三門市立第三中学校校舎の敷地内。
一時はボーダー隊員たちによる現場調査および破壊された近界民の回収のために封鎖された区域も解放され、ボーダー隊員も撤収しているイレギュラー門が発生した現場である。
対応に回っていた嵐山隊もすでにこの場を去っている中、ライは一人この場所を訪れ現場検証を行っていた。
(——モールモッドは二体とも一撃で両断されていた。僕が狙撃した方もたとえ狙撃がなくても撃破されていただろう。校舎の内外にはいくつもの破壊された壁。モールモッドによるものならば、狭い場所で単独で撃破するためには相応の機動力と身のこなしが必要になるはずだ。ブレードをかわしつつ一撃で仕留める。それをやっていたのが、本当にあの彼なのか……?)
破壊痕と調査担当の嵐山隊から聞いた報告から当時の様子を探る。
この敵を撃破したという、三雲修の顔を思い浮かべながら。
だが実際にその光景を想像すると疑惑の表情へと変わった。
二体のモールモッドを訓練生が一人で対処するというのは簡単なことではない。まして三雲がこれを成し遂げたという事実が信じられなかった。
(迅さんの資料が正しいならば正規隊員に上がることさえ困難な実力だったはずだ。だが報告に上がった動きを考えれば、正規隊員でも上位に位置するくらいの実力を持っている事になる。にわかには信じがたい)
ライはかつて迅から入隊時の三雲のデータを受け取っており、彼の戦闘員としての資質を知っている。
トリオン量や戦闘経験など、どれをとっても戦闘員向けとは思えない非力な存在だった。
三雲が入隊してから間もなく3か月ほどが経とうとしている。急激な成長、火事場の馬鹿力、窮地での覚醒などが決して考えられないわけではないが。
(それに何よりも、
原因を調査していたイレギュラー門の出現場所に居合わせた事自体がこれまでの予測からは考えにくい事である。
あまりにも予想から離れた出来事の連続に、ライも頭を悩ませていた。
「……ここはやはり関係者に一度話を聞いてみた方が良いな」
とはいえいつまでも考えてばかりいても話は進まない。
調査を進展させるためにライはある人物の下にメッセージを送り、了承の返事を得るとその隊員の下へと足を運ぶのだった。
————
ボーダー本部の一角に存在する会議室。
上層部の面々が集うこの部屋には今日もいつも通りの人員が揃う一方で、初めてこの部屋を訪れた隊員も椅子に腰かけていた。
普段とは異なる空気を醸し出す中、さらにある一人の隊員が本部長補佐・沢村と共に入室する。
「入りまーす。迅悠一、お召しにより参上しました」
「——ご苦労」
敬礼と共に挨拶を行って姿を現したのは迅。
傍らに立つ沢村から何やら冷たい視線が向けられる中、彼女の視線をどこ吹く風と受け流し、所定の場所へと向かうのだった。
(この人は、あの時の——!)
先に召集を受け、椅子に腰かけていた三雲は自分の横へと歩み寄って来た迅の姿を見てかつての出来事を思い浮かべる。
一度はボーダー試験で不合格を言い渡され、それでも耐え切れずに上層部へ直訴しようとした日の事。あの時に襲撃を受けた際に助けてくれた隊員こそが迅だった。思いがけない再会に目を奪われる中、迅が彼の視線に気づいたのか軽い調子で話しかける。
「おっ。君も呼ばれた組? 名前は?」
「あっ、三雲です」
「ミクモ君ね。俺は迅。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」
初対面同士の普通の挨拶。
「さすがに覚えてはいないか」と迅の反応に三雲が少し寂しさを覚える中、ようやく招集した面々が集まった事を確認して城戸が口を開いた。
「では、本題に入ろう。昨日から市内に開いているイレギュラー門の対応策についてだ」
やはり投じられた話題は三門市に多くの被害をもたらしているイレギュラー門について。
今日もライや三雲が遭遇した一件の後、さらにもう一件の門が警戒区域外に発生し、新たなる大型の爆撃用トリオン兵・イルガーにより多大な被害を許してしまった。
これ以上の被害を許すわけにはいかない。そのためこの話題を真っ先に投じたのは当然のことだろう。
「待ってください。まだ三雲くんの処分についての話が終わっていません」
そこに待ったをかけたのは忍田本部長だった。
中学校で発生したイレギュラー門でのトリオン兵撃退に加え、イルガーによる市街地爆撃が行われた際には住民の避難誘導および救助活動に三雲が尽力したと報告を受けている。
鬼怒多や根付は処分すべきだという厳しい意見を呈する中、忍田はこれほどの活躍が見込める隊員はむしろ正規隊員に昇格させ、より力を発揮できるように環境を整えるべきだと論じた。
