「壊しちゃったね……」
「壊れちゃったね……」
アズライトは壊いてしまった形見の品々を目の前してがくりと肩を落とし、隣に立つクーリェも同意する。両腕を丸ごと無くして表面の塗装は所々剥げ落ちた無惨な姿でレーヴァテインは鎮座しており、手に握っている合体剣はグリップから先の部分が完全に消失した見るも無惨な姿だった。
昨日の戦闘はデアデビルの惨敗であり、レーヴァテインだけでなくスターファイターは両翼と動力系統をやられてハートブレイカーはレーダーなど電子戦装備を全損しており、ほぼ無傷だったネクサス以外の機体がドッグ入りしたことで整備チームはてんやわんやの大騒ぎで駆けずり回っている。
整備の手伝いをしようかと思ったが怒号が飛び交いつつテキパキと作業を進めていく中へ素人が入っていく隙間などなく、ソフトウェア専門で同じく修理に加われないクーリェと一緒にもう一方の形見の品の修理を確かめていたのだ。しかし、こちらも状態は酷いもので元の剣に戻すのは大変だと素人であるアズライトでも一目瞭然である。
「あの時はナイスアイデアだと思ってたけど、振り返れば相当無茶だったわね……」
「でも、あの恐ろしいガレリアから逃げ切れたのはアズ姉のおかげだって、お兄ちゃんや千景さんが言ってたよ!」
「ありがとね、クーリェ。さーて、私も千景みたいに出来ることでもしましょうかねー」
「あ、ちょっと待て。渡したいものがあるの!」
整備には加われないがそれ以外の雑務なら手伝えると千景は忙しく動く整備員達の間を忙しくなく動いており、また日向は昨日の戦闘データの洗い出しを早速行っていて次に活かそうとしていた。アズライトも出来ることがあるだろうとそれを探しに行こうとするも、クーリェに止められて彼女は銀のアタッシュケースを引きずりながら持ってくる。
差し出されて促されるように開けると中には銀色に磨かれた長短2本のグリップが入っており、それが剣のヒルト部分だとわかった。射撃武器がブラスターのようなエネルギー武器が使われているように近接武器もエネルギーの刃を持つレーザーブレードも存在するが、整備性の悪さや扱いにくいこともあって実体剣や高周波装置を組み込んだ振動武器などが主流となっている。
「レーザーブレードね、見たことはあるけど使うのは初めてだわ。……あれ、スイッチがないんだけど?」
「フフフーン、アズ姉それにオルゴンを流してみるといいよ~」
「オルゴンを? ――! これは、オルゴンの刃……!」
言われるままグリップに力を込めながら握ってオルゴンを注ぐと緑色の刀身が伸びて、発振されたブレードはレーザーでなくオルゴン結晶であった。これはレーザーブレードでなくこれまで使ってきた合体剣と同じオルゴン兵装ということであり、振り回した感触は実体剣と変わらないが結晶体そのものの質量がかなり小さいので随分軽く感じられる。
合体剣は破壊力や使い勝手はかなり良くて重宝していたが大きくて重量もあったので持ち歩けずジョウントで手元に持ってきていたが、その補助として軽量で常に常備できるオルゴン兵装を頼んでいたのだ。そして注文通りにキールはレーザーブレードの発振器をベースにした小型結晶剣を作り出して、更に別の機能があるとアズライトは見抜く。
「これはなかなか……、合体剣の特性も入れてるみたいね」
「そうそう! 合体剣から着想もらって色々ギミック入れたみたいだよ。名付けて“スプリットセイバー”だって!」
「だから分割剣(スプリットセイバー)ってことね。それじゃあ早速だけど、振り回させてもらうわ!」
「おー! 剣撃練習用ポッド1号いけ~」
固定用のフックが側面に付いているので長めのヒルトを右腰側に短めのヒルトを左腰側のベルトに引っ掛けてアズライトは呼吸を整え、切られ役となるカカシみたいに細長い形状の訓練用ポッドをクーリェが遠隔操作で前に出してくる。しばしのにらみ合いアズライトは右腰のグリップに手をかけて思いっきり振り抜けば、伸びる緑色の刃が訓練ポッドを真っ二つに斬り裂いた。
