IS 〈インフィニット・ストラトス〉 誰でもない、少女 作:油谷
EK-17Uは約3時間ほどのフライトの後、日本国内の空軍基地に着陸した。
少女にとってはのんびりとしたものであった。
少女は持ち切れない荷物を先に学園へ送っておくように頼んだ後、基地から学園へ向かおうとしたのだが。
「……あら?」
少女は公共交通機関を利用して学園へ向かうべく、基地最寄りの鉄道駅へ行こうとしていたが基地の出口で妙なものを見つけた。
見れば、出口のあたりに黒い高級車とピックアップトラックが、
ぴったり車列を組んで数両止まっている。
その周りには黒いスーツを着て、サングラスを掛けた男女が
うろうろしていた。
その光景は、まるでシークレットサービスの見本市のようで。
はてさて、こんなものを頼んだ覚えが無い少女は、
恐らく自分には何の関係も無い、後でどこかの国の
人がこの空軍基地に来るのだろう。その人達はその護衛なの
だろう。と思い、その横を通ろうとした。
しかし、少女が車列に近づき、その顔を見たSSもどきが少女に
ダッシュで近づくと、少女の推測は誤りであることが判明した。
彼らは少女を迎えに来たのである。
「こんにちは。ネモ・ノーチラス様ですね。」
「……はい。私はネモ・ノーチラスです。あなた方は?」
「はっ。UPEO極東支部の者です。今日はあなたをIS学園へお送りにまいりました。」
「ご苦労様です。……今日は一体誰の指示で私を?」
「ノーチラスさん。すみませんがあまり時間がありません。ご質問は、車内でお聞きいたします。……こちらへ。」
「……はっ。対象は4号車へ。直ちに送り届けます。」
「出発だ。IS学園の門に着くまで気を抜くなよ。」
SSもどき、もとい少女護衛チームは少女を車に乗せ、
IS学園へと向かう。
黒い車の列が、車間をきっちりとそろえて走っていくというのは
かなりの威圧感があった。
変わって車内では、先ほどの護衛が助手席から、後部座席に座る
少女の質問に答えていた。
「ではノーチラスさん。先ほどの質問にお答えします。あなたの
護衛を我々に命令したのは、
UPEO極東支部司令官、カプチェンコ大佐です。内容はあなたの身と、情報をIS学園まで警護すること、です。」
「カプチェンコ大佐が?てっきりいつものように本部からかと
思いましたが。」
「本部からは極少数のみの護衛でよいと通達があったようですが、カプチェンコ大佐がこれだけの規模であなたを守るようにと。」
少女はその話しを聞いて、ふーっ、とため息を吐いて
肩を落とした。
彼女はこんな待遇にほとほと飽きがきていたのだ。
「流石に過剰ではありませんか?見たところ、隠されては
いますが対戦車ミサイルや地対空ミサイルまでピックアップ
トラックに積んであるみたいですね。」
「よくお判りに。しかし準備というものは、することに越した
ことはありません。あなたの身の重要性から見れば、決して
過剰ではありません。」
「ここは一応、世界でも有数に安全な国、日本ですよ。
この国にいる限り、こんな重装備なんて……」
「ISの開発以降、その安全神話も張子の虎のようなものです。
それはあなたも、よく分かっていらっしゃるでしょう。」
「それはまぁ、骨の髄まで分かってます。……今私の脇を固めているお2人方も、ですよね。」
それまで少女の両脇に座り、険しい顔で窓から周りを警戒していた女性2人が、驚いたような顔をして少女を見る。
「……我々がIS操縦者だと分かっていたのですか?」
「はい。以前見た、SARFのIS操縦者のリストの中にあなたたちが
いましたから。……エイミー・ピット大尉、リーナ・ディード
リッヒ中尉。」
ISを身に着けていないにも関わらず、自分たちの正体を見破り、
名前と階級を言い当てた少女に、二人はまたに驚いた。
ネモの右手に座った茶のショートカットの女性、エイミー・ピット大尉は情報部員兼IS操縦者であり、左手に座ったよく日焼けした
ブロンドの女性はリーナ・ディードリッヒ中尉、世界でも有力なIS操縦者の内の1人である。
「あら、名前まで覚えていられたなんて、光栄です。」
「御二人とも結構有名ですからね。覚えておいて損はないかな、
なんて。」
「そう?……でもあなたにそう言われると、嬉しいわね。
ありがと。」
「いーえ。……そうだ。基地を離れるときに、良いお菓子を貰ったんです。おひとついかがですか?」
そういうと少女は持っていたバックから、選別の一部を持ち出す。
「んぁ、ありかと。……あっ、これおいしいじゃない。
もう一個頂戴。」
さっきの険しい顔はどこへやら、リーナは笑みでお菓子を食べはじめた。しかし、対してエイミーは受け取らない。
