IS 〈インフィニット・ストラトス〉 誰でもない、少女   作:油谷

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第二話  出発

新第2話「出発」

 

翌日、少女は基地から輸送機で日本へと向かうことになっていた。

 

が、その少女と輸送機は足止めを食らっていた。

天気が悪いかというとそうではなく、また輸送機にトラブルが発生したわけでもなく、

少女の都合が悪くなったわけでもなく。

 

原因は、少女と輸送機が群集に取り囲まれていることであった。

基地の非番の警備兵、ヘリや戦闘機、爆撃機のパイロット、整備兵、管制官、食堂の炊事係、近くの海軍基地の兵士数十名、基地に出入りする業者、研究所の研究員数名、挙句の果てに基地指令までいた。

 

「……皆さん、そんな今生の別れじゃないんですし、こんなに集まっていただくなくても……」

「なに言ってるのよネモちゃん!」

「3年間もこの基地を離れるんだろ?」

「長期休みに帰ってきたとしても、ネモが半年もこの基地にはいないなんて……」

「そんなの初めてだからねー。ネモが1週間以上ここを離れるなんてさ。」

 

少女はこの基地兼研究所で大変人気がある。

初めてこの基地に来たとき、彼女は5歳になって間もないころであった。

軍事基地ほど子供に無縁なところもない。展示飛行でもなければ、入ることすら出来ない。

また、軍人という職業も子供と触れ合うことが少ない職業だ。

パレードや基地の祭り、あとは占領地で出会うことがある程度であろう。

 

そんな軍事基地には居るべきではない存在は、ある意味貴重である。

今大勢の大人に囲まれて揉まれている彼女は、半ばペット……もといマスコットのような

扱いをされてきた。

 

本国から大海を隔てたこの基地では、直接家族と会うことがなかなか出来ない。

特に育ち盛りの子供を持った者は、画面越しでしか子供と会話できないことになんともいえないもどかしさを感じていた。

そんな感情が溜まってくると、彼ら、彼女らはこの少女を自分の子供の変わりに可愛がり、共に遊ぶのである。

 

ある意味感情の捌け口となっているのだが、いじめているわけでもなく、むしろ研究所か基地でしか遊べない少女にとっては嬉しい限りであった。

やがて少女が小学生になって基地の外に出るようになると、基地の外でも彼女の人気が高まった。

ここではあまり珍しくない容姿ではあるが、いつの間にやら有名になり、海軍基地にも出入りするうちにそこでも有名になってしまった。

家となっていた研究所でも同様で、彼女は被検体となる傍ら、ここの研究員たちの癒しとなっていた。

 

そんなこともあって、彼女はなかなか目的地へ出発出来ずに居た。

幸いといっていいのか、彼女の友達たちはこの場に居ない。すでに数日前に別れの挨拶をし、互いに再会を誓っていたからだ。といっても、彼女は夏休みになれば戻ってくるのだが。

もし彼女らが居れば、彼女はさらにもみくちゃにされていたに違いない。

 

輸送機のパイロット達まで引きずり出され、ついでにと手荒い見送りをされようとしたときに、鶴の一声が来た。

 

「……失礼、サイモンだ。ネモに挨拶があるんだがね。」

「ああ!サイモン博士。」

「遅かったじゃないですか、何かあったんですか?」

「見送りの言葉を考えるのに、少し時間が掛かったのさ。…さ、ネモに会わせてください。」

 

人ごみが割れ、白衣の男性を少女の元へ通す。

一方の少女は、あまりに頭を撫でられ、握手され、大量の選別を渡された為にへなへなになっていた。

この日始めて着たばかりの学園の制服が、シワシワになって乱れている。

 

「……随分ひどい格好だな。」

「洗濯機に入れられた気分です……」

「ごめんネモちゃん。少しやり過ぎちゃった。」

「これが少しだったら……普通の見送りってどんなのですか?」

「そりゃあな。許可さえあれば、お前のために曲芸飛行でもやってやりたいところさ。」

「しかし、基地指令がダメだといってしかないですからねぇ。」

 

そんなことを言われた基地指令は、少しむっとして軽口を言ったパイロットに向き直る。

 

「あのなお前ら。戦闘機の燃料代は安くなってるが、タダじゃないんだぞ。」

「そんなに長く飛びませんって!」

「それに。訓練でも任務でもないのに勝手に機体を飛ばせばな……」

「基地指令。そんなに規則どおりの対応でなくてもいいんじゃないですか?」

「基地指令。我々からもお願いします。」

「基地指令。ネモが居なくなれば、アンタも寂しいだろう。見送りくらい、派手にやらせてくれよ。」

 

