REGAIN COLORS   作:星月

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質疑応答

「いやー何事も無くて良かった。紅月君が突撃した時はビックリしたけども」

「迅さん!」

「やー、メガネくん」

 

 ライと空閑が軽い挨拶を済ませ、わずかに空気が緩んだ現場に迅が颯爽と姿を現した。

 待ちわびた人物の登場に三雲はようやく肩の荷を下ろす。

 見ると、迅の隣にはいつの間にか姿を消していたレプリカ、さらにその後ろには奈良坂と古寺の二人がバッグワームを着けたまま控えていた。

 

「……なんだ。ここで出てくるんですか、迅さん」

「その方が良いと思ったからね」

「しかも奈良坂達まで連れてくるとは。これではカウンターもままならない」

 

 一方でライは迅が二人を連れてきた光景を目にし嘆息する。

 三輪・米屋の両名が戦闘不能になった中、いざ約束を反故にされたという時の備えとして狙撃手が必要だったのだが、それも不可能となってしまった。

 やはりどこまでも先を見越されてしまうのかとため息を吐きたくなるのも仕方のない事だろう。

 

「……迅! 一体何をしに来た!? 俺達を嘲笑いにでも来たか!」

「そんなんじゃないって」

 

 対して三輪は毛嫌いしている迅の登場に怒りを露わにした。激情を向けられた迅はその声を受け流しつつ、空閑の下へと歩み寄りながら話を続ける。

 

「お前らがやられるのも無理はない。なにせ遊真のトリガーは、(ブラック)トリガーなんだから」

「ッ……!」

「黒トリガー!」

「……黒トリガー?」

 

 迅が空閑の頭に手を置いて説明すると、三輪は驚き、米屋は衝撃の表情を浮かべ、聞き覚えのない三雲は首を傾げた。

 

「……でしょうね」

 

 ただ一人、ライは納得の表情で迅の言葉を受け取る。

 

「おや。紅月君はもう予想していた感じ?」

「以前聞いた近界民撃破の情報から想像していました。確信に至ったのは先ほどの三輪達への攻撃ですね。これだけの威力・性能を量産型トリガーが出せるはずもない」

「その通り。話が早い。だから三輪隊は良くやった方だと思うよ。遊真に殺す気がなかったとしてもね」

 

 補足するようにそう付け加え、迅は三輪隊の戦いぶりを称賛した。

 本来ならば黒トリガーは一部隊で相手するような戦力ではない。それほどの強さを誇っているのだ。そんな相手に一時的とはいえ有利に戦いを進めていた三輪隊の戦いは、皮肉を抜きに称賛に値するものと言えた。

 

「……殺す気がなかった、か」

 

 空閑に敵対の意思はないと彼を庇うような台詞。

 確かに黒トリガーが最初から真価を発揮していたならばもっと早く決着がついていてもおかしくはない。近界民を一撃で粉砕したあの威力をお見舞いすればそれだけで三輪達が吹き飛んでいてもおかしくはなかった。

 そういう意味では迅の説明には特に違和感もないのだが。

 

「ふむ。空閑遊真君、と言ったね。いくつか質問をしたい。君の名前から判断するに日本人のようだが、それは偽名なのか? そのトリガーは一体どのようにして手に入れたんだ?」

 

 より正確に相手を知るべく、ライが空閑へと尋ねた。

 先ほどまで敵対していた相手に無防備で近づくことに危険を感じた三輪は声を荒げて注意する。

 

「紅月! そいつを信じるのか! そいつは近界民だぞ!」

「落ち着いてくれ、三輪」

 

 三輪の過去を知っているからこそ彼の気持ちは痛いほどわかった。だがここは事を荒立てる場面ではない。

 微塵も話し合う余裕を持っていない三輪の態度を諫める様に、ライはわざと大きくため息をつくと、

 

「少なくともこの場において彼を敵と見做すのは早計だと僕は考える。あまりにも情報が不足している。相手が話し合いに応じてくれるというんだ。話を聞くべきだろう」

 

 と、冷静な口調で言う。

 ライの言葉にそれでも嫌悪感を振り払えない三輪はまだ反論を続けようとするも、ライは突如内部通信をつなげて『それに』と一つ間をおいて説明を続けた。

 