一振りであるがこの武器は実体剣と同じ素直な太刀筋で手によく馴染んでおり、一方で斬る瞬間にそこまで力を入れずに済むのは溶断して斬るレーザーブレードに近い。分割されたしまったポッドもボディの各部が磁石で連結した細かいパーツで出来ているから、すぐにくっつけて元通りに復帰できるので今度は両手に付いてある銃口を向けてくる。
殺傷能力は無いが当たればそれなりに痛い低出力エネルギーボルトを絶え間なく放っていき、アズライトはその光弾の雨をブレードで弾いていった。怒涛の弾幕であるが左手でショートも握って2本の光刃で防ぎながら迫り、ブラスターを放つ両腕を斬り落として勝敗をつける。
「アズ姉すごーい! 色々改良して強くしてるのに全然が歯が立たないや。じゃあ本気モードでいくよ~」
「ええ、かかってきなさい!」
本気モードと移行したポッドは一旦バラバラになって身体をつくりかえると、長い腕が1本だけという特異な風体に変わり、蛇腹状にしなる腕をムチのように振り回しながら構えた。動きが変わったポッドを見極めながら少しずつ間合いを詰めていき、アズライトが驚異的な瞬発力で踏み込みながら斬りかかるもしなる腕を振り回してポッドは上手く受け流す。
リーチの長さと柔軟性を活かして接近戦を優位に運ぶスタイルのようだが、スプリットセイバーも同じように対抗策はあった。右腕に順手で握るロングと左腕に逆手で握るショートの柄頭同士を突き合わせ、片刃だった結晶は円柱状に変化したロッドへと姿を変える。
互いの得物をグルグルと回しながら近づいていき、遠心力で叩きつけられるロッドとムチがぶつかり合って何度か打ち合いとなった。3度目のぶつかり合いでムチがロッドを絡まって引き合いになるも、アズライトの方がパワーで勝り体勢が崩れたポッドに片側のロッドの先端を叩きつけて上半身を吹き飛ばす。
「ムムム、アズ姉はホントに強敵だなぁ……。でもこれならどうだ~!」
「もう、原型とどめてないわよ……」
仁王立ちな下半身の上に上半身ブロックが積み重なっていくが、それは繋がった鎖の如く連なって細長い一本の紐に足がついた奇怪な姿になってアズライトは思わずドン引きだ。しかし珍妙なスタイルに反して磁石で繋がった長いボディは振り回すだけで強力な武器で弱点となる脚部との接続部分を守っており、いくら斬り落としてもすぐに付き直って近寄らせない。
チマチマやっても仕方ないとアズライトは一気に片をつけるため、一旦ブレードを解除してからロングとショートの2本を今度は平行となるように合わせて、もう一度展開すると2つのブレードエミッターより伸びる結晶が混じり合いながら巨大なブレードを生み出した。
オルゴンの大剣を両手で握りしめて横薙ぎに一閃すると弾き出されたオルゴンエネルギーの斬撃は一撃でポッドのムチを吹き飛ばし、二撃目となる上段からの振り下ろしを散ったパーツをくっつけながら防御するも容易く突き抜けられて、ムチは下半身ごと両断されてバラバラになったパーツが辺り一面に散らばっていく。
「すごーい! アズ姉、カッコよかったよ!」
「ありがとね。あとキールさんにも感謝しないと、最高の仕上がりだもの。それ頼みたいことがるんだけど、いいかしら?」
「もっちろん、ドーンと任せてよ!」
スプリットセイバーの性能に大満足なアズライトはくるくると手の中で回しつつブレードをしまうと、ベルトのフックに引っ掛けて吊るした。身体を動かしたこともあってか敗北の鬱憤も少しは晴れて、ここで1つ頼みたいことがあってクーリェに掛け合って彼女は快諾してくれる。
セイバーを受け取って代わりに置いておいた合体剣の柄を持ち上げて、それをクーリェへ差し出した。頼みたいのは合体剣の処理についてで、この状態では元通りに戻すのは無理であるがこのままスクラップにしておくのは忍びない。なのでオブジェや何かのグリップなど好きに作り直してもらうことにしたのだ。
