REGAIN COLORS   作:星月

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迅悠一

 先の抗争の際にライは迅の事を『切り札(ジョーカー)』と例えた。

 この言葉に偽りはなく、事実彼はボーダー隊員の中でも迅という存在に一目置いている。その理由は彼が黒トリガーを持っているから、未来予知を持っているから、というだけではない。

 ライが彼の事を警戒しているのは、迅悠一という存在の有り様であった。

 飄々とした態度を崩さない彼の姿からは感じにくい事だが、人には見えないものが見えるという精神的負担は大きなものだ。本人が望もうとも望むまいとも目にしてしまうという人の理から外れていると言ってもおかしくはないような立場にあって、それでもなお平然としている彼の在り方が。

 しかも迅は古参の隊員。ライが知らない戦闘も数多く経験してきた事は想像に難くない。その死線を潜り抜けてきたというのだから彼の力は、精神力は桁外れだろう。太刀川や風間をはじめとしたボーダーの精鋭たちを蹴散らしたというのだから底が知れない。

 ——だからこそここで彼と戦う事に意味がある。

 戦況がここまで進んだ事によって、ライはようやく迅がかつての会話の際に告げなかった真意を読み解いていた。

 

 

 

————

 

 

 敵の襲撃を待ち構えていた迅の目に、突如異変が映し出された。

 

「おっ。さすがに前回と同じ手では来ないか」

 

 まだ状況に変化は生まれていない。狙撃手や射手の攻撃が打ち出された様子が見られない上に、攻撃手が接近してきた姿もなかった。

 しかし突如として迅は上体をわずかに倒すとその場でバックステップを踏み、後方へと下がる。

 彼が地面を蹴ったのと時を同じくして、先ほどまで彼がいた場所を取り囲むように4枚のエスクードがせり上がった。

 おそらくはエスクードで迅を包囲して身動きを封じ、視界を封鎖しようとしたのだろう。

 狙いは良いが相手が悪い。迅は展開途中のエスクードに足をかけるとさらに勢いを増して跳躍。そのまま空中で風刃を振り上げ、真上から切りかかってくるライの弧月を受け止めた。

 

「やあ。久しぶりだね紅月君。嵐山たちじゃ止められなかったか」

「それもあなたならば見えていたんじゃないんですか?」

「一応ね。でも、可能性はあまり高くないと思っていたんだけどな」

「ならば今のうちにあなたの計算を修正しておいた方が良いですよ」

 

 それ以上の言葉はいらないと、ライはさらに力を強めて弧月を振り切った。

 落下の勢いが加わっていた事もあって膂力が強く、迅が地面に叩きつけられる形となる。

 着地に成功した迅だが、休む間もなかった。

 空中にいたはずのライが突如として消え、迅のすぐ目の前まで迫る。

 冬島のスイッチボックスだ。攻撃や移動など様々な用途に用いられる専用のトリガー。今回は味方の位置をすかさず別の場所まで転送できるテレポートとして使用されていた。

 続けざまの連続攻撃に、迅は慌てる事無く風刃を背中を通して勢いよく切り下ろした。刃は背後から迫りくる一発の銃弾を弾き、ライの攻撃を迎撃する。

 

「——チッ」

「悪いね、視えてるよ」

 

 背後からの狙撃は古寺のものだった。

 先ほどライによって形成されていたはずのエスクードはすでに4枚とも消えている。背後にあるバリケードという存在を相手が誤認している間に死角から狙撃を決めようという意図の攻撃だったが、迅はそのコンビネーションも予知していた。

 鍔迫り合いが続くが、今度は迅が押し切った。

 ライが後方へと吹き飛ばされた中、彼を援護すべく二つの道路を挟んだ先の住宅街から突如無数の銃弾が上空へと打ち上げられる。

 

誘導弾(ハウンド)。——いや、変化弾(バイパー)か。なるほど。確かにこれならば射手の位置がわかりにくい)

 

 弾は上空で向きを変え、迅を追うような軌道を進む。迅が対処すべく移動しようとした中、一部の弾はその移動先を読んでいたのか先回りするように弧を描く光景を目にした。

 

「徹底して対策しているね。なら、こっちかな」

 

 それを見て迅は反転。ライに向かって直進するとすれ違いざまに風刃を横薙ぎに払った。ライは当然これを受けきるが、変化弾は先を読まれていた事もあって壁に激突して消失する。

