黒鋼の天使は、自由の翼と共に   作:ドライ@厨房CQ

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CHAPTER 0

『最終防衛ラインまで後がないぞ! 右翼を守れる部隊はいるか!?』

「こちらデルタ6、カバーいけます!」

 

 どこまでも続く蒼穹の中をいくつもの光点が交わりながら複雑な軌道を描いて飛んでいる。翼を有した航空機と人が跨るエアバイクの一団が数倍もの物量で迫る機械とも生物とも言えない真っ黒な飛行物体と激しい空中戦を繰り広げ、黒い塊を次々と落としていくがジリジリと後退しているのが現状だ。

 右翼側が手薄になっているところへエアバイクを操るコールサイン“デルタ6”が割って入り、迫る敵影にレーザーとミサイルを叩き込んで撃ち落とす。しかし小型な機体なため火力を集中しても1機落とすのが精一杯で更に3機の編隊が近づいてきた。

 

《敵機接近、近接モードへの移行を推奨》

「ええ、頼むわ!」

 

 搭載されている補助ナビゲーターに従って変形システムを作動させ、騎乗するエアバイクから搭乗者を胴体に収めて全身を覆うパワードアーマーへと姿を変える。すぐさま武器としてレーザーブレードを選びとり、発振部から伸びる青色のエネルギーの刃ですれ違いざまに3機を瞬く間に膾切りにしていった。

 加速性能に優れたエアバイク形態、小回りと火力じ優れる空戦型パワードスーツ形態の2種類に変形可能な機動兵器、それがこの“ストライダー”である。優れた性能を誇って黒い飛行物体“ガレリア”とも渡り合える代物であるが、やはり物量の差をひっくり返すのは厳しかった。

 

「流石に数が多いわね、このままじゃ……」

『クッ、増援はまだか!? このままだと最終防衛ラインを抜かれてしまう! ―あ、あれは!』

 

 既に最終防衛ライン上でなんとか持ちこたえている状態だから長くは保てそうにはない。そんな時にガレリアの編隊が大きく崩れてバラバラに散っていきながらいくつかが爆ぜていくのを見て、援軍を確信するみも姿を見せたのはたった1機の航空機であった。

 航空機型ストライダーはパワードスーツ型よりも空戦に適した対ガレリア戦の主戦力であるが、たった1機ではこの劣勢をひっくり返すことは難しい。だが、援軍のストライダーははガレリアの編隊へ臆することなく突っ込んではその陣形を崩していき、よろよろと飛ぶあぶれた1機を確実に落としていった。

 

『増援!? しかし1機だけとはどういうことだ……。まぁいい、全機態勢を立て直して反撃に移るぞ』

「了解! ……一体どこの誰なのかしらね?」

 

 隊長の号令とともに乱れたガレリアへ反撃に移りながら、編隊へ突っ込みながら撹乱しつつ目立つ動きで目を引くように飛ぶストライダーを眺める。IFFで確認しても友軍としか表示されず、ファイヤーパターンの塗装が施された両翼と尾翼に刻まれた鴉を模したマークだけでは所属を確認するのは難しかった。

 ガレリア達も例のストライダーを最大の脅威と認識しているようで3機編成の編隊が後方に食いついてきたが、エアブレーキを全開にして急減速して逆に後ろへ回り込むとレーザーやミサイルが火を吹いて撃滅していく。そちらに集中しすぎているせいもあってか、外縁から一点集中を加えていたデルタ小隊によってガレリアは数を減らしてきていた。

 

『こちら防衛隊。遅れてすまない。これより援護に入る!』

『遅いぞ正規軍! もうこっちであらかた片付けてるぞ!』

 

 レーダーに味方を示す光点が無数に現れて数の上でもガレリアを超えることとなる。やってきた増援は正規軍という事もあって乱れぬ編隊で飛びながら攻撃を加えていき、デルタ小隊も最大手プライベーティアに属する部隊として練度は劣らないというプライドから負けじと飛び交っていった。

 これで大勢が決して防衛には成功したのだろう。炎の翼のストライダーも戦闘エリアから離れて周囲の警戒を行いながら、両部隊の邪魔をしないようにと最終防衛ラインより内側へと飛んでいる。

 翼を目線で追っていくと、背後にある巨大な雲の柱が視界いっぱいに広がっていった。傘を広げたようなこれこそ防衛目標となる〈超空間通路〉の入口であり、ガレリアが通ってしまえば無防備な向こう側の世界へ危険が及ぶ。それを阻止するべくプライベーティアも正規軍もここを死守しているわけだ

 

『さてと、あらかた片付いたな。今回は我々グリフォンズの戦果が一番、と言いたいがあのストライダーがトップだな。正規軍の所属ってわけじゃないな』

『あんな派手なペイントはうちじゃあ認めれれていないからな。しかそ、ほぼ無名なフリーにもあんな逸材がいるとはな』

『まだだッ! まだ終わってないぞ!』

 

