黒鋼の天使は、自由の翼と共に   作:ドライ@厨房CQ

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CHAPTER 1-9

「さっそく友達ができたのか、良かった良かった。しっかしそのアズライトって娘さんも地球で出会ったランナーなんだろ? こうも立て続けにあると運命的なものを感じるな」

「まったく、その運命ってやつがあのタマ蹴り女ってのが気に食わねえっすけど。なぁ千景、あんなのよりオレの方がいいだろう?」

「僕をダシにして授業を抜けようとしないの。ちゃんと明日は座学受けてね?」

「はいはいっと。……口うるさいのはクラリッサだけで十分だから勘弁してくれよ」

「なにはどうあれ、親しい友人が出来るのはいいことさ」

 

 オープンループなリグのハンドルを握りながらブツクサと文句を言うイーサンを彼の幼馴染仕込みの方法で釘を刺す千景が後部座席に座っており、その隣の日向は楽しそうに2人の話に耳を傾けてた。夕方ころまで長時間かかった色々とした登録が終わって無事にこちらで暮らせる準備が出来ており、見ることが出来なかったアカデミーの施設やこれからの学校生活に問題はないか気になるところなどを2人からの報告として聞いていたのである。

 地球で遭遇したランナーとまたしても再会したという千景にこちらへやってきた理由である白昼夢と併せて彼には運命づけられた何かがあるのではないかと日向は感じていたが、そこから良い出会いに繋がるのであれば悪いものではないと思えた。

 傾きかけた陽光が空や雲やリグの表面をオレンジ色に染め上げている中をホーム目指して飛んでいるが、そんなリグの上に影がかかる。見上げてみるとそこには灰色の飛行物体が10メートルほど上空を浮かんでおり、進行方向に対して前側に当たる部分は矢印のようで後ろ側は球体状をして、後方からエンジンノズルとサイドからは短い翼が伸びていた。全長30メートルほどの大きさである航空機型リグは3人の前に出てくると、誘うように両翼を揺らす。

 

「なんだろう、あのリグは……。イーサンくん、どうしたの?」

「そうかそうか……。いいだろう、やってやるぜぇ!!」

「いきなり、何を!? うおぉーっ!!」

「ちょっと、なんなのさ!?」

 

 灰色のリグを視界に入れた瞬間、イーサンの目の色が変わった。答える間もなくエンジンを全開にしてリグは大きく揺れながら砲弾のように飛び出していき、後ろに座っていた千景と日向はシートに抑えつけられる。凄まじい加速で航空機の前に出ると返すように同じように機体を左右に揺らして挑発すると、そのまま家がある方面へ向けて加速していった。

 抜かれた輸送機も轟音とともに加速してすぐさま追い抜いて引き離そうとするも、イーサンは輸送機の周囲を回るように飛ばすとちょうど上から下る時の勢いを利用してすぐさま抜いてみせる。そうして前を取れらたら取り返すデッドヒートを延々と続けており、両者は譲り合いという精神を遥か彼方に置き捨てた追いかけっこを続けていた。やがて目的地である島が見えてきたのだが、その間に大きな入道雲が横切るようにゆったりと流れている。

 

「い、イーサンくん、前に雲だよっ!!」

「わかってる、しっかり掴まってな! 突っ込むぜ!」

「嘘でしょう~~!?」

 

 なんの思案も躊躇もなくイーサンはただ愚直に雲海の中へ飛び込んでいき、視界は真っ白に包まれて雨粒や雹などがリグを大きく揺さぶった。車体の周囲を覆う空力フィールドがそれらを防いでくれるが、暴風吹き荒れる雲の中では小さな木の葉に過ぎない。操縦を誤れば流れに呑まれてしまうか、そうでなくとも視界が悪いこの状況では空間識失調(バーティゴ)を引き起こす危険だってあった。

 それでもイーサンは真っ直ぐにただ雲を突き抜けて最短コースを進んでおり、目の前に目的地である島が見えてきたが同じように雲を突破してきた航空機も直上にやってきている。後はどちらが先に到着するかのスピード勝負であるが、航空機の方がエンジン出力も段違いで雲を突破することで出来た距離の差をどんどん詰められてきた。

 ついに後方直後にぴったりと着かれて追い越されようとするも、イーサンはにやりと笑ってハンドルの裏にあるスイッチを押す。すると後部のトランクが開かれてそこから詰まっていたスペアパーツが放出されて、航空機はぶつけられて思わず減速していった。その隙に一気に加速してイーサンはリグを搬入口へ滑り込ませ、激しい着地ながらイーサンは手を振り上げて喝采をあげる。

 

「やったぜ! 今日はオレの勝ちィ!!」

「いっ、一体なんなのさ……」

「フッ、譲れぬ戦いってやつさ」

 

