REGAIN COLORS   作:星月

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イレギュラー門~黒トリガー争奪戦編
急変


 ある平日の事。

 昼食時を過ぎ、普通の学生ならば眠気に負けじと授業に臨んでいる時間帯。

 本部暮らしであるライはいつものように防衛任務に勤しんでいた——わけではなく。

 ある人物たちと共に駅近くの大型ショッピングモールへとやってきていた。

 

「それでは、少し待っていてください」

「行ってくるねー」

「はい。ごゆっくり」

 

 共に来ていた瑠花王女が沢村を連れてお店の中へと入っていく。

 彼女たちが店内に並んでいる服の数々を眺めているのを見届けて、ライは少し離れたところに設置された椅子に腰かけた。

 先に買い物を済ませた袋を横に置き、携帯端末を取り出す。

 時間を確認し、まだ十分余裕がある事を確認してライは安堵の息をこぼした。

 

「おっ。紅月君じゃん。今日はどうしたの?」

「ん? ——迅さん!」

 

 だが。

 突如横から見知った声——迅に声をかけられるとライはすぐにその場から立ち上がり、半身の構えを取る。

 

「えっ? 何で俺が声をかけただけでそんな風に身構えたの?」

「迅さん。僕は今日、彼女の付き添いで来ているんです。不審な人物を見つければ警戒するようにと言われています」

「ああ、やっぱりね。君が外出しているからそうだと思ったよ」

 

 警戒を続けたまま、ライが淡々と先の質問に答えた。

 本部に滞在する事が多い彼が外出する理由については迅も容易に思いつく。ゆえにそれは特に疑問を抱くことはなかったのだが。

 

「で、何で身構えたの?」

 

 自分を見ただけで警戒する理由がわからず、迅は問いを重ねる。

 

「不審な人物を見つければ警戒するようにと言われています」

「俺の聞き方が悪かったのかな?」

 

 まるでゲームのNPCのように同じ言葉が返ってきた。

 どういう意味だ。これではまるで迅が不審であると言っているようなものではないか。

 

「申し訳ありません。しかし今回は忍田さんが不在の中、お嬢様と沢村さん。二人の女性がいます。さすがに未来予知を持つあなたを相手に二人を同時に守るのは先手を打っておかないと厳しいので」

「……紅月君。勘違いしているかもしれないから言っておくけど、俺は時も場所も選ばずに女の子のお尻を触るわけじゃないからね?」

 

 ライは上司がいない上に被害を受けかねない相手が二人もいるのだから仕方がないと弁明する。

 本当に迅がセクハラをやりかねないと疑っているようだった。

 あんまりな話だと迅もたまらず反論する。

 

「でも僕、あなたが時も場所も選ばずに瑠花のお尻を触っていた現場を目撃しているんですよ」

「おっと。正論で殴るのはやめてくれ」

 

 すると、かつて迅がまだ明るい時間のボーダー本部という公共の場で起こした話を持ち出し、迅の意見を容赦なく切り捨てた。さすがにこの話には迅も反論しようがなく、降参の意を示す。

 

「本当ですか?」

「本当だって。今日だってあくまでも町の人たちの様子を見に来ただけだって。——ちょっと、気になる未来が見えたからね」

「——見えた?」

 

 懐疑的な視線を続けるライだったが、突如雰囲気の変わった迅の発言に表情が一変した。

 『未来が見えた』。つまり迅の副作用が働いたという事。

 彼の副作用の有効性はライも痛いほどよく知っている。ゆえにライもただ事ではないのだろうと彼の言わんとする事を察し、耳を傾けた。

 

「そ。ただ正直な話、俺自身信じられない未来だし、まだ確定ではないっぽいから特に話してはないんだけどね」

「……一体何事ですか?」

「んー。話しても良いけど、一応二人が戻ってきてからでも良いかな?」

「なるほど、わかりました」

 

 しかし今回は予知の内容が迅にとっても不測の事態。

 そのため先にボーダーの重要人物である瑠花王女を見て、敵の狙いが彼女に向けられないか判定してからでよいだろう。

 そう迅が答えるとライも深くは踏み込まず、二人が戻るまで待つ事となった。

 

「で、紅月君は二人の付き添いと」

「ええ。今日は防衛任務も入っていませんでしたし、この後カゲたちと会う予定まで時間がありましたから」

 

 改めて迅が用事を問うとライは穏やかな表情で続ける。

 長く続いた部隊ランク戦が終わったという事で、今日ライは同年代の隊員たちと共に食事をする予定となっていた。

 先日まで争っていた相手もシーズンが終われば良き友。彼らの仲の良さが窺える一面である。

 