『彼が『近界から来た』。その一点で近界民であるというのならば、僕はどうなる?』

『ッ!』

『僕も君にとっては近界民であると、そう判断するか?』

『……馬鹿げたことを言うな! お前は、違うだろう!』

 

 そんなわけないだろうと三輪が答えると分かったうえでの問いかけに、三輪は苛立ちをぶつける先もわからず、一方的に通信を切る。

 

「俺は、絶対に認めん! ——緊急脱出(ベイルアウト)!」

 

 やがて三輪はこれ以上空閑と同じ空間にいることを良しとせず、一人その場を後にした。

 

「うおっ。なんだこれ」

緊急脱出(ベイルアウト)だよ。正隊員のトリガーにはトリオン体の破壊と同時に自動的に基地へ送還されるシステムが組み込まれているんだ」 

「へー。便利だな」

 

 迅の説明を聞き、空閑は三輪がボーダー本部へと跳んでいった軌跡を見上げながら呑気につぶやく。

 

「——ま、それじゃあさっきの話の続きとしようか」

「ああ。よろしく頼む」

 

 そして今度こそ話し合いを進めようと、空閑はライと向き合うのだった。

 

「まず、名前に関していえば本名だよ。というか、何ならボーダーの人に聞いてみてくれない? 俺がこっちの世界に来たのは、親父に『オレが死んだら日本に行け』、『オレの知り合いがボーダーっていう組織にいるはずだ』って言われたからなんだ。このトリガーも、親父の形見だ」

「……なるほど。迅さん、心あたりは?」

「いや、俺にはないよ」

 

 古参の隊員であるというならば迅が該当するも、彼に話を振っても迅は手を横に振って否定する。

 

「ならばより上層部の古くからいる人たち、城戸司令や忍田さんに聞くべきですね。ちなみにそのお父さんの名前は? できれば、その知り合いの名前も覚えていれば教えて欲しい」

「空閑有吾だよ。あと、親父が言っていた知り合いの名前は——『モガミソウイチ』」

 

 空閑有吾。こちらは聞き覚えのない名前であり反応を示すものはいなかった。

 だが二人目、知り合いの人物の名前・モガミソウイチの名前に表情にこそ出さなかったが迅とライは心中でその名前を反芻した。

 

(モガミソウイチ、最上宗一か? 迅さんが手にした黒トリガー・風刃となった人(・・・・・・・)

 

 ライはその名前を一度資料で目にしている。

 ボーダーが管理する黒トリガー、そのうちの一つである風刃と化した隊員。かつてはその風刃の所有者をめぐって隊員同士での争奪戦が繰り広げられたともいわれている。

 もしもその通りだとすれば空閑の考えている目的は果たせなくなるという事になってしまう。

 

「わかった。ただ、そのモガミさんという人物は少なくとも僕の知る限りでは現在ボーダーに在籍している人物に心あたりがない。そちらも含め上層部の方々に聞いてみるとしよう」

「ほう。それはありがたい。よろしくお願いします」

 

 淡々とライは話を進めた。まだ確信がない上にここで話して勝手に事を進めることを嫌ったためにあくまでも穏便にこの場を収めることを優先した話しぶり。それを察したのか、迅も余計な口出しはしなかった。

 

「その上で君にもう一つだけ聞いておきたい」

 

 最後に上層部への報告で欠かせない情報を聞き出すべく、ライは問いを重ねる。

 

「空閑君は、そのモガミソウイチさんと会ってどうするつもりだったんだ? もし会えなかった場合はどうする?」

「ふむ。そうだなー」

 

 仮定の話とは言え、深くは考えていなかったのだろうか、空閑は顎に手を当てて考え込んだ。

 

「俺がもともと向こうにいた世界では戦争に参加していたんだけど、そっちの戦争は終結してやることがなくなったんだよね。だから親父の話に従ってこっちに来たんだ。俺の体が少し特殊でね、それを治すためにこっちの世界に来たんだ。後は……もう一つ理由があるけど。それは話すと長くなるし、こっちの事情をよく知らないから、話すならもう少し調べてからにさせてよ」

「……ああ、構わない。それで、最後の答えは?」

「それね。そっちがちょっとどうかな。どうも重しの人と言いこっちは近界民は肩身が狭いようだから、ちょっと悩みどころって感じかな」

 

 重しの人とは三輪の事だろう。彼ほど近界民を毛嫌いしている人物は早々いない。

 