 意気揚々とリグから飛び降りるイーサンに対して目を回した千景と日向はぐったりともたれかかっており、一体何が起きたか理解できなかった。そこへ追いかけっこをしていた輸送機が同じように入ってきて、イーサンはこれまでとないくらいのドヤ顔を浮かべながら輸送機から出てくる人物を出迎える。

 輸送機から出てきたのはイーサンと同じ鮮やかな赤髪をした中年女性でポロシャツから逞しい二の腕を見せており、やれやれだと言わんばかりに困った笑みを浮かべた。2人は真正面から相対して額がぶつかりそうな程に顔を近づけており、まさに因縁のライバル関係と言った具合でその関係性に千景は疑問符を浮かべる。

 

「へっ、流石にロートルはここまでか?」

「言ったな、小僧。今日は勝ちを譲っただけよ、お客さん乗せてたようだし」

「あの2人、どういう関係なのかな……?」

「親子っすよ、似た者同士でしょ?」

「あー確かに……。って誰ですかあなた達!?」

「我々はヴァリアントフライヤーズ! 以後お見知り置きを」

「あ、ご丁寧にどうも」

 

 バチバチと火花を散らす2人が親子ということに外見だけじゃなく雰囲気も似ているから納得するも、突然現れた3人組に思わず声を荒げた。モヒカンやアフロやリーゼントに袖なし革ジャンというファンキーでパンクな格好した連中なので驚くも仕方ないが、意外と礼儀正しい感じに面を食らうも毒気を抜かれてそちらのペースに乗っかる。

 彼らヴァリアントフライヤーズはイーサンの母で現役時代無敗を誇った凄腕レーサーでもあったクリスチーナ・バートレットをリスペクトする元レーサー達で、彼女がレーサーを引退して輸送機ヴァリアントの機長として輸送業を始めてからも彼らも乗組員として乗り込んでいた。バートレット家との関係も長いから事情もよく知っていて意外とお喋りなのか、千景と日向にも色々と話していく。

 

「イーサンの坊っちゃんが空を飛んでるのもクリスの姐さんの影響っすね。見たでしょ、2人のめちゃくちゃな飛び方」

「確かに凄いですよね……。あれはもうお断りだよ」

「こらぁーーー!!! 2人ともそこに直りなさいーー!!」

「出た、この家の主人っすよ」

 

 ぶつかり合う親子にコソコソ話に興じる部外者や遠巻きにいつもの事と微笑むハイペリオンのスタッフ達が出していたそれぞれの声が、発着場に轟く一喝で全て鎮圧された。その声を向けられたイーサンとクリスの2人は顔を強張らせて緊張で身体を硬直させ、突然の事にぽかんとする千景にフライヤーズのアフロ頭が教えてくれる。

 たった1つの喝で2人を黙らせた小柄な老婆はユリア・バートレット、イーサンの祖父でクリスの母でバートレット家を仕切っている真の支配者というわけだ。外見からは人柄の良さそうなおばあちゃんであるが、あのイーサンとクリスが正座してお叱りを受けてるのだからあながち間違いでないのは確かであろう。

 

「まったくあなた達は! 1人で勝手にやるのは問題ないですが、イーサン、お客さんを乗せてあんな飛び方をして! クリス、仕事の荷物を持ったままあんな飛び方をしないの!」

「でもなばーちゃん、あれを仕掛けてきたのはかーちゃんのせいでよ……」

「アハハ、お客さんにちょっと見せつけようと思ったらついね……」

「お黙り! 今日という今日はしっかり絞らせてもらうわよ!」

「「そんな~~~」」

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね、千景君に日向さん。うちの子達のバカ騒ぎに巻き込んじゃって。事あるごとに張り合うのよ、親子なのにね。さーさお2人の歓迎会始めちゃいますから、どうぞ席についてくださいな」

「はーい、お邪魔します。うわぁ~すごい料理だ!」

「フフ、久々のお客さんということで腕によりをかけさせてもらいました。みんなも入ってきなさい~」

「やったぜ、おかみさんの料理は最高なんだよ!」

 

 ユリアの案内で本邸の広間に千景たちがつくと10人以上は座れそうな長テーブルの上に所狭しと料理が載った皿がいくつも置かれていて、全て1人で準備したというなら凄い労力であるが目の前に立つ老婦人はそんな事を微塵も感じさせない笑顔を浮かべて2人を食卓へ通した。その後ろを付いてきたヴァリアントフライヤーズも相伴にあずかって綺麗に並んで食卓へついて、安全ベストを外したキールや機械油を落としたレイジにそれに続くハイペリオンのスタッフ達と部屋の中は一気に人が増えていく。