「つまり、形見分けってことだね! どんなのにしようかな~」
「喜んでもらえて結構よ。さてと千景のお手伝いにいきますか! …………そういえばイーサンの姿が見えないわね、まったく忙しい時にどこへいったのよ」
「お兄ちゃんならどっか行ったねー。アカデミーに報告しにいったのかな、でもいつもは通信で済ましてるのに」
「相手が相手だったものね、それで呼び出しかも」
特殊ガレリアを操るランナーともなれば重大な存在で間違いないのでアカデミーや監査局も動いていて当然だろうし、直接交戦して自分たちの証言などは欲しいだろう。イーサンだけに任せるのは不安に思ったが、現時点で出来ることは無いので次からは同行するようにとアズライトは胸に留めておく。
相変わらず忙しなく動き回っている整備班の世話を手伝うべくアズライトはハンガーへ入っていき、合体剣を抱えるクーリェは情報を纏めている日向をサポートするために司令室へそれぞれが向かっていった。
「まったく、朝っぱらから呼び出すしてんじゃねえよ……。こっちは昨日の今日で疲れてんのにさ」
ぶつくさと文句を垂れながらもイーサンはガラス張りの建造物の入口前に立っている。ここはアカデミーの敷地内にある監査局の庁舎であり、朝早くから呼びつけられたので向かってる途中から今までの道中で文句が絶えることはなかった。ネクサスで直接乗り付けてこのガラス張りを全部ブッ飛ばしてやろうかとも考えたが、流石にそれは角が立つとなけなしの良心が訴えてなんとか踏み止まる。
既に話を通されているのか待たされる事無くすんなりと入口より通されて、ここに呼び出されるのはもう指の数では数え切れないほどだから迷いなく中を進んでいった。無関係の建物を破壊しただの作戦指揮を無視して勝手に戦って終わらせただの、確かにこちらに否があったのは間違いないだろう。しかし今回の事に関しては早急に呼びつけられるほどかと内心で憤慨しているのだ。
「……ノックも無しに入ってくるとは、プライベーティアは無礼なのが売りなのかイーサン・バートレット」
「もう既に我が家かって思えるくらいここに来てんだ、今更ってもんだぜキャシディ少佐殿?」
建物の一角で質素ながら鮮やかなレリーフが刻まれた木製の扉を勢いよく開けると、イーサンは中へズカズカと入って定位置でも言わんばかりに壁にもたれかかる。対面には格調高い机が置かれてそこに座る男は、色白で色素の薄い茶髪に線の細いシルエットから男性とは思えない儚さを醸し出すが、眉間に寄せられた皺の深さと冷たく鋭い眼光より冷徹さがより映し出された。
ランナーの少年による無礼講に眉をひそめるファーマス・キャシディは27歳ながら監査局内に設置されている対ランナー特殊部隊を率いる隊長の位にあり、その地位に相応しく難関の監査局士官試験を首席で突破しランナーとしての実力も白兵戦ストライダー共にトップである。そして何より違反ランナーを容赦なく検挙し必要ならば斬り捨てるというその眼光以上に冷酷無慈悲さで内外にその名を轟かせている。
そんな監査局謹製ドライアイスエッジを前にしても不遜とも言える態度を取るイーサンには少々毒気を抜かれたようで、眉間の皺はそのままに視線の鋭さは緩まり代わりに呆れが混じり始めた。一方で彼の隣に立つ副官はそんなイーサンの態度を許せないようまるで射殺すほどかというくらいの形相で睨みつけられて、同年代の少女とは思えぬ気迫に冷や汗を出しながら目を背けつつ本題に入る。
「それでオレを呼びつけたのはあの、特殊ガレリアを撒き散らすランナーということでいいんだな?」
「そうだ。あのストライダー、コードネームは“ハンター”であるが、奴に関わる一切が我々の管轄となった。ただのプライベーティアでは手に負えん、ここで引けと言いたいがそうも出来ない事情が出た」
「少佐! こんな怠惰で命令も聞けぬ愚か者に頼ることなど必要ありません! いつでも粉骨砕身で任務に望みます!」