 

《あー。変化弾(バイパー)じゃやっぱり読み切られますよ!》

《わかっている。それでも構わない。むしろ出水の居場所を悟られる方がこちらにとっては痛手だ。そのまま出水は継続して変化弾で支援を続けてくれ》

《出水、了解》

 

 予知する相手に変化弾を当てる事は至難の業だ。しかしこれで良いのだとライは出水の愚痴を切り捨てる。

 現在出水は確かにライ達が斬り結んでいる道路から二つ先の場所に立っているのだが、詳細の位置は変化弾を打ち上げた場所よりさらに2メートルほど南の場所だった。変化弾のルート設定によって地表すれすれを進んでから上空に進み、さらにハウンドと誤認するように滑らかな軌道を描く複雑な設定を施したのである。

 迅は未来予知で相手の居場所も容易に察知しかねない。そのため敵に居場所を悟られないようにというライの意図を反映した方針であった。

 

《しかしやはり未来予知は厄介だな。——国近!》

《はいはーい》

《国近を主体に月見さんと二人で迅さんの逃走経路を予測、分析して出水と狙撃手組に送ってくれ。少しでも情報を詰めたい》

《りょーかーい》

 

 とはいえさすがに出水の支援の効果の大小では展開が大きく変わるのは間違いない。

 ライは射撃の精度を上げるべく国近に新たな指示を飛ばし、自身は右腕にトリオンキューブを形成した。

 

「それまでは僕が凌ぐ」

「おっ。万能手の本領発揮かな?」

 

 距離が空くや、中距離戦へと移行する。ライの万能性を活かした動きだ。予想通りの動きに迅が笑みを深くする。

 

「だけど、一つ違うんじゃないか」

 

 そう言って迅は風刃を前に構え、さらに空いている左腕を後ろへと突き出した。

 

「僕がじゃなくて、僕たちがだろ?」

「ッ!」

「……迅!」

 

 前にテレポートしたライと、バッグワームを解除して背後にテレポートした三輪。二人の斬撃を同時に防ぐ。

 ライの弧月は風刃に受けきられ、三輪の弧月は持ち手の右手首を抑えられてしまい、奇襲は失敗に終わった。

トリオンキューブのフェイクもタイミングを合わせた挟撃も、全て予知通り。呆気なくこちらの攻撃を防ぎきる相手に、三輪は歯を食いしばった。

 

「よいしょっと」

「ぐっ!」

「三輪!」

 

 すると迅はその三輪をライに向けて叩きつける様に放った。すかさず彼を庇うべくライが後退しつつ受け止めるが、その彼らめがけて風刃の斬撃が解き放たれた。

 

(ここで来るか!)

 

 咄嗟の出来事でさすがのライも回避行動は間に合わない。

 必死に弧月を前に出し、シールドを展開して衝撃に備えるライ。

 斬撃が身を襲おうとしたその瞬間、再び彼らの姿が迅の目の前から消えたのだった。

 

「——さすが冬島さん」

《二人とも無事か?》

「……ああ」

「助かりました。今のは本当に危なかった」

 

 窮地の二人を救ったのは冬島だ。いざという時に備えてすでにワープを設置していたのだろう。

 すぐに追い打ちをかけようとした迅だが、そこに3方向からの狙撃が向けられ行動には移れなかった。

 

《やはり風刃を使用した直後でも隙はないか》

 

 標的が身をよじって回避すると、奈良坂は悪態を隠すことなく舌を打つ。

 

《そうですね。狙撃では紅月先輩の言う通り支援に徹するしかないかと》

《あたしも刀を狙ったけどあっさり躱されちゃってるし》

《……場所を変えよう。こちらも少し距離を詰めながら敵の動きを見定める。より狙撃の密度を増やし、援護するぞ》

《了解》

 

 奈良坂だけでなく古寺や鳩原も苦言を呈した。

 並み居る狙撃手の中でもトップクラスの実力者が募っているものの、彼らをもってしても迅に対して一発を当てる事すら難しい。むしろ相手の回避能力の高さに加え、今三輪達に放ったような反撃を彼らも想定しなければいけないのだから本当に厄介な話だ。

 風刃は射程が異常なほど長い。下手に一か所に留まっては返り討ちにされるリスクがあった。奈良坂の提案により狙撃手の三人はより近くの狙撃ポイントに場所を変えて味方のサポートに徹するのだった。

