REGAIN COLORS   作:星月

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名分

 話は4日前までさかのぼる。

 弓手町駅で三輪隊とライが空閑が初めて出会った日の夜の出来事。

 モール構内でライと出会った迅は、ライにある事を提案したのだった。

 

「おそらく数日後、太刀川さんたち遠征部隊がこちらの世界に帰還する。城戸さんは太刀川さんたちにそのままユーマの黒トリガーの奪取を命じるだろう。君はその戦いに参戦してほしい」

 

 迅の発言にライの目が鋭さを増す。

 正確に言えば迅と直接戦闘したわけではないが、先に敵対したばかりの相手からの提案。その内容は、これからも続くであろう黒トリガーの争奪戦に加わってほしいという信じがたいものだった。

 

「……本気で言っているんですか?」

「もちろん」

「お断りします」

 

 ライはすぐに迅の真意が読み取るまでには至らない。しかし念のため迅の発言が彼の本意である事を確認すると、即座に否定するのだった。

 

「ありゃ。なんか最近紅月君には断られてばかりだな」

「当たり前でしょう。そもそもあなたとて僕が簡単に引き受けるとは思っていなかったんじゃないですか? 僕は別に玉狛派というわけでもないし、空閑や三雲に特別な信頼を置いているというわけでもない。何より、僕には守らなければならないものがある」

 

 露骨に不満気な表情を浮かべる迅にライは正論をぶつける。

 ライはボーダー内の派閥においては城戸派よりの忍田派に位置する存在だ。町の防衛を第一に考える一方で遠征への希望を、侵略する敵への反攻を目指している。玉狛派とは正反対と言える立ち位置だ。

 加えて今回の黒トリガー争奪戦における重要人物である空閑や三雲と人一倍親しいというわけでもなく、むしろ彼は守りたいものの為にボーダーの中心である城戸との敵対は避けたいという思惑があった。

 だからそんな提案を受け入れられるわけがない。ライは明確な拒絶の意志を告げるのだが、すると迅はどういうわけか軽く笑みを浮かべた。

 

「あー。ちょっと違うな。別にこっちの味方になってほしいわけじゃないんだ」

「はっ?」

「言っただろ? この戦いに参戦して欲しいって。別に俺達の味方じゃなくても構わない。——いや、むしろ君には城戸司令側として、A級合同部隊側として戦ってほしい」

 

 ライの目が見開かれる。今度こそライは迅の正気を本気で疑った。

 彼は味方ではなく敵としてライの参戦を望んでいると言う。とてもではないが信じられなかった。

 迅の言葉通りならば、これから彼は太刀川をはじめとした遠征から帰還したA級合同部隊と戦闘になるはずだ。いくら迅と言えど余裕はないだろう。それにも関わらずさらに自分の負担を増す事になりかねない提案を自ら打ち明けるなんて、まともではなかった。

 

「……理解できませんね。一体それであなたに何のメリットがあると?」

「いやいや。俺じゃなくてボーダーの事を考えてだよ」

 

 素直にライが理由を問うと、迅は顔の前で手を横に振って疑問に答える。

 

「俺とて一人で遠征部隊を相手にして絶対に勝てるとは思ってもいない。だからできれば忍田さんと手を組めればと思っている。まだ忍田さんに軽く話を通しただけだけど、忍田さんは今回の黒トリガー奪取には反対しているから乗ってくれる可能性が高いだろう。——ただ、仮に忍田さんが認めて忍田派が玉狛派と手を組むと言っても問題がないわけではない」

 

 忍田派はボーダー本部の中にもそれなりに所属する隊員が多い有力派閥だ。彼らが味方となれば確かに戦局は大きく変わる事だろう。

 ただ、彼らが玉狛派に味方する事で発生する問題もある。

 その説明にライは忍田派の内情を考慮し、思考に耽った。

 

「……内部分裂、ですか」

「そういう事」

 