「まあそう簡単に結論が出る事ではないし、そう出していいものでもないさ。——参考になったよ、ありがとう。君の話は間違いなく上層部に報告すると約束しよう」

「おっ。助かります。コウヅキ先輩が話ができる人で良かった」

「……こちらこそ。陽介、奈良坂、古寺」

 

 少し大きな声で静観を決め込んでいた三人を呼んだ。

 いつの間にか米屋もトリガーを解除しており、三人は足をそろえてライの下へと歩み寄る。

 

「僕は一足先に本部へ戻るよ。三輪だけが戻っている状況では情報が不足しているし、偏りそうだからね」

「良いのかよ? 迅さんとも話していたみたいだからお前に任せていたけどさ」

「……今日はここまでで問題ない。そう判断したんだな?」

「ああ」

「それじゃあ仕方ないですね。もう三輪先輩も戻っちゃいましたし」

 

 ライの方針に特に反対の意見はないのか、皆確認を済ませると異論を唱える者はでなかった。

 三人がそれぞれ納得したことを確認すると、ライは最後に迅を一瞥し、その場を去っていく。

 

「じゃあ、迅さん。また何かあなたに、あるいはあなたを通じて聞くこともあるかもしれないので空閑君、そして三雲の事をよく見ておいてくださいね」

「ああ。よく見ておくよ」

「——それでは」

 

 再び先ほどと同じようにエスクードカタパルトで宙を舞った。

 あっという間にライの姿は小さくなっていき、本部めがけて一直線に進んでいく。

 

「……迅さん。俺も確認しておきたいんですが、その黒トリガーが街を襲う近界民の仲間ではないんですよね?」

「ああ。それはおれが保証する」

「そうですか。ならば俺から言う事は何もありません。——俺達も引き上げるぞ」

「はっ、はい!」

 

 ライがいなくなったあと、奈良坂が迅へと単刀直入に問い、臨んだ答えを得るとそれ以上追及する事はなく彼もライの後を追った。古寺も先輩の後を追うように踵を返す。

 

「じゃあ俺もいくとするかな。——おっと、その前に」 

「ん?」

 

 米屋も二人に続こうとするが、ふと何かを思い出して再び空閑の近くへと歩み寄った。

 生身である上に特に戦意も感じられなかったために空閑もじっとその様子を眺めている。

 

「お前つえーな。今度は一対一でやろうぜ。そっちの方が面白そうだ」

「……ふーん。あんたは近界民嫌いじゃないの?」

 

 軽い調子の態度からは近界民を嫌っているようなそぶりは感じられなかった。

 共に戦っていた隊長である三輪とは正反対のようにとれる様子に空閑は首を傾げる。

 

「俺は近界民の被害を受けてねーからな。個人的な恨みとかはねーよ。ま、あっちの二人は近界民に家を壊されてるからそこそこ恨みがあるだろうし、さっき飛んだ秀次に至っては、目の前で姉さんを近界民に殺されてるから、さっきのような態度はまあ一生続くだろーな」

 

 当時の、大規模侵攻時の記憶を思い返しながら米屋は言った。

 あの時の惨劇は知っている者にしかわからない。現に空閑も身内がなくなったという点に思うところがあるように茫然とはしているが、それほど強い衝撃を受けているようには見えなかった。

 

「……なるほどね。じゃあコウヅキ先輩は?」

 

 ならばライはどうなのかと空閑は先ほど跳んでいったライを思い返して尋ねる。

 先ほどの会話からは三輪のような強い敵意や憎悪といった負の感情は感じられなかった。

 あるいは彼も米屋のように近界民から直接の被害は受けていないのだろうかと軽く考えて訊ねると。

 

「ライか? あいつも、いや、どうなんだろな。あんまり恨んでいるとか聞いたことがないような気がする。ただ——あいつも母親と妹を近界民に殺されて、あいつ自身もちょっと痛い目にあった(・・・・・・・)からな。少なくとも近界民そのものに対して良いイメージは湧いてないんじゃねえか」

 

 現実はそう単純な事ではない。むしろその内容は三輪よりも相当重いもの。

 痛い目にあった、とは言い得て妙だと米屋は語りつつ思った。

 本当はそんな簡単な話ではないが、勝手に話して良いような内容でもなく、米屋もそれ以上語ることはしない。

 