「……あー、なるほど。だからか」

 

 その言葉に迅は納得した表情を浮かべた。

 

「どういう意味です?」

「いやいや。この後君がみんなと一緒にいる未来が見えただけだよ」

 

 『だから問題ない』と迅は飄々とした態度で返す。

 掴みどころのない彼の説明にライはただ首をかしげるのだった。 

 

「——戻りました、お兄様。あら?」

「迅君? どうしたの?」

「荷物お持ちしますよ」

「どうもー。偶然紅月君を見かけたからちょっとね。——しかしB級上位の隊長が荷物持ちって考えるとすごいな」

 

 すると買い物を終えた瑠花王女と沢村が二人の元へと歩み寄る。

 ライは素早く沢村から荷物を預かり、迅は当たり障りのない説明を行った。

 周囲の目もあるために瑠花王女はあえてライをこのように呼んでいるのだろうが、迅はまるで『執事みたいだな』と人ごとのように思った。

 

「——うん。よかった。とにかくこちらは何事もなさそうで」

 

 勿論二人の未来を確認する事を忘れずに。沢村たちが事件に巻き込まれる事はないとわかり安堵した。

 

「どういう事?」

「何でもありませんよ。それでこの後はどうしますか?」

「そうですね……」

 

 沢村も何か察したのだろう。すかさず問い詰めるがライが間に入って話題を変える。その空気を読んだ瑠花王女は今後の予定を考えて下顎に手を当てて考え始めた。

 

「では、行きたかったカフェがあります。そこで飲み物を買って今日は終わりとしましょう。沢村、今日は一緒に服を選んでくれてありがとうございました」

「いえいえ。私も楽しかったですし」

 

 何か起こりうるならばあまり長居はするべきではない。一件用事を済ませた後は帰路に就こうと決断した。

 

「お兄様も。休みの時にごめんなさい。ですが久々に外の空気を吸って少しは気晴らしになったでしょうか?」

「ええ。お心遣い、ありがとうございます」

「——あなたは少し根を詰め込みすぎです。少しは休む事も覚えてくださいね」

 

 沢村に続きライにも礼を告げる瑠花王女。

 彼女もライが働き詰めである事は忍田から聞いている。

 トップチームが不在であるという状況、自分の能力を活かしたいという彼の真面目さを知っているからこそ。

 どうか体を大切にしてほしい。

 そう言われるとライは柔らかい笑みを浮かべた。

 

「大丈夫です。お嬢様の年相応の表情を見て英気を養えましたから」

 

 先ほど、無邪気な様子で沢村と共に服を選んでいる瑠花王女の姿を思い浮かべて。

 

「——まったく。あなたという人は」

 

 その答えに少し気恥ずかしくなったのか瑠花王女は視線を外してつぶやくのだった。

 

「そうだよねー。働いてばっかりだと疲れるもんねー。俺もたまには休みを入れとかないと……」

「迅。あなたはダメです。もっと働きなさい」

「俺も休ませてよ!」

 

 一方、迅がのほほんとした声色でライに同調すると、瑠花王女は『それは許さない』と厳しい声で断じた。

 

「ひどい。俺だって陰ながら頑張っているのに」

「まあ、働いている姿を見せればきっと考えも変わりますよ」

「そうかな。——よしっ。じゃあ早速紅月君に一つアドバイスを授けよう」

「アドバイスですか?」

 

 めそめそと嘘泣きを始める迅。しかしさすがに哀れに思ったライに慰められると、すぐに迅は立ち直って目を輝かせた。

 

「この後。紅月君はボーダーの皆に会いに行くと思うけど、その時は普段着のままトリオン体に換装しといてくれ」

「トリオン体にですか? ……わかりました」

 

 ライは二つ返事で頷く。ふざける一面もあるが仕事はきちんとこなすのが迅だ。彼がこういうならば何か意味があるのだろう。

 その後、3人は迅と別れると瑠花王女の提案通りカフェに立ち寄り、ボーダー本部へと戻っていった。

 そして作戦室へ戻ったライはしばらく時間を潰し、夕方に再び本部の外へ向かう。

 行先は影浦の実家である『かげうら』だった。

 

 

————

 

 

 その日かげうらに集まったボーダー隊員は6人。

 影浦、北添、ライ、水上、村上、荒船。B級でも知らぬ者はいないであろう面子が揃っていた。

 

「よーっし。そろそろ焼き上がったか? んじゃ、固い挨拶は抜きだ。お疲れー」

『お疲れ様―!』

 