「確かに本部長の言う事にも一理ある。——しかし、ボーダーのルールを守れない人間は必要ない」
だが忍田の反対意見を受けても城戸の意思は揺るがない。断固としてルール違反を犯した者は許すことは出来ないという姿勢を貫いた。
「三雲くん。君がもし今日と同じような場面に遭遇したならば、君はどうするかね?」
「——目の前で人が襲われていたならば、僕はやはり助けに行くと思います」
もしも同じ状況に陥ったならばどうするか。己の性質を試すような問いに、三雲は真っ直ぐな答えを打ち明ける。
当然これには鬼怒多をはじめ多くの者から処罰すべきという意見が再燃した。今回のケースが特別というわけでなく、以後も繰り返される可能性があるというのだから当然の反応だろう。
「これ以上はもういいでしょう。それよりもイレギュラー門です。第一次近界民侵攻以来の被害が出てしまったのです。対応しなければ市民は不安に駆られて三門市を去るでしょう。被害にあった人々、建造物への補償も馬鹿にならないでしょうし……」
「資金に関しては問題ありませんよ。まあ今日くらいの侵攻が続けばスポンサーの支援も厳しくなるでしょうが、そこはどうですか鬼怒多開発室長?」
「……開発部が総出で調査しておるが、まだ原因究明には至っておらん。対応処置としてトリオン障壁を張ることで門の発生を強制的に抑えておるが、それも46時間しか効果が持たない。この制限時間までに何とかせんといかんのだが、このままでは——」
三雲の処罰に関する議論はもう必要ない。
それよりもイレギュラー門の対応を如何するか。犠牲を抑えるためにそちらを討論すべきだろうと根付や唐沢、鬼怒多といった面々は各々の視点から意見を呈した。しかしやはり事態が好転するような言葉は出てこない。
「だから今日はお前が呼ばれたんだ。やれるか、迅?」
ゆえにこういう時こそお前の出番だろうと迅の直接の上司である林藤が迅に呼びかけた。
強力な副作用を持つ彼の力は上層部も頼りにしている。
今回も何か対策はあるかと意見を求めた。
「もちろん。実力派エリートですから」
「何!?」
「何か見えたというのかね!?」
迅が呑気な声で問題ないと告げる。
誰もがまだ解決の糸口さえつかめていない中、迅の答えは一堂を驚愕させるには十分すぎるものだった。会議室に集まった隊員たちの注目が迅に集まる。
「ええ。ただ——そのイレギュラー門の原因を見つけるにあたって、彼の処分をおれに任せてもらえませんか?」
すると皆の視線が自分に向かう中、迅は三雲の肩に手を置いてそう告げた。
「……彼が関わっていると?」
「はい。おれのサイドエフェクトがそう言っています」
城戸に尋ねられた迅は不敵な笑みを浮かべて肯定する。
サイドエフェクトを語ったという事は真に何かが見えているのだろう。力の事を知らない三雲を除いた全員が迅の言いたい事を理解して息を飲んだ。
「……わかった。お前の好きにすると良い」
「城戸指令!? しかし!」
「イレギュラー門の解決が最優先事項だ。皆が言っていたようにこれ以上の犠牲を容認するわけにはいくまい」
さすがに三雲の処分を一任するのはどうなのかと反対意見が出る中、城戸は迅の要求を容認する。城戸にとっても今日の犠牲者の数は印象が悪すぎたのだろう。
さすがにトップである城戸が認めたとあっては強く否定は出来ない。
誰もがそれ以上は口をはさむ事はせず、この場は解散になると思われた。
「——待て、迅」
だが、一人。
ここまで城戸の後方で待機し、静観を決め込んでいた三輪が迅に食い下がる。
「おっ? どうした秀次?」
「お前は彼をどうするつもりだ?」
「別にどうもしないよ。ただ突破口を見つけるのに彼が必要みたいでね。ちょっと力を借りたいだけさ」
呼び止められた迅は変わらぬ口調で淡々と疑問に答えた。
特に何かをするつもりはない。事件解決の糸口を探るために三雲の存在が必要なのだと何気なく口にした。
「本当に彼の力が必要なのか? 彼の弱みに付け込んでお前の企みに利用するだけではないのか?」
「おいおい。そんな企んでなんかないって。なんだよ、俺が処分されそうな後輩を助けるのがそんなにおかしいか?」
「ああ、おかしいな」
飄々とした態度を崩さない迅に対し、三輪は敵意さえ露わにし己の意見をぶつける。
三雲の処分。それを防ぐような姿勢の迅に疑惑を抱いたのだろう。
「あの時、あいつが処分される事を容認したお前が、そのように誰かを庇うなど」
かつて三輪の親しい人物が処分を受ける未来を目にした上で、その道を選んだ迅が、今度は名も知らぬものを助けるのかと。三輪は冷静さを保ちつつも苛立ちを言葉に籠め、迅に真っ直ぐぶつけた。
(あいつ? 誰の事だ?)