「おいおいおい、アンタの家訓は悪口は大きな声で言うってヤツか? 陰口なんかよりはいいけどよ、言われるとやっぱムカつくぜ」
指を差されながら面と向かって罵詈雑言を言われたのだから。さっきまでの冷や汗をとうに乾いて青筋を浮かべたイーサンは金髪の副官を睨みつけた。キャシディが思いっきり嘆息を漏らしてから副官を制すると、内部事情について話し始める。
デアデビルが“ハンター”と戦っていた時、実は対ランナー部隊も近くの空域で“ハンター”が撒いたと思われる特殊ガレリアと戦っていたのだ。なんとか倒すことは出来たが出撃した7機の内2機のストライダーが落とされてしまい、難関ゆえの少数精鋭であるが同時に万年人材不足に喘いでる部隊にとって無視できない損失となっている。
そこへ更に別件での出動も重なって隊員達への負担が日に日に増している現状であり、そこでプライベーティアのランナー力を借りようということになった。その候補としてキャシディが真っ先に挙げたのがイーサンとなる。
「貴様の素行不良や命令不服従は看過できんが、それを引いてもランナーとしての優秀さは認めざるを得ない。感謝しろ、“ハンター”と特殊ガレリア討伐の為にこき使ってやるのだからな」
「そういうことなら、喜んで受けさせて頂くよ。纏めてオレ達がのしてやるから、少佐殿は茶でもすすって待ってな」
「フン、啜る暇があったらとうにしている。貴様以上の愚か者が出てその対処にてんてこ舞いだ、忌々しいテロリストめ」
「お、それって“ザ・ワールド”じゃん。エクストリーム・ゲームの動画見たことあるぜ。テロリストになったのか?」
本来なら一般ランナーに接触させない“ハンター”への調査と交戦を許可するお墨付きを実力込みで頂いたので、イーサンは素直に受けた。対ランナー部隊隊長の眉間の皺を深めさせている存在が別にもいるようで、机の上に浮かぶ立体映像の中身に見覚えがある。
“ザ・ワールド”と言えばエクストリーム・ゲームのカリスマ的存在でその動画再生数は常にトップであるが、最近はゲリラ的に正規軍の基地内でゲーム行って更には機密データまで盗み出して暴露するという行為を繰り返していて、ついには軍用の艦船型リグを強奪する事件まで起こして指名手配犯となっていた。
「奴が盗んだ船は旧式だからまだいいとして、尻尾を掴ませないゲリラ的行動には正規軍のお偉方はカンカンだ。監査局にも奴がランナーだから捕まえろと圧力をかけてくる有様なのだよ」
「そりゃ基地をめちゃめちゃにされて船まで盗られたとなると怒るよなー。でも真っ赤に膨れ上がった軍のお偉いさんは見てみたかったぜ」
「あぁ、あれは傑作だったな。奴も機密データでなくあの写真を流してくれれば溜飲が下がるのだがな」
キャシディが冗談を言うということはそれほど疲れているということなのだろう。“ハンター”に関する情報を纏めたデータがディスプレイに浮かぶので、それをヴィムに入れるため左の掌で触れてダウンロードしていった。監査局お抱えの諜報部員の働きも素晴らしいもので目撃場所から“ハンター”の中の人の候補者まで記載されている。しかしまた別のデータも中に収められていた。
「こっちにワールドのデータが入っちまってるぜ。混ざっちゃったみたいだな?」
「いや、それもお前に渡す。“ザ・ワールド”に関する事も頭に入れておけ、奴はそのカリスマ性で若者からの支持が厚いからな。同世代なら情報も入りやすいだろうし、何より貴様が仲間入りしても私は驚かん」
「おいおいひどいぜ、大将。とりあえず頭の片隅に入れておくよ、それじゃあこれからもよろしくな隊長さん」
「ああ以上だ。さっさと帰れ」
唐突に呼び出したのと同じように唐突に終わりを告げられたがいつもこうだから仕方ない。眉間の皺をほぐしながら書類仕事に戻ったキャシディはイーサンに視線を戻すことはなく、副官も早く帰れと言わんばかりに睨んでくるのだから、そそくさと退散するのだった。
次回は1/1に投稿予定です