 

 

—————

 

 

 奈良坂や古寺、鳩原達狙撃手一同が狙撃場所を移動する中、もう一人の狙撃手・当真は一人ビルの屋上でじっと照準器を覗き込んでいた。

 

「おいおい。本当に面倒な展開になったな。まともな狙撃チャンスすらねえじゃねえか」

 

 常にレティクルの中心に迅の頭を捉えながら、当真はぼそりと口ずさむ。

 ライから『自由に動いてくれて構わない』と指示された当真はまだ戦闘が再開してから一度も狙撃を行っていなかった。

 ただひたすら傍観に徹し、必殺の機会を待っている。

 

『無駄口を叩くのは良いけど、やるなら必ず仕留めてね』

「おーう。聞いてたのか。わかってるって真木ちゃん。仕事はしっかり果たすって」

 

 独り言を拾った真木に弁明するようにそう返してため息を吐いた。

 誰かに言われるまでもない。

 奈良坂やライは援護や敵の行動阻害の為に狙撃を密に行う事によって戦況に絡んでいくが、当真は違う。

 彼の信条は一撃必殺。

 外れる弾は撃たない。

 隠密行動が必須とされる狙撃手だからこそ敵を一撃で仕留めなければいけない。その一撃は必ず決める。

 

(やるならやっぱり迅さんがこっちの誰かを落とす時だな。いくら達人と言えど均衡が崩れれば必ずどこかに隙が生まれるはずだ。——絶対に逃さねえ)

 

 最強の狙撃手は静かに、勝負の時を待った。

 

 

————

 

 

 迅は前から迫るライと真っ向から斬り結ぶ。

 互角の切り合いを演じながらポジションを変える事を忘れない。角度を積極的に変える事で三輪の援護射撃をためらわせ、鉛弾が飛んでくるようならば付近の電柱やコンクリートを切り上げて防御壁とする。

 

「チッ!」

 

 一発でも決まれば勝負が大きく変わるであろう鉛弾を容易に対応され、三輪の表情が歪む。それどころか迅は三輪が拳銃を手にするや否や、突如向きを変えて三輪に斬り込んできた。

 ブレードトリガー、それも風刃の出力となればシールドで防ぐことも容易ではない。

 脅威が目前に迫るとここで冬島がワープを起動。三輪を迅の攻撃から逃すことに成功する。

 

「頼むからそろそろ一発くらい当たってくれよ!」

 

 迅の近くに味方がいないとみるや、出水の変化弾が上空から降り注ぐ。

 さらにライも炸裂弾を起動し、二方向から射撃トリガーが迫った。

 すると迅は塀を飛び越えて扉を打ち破って住居の中に侵入。一時的に身を隠した。

 

「奈良坂、古寺。南側を狙ってくれ。迅さんを追い込むぞ」

 

 こちらも中へ追っても問題はないのだが、太刀川の時のような待ち伏せのリスクもある。

 ライは迅をあぶりだすべく変化弾を起動し、住居の中へと撃ち出した。

 するとその直後、1階のベランダの窓が音を立てて割れた。ガラスが散乱する中を突っ切って、一つの影が勢いよく飛び出していく。

 

「来た!」

「……いや、待て古寺!」

 

 この機を逃す手はないと、素早く反応した古寺が引き金を引いた。

 狙撃が放たれた中、古寺は師の制止の意味を、弾が目標と命中してからようやく気付く。

 

(えっ!? イス!?)

 

 暗闇、そして割れたガラスの散乱が古寺の反応を遅らせた。

 

「まず一人だ」

「古寺!」

 

 二階から屋上へと躍り出た迅が風刃を大ぶりに振るう。

 奈良坂が叫ぶが、わずかに遅かった。

 即座に離脱しようとした古寺の体に光の刃が伝心する。

 トリオン体は風刃の一振りによって呆気なく両断され、崩壊した。

 

《狙いは狙撃手の方だったか。——三輪、出水! 同時に仕掛けてくれ! わずかで良いから迅さんの足を止めるんだ!》

《わかっている》

《了解!》

 