二人の知人を指し示すような言葉だ。だが三雲にはそれが何を指し示しているかわからない。三輪の言い方では迅がまるで誰かが処分される事を知っていたような言い方だが、そもそも一隊員がそのような事を知る事ができるのか。
話についていけない三雲。そんな彼の様子など知る由もなく、迅達は話をさらに進めていく。
「……あの時とは事情が違う。これを見てみろよ、秀次」
携帯端末を操作し、迅は三輪をはじめ全員に見える様にあるニュースを画面に映し出した。
画面には今日のイルガ—によって被害を受けた市街地の住民たちへのインタビューが表示されている。人々が救助にあたったボーダーの眼鏡をかけた男性隊員——三雲を称賛し、感謝している姿が見られた。
「言うまでもなく三雲くんの事だ。この情報をもとに上手く話題を展開できれば、今回の被害で悪くなったボーダーの印象も好転するだろう。でもここで彼を処分するような事になればそうもいかない」
遅かれ早かれこれだけ話題にあがった隊員の事は後々メディアにも取り上げられるだろう。
その時に三雲を除籍処分などにしたと説明すればどのような事になるか。規律を守るためとはいえ人命救助に一躍した若者を追放したのかとメディア界隈からの批判は避けられないだろう。
「だからちょっと待っててくれよ。さらにイレギュラー門の問題解決にも貢献したとなれば、反対する気だってーー」
「ふざけるな」
罪を上回る貢献をしてみせる。そう得意げに語る迅だったが、三輪は彼の言葉を遮って反論した。
「『対外的な理由がある』。それだけなのか? その理由がないから、あいつは——!」
「そこまでにしておきたまえ、三輪隊長」
今にも感情を爆発させそうな三輪だったが、寸前で城戸が手で制する。
直属の上司の言葉とあって、三輪はすぐに冷静さを取り戻り姿勢を正した。
「……すみません。冷静ではありませんでした」
「構わん。——とにかく、イレギュラー門の調査は迅に一任する。今日は解散だ。次回の会議は明日の21時に行う。遅れないように」
一礼し、元の位置に下がった三輪。それを確認して城戸は解散を告げる。
それぞれ席を立ち、ようやく張り詰めた空気から解放されていった。
「さて、じゃあよろしく頼むぜメガネくん」
「ッ! ——はい!」
迅も去り際にそっと三雲の肩を叩き期待の言葉を添えた。
『メガネくん』とかつて助けてもらった時と同じ呼び名。自分の事を覚えていてくれたのかと、三雲は笑顔で頷く。
「……三雲くん。一つだけ質問してもいいか?」
「えっ? あっ、はい」
迅や上層部の人間が退出する中、三雲も部屋を後にしようと背を返した。
するとその三輪が三雲を呼びとめて質問を投げかける。
先ほどまで迅と厳しい口調で話していた三輪が相手とあって、三雲は内心冷や汗を浮かべながら振り返った。
「昨日、警戒区域でバラバラになった大型近界民が発見された。あれも君がやったものか?」
「えっ!?」
この説明だけで空閑と初めて会った日、空閑が撃破したものだろうとすぐに思い至る。
「現場付近にはきみの同級生がおり、我々が保護した。昨日、あの近くに正隊員はいなかった。君がやったというなら腑に落ちる」
「……はい。ぼくがやりました」
話の流れに矛盾が生じないならば、ここは自分がやった事にして捜査の手をここで止めるべきだろう。そう判断して三雲はゆっくり頷いた。
「そうか。ありがとう。ゆっくり休んでくれ」
質問は以上だと、三輪は手を振って三雲を送り出す。三雲も軽く一礼して会議室を後にするのだった。
「城戸司令、うちの隊で三雲を見張らせてください。三雲は近界民と接触している疑いがあります」
「どういう事かね?」
三雲が去った後、三輪は城戸に彼の監視を進言した。
三輪の話によると今日のモールモッドには三雲のトリガーによる反応が見られたが、昨日のバムスターからはボーダーに属さないトリガーの反応が残されていたという。