 そして答えに至る。「話が早くて助かる」迅は軽快に笑うのだった。

 

「忍田派の中でもスタンスは大きく違う。城戸派寄りの人もいれば玉狛派寄りの人もいたりと様々だ。だけど、生憎と城戸派よりの人が多いのが現状。柿崎のような性格でもそっちみたいだし」

「そうですね。あの東さんでさえ、どちらかと言えば城戸派よりと言えるでしょう」

 

 二人が語る様に同じ忍田派の中でも人により立場が異なる。その中で当然と言うべきか、城戸派よりの隊員が多いというのが実際であった。

 やはりこれはボーダーの成り立ちが要因と言えるだろう。

 そもそもボーダーは近界民の被害を受けた三門市を守る名分で創立され、反近界民を謳って活動をしてきた。入隊する者の多くは近界民の侵攻により何らかの被害を被っている者が多い。となれば近界民には悪いイメージを持っている者が多数を占めるのは当然であった。

 その中で『敵を許せない気持ちはあるが町の平和を最優先したい』と考える隊員が忍田派に属する。だからこそ忍田派が近界民を守るために玉狛派と手を組むとなれば、そんな彼らが反意を抱くかもしれない。

 

「東さんだけじゃない。君だってそうだろう? 自覚がないのかもしれないが、君とて人に与える影響は相当なものだ。カゲや鋼と言った同級生たちはもちろん、加古隊や那須隊、生駒隊とかいろんな人たちに影響を与えている」

「おだてても何も出ませんよ」

「本当のことだって。君が動こうとすればついていく人は多いだろうし、君が意見すれば納得する人もいると思う。羨ましいね、まるで王様みたいだ」

「…………」

 

 声には出さないものの、そのたとえにライの表情が歪んだ。彼の不満を感じ取った迅はすぐさま話題を広げようと話を続ける。

 

「だからこそ、君にはこの一戦で終わらせるためにもむしろ城戸派側に参戦して欲しい。たとえ忍田派で不満が生まれようとも、君が城戸派側で参戦していて、そして話が丸く収まったならば不満はそう出てこないだろう」

「代理戦争というわけですか」

「そんな感じかな」

「なるほど」

 

 仮に忍田派の中で手を組む事に異を唱える事になろうとも、影響力が大きいライが参戦し、そして無事に事が収まったならばその不満も膨らまなくて済むだろう。

 不満が爆発する前に小さな騒ぎで収めておく。その考えはわからないわけではなく、ライは小さく頷いた。

 

「迅さんには、話を丸く収める手段があると?」

「まあ、一応ね。どのような形であれ城戸さんがさらに仕掛けるような事はないと思うよ」

「……ふむ」

 

 つまり、この先空閑の方から何か問題を起こさない限り城戸が彼の存在を除こうとはしないように働きかけるという事か。

 ライは一つ息を吐き、迅の取りうる考えを幾重もの予測する。

 

「そしてもう一つは、まあ彼女だね」

「お嬢様?」

 

 悩むライへ向けて迅は沢村と共に買い物を楽しんでいる忍田王女へと視線を向けて語った。

 

「知っての通り、今彼女は忍田さんの管理下にある。事実上忍田派に属していると言って良い。だからこそ彼女がいる中で忍田派がうちと手を組んで、仮にもボーダーのトップである城戸派と本格的に事を構えるのは、まあ対外的に色々とまずい。例のトリガー(・・・・・・)の事を考えればなおさらね」

「……でしょうね」

 

 ライ自身、国同士の複雑な外交関係を熟知しているからだろう。複雑な表情を浮かべ迅の言葉に頷く。瑠花王女はボーダーと同盟国にあたる国家の今やトップと言える存在である。そんな彼女が所属する派閥が同盟国の最大勢力である城戸派と敵対するというのは彼女自身の事ではないとしてもイメージが悪い。