 全体を見回し、各々の焼き物が仕上がった事を確認し、影浦が緩い音頭を取る。

 彼の声を合図に皆飲み物が入ったグラスを手にし乾杯した。

 店自慢のお好み焼きを頬張りつつ会話を弾ませる。

 

「ん。美味い。やっぱりカゲのところの味が一番だな」

「だな。位置的に高校からも近くて皆集まりやすくて助かる」

「そういえば高校はそろそろ冬休みだよね? 皆勉強の方は大丈夫なの?」

「あー。それな。まあ俺とかは大丈夫やけど、何人かヤバイやつもおるわな」

「……カゲ、言われてるよ」

「お前もだろうが、ゾエ。なに人ごとみたいに言ってんだ」

 

 高校生だからか、勉学の話題となるとたちまち一部の人間の表情が暗くなった。

 もうすぐ大学受験が控えているというのに大丈夫なのだろうか。

 最悪、太刀川のようにボーダー推薦という奥の手もあるのだろうが、先の未来が心配になるライであった。

 

「そういう点で一番心配なのは当真君だよね。今って学校は休学扱いになっているのかな?」

「鳩原が彼は公欠だって言っていたよ。だから出席は大丈夫だろうけど、成績は……どうなるかな」

「まあ無理だろうな」

 

 この場にはいない当真の事を北添やライが不安視すると、村上がバッサリと切り捨てる。

 厳しい意見だが反対の意見はないのか皆「だよなあ」と口をそろえるのだった。

 

「そういえばその鳩原ちゃんも今シーズンからまたまあ嫌な戦力になったなぁ。あの遠ければ武器破壊、近寄ればワイヤー陣とか敵からすれば最悪のパターンやったで」

 

 鳩原という名前で水上が思い出したようにランク戦を振り返る。

 水上は指揮能力が高く盤面を制するのがうまい隊員だが、その彼をもってしても『嫌な戦力』と語らせるほど鳩原は敵にとって厄介な存在であった。

 

「あれねー。うちも戦う回数が多いからよくわかるよー。ゾエさんのメテオラも撃ち落とされたりして大変だったなー」

「敵に評価してもらえたならよかったよ」

「ハッ。得意げになりやがって。まあ確かに鈴鳴との戦いでは面白かったな。鋼がスラスターで離脱したと思ったらワイヤーに引っかかって空中で三回転半決めてただろ」

「カゲ、その話はやめてくれ……!」

「個人的にあのワイヤーを使った格闘術には興味あるな。機会があれば俺も挑戦してみたいが……」

 

 そして水上だけではない。ここにいる面々はランク戦で戦い、目にしたからこそその脅威をよく理解していた。次々と話題が思い浮かんで話を膨らませていく。

 

「どうなんや紅月君? すでにまたなんか次の新しい作戦でも立てたりしとるんか?」

 

 鋭い視線をライに向け、水上が冗談半分で問いかけた。

 すでに次のランク戦へ向けた動きは始まっている。

 何か少しでも情報を漏らせば、とわずかな期待を持ってライの姿を見据えた。

 

「さて、どうだろうね。だけどいつ誰が来ようと対抗できるように準備は進めているよ」

「……参るわ。それ一番困るやつや」

 

 するとこの試すような質問をライは淡々と受け流す。

 呆気なくこの疑問に返された水上は渋々と偵察は諦め、お好み焼きへと箸を伸ばすのだった。

 

「早速腹の探り合いか」

「えー。もう次の戦い始まってるの? ゾエさん怖い」

「まさか。こんなのちょっとしたコミュニケーションだよ。——ん? ごめん、ちょっと電話に出てくるね」

 

 早くも次シーズンへ向けた情報戦の展開に村上や北添は息を鳴らす。

 だがライはこの程度ならば戦いでもないだろうと軽く否定して——懐の端末が着信を知らせている事に気づいた。

 相手は忍田本部長だった。無視するなどできるはずもなく、一言断りを入れてライは席を立ち通話に応じる。

 そして一分ほど通話を終えたライが戻ってくると、ライは席につく事無く他の五人に告げるのだった。

 

「皆、すまない。食事を中断してくれ」

「ん? どうした?」

「この近くにゲートが開くらしい。まもなくだ」

「はっ?」

 

 続けられた言葉に皆が息を飲む。

 ここは警戒区域の外だ。ボーダー本部の技術によって門が開かれる事はない地域。

 そこにゲートが現れるなど信じられず、皆その言葉をすぐに飲み込む事はできなかった。

 