すなわち近界民のトリガーが使われていたにも関わらず三雲は自分がやったと証言した。彼が何らかの形で近界民と関係を持っているという疑いがあるという事である。
「証拠がある以上、疑って然るべきです。こちらの件もこれ以上野放しにするべきではありません」
「いいだろう。三輪隊に任せる」
「近界民の存在を確認できた場合はどうしますか?」
「そんなもの決まっているだろう」
三輪隊が動けば問題はないだろう。城戸は謎のトリガー使いの件を三輪隊に一任する事を決めた。
命令を受けた事で三輪も自由に動く事ができる。
念を込めて近界民と接触した際の対応を確認すると、城戸は厳しい表情で続けた。
「——始末しろ。近界民は我々の敵だ」
情け容赦は必要ない。
見つけ次第始末するようにと城戸は告げた。
「了解しました」
この言葉を聞いて三輪は安堵の息を溢す。三輪は近界民の存在を許さない城戸一派の人間だ。これで穏便に事を進めようと言われればどうなったか自分でも予想がつかなかった。
とにかく城戸から直接指示を受けた以上ためらう事はない。
必ずや近界民を見つけ出し、そして仕留めようと決意を新たにした。
「——失礼します」
「ん?」
「誰かね?」
すると、突如会議室の扉がノックされる。
特にこの後誰かが来る予定はなかったはずだ。一体何者か、三輪も城戸も予想がつかないまま、突然の来客へと問いを投げる。
「紅月隊隊長、紅月です。城戸司令および三輪隊長に報告したい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
帰って来た声は、まさに先ほどの会議の話題にも間接的に触れられていたライのものだった。
「紅月!」
「……入りたまえ」
「失礼します」
三輪は思いがけぬ友の出現に目を見開き、城戸は冷静に入室の許可を出す。
部屋の主の許可を得て、ライはゆっくりと部屋の中へと入っていった。
「お疲れのところ申し訳ありません」
「構わない。さて、報告があるという話だがどうしたのかね。紅月隊長」
「はい。昨日より発生しているイレギュラー門、および三輪隊長が調査に当たっている謎のトリガー使いについて気になる事がありましたので報告に上がりました」
要件を尋ねられたライは淡々とした口調で話し始める。いつもの柔らかい雰囲気は鳴りを潜めていた。その様子が、ライの報告が非常に難しい話題であるという事を示している。
「ほう。何かわかったことが?」
「直接的な原因はまだ何とも。ですが昨日より出現しているイレギュラー門の共通点について思い至った点と、新たな問題が浮上しました」
「——続けたまえ」
城戸は聞く価値があると判断し、余計な口は挟まずに話の続きを促した。
「一件目から六件目のイレギュラー門。これらの出現は全てトリオン量の高い正隊員の近くで発生していました」
「トリオン量?」
「はい。ボーダー隊員全員の記録を確認しましたが、現在遠征に出ている隊員を除いた中でトップクラスの隊員たちの周囲で発生を確認しています」
「……それで二宮さんや加古さん達か」
「おそらくは」
その説明を受け、三輪は納得したのだろう。良く知る知り合いの隊員の名前をあげると、ライは小さくうなずいた。
「ふむ。つまり敵の狙いはトリオン量が高い人間というわけか。敵は何らかの探知能力を持った何かでイレギュラー門の発生場所を選んでいると」
「はい。……ただ、本日起きた七件目でこの推測に疑念が湧きました」
城戸も相手の目的に理解を示す。
その一方でライはこれまでの対応者全ての共通点を抱きながら、今日の出来事によって自分の考えに懐疑的になったと語った。
どういうわけか、そう眉を顰める三輪だが、すぐに彼の意図を理解して答えに至る。
「三雲の事か」