「……そっか」

「陽介! 行くぞ!」

「おーう。じゃあな。次は手加減なしでよろしく!」

 

 空閑がゆっくりと頷いた。

 すると奈良坂が早く撤収すべく米屋の名前を呼ぶ。

 彼も任務であることを思いだし、最後に空閑と約束を交わしてその場を後にした。

 ようやく戦った相手全員が退散したことを確認し、空閑は黒トリガーを解除する。

 

「さて。じゃあ俺も基地に戻るか。ちゃんと報告がなされているか心配だし」

 

 さらに迅も本部に戻ろうと背筋を伸ばした。三輪隊にライもいるとは言えど今後の動きを読むためにも今は本部に行っておく必要がある。どのように転ぶとしても、また盤面の外に出されかねない展開は避けたかった。

 

「メガネくんも一緒に来るか? どうせ後々遊真の事で呼ばれるだろうから今一緒に行った方が良いと思うよ」

「……はい。行きます。空閑、千佳。二人はどこかで待っていてくれ。また後でな」

 

 三雲もきちんと全てを報告すべく迅と同行する事にした。

 空閑と千佳に最後に一言告げて、三雲は迅の後を歩いていく。

 彼らの後ろ姿が見えなくなるまで見送って、空閑と千佳も動き出した。

 

「それじゃあわたしたちも行こうか。近くに神社があるから、そこで待とう」

「わかった。悪いがチカ、案内を頼む」

「うん。ついてきて」

 

 地形についてはずっと三門市に住んでいる千佳の方がよく知っている。空閑は先導する千佳に従い、道なりを歩きはじめた。

 

「……レプリカ。コウヅキ先輩の事、どう見た?」

 

 その道中、空閑は千佳に聞こえないくらいの声量でレプリカへと問いかける。宙に浮かぶレプリカもそれに応じ、最小限に抑えた声で空閑の応答に応じた。

 

『どう見た、というのは? ユーマは何か彼について引っかかる事があったのか?』

「いや。何もないよ。コウヅキ先輩の話の中に嘘は一個もなかったし」

『ならば、さほど気に留めるほどではないのではないか? 先に本部へ戻った隊員のように怒りを見せる事もなく、こちらとの交渉にも積極的に応じていた』

 

 決してライの態度に怪しむ点があったわけではない。

 むしろ迅が来る前から積極的に話に応じ、味方を制していた姿は空閑にとっては非常に助かるものだった。

 

「だからこそだよ」

 

 しかし、その姿こそが空閑にライを意識させる原因だったのだと空閑は言う。

 

「槍の人の話通りなら、コウヅキ先輩も家族を近界民に殺されているんだろ? それなのに、同じ境遇の味方があんな風に訴えていたのに、初対面の相手に全く感情の変化すら見せないなんて事があるのか?」

 

 家族を奪われたならばむしろ三輪のような態度こそが自然なのだ。

 肉親の仇。それを目の前にしたならば何かしらの感情を抱くはず。しかも少し前まで敵対していた相手だ。

 しかしライはそんな様子を微塵も感じさせず、淡々と事務的に空閑から情報を収集するに務めていた。

 

「——向こうの世界ならまだわかるんだけどな」

 

 まるでかつて空閑がいた国の人物のようだと、付け加える。

 かつて空閑がいた戦争真っ只中の国の中には彼のような人物もいた。

 戦時下でいつどのような時でも敵に弱さを見せないように、感情の機微を悟られないようにと立ち振る舞う。

 言葉や態度はもちろん、表情や声色。徹底して個を殺す、隙を見せない超人。

 それと同種のようだと。

 

『ふむ。ユーマがそう感じたならば注意すべきかもしれないな。私もいくつか気になる点はあったが』

「おっ。何々?」

 

 その考えに納得しつつ、レプリカもライを観察している中で気づいた情報を空閑と共有する。

 

『彼が武装を解除した時の事だ。無防備のように見えたが、私にはあれがユーマを誘っているようにも見えた』

「……攻撃の瞬間を狙撃手に狙わせるって事? でもそれあまりにも無謀すぎないか?」

『何らかの攻撃を避ける、あるいは防ぐ手段があったのかもしれない。いずれにせよ、ユーマの方から攻撃させる事で、『こちらは休戦の姿勢を示したが相手は応じなかった』という攻める口実を作るような誘いに見えた』