 加えて、ボーダーにとって生命線ともいえる母トリガーを動かしているのも瑠花王女だ。彼女の立ち位置が及ぼす影響はより大きなものとなるだろう。もしも本当に忍田を支持するような事になればそれこそ全面戦争に発展しかねない。

 勿論瑠花王女自身が前線に出る事は難しいため彼女の指針を示す事は難しいが、今は彼女の近くで備える彼がいた。だからこそこの手が使えるのだと迅は話を続ける。

 

「そんな中、今彼女の守りを担う役目にいる君が城戸派として参戦すれば、名目は保てるかなって。城戸司令としてもあくまでもボーダー内の内部抗争という戦いに専念できる。いざという時は『彼女もそれを望んだ』と言えば忍田さんも悪くは思わないだろう」

「逆にいざという時は、僕の独断行動だと切り捨てれば良いという訳ですね」

「いやいや。そんなトカゲのしっぽ切りみたいな事はしないって。なにせ、本部にとっては三輪隊を撃破した黒トリガーが、彼女の弟も暮らす場所に足を運んでいるんだからね。だから、君がそれを疑問視して彼女に話をかけたとしてもおかしくはない」

 

 最悪の提案に迅は首を横に振った。迅もここでライを見捨てるような意志はない。彼の戦う動機もきちんと用意してある。あくまでもボーダー内の争いが大きくなる前に発散させるために協力を仰いでいるのだから。

 

「まあ、そんなわけだ。それに——いや、これは良いか」

「一体何ですか?」

「何でもないよ。いずれにせよ君にとってそう悪くない話であるはずだ。城戸司令に大きな借りを作れるし。先に契約を交わした君ならば、隊務規定違反に関する罰則を生じさせないと約束させる事だってできるだろう。何よりも君の大切なものを守る戦いとなる」

 

 迅が飲み込んだ最後の理由は気になるが、確かに迅の提案はライにとっては不利なものではない。城戸司令に先と同様の条件を飲んでもらえれば罰を受けるリスクはなく、事前に争いごとを防ぐ事もできる。何より今もなお平和を楽しんでいる王女の立場を守る事につながるのだから。

 

「……一度、お嬢様にだけは話を通しておきます。彼女から許可をもらえればという前提でどうでしょうか?」

「ああ、もちろん」

「わかりました。ですがよろしいのですか?」

「何がだい?」

 

 いずれにせよ瑠花王女の立場に関わる話であるのならば彼女に打ち明けておくのが筋というものだろう。その前提の上でライは迅の提案に応じるのだった。

 快諾を受けると、さらにライはある事を気にかかり問いを投げる。

 

「僕があなたを倒してしまうかもしれませんよ?」

 

 やるからには手を抜いては合同部隊に疑われ、白い眼を向けられる事になることが予測された。

 ゆえに本当に参戦するならば全力で迅と相対する事になるだろう。ライは好戦的な笑みを浮かべ、そう言った。

 

「ああ、楽しみにしているよ。ま、そうはならないんじゃないかな? 俺の副作用がそう言っている」

「ふっ」

 

 彼の笑みにつられるように迅も笑い、ライを煽る。

 その言葉を最後に二人は別れ、ライは瑠花王女や沢村と合流し帰路につくのだった。

 こうして様々な思惑を含んだ戦いへの道が開かれた中、最後の一歩を踏み出すか決断を下す時が訪れる。

 

「……そうですか。林藤や迅だけでなく、忍田も城戸と対立するかもしれないと」

「ええ。同盟国でこのような内部での争いを繰り広げる事、非常に申し訳なく思います」

「構いません。どの世界でも、どの国でも必ず通る道ですから」

 

 ボーダー本部、瑠花王女に当てられた一室でライと瑠花の二人が真剣な声色で話し合っていた。

 内容は当然先ほどの迅から受けた提案の事である。ライから忍田が城戸と敵対する可能性があるという報告を受けても瑠花王女の声は落ち着きを払っていた。

 育ちの良さ、王女として国の情勢をよく知っているからだろう。荒れずに事を構えている彼女の気質は非常にありがたいものだった。

 