 罠を意識し過ぎた己の失態を悔やむもライは即座に切り替え、新たに指示を飛ばす。

 反対側の道路に悠々と降り立った迅を追って三輪も駆け出し、弧月を手にして迅に切りかかった。

 奈良坂・鳩原の援護狙撃、出水の援護射撃を避けた迅はこの斬り込みを真正面から受け止める。

 

「エスクード」

 

 同時に、ライはエスクードを起動。後方から前方へ急な角度をつけて展開し、一気に急加速した。

 先ほど迅が打ち破った窓から飛び出し、さらに柵も弧月で斬り崩すと、迅の姿を視界にとらえる。

 

「仕留める」

 

 敵を捉えるや否やライは居合の構えを取った。

 迅の意識が自分から逸れ、三輪が一時でも敵を抑えている今が好機。

 

「旋空弧月!」

 

 今度こそ一撃を決めようとライの旋空が解き放たれた。

 

「悪いね、紅月君」

 

 その瞬間、迅の口から謝罪の言葉が発せられる。

 

「それも視えてるし。——俺は君よりも、君の師匠たちの事を見てきたんだ」

 

 迅悠一。ボーダー本部ができる前から戦い続けてきた古参。

 人一倍戦闘経験が豊富な彼はありとあらゆる戦いを目にしてきた。

 敵味方問わず様々な人物との戦いや模擬戦を経験した中には、当然ながらライの旋空の師匠にあたる忍田や生駒も当てはまる。ライ以上に迅は彼らの戦いを知っていた。彼よりも旋空の強みも、タイミングも、仕組みも理解している。

 

「それは失策だったよ」

 

 そう言うと、鍔迫り合いを行っていた三輪を押し切りライの方角へと振り返る。

 横向きに倒れ込むような形で上体を倒して、風刃を振るった。

 横一文字に切り裂く刃をギリギリで躱すと、その刃の下を光の筋が突き進む。

 

「なっ!?」

『ハッ!?』

 

 ライはもちろん、その場で戦う、見守っている全員が驚愕に目を見開いた。

 ありえない。

 旋空と風刃の大きな違いは、その射程距離も勿論だが、さらに加えてその攻撃が刃そのものなのか斬撃によるものなのかにある。

 風刃は遠隔斬撃であるのに対し、旋空の特性はあくまでも刃の拡張。弧月の伸縮であり、間合いの確保である。

 だからこそ、旋空の発動で迅に向けられた刃は弧月そのものであり、その弧月を風刃の伝導路として迅に利用された。

 

(旋空に合わせて、風刃を放っただと……!?)

 

 しかし理屈はわかっていても実行に移せるような話ではない。

 旋空の起動時間は人によるが、ライや生駒、忍田のような達人レベルの者達は0.2秒から0.3秒前後と言ったところだろう。

 そんな避ける事さえ難しい攻撃を完全に見切って反撃に転じるなど人間業ではない。

 あらゆる強敵たちを撃破してきた必殺の一撃を辿って、ライに死が迫る。

 

「迅、悠一!」

 

 この時、ライは真に理解した。

 風刃という黒トリガーを持っているから、迅が厄介なのではない。

 未来予知という副作用を持っているから、迅が手ごわいのではない。

 迅悠一という男がその両方を完璧に使いこなしているからこそ、彼はジョーカーなのだと。

 

「紅月!」

 

 三輪の叫びが戦場に木霊する。

 一筋の光が、ボーダー本部へと向かって飛びたっていった。

 

 

————

 

 

「……マジかよ。そんなのありなのか」

 

 恐る恐る呟いたのは、ビルの屋上で待機していた当真だった。

 彼にとっても迅のカウンターは非常に恐ろしいものに映った。

 今となっては師匠に倣って『紅月旋空』という呼び名さえついた達人技をカウンターとして使おうなどまず常人では考えようもないだろうし、実行に移そうとすら思えないだろう。

 それを難なく実行する事を可能とした未来予知、そして経験則。すべてが恐ろしい。

 

「しかも——俺の狙撃まで視ていたとか、本当にふざけてんだろ」

 

