黒鋼の天使は、自由の翼と共に   作:ドライ@厨房CQ

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CHAPTER 2-13

「あ、アレは一体……!?」

「コアを守る最終防衛装置っところかしら。どうやら倒さないと突破は無理そうね!」

 

 砕け散ったガラスの破片が降り注ぐ中、最後の壁がアズライトとニコルの前に姿を現す。割れた壁面とその欠片が一つに集まっていくと巨大な花弁へと姿を変えていき、まるでクリスタルを彫って作られたような透明感とストライダーを遥かに上回る巨体という異質さを醸し出していた。

 無機質で神々しさをもつ姿であるがガレリアから生み出されたものだから敵性存在に違いなく、それを示すように緩慢な動作で首を上げていくと花弁の中央が眩い光を放つ。攻撃動作を見た2人は回避へ移ると今まで立っていた場所に紫のレーザービームが通り過ぎ、レーヴァテインは反撃に移ろうとしたがカレットヴルフの背面が吹き飛ぶ爆炎を上げた。

 

「うわぁッ!?」

「ニコル!? 大丈夫!?」

「はい、なんとか……。でもどうして後ろから攻撃が?」

 

 乗っているニコルは無事であるが攻撃を受けた部分が大きく破損しており、移動は可能だが戦闘は難しそうでシールドに出力の全てを回して後方へ下がっていく。しかし死角から攻撃を受けた事実から伏兵がいるのではないかとアズライト警戒していると、再び結晶花より光線が放たれた。

 今度は一度の照射でなく単発のレーザービームを連射してきて弾幕は張っていくが、レーヴァテインは回避したりブレードで弾いていく。全てを受けきったところで後方より迫るレーザーを咄嗟に感知して機体を回転させながら光弾をギリギリで弾き、後方から撃ってきたものの正体にアズライトは気付いた。

 

「まさかこの結晶の欠片でレーザーを反射させてる? 厄介ね!」

 

 未だに空中を漂っている砕けた欠片が結晶花のレーザーを乱反射させて一度回避しても予想外のところから再び攻撃が飛んできており、カレットヴルフを戦闘不能にさせたのもこの反射なのだろう。

 つまりこのエリアそのものがガレリアの武器で状況的にはかなり不利になるが、アズライトは臆すること無く前へ進んでいく。花の周囲は結晶の欠片が薄くなっているのでレーザーの反射にある程度余裕ができて、何よりブレードが届く範囲に入っていけた。

 まっすぐに突き進んでくるレーヴァテインを前にしても結晶花は微動だにせず、オルゴンエネルギーの刃が迫っていく。ブレードが届く瞬間、床を突き破って結晶の蔦が伸びてきてブレードを受け止めた。更にしなやかで強靭な蔦がいくつも生えてきて不規則な振り回しにレーヴァテインは押されていき、そこへ間髪入れず花弁が光り始める。

 

「チッ、遠近隙がないってのはこういうことね!」

「アズライトさん、こちらでヤツの動きをシミュレートします! 攻撃に集中してください!」

「ありがとう、いくわよ!」

 

 後方で待機していたニコルはシールドで身を守っていたが結晶花は歯牙にも掛けられていない様子であり、そこを逆手に取ってそれまで最大だったシールド出力を下げて代わりにセンサー類をフル稼働させてその動きの徴候や弱点を探っていた。蔦と乱反射レーザーをなんとか捌いていたレーヴァテインへデータリンク行い、それに後押しを受けたアズライトは再び結晶花へ向かって突撃していく。

 データリンクさせたディスプレイには結晶花からの攻撃予測が映し出されて、しかし時間にして1秒も満たない短い時間しか猶予がなかった。それでもリンクを最大まで高めて自らの身体を動かすような微細な操縦で機体を翻しながら、ついに懐へ飛び込んだレーヴァテインより伸びる2本の光刃が花弁を横薙ぎに斬り裂く。

 

「これは、結晶の破片!? 厄介な!」

「反応増大、これは超速再生!? なんて奴だ!」

 