「そしてあなたは城戸の元で戦う、と?」

「はい。そうする事で、どちらに情勢が傾こうともお嬢様の立場は守られると考えました」

「確かにあなたの言いたい事はわかります。あくまでもボーダーの中枢を担う城戸と同盟国のトップである私が敵対するという形は出来るならば避けたい。たとえ直接矛を構えることがなかったとしても遺恨を残すのはこの先を考えるとよくないでしょう。ならば命令権がないとはいえ、あなたが私の意思を示すという名目で城戸に協力するという話は、確かに悪くはないですね」

 

 ライの意見に瑠花王女も理解を示す。できるならば他国の内部抗争に参加するという事態を避けたいが、忍田が玉狛に味方する時点で多少の影響は出るだろう。ならば彼女を守る立場のライが参戦する事で瑠花王女の立場を守る事につながる。

 

「ゆえによろしく許可をいただきたく存じます」

 

 そう言ってライは深々と頭を下げた。

 彼は守りたいものの為ならば戦う事を惜しまない。

 迷いのないライの姿勢に、瑠花王女はしばらく思案に暮れ、そして——

 

「なりません」

 

 その頼みを拒絶した。

 

「——そうですか」

「ボーダー隊員であるあなたからの提案に私が賛同を示すという行為自体が問題となりかねません。それこそ余計な誤解が生みかねない。そうは考えませんか?」

「否定は、しません」

 

 彼女の意思もわからないわけでもない。ライからの意見に同調を示したと明らかになれば勘違いの元となる可能性は捨てきれない。

 また、自分を守護する者が独断で派閥争いに加わろうとするとなれば止めようとする気持ちになるのも当然と言えた。

 たとえこの先自分に関わる事になるとしても、静観を決め込んで『何も知らなかった』、『忍田の独断であった』と貫く事も不可能ではないだろう。もちろんその時は忍田と瑠花王女の間に情報伝達、意志疎通の不備に関する指摘などが生まれるかもしれないが、次善の策を取れる。

 ただ、やはり彼女の立場を守りたかったライは寂し気に口を閉ざすのだった。

 

「ですから」

 

 すると瑠花王女はそこで一度言葉を区切り、大きく息を吐くと一段と大きな声でライに告げる。

 

「アリステラ王国王女として我が刃・ライに託します。城戸の一派に協力し、その力を示してください。この争いを一刻も早く収めてください」

 

 許可を出すのではなく、王女自ら依頼するのだと。

 思いがけない言葉にライは言葉を失った。

 

「勘違いしないように。私はあなたの言葉に乗せられたわけではありません。同盟国として、ここでトップである城戸に貸しを作っておくという事は悪い話ではない、そう判断しただけの事です。忍田は私に話を通さずに事を進めたのですから、問題があれば私の方から話をしましょう。陽太郎の事は心配ですが、林藤とて悪いようにはしないはず。加えて発案者の迅、さらにはクローニンも玉狛支部にいるのだから何も問題はありません」

 

 進言を受けたからではなく、あくまでも自分の意思によるものだと瑠花王女が語る。

 弟の事も含めて何も気にする事はない。

 

「理由ならば、『同盟国としてもトップである勢力を超える力を持つ派閥が存在するのは危険と判断した』などいくらでも作れますからね。後々調べた結果、問題はないだろうと判断したとなれば忍田たちとの和解もできるでしょう」

「……はい。忍田さんの性格を鑑みれば話をまとめる事は難しくないでしょう」

「ええ。介入に関する大義名分は問題ありません」

 

 彼女と忍田、さらには林藤などの関係性はいくらでも修復できるのだから。

 ならば今はここでアリステラ王国とボーダートップの関係をより強固なものにしておくべき。二人は同じ結論に至った。

 

