁にめがけて放った弾は狙い通り壁を破壊し、ワイヤーの支えを奪う事に成功する。
「あの一瞬でワイヤーを破壊する方に切り替えたか。さすがだ、弓場さん」
「ライ先輩、勝負ッス!」
瞬時の判断で味方の進路を確保した弓場を賛辞するライに、帯島が仕掛けていった。
この距離ならば射手トリガーを覚えた帯島も攻撃が可能だ。
さらに左手の弧月で目の前のワイヤーを斬りつつライとの距離を縮めていった。
(射程持ちの隊員との戦いでは相手の手を空けさせない。弾を防ぎつつ、接近戦に持ち込む!)
叩きこまれた訓練をもとに、果敢に敵陣へ飛び込んでいく。
師匠との訓練でも帯島は優れた対応力から射手トリガーで敵を動かし時に動きを封じ、弧月で斬りこむ戦いを得意としていた。やはり使い慣れた弧月こそ彼女の武器だ。帯島はワイヤーを斬りながらもワイヤーを手にし跳ぼうとするライめがけて弧月を振るった。
「——ッ!」
帯島の放った斬撃は、しかしライを斬る事は叶わず。振り抜こうとしたその瞬間、何者かの攻撃で弾き落とされていた。
「ここで鳩原先輩の狙撃——!」
「ナイスヒット」
帯島の目が驚愕に染まる中、ライの体が宙に浮く。
小刻みにワイヤーを蹴って自在に飛び回りつつ、全方位から帯島へ
鳥籠か、一点集中か。
帯島がギリギリまで弾筋を見極めようと観察する中、突如多くの弾が帯島を上空から襲うように軌道を変えると同時に一部の弾が帯島の斜め後ろの電柱へと進路を変える。
一体何事かと帯島がそちらへと視線を向けると、その先には一つのトリオンキューブが設置されていた。
(置き弾!)
一点集中と見せかけての置き弾との挟み打ち。自由自在に動き回り、敵を翻弄する動きはまさに那須そのもの。
逃げ場のない射撃の嵐に、帯島は全身を覆う固定シールドを展開。
射撃と爆発の勢いをかろうじて守り切った。
(防いだ! すぐに立て直す!)
そしてすぐに立て直す。すぐさま弧月を再展開し、周囲を警戒する帯島。
「ッ!?」
そんな彼女の背後から、ライは弧月を突き刺した。
「覚えておくと良い、ユカリ。待ち構える射手と戦うならば必ず周囲の警戒と撤退経路の確保を怠らないように。戦場に変化が生まれたならばその情報を忘れないで。相手はその変化を利用してくる。——君ならばできる」
「……ッス」
『戦闘体活動限界。
弓場と帯島が侵入した、二人がワイヤーを破壊した経路からの不意打ち。ワイヤーがなくなった以上、ライも弧月を存分に振るう事が出来た。
師匠から新たな教訓を授かり帯島も戦場を後にする。
「これで4得点か」
『お疲れ様、紅月君』
『まだ二宮隊長も健在です。向かいますか?』
「——いや」
若村、三浦に続き弓場と帯島。4人の隊員を撃破して紅月隊は4得点を獲得した。
ランク戦に参加している戦闘員は半数ほど残っているためまだ勝負の行方は分からない。瑠花はさらに西進して二宮の撃破を狙うか進言するが、ライは静かに首を振り、バッグワームを展開した。
「ここまでだ。もう向こうの戦いも決着を迎えるはず。今のうちに姿を隠そう」
レーダーから姿を消したライ。彼の言う通り、ちょうど西の戦場も決着を迎えていた。
遠い空から二つの光の軌道、緊急脱出の軌跡が出現する。
それは香取と神田、二人の隊員のものだった。
「くそっ……!」
「止められないか、悪いね弓場さん」
三つ巴の戦い。しかも香取は機動力を活かして次から次へと攻め立てる一方、神田は冷静に二人との距離を保ち迎撃できるように構えるという対照的な二人との対戦。さらに一発とはいえ外岡からの狙撃もあった。
対応を間違えれば自分が落ちてもおかしくなかった戦いを二宮は火力で押し切り、見事に二得点を獲得する。
「……チッ」
しかし得点を挙げたにも関わらず、二宮は不満をあらわにした。
外岡は一発撃った後は潜伏し、神田の存在もあってすでに居場所はわからず。残っている紅月隊の二人も行方をくらましていた。敵が残っているにも関わらず狙える敵がどこにもいない。これ以上の追撃は不可能であった。
「時間をかけすぎたか。やられたな」
結局二宮もバッグワームを使用しランク戦は激しい攻防から一転、静かな展開を迎えた。その後は誰も姿を見せる事無くランク戦は終了の時間となる。
「
| 部隊 | 得点 | 生存点 | 合計 |
| 紅月隊 | 4 | 4 | |