 切り裂かれた花弁はゆっくりと落ちて砕けるのだが、その時撒き散らされた破片がレーヴァテインへ降り注いだ。シールドを張っていているが高密度なガレリアで構成されたそれらと打ち消しあってシールドが強制的に剥がされてしまい、更にセンサー類まで狂わされて予測データがあやふやになっていく。

 幸いメインカメラは無事でモニター自体に問題はないが、五感でいうところの視覚以外を奪われてしまった状態で結晶花は砕けたはずの花弁を再生させてレーザーを撃ち出してくる。こうなれば防御は無視してアズライトは発射寸前の花弁の中へ捨て身の吶喊を行った。

 

「これなら、再生できないはずでしょ!」

「アズライトさん無茶だ、離れて!」

 

 花弁の中でぶつかり合う高濃度なオルゴンとガレリアにより、溢れたエネルギーが周囲を破壊していく。突き立てられたブレードの発振器から伸ばして両腕より悲鳴を上げるように警告音が響いて損傷率が上がっていき、同じく結晶花の花弁も耐えきれずに砕けては再生して元に戻すを繰り返していた。

 多少の損壊では再生されてしまう、そう考えたアズライトは攻撃の直前に飛び込んでエネルギーの暴発による完全破壊を目指してさらにレーヴァテインの両腕を突き立てる。花の半分のところまで身を乗り出して奥より吐き出されるエネルギーをクロスさせたブレードで受け止めながら、更に突き進んでいった。

 そしてついに限界を迎えた結晶花はその身にストライダーをすっぽり飲み込みながら、自ら放ったエネルギーの暴走に耐えきれず自壊していく。全身がひび割れて砕ける刹那、膨大なエネルギーが火の柱となって伸びて天蓋を突き破って結晶の部屋を、そして爆心地にいたレーヴァテインごと全てを吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

 

「ん、センサーには反応あったが…… まーそれよりこの先だな!」

 

 今もガレリアを吐き出し続けているプラットフォームの上空では今も他のランナー達が制空戦型ガレリアとドッグファイトを繰り広げており、そこから離れたイーサンはプラットフォームの表面を飛びながら深く刻まれた溝の中へ突入していく。

 空戦においてストライダーは1機で2桁のガレリアを落とすキルレシオを叩き出し続けているが依然として数の不利を覆しきれておらず、発射口か発生源と思われるオブジェクトがある表面の深い谷を進んでいた。

 

「やっぱ、簡単には通してくれねえか。だがッ!」

 

 垂直に切り立った崖はストライダーが全速で飛んでも余裕があるほど広いがガレリアの姿は見当たらず、代わりに対空砲や大型砲塔がハリネズミのような密集陣形で並んでいる。そして入り込んできた不埒な侵入者に向けて数え切れない砲塔が一斉に火を吹いて、レーザー砲弾の壁といえる超濃密な弾幕を瞬く間に展開された。

 対するイーサンもスピードを緩めるどころか更に加速しながらレーザーの暴威の中へ突っ込んでいき、翼を畳んで弾幕の僅かな隙間に入りこんで微細なスラスターと主翼の動作で抜けていく。お返しとばかりに前方に並ぶ砲座に向けてミサイルの雨を叩き込み、ガレリアの再生力ですぐに元通りになるが弾幕が途切れた短い時間を逃さなかった。

 

「へっ、オレを落としたいならこの100倍は持ってきやがれ! あれが目標だな!」

 

 砲座が大量に並んだエリアを抜けて射程圏外に出ると機首方向の先にぽっかりと開いた大穴が見えてきて、高濃度のガレリアクラウドが放出されることから空戦型の発射口で間違いないだろう。距離を詰めながら対艦用ミサイルに切り替えてロックオンサイトを展開させ、後方からは対空陣地で止めれなかったからか急遽駆り出されたスカベンジャーの3機編隊が迫ってくる。