「どういう事? 本部の近くじゃなくて?」

「ああ。どうやら今日他にも警戒区域の外で門が開かれていたらしい。防衛任務の部隊は間に合わない。こちらで対応してくれと忍田本部長の指示だ」

「えっ? それマジなん?」

「迅さんの予知もあったらしい」

「はぁ? それガチなやつやん」

「悪い、任務入ったから出てくるわ。戻ってくるから置いといてくれ」

 

 皆半信半疑だが、忍田本部長の命令と迅の副作用の告知があったとなれば動かないわけにはいかない。

 すぐに席を立つと各々がトリガーを起動し、戦闘隊に換装するのだった。

 

「てことは合同部隊だね。指揮は誰がとる?」

 

 するとここで問題が浮上する。

 普段同じ部隊に所属しない隊員が揃った以上、合同部隊での戦闘となるのだが一体誰が戦闘の指揮を執るのか。

 北添の指摘に皆が顔を合わせあう。

 

「まあ普段から部隊を指揮してる隊長か水上だよな」

「こういう時のリーダーってランク順か年齢順になるか」

「年齢順ならカゲが一番誕生日が早いね。A級の順位も一番高かったしカゲでお願いしようか」

「せやな。頼むで」

「あぁー? ちっ、めんどくせえ」

 

 荒船や村上が誰に頼むか思考する中、ライがいち早く影浦を指名した。

 悩んでいては初動が遅れる。人選的に問題ないだろうと水上も同調すると影浦は隠すそぶりも見せずに悪態をついた。

 

「しゃーねえ。よし、おめーら。俺が指揮るぞ」

『了解!』

 

 だがいつまでも不満を述べても仕方がない。

 影浦は後頭部をかきながら全員を見回した。全員が了承したのを確認し、影浦は口を開く。

 

「紅月ィ。なんか案出せ」

「……えっ? 僕?」

 

 だが、それは指揮権をライに譲渡するというもの。

 突然の指名にライが困惑する中、他の四人は「やはりか」と予想していたのか小さく息を吐く。

 

「結局こうなるんかい」

「絶対どこかで放り投げるかなとはゾエさんも思ってた」

「まあ現在の順位を考えて文句があるやつはいないだろう」

「頼むぞライ」

 

 とはいえ指揮官が交代となっても皆すぐに適応した。同年代だけあって皆慣れている様子である。

 

「——わかった。じゃあ移動しながら話そう。先に荒船、君は先行して狙撃ポジションへ移動してくれ。近界民が出現次第、すぐに迎撃を」

「荒船、了解」

「この防衛はとにかく人と建物に被害が出ない事を優先する。近界民の出現を確認次第、僕がエスクードを展開して道を封鎖する。鋼、カゲの二人は突撃し敵の動き出しを止めてくれ」

「村上、了解」

「影浦、了解」

「ゾエさんと水上は二人の援護を。今回はゲートの発生が読めない。常に鋼やカゲを援護し、二人がカバーできない敵を迎撃してくれ」

「ゾエさん、了解」

「水上、了解や」

 

 ならば期待には応えなければならない。

 ライは走りながら次から次へと指示を飛ばした。

 今までの常識から外れた防衛任務。被害を防ぎつつ、余裕をもって対処しようと考えをめぐらせていく。

 

『来たぞ。——戦闘開始だ』

 

 そしてその間に門が開き、二体のバムスターが、さらに遅れて二体のモールモッドが飛び出した。

 マンションの屋上でバムスターをいち早く発見した荒船が狙撃を開始し、開戦の合図を告げる。

 

「よしっ。——エスクード」

 

 さらにライもエスクードを起動。

 街並みに沿っていくつものバリケードが出現し、建物をネイバーから隠したのだった。

 

「もう一つ。使ってくれ、カゲ、鋼!」

「よしっ」

「了解した」

 

 さらにライは自身の近くにもエスクードを展開。

 影浦と村上に合図を送ると、二人は共にエスクードカタパルトで一気に加速する。

 

「こんなところに現れやがって。調子に乗ってんじゃねえぞ!」

「場所が悪かったな。仕留める!」

 

 ボーダー内でもトップクラスの腕を誇る攻撃手二人が敵を斬り刻まんと襲い掛かった。

 

「よしっ。僕らも射撃で援護する」

「オッケー。行こうか!」

「はよ終わらせて飯の再開や」

 

 その二人を中距離戦に優れたライ、北添、水上が支援する。

 無数の弾丸が近界民に向けられ、いくつもの風穴を生み出すのだった。

 

 