| 二宮隊 | 2 | 2 | |
| 弓場隊 | 1 | 1 | |
| 香取隊 | 1 | 1 |
複数チーム生存のため生存点はどの隊にも付与されなかった。
純粋な得点だけの結果となったこの試合は4得点を挙げた紅月隊の勝利で幕を閉じる。
————
「1得点か」
「やっぱり上位は厳しいね。また中位に戻るかも」
「……仕方ないでしょ。あんた達も狙撃手を狙って駄目で。あたしも神田先輩たちが二宮さんを狙ってたのに攻め切れなかったんだから。これが上位の壁って話よ」
「葉子」
「ちょっとジュース買ってくる」
敗戦の香取隊では暗い空気が流れていた。
特に心配なのはどこか投げやりな様子の香取だ。しばらくの間香取隊は上位グループと中位グループを行き来しており、エースである香取も上位グループとの戦いでは中々得点をあげられていない。エース対決で真っ向から敗れる事が多かった。
超えられない上級者の壁はあまりにも険しい。未だにエースは殻を破れずにいた。
————
同時刻の二宮隊はサバサバとしていた。
「……すみませんでした」
「辻くんはいつもの事だし仕方ないよ。香取ちゃんが突撃してきたのは転送運もあったし」
申し訳ないと頭を下げる辻を氷見が慰める。
二宮隊オペレーター 氷見亜季
彼が女性を相手に手も足も出ない事は皆承知の事。そのため彼を責める声は上がらなかった。
「反省するのは俺もだからねー。最低でも紅月君が現れるまで弓場さんたちを抑えなきゃいけなかったのに、鳩原ちゃんにしてやられちゃったもん」
「射程ではトップ3の中でも紅月隊が一番上だからな。あいつらもそれを承知の上で仕掛けてきたのだろう」
犬飼も頬をかきつつ自省の言葉を繰り返す。
元同僚からの挟撃もあったとはいえもっと粘って戦場のコントロールをしなければならなかった。
二宮隊、影浦隊、紅月隊と元A級の三部隊の中でも狙撃手トリガーを使う隊員が二人もいる紅月隊が遠距離の戦いでは抜きん出ている。
特に二宮隊はもう狙撃手がいないのだ。これからも用心しなければならないだろうなと二宮は苦言を呈した。
「今日はしてやられた。紅月が乗ってくればまだ展開は変わっていたはずだ。……東さんではないが戦況と心境を良く読んでいた、あいつらの作戦勝ちだ」
二宮にしては珍しく、勝者である紅月隊を素直に誉め称えて振り返りを終える。彼は何故紅月隊が戦闘続行をやめて潜伏に専念していたのか、その理由を見抜いていた。
————
「1得点か。中位グループの展開次第では順位がかなり変わるな」
「やっぱり悔しいなあ。二宮さん相手とは言えトノのサポートがあっても凌ぐのがやっとだった」
「すみません。二宮さんの射程を考えて積極的に撃てませんでした」
得点が伸び悩み、弓場は険しい顔でスクリーンを凝視していた。
敗戦の直後となれば嫌な予感が浮かぶのは仕方がない。神田は少しでもこの敗戦を活かそうと反省するが、この話題となればやはり皆それぞれ悔やむところがあった。外岡が小さく頭を下げる。
「仕方がないよ。あそこでトノを失うわけにはいかなかったからね」
「自分も次は得点できるよう頑張ります!」
「うん。帯島は貴重な前衛だからね。期待してるよ」
「はいッス!」
とはいえ後の展開を考慮すれば外岡の生存は必須だった。だから悔やむ必要はないと神田は外岡をなだめた。
終わった事は仕方ない。次は必ず得点をあげようと意気込む帯島に、神田は心からの期待の念を送った。
(やはり皆今シーズンの意気込みはすごい。少しでも上の順位を狙ってくれている。……俺も負けられない。最後のランク戦だ。弓場隊を必ずや上に押し上げてやる)
そして神田もただ声援を送るだけではない。
彼にとってはこれが最後の部隊ランク戦。残るチームメイトたちにせめて良い結果を残そうと今一度自分を鼓舞するのだった。
————
「ライ先輩。どうして最後二宮さんたちを狙わなかったんですか? 外岡先輩が残っていましたが、それでも十分生存点を狙える状況だと思いました」
一方、ランク戦を制した紅月隊の作戦室では部屋に戻ったライに瑠花が疑問を投げかけていた。
二宮隊が隊長を残して全滅しており、敵は二宮と最初からバッグワームを使用していた狙撃手の外岡の二人だけという事は得点の推移からわかっている。