 殆どのガレリアを撃滅し終えて敵性反応がなくなったので皆が一息つくのだが、突如として若い少年の声が全方位通信で全ての機に届く。その声が例のストライダーから発せられているのに気づくのと同じく、最終防衛ラインを突破された事を示す警報がけたたましく鳴り出した。

 見れば3機のガレリアが戦闘エリアの反対方向から雲の隙間を縫ってゲートに迫ってきており、今まで戦っていた大群は防衛部隊を引きつけて本命が迎撃されないよう時間を稼ぐための囮に過ぎない。おそらく間に合わないとわかっていてもスピードに優れたストライダーが全速で飛び、狙撃タイプが砲撃人日を進める中でいち早く飛び出して接敵できる位置にあの炎の翼はあった。

 

『デルタ3から5、砲撃準備を進めろ! 残りのデルタは追撃に移行、正規軍の方でゲートの通過許可申請中だ。最悪ゲートに突っ込むことを覚悟しておけ!』

「了解! ……なら初めて行くことになるね、“向こうの世界”に。でも今はッ!」

 

 独り言を漏らすが今は追撃の真っ最中ということで意識をはるか前方を飛ぶガレリアに集中させて、先陣をきる翼についていく。狙撃チームの準備も整って空を割くようなエネルギーの奔流が放たれて最後尾を飛んでいたガレリアを貫いたが、射程距離はここが限界でこれ以上の狙撃は不可能である。

 頼みの綱であるあのストライダーが射程距離に入ろうとしたその時、ガレリアの1機が反転して攻撃を仕掛けてきた。黒いレーザーと生物のように動くミサイルの暴風雨を正面から受けて、左右へ不規則な旋回を繰り返すシザーズ機動でなんとか振り払うも、その間に後方へ回り込んでいたガレリアの一撃を受けて火を吹きながら雲海に沈んでいく

 

「うし、落とされたの!? ……ッ! 次の狙いはこっちってわけね!」

 

 目下の脅威を排除したガレリアはゲートへは向かおうとせず、次に近い位置にいたこちらへ迫ってきた。相手は主力戦闘機級のスカヴェンジャータイプであり、一対一で負けるつもりはないが火力も速力も侮れるものでない。

 ぴったりと横を並走しながらお互いの後ろを取り合うデッドヒートを繰り広げていった。空中を滑るような機動は空力特性を無視したエアバイク独特なものであり、羽つきの空力特性を最大限に活かしたものとは異なっている。

 互いの背後を取り合って円を描くような軌道で飛び交うが、激しくも滑らかな旋回で優位に立ち、スカヴェンジャーの攻撃をことごとく回避した。しかし撃ち落とすにはエアバイク形態では火力が足りないので変形する隙を突かれないように攻撃に転ずるタイミングを測っていく。そして向こうからの攻撃が途切れて加速しながら突っ込んできた瞬間、一気に反転してアーマー形態へ姿を変えた。

 

「さぁ、撃ち落とす――え?」

 

 振り向きざまにブレードを構えたのと同時に下に広がる雲海より無数のレーザーがガレリアを撃ち貫く。突然のことで呆気にとられるが相手はまだ倒れていないのですぐに気を取り直し、穴だらけになったスカヴェンジャーに両手に握った二振りの光刃を振るった。4つに分かれて落ちていくガレリアの残骸とすれ違うように炎の翼が舞い上がる。

 今まで落ちた振りをしてずっと雲海に潜んで奇襲を狙っていたストライダーの意図に気づいて、一本取られた。視界が悪くて飛びづらい雲の中ですっと飛べているのだから相当腕に自身があるのだろう。

 

「落ちたふ振りして雲の中を突っ切ってきたの? 呆れた……」

『これがオレの飛び方なんでね』

 

 ポツリと漏らした独り言に反応があり、ストライダーは返信しつつもアフターバーナー全開で最後のガレリアを追いかけていった。見れば既に最後の1機がゲートの目前まで迫って超空間通路へ突入するのも時間の問題である。

 雲の傘の内側に黒い機影が姿を消していくと、すぐ後ろを炎の翼が飛び込んでいった。臆すること通路へ突入していく胆力に舌を巻くが、それを見ていた隊長からは悲鳴に似た叫び声が響く。

 

『あの馬鹿、申請も無しに突入したのか!? 無効では未確認扱いでガレリアともども敵性存在にされちまうぞ! デルタ6、今すぐおいかけろ、お前の翼なら追いかけられるはずだ!』

「えッ、私がですが!? それにこっちもまだ申請前ですよね!?」

『通路を通ってる間に向こうへ連絡がいくようにする! だから頼む!』

「……ッ、了解! んもぉ、絶対追いついて文句言ってやるッ!」

 