 加えてその先の未来までも見通していたという、彼の完璧ぶりが。

 当真の体には頭から股下にかけて大きな切傷が走っていた。

 これは古寺の時と同じ、風刃によるものだ。

 あの時、迅がライに向かって風刃を放った際に、当真は誰よりも冷静さを保ち、逆カウンターとして迅の狙撃を敢行しようとしていた。

 だがその時に迅が風刃を撃ったのは一発ではなかった。

 一発はライの弧月を辿ってライにめがけて。

 そしてもう一発を続けざまに地面を辿って当真にめがけて。

 地中を辿った瞬時の光。カウンターを狙っていた当真は気づくことができなかった。

 旋空も、そのあとの狙撃の未来も視えていたのだろう。それらすべてを回避し、さらに両取りを狙って風刃を使った。

 規格外れも良い所だ。人間業ではない。もはや苦笑いするしかなかった。

 

「悪いな。一足先に抜けるぜ」

 

 最強の狙撃手、当真。迅を前にして一発も放つ事無く戦線離脱を余儀なくされる。

 

 

———— 

 

 

「惜しいな。今ので当真と紅月君、二人とも落とすつもりだったんだけど」

 

 当真の緊急脱出の跡を見上げながら迅がそうつぶやいた。

 彼の言う通り迅は本気で同時撃破を目論んでいた。

 不意を突いた黒トリガーの攻撃。射程はもちろん速度も尋常ではない風刃は普通ならば呆気なく撃破されていたことだろう。

 

「被弾の直前、弧月を手放す事で回避したのか。あれに反応するなんてさすがの副作用だ」

「……嫌味にしか聞こえないんですけど」

 

 だが、ライはまだ生きていた。

 迅の言葉通りライは咄嗟の判断で握っていた弧月を放し、ギリギリのところで直撃を回避したのである。ライの反応速度が活きたものだった。

 

(しかし当真が落ちたのか。これで決定打を決めることが余計に難しくなった)

 

 とはいえ状況は悪い。

 当真が先ほどの攻撃で落とされ、古寺に続いて戦線を離脱した。

 風刃の残弾は8発。

 対して残るこちらの戦力はライ、鳩原、三輪、奈良坂、出水、冬島の6名。相手の弾数も減っているが、迅はまだ攻撃を一撃も受けていない。劣勢と言える状態だろう。

 

《理佐。僕の右腕の傷は?》

《まだトリオンの余裕はある。とはいえバッグワームや射撃トリガーも使っていたから長期戦は避けた方が良さそうだよ》

《そうか》

 

 しかも直撃を避けただけで、ライに被弾がないわけではなかった。

 真木の報告にライの表情が歪む。

 彼の右腕は肘から先がなくなっていた。弧月から伝播した斬撃は刀身から広がって近くの右腕を襲ったのである。

 

(これで接近戦に制限がかかった。三輪もいるとはいえ左腕一本で迅さんに挑むのは難しい。本来ならここで撤退すべきだろう)

 

 この時点で二人が落とされ、自身も負傷。

 対して敵にはまだ余裕が残されている。

 必殺の一撃も攻略され、有効的な攻略法は見いだせていない。

 太刀川達さえも撃退した相手に、ここから逆転するのは至難の業だ。

 援軍も期待できない為に普段のライならばここで撤退策を選んでいたかもしれない。

 しかし。

 

『アリステラ王国王女として我が刃・ライに託します。城戸の一派に協力し、その力を示してください。この争いを一刻も早く収めてください』

『お願いしますね。——お兄様』

「……今は違う。まだここで引き下がるわけにはいかない」

 

 脳裏に王女との約束が蘇り、決意を確固たるものとした。

 ライの瞳に覚悟の炎が宿る。

 彼にしか出来ない役目を託してくれた彼女の希望に応えるために、まだ終われない。

 そのために、ライは勝負に出る事を決めた。

 

《鳩原。ここからは例のトリガーで行こう》

《えっ? このタイミングで? でも、普通の狙撃でも当たらないんだよ?》

《ああ。その通りだ。だからこそだ》

 

 隊長からの指示に、鳩原が疑義を唱える。

 まともに当てる事さえ難しいならば一発勝負に出るべきではないだろうと訴えるが、ライは引き下がらなかった。

 

(勝ってみせる。この絶望的な状況からでも……!)

 

 諦めたわけでも自棄になったわけでもない。この戦況をひっくり返すのだと、ライはただひたすらに勝利を見据えていた。




迅「その通りだ。副作用の能力など。俺にとっては強さの次の備品に過ぎない」
ライ「でも瑠花たちへのセクハラに悪用しただろうがあ!」
迅「ぐはーっ!」
出「もっともだーっ!」
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