 どうにか足を止めようとレーザーやミサイルが後ろからいくつも飛んでくるが、迎撃用マイクロミサイルを撒き散らせて相殺させてそれでも迫る攻撃をバレルロールで避けていった。射程距離に入った所で2発の対艦ミサイルが撃ち出されて前面にエネルギーの膜を展開させながら大穴へ飛び込んでいき、ネクサスが上を通り過ぎた直後に盛大な爆炎が吹き出して追いかけてスカベンジャー達が飲み込まれる。

 

「よっしゃ! 見たかオレの超絶爆撃を!」

『ああ、よくやった! 空戦型の数がこころなしか減ってきた、……が、どうやらガレリア共を怒らせちまったみたいだなデアデビル』

「まったく、遅すぎるぐらいだぜ。オレとネクサスはいつだって爆心地だぜ!」

『すまんがこっちは空中戦で手一杯だ。自力でなんとかしてくれって、聞いちゃいないなあの大馬鹿野郎は……』

 

 ピンポイントで発射口を吹き飛ばしたイーサンは拳を突き上げて上空のランナーからも歓声があがるが、正面から大型ミサイルを叩き込まれてネクサスを最優先目標と判断してかガレリアが大編隊を組んで現れた。さらに左右にそびえるが崖から先程よりも数が増えた対空砲の群れも生えてきて一斉に黒い機影へ向かって砲火を集中させていく。

 たった1機に対する攻撃にしてはあまりに過剰な火力集中にただ見守るしか出来ないランナー達から歯痒さを滲ませてうめき声が漏れるも、その爆心地にいるネクサスよりオープンチャンネルで響いたのはどこまでも楽しそうなイーサンの高笑いだった。

 

 

 

 

 

「フムン、どうやら上は佳境みたいだな。出口を探して彷徨うことはないか」

「どうしたんですか、佳境って? あ、もしかして外でなにかあったんだ」

「ご明察だ千景君。私の予想よりだいぶ早かったが、君の友人達は優秀のようだね」

 

 ガレリアを避けながらワールドとともに狭い道を進んでいた千景であったが、不意に彼が足を止めて天井を見上げながらその向こうを覗くような仕草をとる。同じように顔を上げてみたが黒い天井があるだけでなにかを感じ取ることは出来なかったが、その言葉から外における戦いの流れが変わったことを察した。

 ワールドが感じたものによるとこの空中プラットフォームでのの戦いはランナー達に軍配が上がったようであり、このまま脱出口を探すよりもスターファイターが座礁している元の場所へ戻ったほうが良いと提案する。

 

「では君のストライダーのとこまで戻ろうか、時間もあまりなさそうだし」

「戻るって、出口を探すんじゃなかったんですか?」

「ああ、出口を見つける前に君の仲間達がここのコアを破壊するだろう。そうなればここは分解するからストライダーで一気に飛び出した方が早いからな」

「そうですか……。でもなんで分かるんですか、なにか外と交信してるようには見えなかったんですが、透視なのかなぁ」

 

 ワールドの先導とデルに記憶したマップデータを頼りに元来た道を引き返していくが、まるで直接目にしているかのように外の状況をリアルタイムで伝える男の能力に千景は興味を惹かれた。考えられるものとしたら遠くを見通す千里眼がワールドのランナーとしての固有能力なのかもしれないし、外にいる味方と通信機なしで交信できる能力という線もある。

 うんうんと唸る少年を横目に見ながら楽しげに笑う張本人は答えを求める無言の視線を受けて、口元に指を置いて秘密だとジェスチャーで示した。大人げないその仕草に千景はため息を漏らしつつもたぶんそうだろうと予測は少し出来ており、この道中で“ザ・ワールド”という男を多少は理解出来たのかもしれない。

 

「悪いが私の能力に関しては秘密でね。まっ、稀代のテロリストらしくていいだろう?」

「なんで楽しそうなんですか……。言いたくないなら仕方ないですよ」

「理解してくれてありがとう、ただ一つ教えてもいい方法があるんだ。それは……」

 

 そこで足を止めるとワールドは大きく身を翻しながら千景の方へ向き、芝居ががった大仰な動作と言い回しで手を差し出した。

 

「放上千景君、我々『ヴィジランズ』の仲間にならないか!」


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