「ゆえに何の憂いもありません。お願いしますね——お兄様」

Yes,Your Highness(かしこまりました、王女殿下)!」

 

 こうしてライは瑠花王女の願いの元、城戸派に協力者として参戦する事を決意する。

 後々のボーダー内での分裂を防ぎ、同盟国との関係を確かなものとする。彼にしか出来ない役目を果たすために。

 

 

「……なるほど。迅隊員が忍田君と手を組む可能性があると」

「はい。まだ話をしただけのようですが、少なくとも迅さんは間違いなく城戸司令達の攻撃を読み、備えている事でしょう」

「ふむ。迅隊員ならばそうだろうな。よくわかった」

 

 そして三日前。

 ライは城戸に迅から戦いに備え忍田派と協力して戦う予定であること、自分も迅からこの戦いに参戦するように誘われた事を報告した。

 ただ、話の内容すべてを報告したわけではない。迅からの誘いは保留したと答え、彼から城戸司令側として参戦するように話を受けた事は伏せ、その代わり——

 

「王女に確認した所、彼女は城戸司令達と争うつもりはなく、むしろこの問題の早期解決を望み、私に城戸司令に協力するように依頼されました」

 

 迅ではなく瑠花王女から城戸へ助力するよう求められたのだと説明した。城戸はその言葉に目を細め、じっとライを見据える。

 

「彼女にこの事を話したのかね?」

「はい。それが必要だと判断しましたので。すでに黒トリガーは王女の弟君が住む場所にいます。あるいは同盟国の危機にもなりかねない問題です。加えて考えにくい事ですが、もしも忍田さんが本格的にボーダー本部と争う事となった場合、彼女に協力を求めるという強硬策に出る可能性も捨てきれなかったので、一刻も早く彼女の意思を確認すべきだったと申し上げます」

「そこまで問題が大きくなると君は考えているというのか?」

「本来ならばまずないでしょうが、もしも次の戦いでも決着が収まらないような事になり、黒トリガー同士で争うような事になれば忍田本部長でもありうるかと」

「……そうか」

 

 黒トリガー同士、すなわち迅ともう一人の黒トリガー・天羽の事を指しているのだろう。確かにそうなれば忍田が最後の手段に出てもおかしくはない。城戸は大きく息を吐いた。

 事実、ライの語る通り城戸は遠征部隊の作戦が失敗した時の次の計画としてもう一人の黒トリガー・天羽の出撃を考慮している。ただ、彼は実力は確かであるものの問題が大きい。一度戦いに出れば町は跡形もなく消し去り、被害は甚大なものになるだろう。

そのため彼が出撃するとなれば忍田が対抗するために本来ならばとらない方策をとってもおかしくはなかった。そしてもしもその策がなされたならばボーダーは大混乱に陥るだろう。

 

(……そう考えれば、むしろこの時点で彼女の協力を得られたのは好都合と考えるべきか)

 

 ゆえにその可能性がなくなったという情報は非常に大きい。むしろ彼女もこの騒動の解消を望み、支援を約束するという情報で心配は完全に掻き消えた。

 

「君は今回、彼女の要望によって戦うと?」

「いけませんか? ボーダーに害が及ばない限り王女を護り、彼女に従う事を認めたのは他でもない城戸司令達のはずです。彼女としても城戸派を超える敵対勢力が誕生する状況は危険だと判断し、その状況を打破するために私に要請した、となれば問題はないでしょう。——もちろん、事情を知らないものには私はあくまでも忍田派が玉狛派に加勢する事を嫌ったという名目で参戦します」

「なるほど」

 

 あくまでもライはボーダー隊員であり、瑠花王女は彼の上司という訳ではない。しかし、ある程度の自由を保障するためとはいえ彼女に護衛役であるライへ多少の命令権を許したのは確かに上層部だ。そのため彼の意見を城戸も強く否定はできない。