ならば隊長一人となった二宮に仕掛けて生存点を狙ってもおかしくはなかった。外岡も状況を考慮すれば漁夫の利を狙って二宮を狙撃する可能性もあったはず。そして二宮さえ落とせば炸裂弾を持つライならば潜伏する敵のあぶり出しもできる。貴重な得点の機会だったと瑠花は考えていた。
「いや、二宮さんが相手となればたとえこちらが鳩原と二人で挑んだとしてもそう簡単にはいかなかっただろう。相打ちが精一杯だった可能性が高いし、外岡も間違いなく僕たちを狙ったはずだからね」
「えっ?」
「外岡君も? やっぱりうちが勝っていたから?」
「うん。そういう試合展開もそうだけど、そもそも弓場隊が一つでも上の順位を狙うなら、二宮隊よりもうちを狙うだろう?」
鳩原の問いかけにライはゆっくり頷く。
確かに従来ならば外岡が二宮を狙ってもおかしくはなかった。
しかしこのランク戦は少し事情が異なる。今シーズンの弓場隊の意気込みから、弓場隊は紅月隊の得点を阻止し、少しでも上の順位に上るためまずは紅月隊を倒すことを優先するだろうとライは読んでいた。
「……あまり話は広がっていないが、今シーズンで神田がボーダーをやめる予定になっている」
「えっ?」
「そうなの?」
「ああ。遠くの大学に進学するためだそうだ。だから最後にこのランク戦で弓場隊を一つでも上の順位にという意識が普段よりも強い」
同じ年齢、弟子が同じ部隊であるという事情もあってライは神田から進路について話を聞いている。
今シーズン限りで神田はボーダーをやめるという事になっていた。そのため最後に神田は良い結果を残すため、他のメンバーは快く送り出すためにと上の順位に上り詰めようという意識が強くなっている。
だからこそ狙うならば一位の二宮隊よりも順位が近く、今日のランク戦でもポイントをあげている紅月隊。そう考えるのは当然のことだった。
「となると実質二対二といってもおかしくはなかった。しかも外岡は潜伏がうまく、狙撃の回数こそ少ないが、その少ない機会を必ずものにする。あのまま挑めば僕は間違いなく落とされただろう。一点を狙ってより多くの失点が生まれた危険性が高い」
狙いの一致から二対二となりかねない場面である。加えて外岡の上手さと紅月隊はライしか攻撃が出来ない以上、ライが倒された時点でそれ以上の得点は期待できない都合からライは継戦を避けていた。
「だからこそあの場で潜伏したんだ。そうする事で外岡はもちろん、あの場では射程で最も劣る二宮さん、あるいは生き残ったのが他の隊員だとしてもその後の動きを制限できた。相手がこの試合で対峙していない二宮さんならば、ワイヤーを使った動きを隠す事もできたしね」
「……なるほど。そうでしたか」
「ランク戦は失点より得点が大事とは言うけど、失点する可能性が高いってわかりきっているなら割り切るのも大事だよね」
「ああ。ランク戦を勝ち抜くという意味でも、その先を見据えるという意味でも、僕は賭けを挑むくらいならば一つでも多くの堅実な勝利を狙う。個人の強さの序列を決めるのは個人戦でもできるしね」
全ては部隊の勝利の為だ。
その言葉で締めくくり、ライは笑顔を浮かべた。
ただ戦うだけではない。俯瞰的な視点で戦場を見て、退く時は退き、勝利を手にする。
結果的に二宮という『強い駒の働きを止める』という戦いはこの戦いを見守っていたある面々にも大きな影響を及ぼすのだが、彼が知る由もなかった。
————
ランク戦の観客席を一望できる特別席。
使用するものが限られているこの一室に、今日は忍田と城戸、そして唐沢。上層部の三人の姿があった。
「……まだあのような隠し技があったとは。紅月君には驚かされてばかりですね」
「私もだ。確かに一度彼に教えた時にあの技も見せてはいたものの、その場では操りきれていなかった。3連撃を習得しただけでも十分脅威だったものの、まさかさらに成長していたとは」
「おや。忍田本部長もご存じでなかったとは。教えから独自でも成長してくれるとは教えられ上手と言ったところですかね」
元A級であり上位に君臨する二宮隊と紅月隊、さらに今シーズンでボーダーをやめるという話が浮上している隊員が所属する弓場隊と注目度が高い組み合わせだった。香取隊も何度か上位グループに顔を出しているという事もあってどの部隊も期待がかかる。
3人はそう言った事情もあってランク戦の、隊員たちの様子を見に来たのだが、忍田には及ばないとはいえ師匠の技を一部であろうと再現したライの技術に唐沢も忍田も舌を巻いていた。