「いえ、私は結構です。今は任務中ですから。」
「これ、結構いけるよ?エイミーも食べなよ~。」
「リーナ。あなたは今、この子の護衛をしているってことを
分かって言ってるんでしょうね?」
お菓子をに夢中になっているリーナをたしなめるエイミーだが、
リーナはエイミーにお菓子を渡して。
「まぁ、これくらい良いじゃないの。公式の任務でも
ないんだし。」
「そうですよ。エイミーさんも私もことは”ネモ”でいいですから。年下なんですし、呼び捨てで構いませんよ?」
「でも……」
「エイミー!ネモがこう言ってるんだから、良いのよ。
アンタは昔から堅苦し過ぎるのよね。もっと馴れ馴れしく
なりなさいって。」
「……それじゃ、ネモちゃんでいいかしら。」
「はい!それじゃ、何か茶請け話でもしましょうか?」
和気あいあいとして、おしゃべりに花を咲かせ始める
32歳、15歳、28歳。
そして、すっかり放っておかれてしまった男性護衛は無言で
前を見つめ、言葉に表せない寂しさを感じていた。
その後車内では少女が餞別に貰ったお菓子をひっくり返したり、
他の餞別を開けてみたら中にコンドームが入っていて
2人がぎょっとしたりした。
幸いなことに、彼女はこれの使い方をまだ知らない。
さらに餞別を開けてみると妙に臭い漬物であり、車のエアコンを
外気にして換気にするハメになったりした。
そんなことをしているうちに、車列はIS学園のすぐそばまで
来ていた。
「お話のところ済まないが、もうすぐIS学園です。降りる準備を
お願いします。」
車列は基地から遠く、市街地から離れ、海沿いの道を走っていた。
いつの間にか車窓の右手には海が見えている。その先に浮かぶ島
に建つ大きな建物がいくつか。
そして、その中央にそびえたつ塔。
それこそがIS学園、これから3年間少女が暮らす学び舎であった。
「あれが、IS学園ですか。…直接見るのはこれが初めてです。」
「ネモちゃんはずっと基地暮らしだったんだっけ。私たちは
あそこで学んではいないのよね。」
「ISが兵器として利用されるようになったときには、私も
ハイスクールは卒業してたから、仕方ないわね。」
「あそこに行かれたことは?」
「私は今回で5回目かな?UPEOの施設で一通り操縦法を習った後、ここに応用戦術を習いに来てたのよね。エイミーは?」
「私は一度も無いわね。ISの戦法も自分で編み出したやつだし……今更ここに来ても、あまり学ぶことは無いわね。」
車列は島の対岸にある港に入る。
学園にはモノレールも通っているが、今回は船で向かうことに
なっている。
車列は埠頭で止まり、バラバラと護衛が車両から降りてその周りを
固める。
「では、我々はここまでです。後はピット大尉と
ディートリッヒ中尉が学園まで付き添いを。」
黙っていた護衛が振り向いてそれを伝えてきた。
それを聞いて、少女は少し怪訝な表情になった。
「ええー……ここまで来ればもう十分です。結構です。」
「ごめんね、うっとうしいかもしれないけどこれも命令なのよ。」
「いえ、お2人は何も。私は過保護なカプチェンコ大佐が……」
「ま、島に着くまでのことだから…もう少し我慢してね。」
「……はい。ではよろしくお願いします。」
少女と2人は車から降り、船着場にいるクルーザーに向かう。
少女はそのクルーザーを見ると、それがカモフラージュされた
ミサイル艇だと気づき、ため息を吐いた。
「……本当、みんな過保護なんだから。」
「それだけ大事にされてるってことよ。」
「大事にされすぎてると思います、私。過ぎたるは及ばざるが
ごとしって言うでしょう。」
「……そうかしら?」
3人は船にに乗り込む。既にエンジンはかかっていて、
すぐに船は出発した。
「では出発します。10分ほどで学園の港です。」
クルーザー、もといミサイル艇が学園の港へ向かっていく。
その船の中で、少女は学園での3年間がどんなものになるかを
思考していた。
少なくともこれまでのような束縛はなくなり、多くの新たな出会いが待っていることは確かだ。
(楽しいことが、楽しめることが、多ければなぁ……
いいのだけど、実際そうはいかないよね……
やらなくちゃいけない事も有るし、ね。)
彼女はこの学園に来るための準備を数年がかりで行ってきた。
そしてここに来て、やるべきことが3つある。
そのうち少女が既に知りうることは2つ。
知らないことが1つ。
その内1つは楽しいこと。2つは暗く、無慈悲な任務である。
そして、知らないものはより暗くて私念じみたものであった
原作キャラが全く出てこない……
次話からは登場する予定です。