基地指令に迫るパイロット、海軍兵士、整備兵、管制官、その他皆さん……

 

「……ああ、もう!分った!領空まで見送ることを許可する。ただし、燃料代は給料から引いとくぞ!」

「さっすがぁ~!基地指令は話が分かる!」

「よしみんな、許可が出たぞ!エンジンを掛けてくれ!」

「了解です中尉!」

「俺たちも基地に戻って哨戒機を飛ばしてやるぞ!」

 

群集の一部がハンガーに向かって駆けていく。

こんなやりとりの中、博士は少女の格好を整えていた。

 

「よし、シワはなくなったな。」

「うん、博士。ありがと。」

 

くしゃくしゃになった髪を梳かして、少女は身なりを整えた。

 

「ネモちゃん、さっきの選別は座席の脇に固定しておいたから!」

「分かりました。ありがとうございます!」

 

輸送機のパイロットがひょっこり輸送機のドアから顔を出す。

彼らもやっと仕事が出来るようになった。

 

「さて、私からはまだだったな……。これを、ネモ。」

「…?博士、これは?」

 

博士は少女にあるものを手渡す。それは一見普通の首飾りのようだ。

6つの紐がなにかを縛り付けているようなデザインをしている。

 

「”沼”だ。昨日の最後の実験を持って、まずXF/A/IS-1として完成したものだ。」

「……これが、ですか。」

「初期設定は完了してある。……すまないが、お使いを頼むぞネモ。」

「…はい。博士。」

 

少女からは、先ほどまで見せていた笑顔が消えていた。

今の少女は、どこか表情に乏しかった。

 

「ま、簡単なものだからな。そう気負うな。……今から、お前はここから離れる。学園で3年間暮らし、学ぶことになる。」

「博士。」

「お前は、ここに来てからこの島から出たことの無いからな。いろいろなことが新鮮に写るだろうな……まぁ、楽しんで来い。」

「楽しむ、ですか?」

「そうだ。この基地で過ごすようにな。」

「……はい。博士。」

 

「最後に何かあるか?ネモ。」

 

その質問に、ネモは少し考えてから答えた。

 

「頭を……撫でて欲しいです。」

「ああ……いいぞ、ネモ。」

 

博士はネモの頭に手を置くと、ゆっくりと撫で始めた。

なでり、なでり。整えた髪の毛を崩さないように、やさしく撫で続ける。

 

「ん……博士……」

「いい子だ、ネモ……さぁ、もう輸送機が離陸する。……行ってらっしゃい。」

 

しばらくして博士は少女を撫でるのをやめた。

彼女は名残惜しそうに頭を撫で付けていたが、

 

「……はい、行って来ます!」

 

最後に笑顔で一礼し、輸送機へ駆けていった。

 

 

ネモが輸送機に乗り込むと、輸送機、そして見送りの航空機が滑走路へと向かう。

 

 

「こちら管制室、輸送機が始めに離陸する。見送りの機は離陸の早いヤツからだ。」

「了解管制塔。…聞いたなお前ら!まずは輸送機、次が戦闘機だ。」

「こちらビックベア1、了解。戦闘機の次に離陸する。」

「コントロール、こちらセイカー1。シーサーペントに続いて離陸する………」

 

 

輸送機、正確には空中給油機であるEK-17Uは少女を乗せて、滑走路に進入する。

 

「グローブマスターⅣ、離陸を許可する。」

「了解コントロール。離陸開始する。」

 

EK-17Uは速度を上げてゆく。

 

「……V1!」

 

少女は輸送機の座席に座り、窓から外を見ている。

 

「……VR!機首上げ!」

 

機体が滑走路から離れる。

 

「…V2。フラップ上げ。」

 

機体がグングン上昇していく。基地と研究所が小さくなっていく。

EK-17Uが離陸したのを確認して、戦闘機が離陸していく。

 

「よし行くぞ!ネモに良いと、見せてやれよ!」

「もちろんですよ!」

「中尉こそヘマしないようにしてください。」

「俺に心配などいらん。オラオラ、いくぞぉ!」

「コントロールよりセイカー隊、離陸準備………」

 

次々と戦闘機が飛び立ち、給油機を追っていく。

 

地上の博士は、その様子をカメラに収めていた。いつのまにやら三脚まで持ち出している。

 

 

「さて……あいつは、どんなことを見つけてくるかな?今から楽しみだよ、ネモ…」

 




焼き増しにしても、私はあいかわらずの遅筆であります。
次回投稿は週末ごろになります。
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