————

 

 

 戦闘はあっという間に終わりを迎えた。

 あの後さらに再び門が一つ出現したものの、すぐさま荒船が狙撃。ライ、水上、北添もたちまち応戦し、近界民は降り立つ前に撃破された。

 その後警戒を続けるも増援の様子はなく、ライが代表して本部へ通信をつなぐ。

 

「——本部。こちら紅月。近界民の撃破を確認。新たな門の出現は見受けられません」

『こちら本部。紅月隊長、突然の対応感謝する。他の隊員にも引き上げるよう伝えてくれ』

「紅月、了解」

 

 ほどなくして忍田から任務終了を告げられ、皆一息ついた。

 突然の事であったが皆年齢が近く実力にも長けた面々が集っている。人的・物的被害を出すことなく戦闘を終えるのだった。

 

「よっしゃ。終わったなー。ほな戻るか」

「いやー、ビックリだったね。警戒区域の外に出るなんて初めてじゃない?」

「確かに。基地ができてからはこんな事一度もなかったはずだ」

「本部の方で門の座標操作に何か不具合が生じたのか。考えにくい事だが……」

「そんなの上がなんかしら対策とるだろ。俺らが考えることじゃねーよ」

 

 とはいえ前代未聞の襲撃に皆一様に疑問を呈する。

 そんな中影浦は戦闘員が考える事ではないと彼らの考えを一蹴した。

 確かに研究員でもない彼らが考えても結論がでない問題だ。ここで討論を続けたところで答えが出るわけではない。

 

「……ただ、やはり気になるな。ちょっと調べてみるか」

 

 しかしライはそう簡単に割り切る事は出来ず。

 この騒動を収めるために調査する事を決断するのだった。

 

 

————

 

 

 ライ達の戦闘が開始する少し前の事。

 ボーダー本部周囲の警戒区域では一人のボーダー隊員が立ち尽くしていた。

 

「なっ……!」

 

 驚愕のあまり言葉につまる。

 そこに立っていたのは訓練生の三雲だった。

 彼は中学校から帰宅の途中、同級生からこの警戒区域まで連れられ一方的な暴行を受けていた最中にバムスターと遭遇。

 同級生を守りつつ、c級隊員の近界民との戦闘は違反としりながらもレイガストを起動した。

 しかし防御はよくても巨体をほこるバムスター相手に効果的な攻撃を仕掛ける事は出来ず、その巨体に押し込まれている中。

 

『弾』印(バウンド)『強』印(ブースト)二重(ダブル)

 

 その窮地を救ったのは、今日三雲のクラスにやって来た白髪赤目の転校生・空閑遊真だった。

 トリガーを起動した彼は勢いよくバムスターへ突撃したと思えば強力な蹴りをお見舞いし、さらに威力をました拳をバムスターへ叩き込み、跡形もなく消し飛ばす。

 

「よう。平気か? メガネ君」

「……僕の名前は三雲修だ」

「そっか。オサムだな、よろしく」

 

 バムスターを粉砕した遊真が呆然とする三雲を安心させるように声をかけた。

 その姿に、かつて同じように自分を助けてくれた迅の姿を思い浮かべ、三雲は自分の名前を告げる。

 名前を聞いた遊真は人懐っこい笑みを浮かべてその名前を繰り返した。

 そして三雲は次々と遊真から話を聞いていく。

 今彼が使ったトリガーは遊真の死んだ父親の形見であり、彼の『知り合いがボーダーにいるはずだ』という言葉に従って日本に来たという事だった。

 

「……つまりお前の親父さんもボーダー関係者だったんだな」

「違うよ。ボーダーなのは『親父の知り合い』で親父は関係ないよ」

「はっ? だってトリガーを持っているじゃないか。トリガーはボーダー隊員しかもてないんだぞ」

 

 父親がボーダー隊員ならばトリガーを持っていたという事にも納得がいく。

 だが遊真は彼の言葉を否定した。

 トリガー持つ事ができるのはボーダー関係者のみ。だからボーダー関係者でないとおかしいだろうと三雲は考えたのだが。

 その考えは遊真の続けられた言葉の前にあっけなく崩れ去った。

 

「オサムが言っているのは『こっちの世界』の話だろ? ——俺は門の向こうから来たんだ。おまえらが言う『近界民(ネイバー)』ってやつだ」

「……はっ!?」

 

 再び三雲は驚かされる事となる。

 自分を助けてくれた転校生が、ボーダーが戦う近界民の一人。

 遊真の発言を三雲はすぐに受け止める事は出来なかった。

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