 いつの間にか千景の正面にはクーリェが座っていて豪華な料理に眼を輝かせて、確かに美味しそうな匂いが部屋いっぱいに充満していた。ラインナップは地球の洋食とは大差ないものだから問題なく食べれそうで、それどころか腹の虫がまだかまだかと暴れだしそうである。最後に入ってきたのはこっぴどく絞らたか妙に細くなって青ざめた顔色で足がしびれてかフラフラとした足取りなイーサンとクリスで、部屋の端っこに座ると回されていたグラスを手にして全員が揃った事を確認するとキールが立ち上がった。

 

「えー皆さん、僭越ながら私が地球から我が家にホームステイしてきました放上千景君と御堂日向さんの歓迎会の司会進行を務めさせて頂きます。まっ硬いこと抜きにしてよく食べよく飲みよく騒ごうってわけだから、各自醜態を晒しすぎないように楽しんで頂戴。はい、挨拶終わり。では乾杯」

「「「乾杯ー!」」」

 

 お互いにグラスを叩きあってそのまま口を付ける。千景のグラスに入っていたのは虹色に輝くへんてこなソフトドリンクであったが非常に美味で、日向のグラスにはビールのような黄金色の発泡酒のようであった。大皿に載ってる料理は1人サイズに切り分けては小皿に置いていくという動作を目にも留まらぬ速さで行っていくユリアに関心しながらソースがたっぷりかかった肉料理を頂き、それも非常に美味である。

 日向はキールたちと飲み明かしていて、千景の隣にいつの間にかイーサンが座っていて先程までのしょぼくれた表情はどこへやら並べられた皿をガツガツと食べていた。行儀はあまり良くないが実に美味しそうに食べているので千景もつられて箸が進んでいき、桃色のドレッシングが掛けられたサラダにこぶし大もある巨大肉団子に齧りつく。

 

「どうだい、ばーちゃんの料理は美味いだろ! オートメーションでも料理は作れるんだけどこの味は手作りじゃないと出せないぜ~」

「うん、本当に美味しいよ! これならいくらでも入っちゃう」

「あらあら、嬉しいわ~。地球の人は自然食材を食べてるからこっちの合成食材が口に合うか心配だったのよ。今はだいぶ美味しくなったけど、昔のはもっと不味かったの」

 

 ゲネシスでは食材の多くが酵母やプランクトンを培養加工して作られた合成食材で地球で食べられてる自然食材はこちらの世界では高級食材という扱いとなっており、栄養価は変わらない合成食材は味の面では数段劣っているが今口にしている料理はどれも地球で食べられる料理と遜色ないどころか上回ってすらいるだろう。それもユリアが持っている高い調理の腕前、イーサンいわく“神の手”によるからだ。

 歓迎会の主役なので千景の前から料理が尽きることはないが、テーブルを挟んで対面している兄妹は好物の取り合いをしている。というよりは祖母の料理は全部好きなのだが2人が手を伸ばした皿がことごとく被ってしまい、そのまま取り合いへと発展していき、ある意味息の合った妙技に感心してユリアは呆れた。

 

「ちょっとお兄ちゃん! これあたしが食べたかったのに~。あ、こっちもらい」

「あ~オレのフライが~」

「もうアンタ達は静かに食べれないのかい。ごめんね、うるさくてさ」

「いえ、歓迎会ですんでこれくらい賑やかじゃないですと」

 

 盛られた皿に箸を伸ばしながら宴会さながらの喧騒を千景は楽しんでいる。大人たちはテーブルから離れて床に円陣を組むように座り込んで、楽しげに酒を酌み交わしてその輪に日向も加わっていた。そんなどんちゃん騒ぎを繰り広げながら宴は夜を徹して行われていき、小さな島は歓声に包まれていく。

 

 

 

 

 

「おはよう、昨日は楽しかったねー」

「おはー、まったく大人連中は騒ぎすぎだぜ。さっき見たけど、みんな床で伸びてやがったぜ? というかお前さんはしっかり身支度すんでるのな、爪の垢を煎じて飲ませたいぐらいだな」

「今日が初日だからね。しっかりしておかないと思ってさ」

 

 歓迎会から一晩明けて千景は寝床から出て母屋と離れを繋ぐ渡り廊下より窓を開けて爽やかな朝の空気を吸いながら、通りがかった起きたてのイーサンとともにリビングへ向かった。寝間着のジャージ姿なイーサンと対照的に千景はアカデミーの制服を着ており、ブレザージャケットは脇に抱えてワイシャツにはしっかりネクタイを巻いている。

 顔も歯も洗ってないイーサンとパリッと身支度を整えた千景はリビングへと入っていき、テーブルには既に朝食が並べられていた。朝食はトーストとハムエッグにサラダとコーンスープというオーソドックスなラインナップで出来たてを示すように湯気は立っており、ユリアが天気予報が写っているホロディスプレイを眺めている。