 一番近い位置にいて隊の中で一番速いということでの抜擢だが、後先考えずに突っ込んだどこぞの馬鹿の尻拭いというわけでもあるから、これまでの畏敬の念はどこかへ吹き飛んで代わりに怒りがドンドン湧いてきた。スロットル全開で赤い機体が空を切って飛んでいき、雲の柱へと音速を超えて突入する。

 

 超空間通路の内部は筒状で横に伸びるトンネルそのものだ。筒の外側は幾何学模様の流れが歪んだように蠢いているもので、そちらに入り込んでしまえば通常空間へは戻ることは出来ない。空を飛ぶのとは勝手が違うのであんまり長居は支度なく、急いで突破すれば、出口となる光の円が視界いっぱいに広がってきた

 眩い光がすぎれば、そこは一面が青の世界である。どこまでも広がる海と空との境界になる水平線を初めて目にして、思わず感嘆の声を漏らす。しかし今はガレリアと馬鹿を追いかける方が優先なので、景色をゆっくりと堪能する暇はなかった。

 

『そちら、オラクルからの援軍ですね! 地球へようこそ、と言いたい所ですが、既に最終防衛線まで肉薄されています!』

「了解、引き続き追撃を行います! それとガレリアの後ろに引っ付いてる奴は味方ですんで、なるべく撃たないようにお願いします」

『えッ!? あれ味方なんです!? ちょっとぴったり付いててガレリアだけを狙うのは難しいです!』

「わかりました。気にせず弾幕張ってください。それぐらいで落ちないと思いますよ、あのバカは」

 

 地球側のオペレーターより渡された情報に目を通し、ゲートを中心に防衛機構などの海上施設がドーナッツ状に広がっている。それらを目視で見ればいくつもの光点が打ち上げられて、いくつもの火花が空を彩る中心にあの2機がいた。あれでは狙い撃ちは出来ない圧倒的火力であるが、その全てを侵入者たちは容易く突破していく。

 対空砲火の巻き添えを受けないように海面近くを飛べば、防衛施設が巨大な壁となって対空砲の射程に入らなくなければいけないようになっている。こに壁を突破しても外側にはイージス艦がいくつも展開するという鉄壁の守りを誇っているが、発射された対空ミサイルの雨霰をガレリアは表皮から発する波動でジャミングして無効化し、ストライダーも急激なターンに上下運動で全てを振り切った。

 

『クソッ、ミサイルもだめか! なんなんだあれは!?』

『スクランブルも随時発進! ……なんて速さだ、追いかけるのもままにならんとは!』

 

 船の間を通り過ぎながら混戦した無線から防衛隊の歯がゆさが聞き取れる。無理もない、総火力をもってしても2機を落とすことできずに防衛線を抜かれてしまったのだから。急上昇してストライダーの後方について、ガレリアの行き先を方位から最も近い陸地である日本という国のようで、速度からあと10分もしたら到達してしまうだろう。

 ストライダーはぴったりとガレリアについてようやく射程距離内に収めたようだが、いつまで立っても撃つ気配がない。どうしたものかと見れば下部ウエポンベイが丸々失われていたのだ。

 

「弾切れ!? まさか、あの時に全部失くしちゃったわけ!」

 

 奇襲の時に一度攻撃を受けたが、その時にウエポンベイを攻撃されてやむなく排除したのだろう。ミサイルなどは転送装置で補充できるが地球上では使用不可能で、レーザーを届かせるには更に接近する必要があるが、これ以上の加速はストライダーに無理である。

 

「アンタは下がりなさい、後はこっちがやるわ!」

『まだまだ、終わりじゃねえ!』

「ちょっと聞いてるの!? 何する気なのよ!?」

 

 攻撃できないストライダーでは対処できないので、引っ込むように叫ぶも答えになってない返しが来て、ストライダーは一気に加速していった。既にアフターバーナー全開であるはずなのに、更に加速していったということは全てのエネルギーをエンジンに回しているかもしれない。

 だがそれは生命維持や感性制御も切ってることになり、この超加速によるGを全て受け止めることだ。死にかけるような一撃を決めようとしているものに絶対に嫌な予感がしてやめるように伝えるも、無線のエネルギーも切っているのか繋がることはない。しかし、ガレリアに迫るその瞬間にその叫びが聞こえた。

 

『知らねえのか、オレは死なねえぇぇ――』

 

 雄叫びとともに機体設計限界強度を超えて突撃したストライダーの機首がガレリアへ突き刺さり、直後に2期は諸共爆散して火の玉として散っていく。陸地まであと2分というギリギリのところで阻止できたが、生活圏にも近いからこの爆発に驚く人々も多いだろう。

 操縦桿を握ったまま呆然と落ちていく残骸を眺めていたが、その中で妙に降下速度が遅いものがあった。それはストライダーの座席が変形した脱出ユニット兼ジェットパックであり、どうやら無事にベイルアウト出来たらしい。全てが計算の内かはたまた悪運が強いだけかわからぬが、無茶苦茶っぷりには呆れ果てるしかなかった。


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