「……僕も報告を聞いて驚きました。七件目の対応に当たったのは三雲隊員とのことですが、彼はトリオン量がかなり低い。とてもではないですが、先の前提で考えればあそこでイレギュラー門が出現する可能性は限りなく低い」
その通りだとライは説明を続けた。
やはり何度調べてみても三雲のトリオン量に関するデータに変わりはない。多少は入隊時よりはマシになったようだが、それでも訓練生の中でも見劣りするほどだった。
ゆえに今日の襲撃に関しては彼の一件のみ例外であるようにも考えられる。
「——ならば、発想を変えてみるとどうでしょう?」
「どういう事かね?」
「敵の狙いです。トリオン量が多いものを狙ったと仮定して、それは正隊員であるかどうかに関わらない、そもそもボーダー隊員以外でもあり得るのではないか。狙われたのは三雲隊員以外の人間であったとするならば?」
そこでライが考えたのは、七件目で敵が狙ったのが三雲以外の人物ではないのかという事だった。
今まではどれも近くにいた正隊員がトリオン量が多いものばかり。だからこそ先の結論に至っていた。しかしその前提が少し異なるものだとすれば話は変わってくる。
「他にもあの中学校にはトリオン量が豊富なものがいるという事か」
「それだけならば良いのですが。——実はそこでさらにもう一つ問題が」
「……何かね?」
まだ何かあったというのか。城戸が静かにライの説明を待った。
「三雲隊員はレイガストの扱いや基本的な戦い方を村上隊員より指導を受けています。僕は先ほど鈴鳴支部を訪問し、彼から話を聞いたのですが、とてもではないが正隊員に昇格するのはまだ無理だろうとのことでした」
「ッ!」
「ふむ。興味深い話だな。あの村上隊員の言葉であるならば真実だろう」
ライの口から告げられた村上の発言。
No.4攻撃手と名高い彼の名前は三輪と城戸もよく知っている。
だからこそ村上の見解は彼らに大きな影響を及ぼした。
「では、紅月。七件目のイレギュラー門で対応したのは——」
「おそらく三雲隊員とは別の何者かで間違いないかと。そしてその何者かあるいはまたさらに別の第三者が、トリオン兵に狙われるほどのトリオン量を持つ者である可能性が高いと僕は考えます。イレギュラー門の問題が解決しないならば注意を払い続ける必要があるでしょう」
三輪に促されるまま、ライが結論を述べる。三雲の陰に隠れてトリオン兵を撃退した者が、トリオン量に長けた何者かが三門市立第三中学校に存在すると。
「現時点ではトリオン量が多いのがその撃退した者なのかどうかは判断がつきませんが、三雲隊員ではない誰かがこのトリオン兵撃破に関与しているのは間違いないはず。昨日のバムスターを撃退したのも、近くにいた関係者の事から察するに同一人物とみて良いと考えます」
「……なるほど。それで君は三輪隊長も探していたわけか」
ようやく城戸はライが自分だけでなく三輪も同時に探していた理由に思い至った。
昨日に続いて同じ中学校に属する者の間で未知の事態が発生している。ならばどちらも同じ人物が関与していると考えるのは当然のことだった。
ライは三輪が昨日の一件を捜査していると知り、この二つの案件を同時に調べていくと判断してここまで来たという事である。
「よくわかった。紅月君。ここまで調査し、分析してくれた事に感謝する」
「いいえ。防衛隊員として当然の事をしたまでです」
「そうか。ならばついでと言っては悪いが、もう少し君に頼みたい事があるのだが、よいかね?」
「……一体何でしょうか?」
あくまでも平然と構えるライの姿は頼もしいものだった。
それを見て城戸は彼を信用できると考えたのか、ライに期待を寄せて提案する。
ボーダー本部司令からの頼みだ。そう簡単に頷く事も否定する事も難しい。
ライは慎重に言葉を選びつつ、城戸の次の言葉を待つのだった。