「怖。戦争を始めるための常套手段じゃん」

『もちろん私の考えすぎという見方もあるがな』

 

 そうだと嬉しいと思いつつ、空閑は警戒心を強めた。

 確かに話し合いを求めた相手を攻撃したとなれば敵は一気に攻勢に出るだろう。休戦を唱える味方を黙らせる理由にもなりうる。

 

『そしてもっと警戒しておくべきは、彼の話していた話は全て条件付きであったという事だ。今日一日は問題ないだろうが、ボーダー上層部との話次第では明日以降、彼が再び敵として現れる可能性もゼロではない』

「だろうね。それはおれも思った」

 

 レプリカの言葉に空閑は何度もうなずいた。

 『応じてもらえるならば今日はもう僕も三輪隊も君を攻撃する事はないと約束しよう』

『少なくともこの場において彼を敵と見做すのは早計だと僕は考える』

 などなど。

 空閑との話し合いの中では応じる姿勢を見せつつも、状況次第では態度が変わりかねない、変わっても支障が出ないような態度を終止貫いていた。

 

『ふむ。——こうなると、ユーマは嘘をついていないと語ったが、それも少し注視すべきかもしれないな』

「ん? どういう事?」

 

 相棒の言いたい事が読み切れず、空閑が疑問を呈する。

 彼も迅と同様に、優れたトリオン能力者に発現する副作用を持っていた。空閑の副作用は『相手の嘘を見抜く』というもの。相手が嘘をつけばそれが黒い煙となって視覚化され、どのような話であれそれが嘘であるかを見抜くという能力だ。

 例外はなく、どのような相手であろうと通じないという事はないはずなのに。

 

『全く感情の変化が見られないという点で少し思い至った点がある。ユーマ、一つ聞くが果たして嘘とはどういう意味だ?』

「なんだよその聞き方。どういう意味って、本当の事じゃないとかそういう事じゃないの?」

『その通りだ』

 

 ユーマの答えをレプリカは肯定する。

 当然だろう。今更自分の能力の根底にも関わる話であるのだから間違えようがない。

 だが、レプリカの話はここで終わらなかった。

 

『ならば、その人物にとって話す内容が正しく真実だと捉えている事(・・・・・・・・・・・・・)ならば、間違っている事だとしても嘘ではなくなる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)という事だ』

 

 わずかに空閑の目が見開かれる。

 ありえないと一蹴するのは簡単だ。今までもそのような人物と会った事はなく、副作用の正確性は非常に高いもの。

 ただ、無視するにはあまりにも大きすぎる情報でもあった。

 本当にあり得るのか。これまでの経験から仮定を想定しつつ、重々しく口を開く。

 

「……ありえなくない? そんなの、戦時下どころか周りが敵しかいないとか、いつ誰に殺されてもおかしくないような環境下で育ったとか特殊な状況で生まれなきゃなりえないでしょ」

『それでもなお稀だろうな。私の考えすぎであるならばそれに越したことはないのだが』

 

 可能性は限りなく低いと理解しつつ、レプリカは前提を加えた上で告げた。

 

『もしも本当にそれをできるとするならば彼は神か——悪魔だな』

 

 すでにライという男の精神は人の領域を超えているかもしれないと。

 

「——なるほどね。ああいう人は厄介だな。というかコウヅキ先輩ってB級じゃなかったのか? キトラの言うA級よりは下のはずなのに、なんでA級の隊員たちよりも積極的に動いてたんだろ? ミワ隊の人たちも素直に従ってたし」

『年功序列というものかもしれないな』

「そんなものか。——まあ、とにかく今はオサム達を待つしかないな」

 

 とはいえいつまでもここで話し合っていても結論は出ない。

 今は本部へ話し合いに行ってくれた人たちを待とうと、空閑は会話を打ち切り、千佳の後をゆっくりと追うのだった。

 

 

————

 

「……なるほど。報告、ご苦労」

 

 そのころ、ボーダー本部会議室では上層部の面々、そして三雲と迅、ライの三名が集まり、城戸をはじめとした幹部へと空閑に関する一連の事件とその流れについて説明を終えていた。

 空閑というイレギュラーな存在の今後に関わる大きな分岐点。

 城戸はゆっくりと三人の労を労う言葉をかける。

 そして、空閑に対するボーダーの姿勢を固める会議は始まったのだった。

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