「……加えてあのワイヤー陣。あれは鳩原隊員が狙われた時のカウンターといったところか。今までも彼女が狙われた時はエスクードカタパルトによって駆け付けることが多かったが、その後の自在な動きを可能としている」
「そうですね。空中で身動きが取れない時間を大幅に軽減し、むしろ自由度を増した。射手トリガーで二得点も挙げているという点も他の部隊には大きなプレッシャーになるでしょう」
さらに新たに姿を見せたワイヤー陣についても城戸が言及する。
鳩原があらかじめワイヤー陣を作っておくことで、狙撃後に狙われたとしても時間が稼げる上にエスクードジャンプで駆け付けたライが素早く戦場を駆け巡る事が出来た。その俊敏さから本来は得点が難しい射撃トリガーでも得点できるとなればその脅威度はさらに増す。他の隊員は嫌だろうなと忍田は苦笑するのだった。
(しかも、早々に撤退する事でそのワイヤー陣の動きを二宮隊は直接目にする事は出来なかった。これは次の戦いにも影響する)
それは二宮隊も同じこと。後で映像を見たとしても直接経験するかしないかでは大きく異なる。特に俊敏性などは体感しないとわからない。苦戦は必至だろうと唐沢は紅月隊の次の試合展開へと繋げた戦術を評価した。
「指揮官としてみれば『自分の力を見極め、自分にやれることをやる』、『強い駒の働きを止める』という戦果を期待できるという点も素晴らしいと思います」
「……懐かしい言葉を聞いたな」
さらに忍田はかつての上司の言葉を例に出し、その考えを褒めると城戸がうっすらと目を細める。
無理に勝負を仕掛けるのではなく、敵を足止めして生き残るという点は遠征部隊として求められる素質だった。それをこの部隊ランク戦から見せつけている。忍田の言いたい事を理解しているのか、城戸の表情はいつもよりも柔らかいものだった。
「人を撃てないという事から遠征から外れた鳩原隊員を十分カバーし、生き残れる。確かに彼らならば次にもう一度試験を受けるような事があれば、結果は変わるかもしれんな」
『もちろん、次があればだが』と付け足して城戸は口を閉ざす。直接言葉にする事はなかったが、城戸も彼らへの期待を示しているのと同義であった。
「……正直意外ですね。城戸司令も彼らに目をかけていたとは。自分はそもそも鳩原隊員が紅月隊に加わる時点で反対すると思っておりました」
そんな城戸の姿を見て、唐沢が問いを投げる。
確かに彼の言う通り処罰を受けて降格処分を受けたライと鳩原が同じ部隊になるという事態は批判が避けれないもの。事実この話が出たときには根付が反対意見を呈していたのだ。
だからこそ城戸もひょっとしたら彼女の加入には何かしら介入するのではないかと思っていたが、その様子はない。普段から厳しい城戸を知っている者からすれば当然の疑問だった。
「確かに、そういう意見があるということは重々理解している。だが——違反を覚悟して密航を試みた者。違反を覚悟して密航を阻止した者。この二人が共にいれば、もう同じ違反が起こる事はないだろう。そう判断しただけだ」
そう言い残すと城戸は立ち上がり部屋から退出していく。
過ちが繰り返される事はない、今度こそ彼らは自分たちの力で目標を達するのだろうと若者たちの未来を見据えていた。
その後、紅月隊はついに一時は二宮隊を上回りB級1位に返り咲くなど快進撃を続ける。
以降も二宮隊や影浦隊をはじめとした強敵との戦いを繰り返し、そのシーズンで一度も得点が失点を下回る戦いはなく、最終的にB級2位でこの年最後のシーズンを終えた。
こうして様々な隊員がさらなる成長を遂げていく中。
物語はここで誰もが予想せぬ展開を迎える事となる。
『まもなくだ、ユーマ。もうすぐユーゴの故郷に辿り着く』
「お、いよいよか。日本だっけ? ——長かったな。さて、それじゃあ着き次第『基地』というやつを見に行くとするか」
『学校の手続きなどもある。忘れないようにな』
赤目に白髪、小柄な体格と独特な見た目の少年が小さなロボットのような宙を浮かぶ機械と会話していた。
まもなく近界から日本へと足を踏み入れようとしているこの少年。彼の登場が、新たな戦いを呼び起こす。
アニメで久々にユーマたちが登場した回に合わせて!
ついにこちらも登場です!