 

「2人ともおはよう。あら千景君、制服似合ってるわよー。イーサン、アンタは顔洗ってきなさいな、髪もボサボサよ」

「ご飯食べてからするよー、いただきまーす」

「おばあさん、おはようございます。では、いただきます」

 

 朝食も実に絶品でただのハムエッグがどうしてこんなに美味しくなるのかという疑問が浮かんでくるが、そんな考えは朝食の美味しさの前には遥か彼方に飛んでいってあっという間に完食した。ちょうど2人も食べ終えて食器をシンクへ置くと、ユリアは広間で今なお横たわっている大人共の世話へと立ち上がり、イーサンは身支度のために洗面所へ向かい、千景はアカデミーへ持っていく荷物の点検に入る。

 持っていくといっても教科書といった類は全て電子化されており、イーサンがネクタイピンと一緒に付けていた銀色の筒であるホロファインダーに全てが詰まっていた。これ一つで教科書や学生証にランナーへ支給される電子クレジットの機能まで有しており、当然セキリティも登録された者が発するオルゴンにだけ反応するように出来ている。

 予習も兼ねて教科書の中身を見てみると、翻訳機能のおかげで言語は異なっていても問題なく読み取る事ができて内容も数学や理科は地球と大きく変わっていなかった。一方空中大陸に根ざしている国語や歴史に社会科といったジャンルはまるで異なっていて、流し見するだけで殆ど内容は殆ど理解出来ないでいる。

 

「おー朝から予習とは感心するなー。オレは見るだけで頭痛くなりそうなのに」

「それはこっちも同じだよ。特に歴史なんて一から覚えなきゃいけないし」

 

 顔を洗って歯を磨き髪を整え服装もジャージから見慣れたベスト姿になったイーサンがリビングへ入ってきた。学校へいくのに制服を着ないのかと疑問に思うが、アカデミーには厳密な制服と言えるもの無くて着用義務の無い指定服があるだけなので公序良俗に反さないなら服装は自由で指定服の改造も許されている。もっとも毎日着せ替えられる程に服を持ってる学生は少ないので多くは指定服を来ており、イーサンもワイシャツやネクタイが日替わりで変わる程度だ。

 せっかくだから予習していこうとイーサンも腰を下ろして授業の内容を確認していく。溜まりに溜まった座学を終わらせないと好きな飛行訓練や千景のサポートにもいけないということで、1週間はかかるというカリキュラムをどうにか短くしていきたかった。しかしじっと考えていられたのは15分程度でイーサンはお手上げである。

 

「まったく頭痛くなりそうだぜ……。千景、そろそろアカデミーいこうぜ」

「そうだね。初日から遅刻は駄目だもん」

 

 教科書データを全てしまうと2人は家を出て地下にある発着場へ向かった。向かうにはリグを使っており、昨日アカデミーへ向かったのと同じリグには大きめな肩掛けカバンを下げたクーリェが座っている。彼女もアカデミーの中にある学校へ通っているので便乗するのだが、千景はそれが小学校なのかと思っていた。しかしクーリェは心外だと言わんばかりビシッと指を指すと、アカデミー内の高等技術院に通っていると答える。

 その技術院では技術者の養育を目的として大学レベルの授業が行われており、この年齢でそこまで飛び級した自身がいかに凄い存在なのかと小さな胸を堂々と張っている。千景は素直に称賛するが、イーサンは華麗にスルーしながらハンドルを握ってリグは動き出した。

 

「ふっふーん、超天才なあたしならこれくらい当然よ! むしろレベルが低いぐらい」

「おー、クーリェちゃんすごいね!」

「出発するんだからあんまり騒ぐなよ。落っこちても知らんぞー」

 

 

 

 

 イーサンがクラスの中へ入るといきなりクラスメイト達が押し寄せてくる。その理由は単純、これからやってくるという地球出身なランナーの関係者ともくされていたからだ。アカデミーの敷地内へ入って技術院でクーリェを下ろしてから千景と2人でランナークラスのあるドームの駐機場に着いたが、そこで生徒会長のクラリッサが待っていて千景に用があるからとそのまま連れて行く。1人で教室へ向かうその道すがらでも新たに編入してくる地球生まれのランナーの噂で持ち切りだった。

 ようやく質問攻めから解放されたのはホームルームが始まる直前であり、チャイムとともに担任の先生がイーサンがよく見知った、クラスメイトにとっては初めて見る少年を引き連れて入ってくる。彼が噂のランナーかとクラス中がざわめき、先生が窘めてから少年へ促すと姿勢の良い格好ですっと挨拶を述べた。

 

「地球からやってきました、放上千景です。今日からよろしくお願いします」

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