IS 〈インフィニット・ストラトス〉 誰でもない、少女 作:油谷
「終わったよ、ネモ」
少女は覚醒した。
目の前にはメガネをかけた中年男性が一人。
少女はまるで棺おけ、と言うような装置の中にいた。周りが特殊ガラス造られていて透明であっても、誰でもその装置を始めてみたときには、棺おけだと思うに違いなかった。
今はそのガラスは取り払われ、男性が少女の顔を覗き込んでいる。
「……博士、今日の実験の時間、いつもより長かったですか?」
「いや、通常と変わらないが……またあの夢か?」
はい、と頷きつつ少女は装置から起き上がる。
「脳波を見る限りでは、異常は見られないな。……すまないが、その夢がどんなものかは、私には分からんな。」
「いえ、私がただ気になっているだけですから……」
「まぁ、明日からしばらくはその夢は見ないようになるだろうな。学園のベットの寝心地がよければ、いい夢を見られるだろう。」
「だといいんですけどね。」
会話をしつつ、博士とよばれた男性は少女に上着を渡す。
「ありがと博士。おやすみ。」
「おやすみ、ネモ。」
最後に挨拶を交わし、少女は部屋から出て行った。
部屋に残された博士に、数人が近寄る。全員がまたいかにも理系の研究員、といった風貌をしている。
「いよいよ明日ですねぇ博士。さみしくなりますな。」
「まぁな。ネモがここを去れば、もう20歳より若い女性はおらんぞ。」
「…20は超えてますが、若い女性はいますよ!」
「そうだな、そういえばいたな。」
「いましたね、あまり目立ちませんが。」
「博士!みんなも何よ!」
「冗談だ冗談。さて、冗談はさておき……データは集まったな?」
その言葉を聞いた研究員たちの顔が引き締まった。
「はい。今回の実験によって、ネモさんの身体データをベースにしたコフィン・コネクト・デバイスのデータを収集し終わりました。」
「これで、コフィンシステムそのものはほぼ完成します。」
「あとは実機に積み込んでのデータだけだな。」
「はい、それについてはSARFから2名、IS操縦者を呼び寄せてデータ収集を行う用意が出来ています。」
「上出来だ。これで、あの機体の開発のメドもついた……ネモにふさわしい機体が出来る。」
博士は壁に向かうと、そこのスイッチを軽く押す。
部屋の照明が落ち、壁一面がモニターへと移り変わり、一機のマシンを映し出した。
それは戦闘機とも、人型ともいえないような形をしていた。純白のマシンには二対の手足が付き、操縦席となるようなものは見当たらない。変わりに、機体のあちこちがオレンジ色に発光している。
まるでロボットの出来損ないのような、そのマシンの腹部がぽっかりと開いている。
「もう無人戦闘機としての運用は可能です。戦闘用装備はすべて装備してあります。」
「戦闘力は、現用戦闘機の3倍、第1世代ISに相当します。」
「現用のISにも数機でかかれば……互角の戦いが出来るでしょう。」
「コスト、整備性も従来の戦闘機の2.5倍ほどに収まりました。ハイ・ローミックスで配備すれば、UPEO全部隊への配備も可能な範囲です。」
博士は黙ってモニターを見続けながら、報告を聞き続ける。
「そうか、これで下準備は終わったな。あとはこちらは機会を待てばいい……今のところはすべて計画どうりだ。」
「ええ、これで我々の……」
博士に続いて何かを話そうとした女性研究員の口を、
別の研究員がふさいだ。
「ここでそれを話すな。相手が誰か、分かってるよな?」
「……ごめんなさい。ついうっかり……」
「…酒は慎めよ。まだ計画は始まったばかりだ。ここからが、肝心だ。」
博士はモニターを消すと、研究員たちへ向かい直る。
その表情は窺い知れない。ただ、口元は歪んで、笑っていた。彼の心の底を写し出すように。
「…ここからがな。」
モニターが消えて薄暗い研究室の中で、復讐劇の準備が着々と進められていた。
砂浜を歩く少女が1人。
それは先ほど実験を受けていた少女であった。
寝る前にこの砂浜を散歩することが、彼女の日課の1つである。
彼女は波打ち際を歩きながら、海を見続けている。
暖かいこの海だが、春先は少し冷たい。
少し振り向けば、そこには先ほど少女がいた研究所……
いや、軍事基地がある。正確に言えば、これは空軍基地と、ある研究施設が合体したものである。
彼女がこの基地で暮らしてすでに10年が経つ。親族を失って、あの博士に拾われ、ここに来た。
そして明日からはまた別の場所で3年間暮らすことになる。
まだ少女は知らない。これから自分が何をするのか。
それがどんな意味を持つか。
自分に、どれほどの歪んだ愛が注がれているのか。
海風に吹かれて、少女の髪が揺れる。肩までかかった
くせっ毛のブロントが波打つ。
少女の顔には、希望が満ちている。そしてその影は月に照らされて長く伸びていた。
完全に焼き増しの本作ですが、どうかよろしくお願いします。
感想、誤字脱字の指摘などお待ちしています。