 あまり隊員が入れ込みすぎるのは司令としては好ましくない様相だが、今回に限っては表向きの理由もあり、これにより同盟国側の明確な意思表示になるのだから好都合か。そう結論付けると、城戸はようやく結論を下した。

 

「よくわかった。ならばボーダーとして彼女の助力に感謝し、君にも戦いに参戦してもらう。以前と同じ条件で私の指揮下に入ってもらおう」

「はい」

 

 ライの立場を考慮し、城戸は前回と同様の条件を提示して彼を指揮下に入れる事を約束する。これで思う存分戦える。ライは笑みを浮かべて姿勢を正した。

 

「——ただし」

 

 しかし話はそこで終わらない。城戸も先の展開に備え、万全の態勢を整えるべく話を続けた。

 

「君を指揮下におく事は限界まで先とする。正確には遠征部隊が帰ってくる日からとしよう」

「……動きを読まれないように、ですか?」

「そうだ。そしてもう一つ。君が参戦する事は他の者達には話さず、出撃は遠征部隊のみでは勝利が難しいと判断してからだ。あくまでも君は、忍田派と玉狛派が合流する意見に同意できなかった善意の協力者として参戦するのだから。以上の二つを付け加えさせてもらう」

 

 相手に動きを悟られないために可能な限り先延ばしにし。

 さらにあくまでも忍田派が玉狛派と合流した動きに対抗するという形をとるために動きをずらす。

 これならば真の事情を知らないものも納得するだろう。ライも城戸の意見に深く頷いた。

 

「こちらとしても異存はありません」

「それは何よりだ。ついては君には後程作戦決行日などの概要を私から追って知らせる事としよう。それまでは待機しておいてくれ。遠征部隊だけで片付けば一番だが、ね。」

「了解です。では、私からも一つよろしいでしょうか?」

「ほう。何かね?」

 

 特にライにとって不満点はなく、これ以上意見する事はないはずだ。まだ何かあるのだろうか、城戸は先の言葉を促した。

 

「つきましてはこの度の戦いに当たり、我が隊の鳩原も参戦の許可をいただきたいと思います」

 

 挙げられたのは彼の部隊のもう一人の隊員・鳩原の名前だ。予想もしない人物の名前に城戸の目がわずかに見開く。

 

「鳩原隊員を?」

「はい。迅隊員、さらに他の精鋭もいるとなれば彼女の支援能力があれば心強い。当然、彼女には機密事項は伏せておきます。如何でしょうか?」

 

 確かに迅という黒トリガーを相手にするにあたって戦力は大いに越したことはない。城戸もライの言いたい事がわからないことはなかった。

 しかし城戸はあの事件以降、ライの評価は改めたものの鳩原に対する印象は改善されていない。訓練生からB級へと昇格し、今もランク戦で活躍しているという事実は評価しているもののそこまでだった。あくまでも一隊員にすぎず、特別評価しているわけではない。ゆえにこのような秘密裏に行う作戦に彼女を参加させる事に二の足を踏んだ。

 

「彼女にも名誉挽回のチャンスを与えたいのです」

 

 迷う城戸にライはそう言って頭を下げた。

 

「遠征部隊にも匹敵する彼女の力を、今一度評価していただきたい」

 

 かつて一度は遠征部隊にも選ばれた鳩原の力を城戸に見てほしいと告げる。

 元々の発端は鳩原の、彼女が所属する二宮隊の遠征部隊取り消しが呼び起こした事だ。

 だからこそ、その遠征部隊と共に強敵と戦う事で彼女の汚名をそそぎ、名誉を取り戻せれば。隊長としての気遣いが前面にあふれ出ていた。

 

「……わかった。特別に鳩原隊員の出撃を許可しよう。戦闘に出る事になったならば、共に励んでくれたまえ」

「ありがとうございます」

 

 その真っ直ぐな姿勢に当てられたのか、城戸は短く息を吐き、同行の許可を出す。

 意見を認められるとライは先ほどと同様に満面の笑みを浮かべるのだった。

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