俺、上杉風太郎は、林間学校の最終日に五つ子全員から告白をされた。そして、俺はその中から一花を選び、恋人同士となったのだった。
一花と付き合うことを他の4人に伝えたとき、4人の反応は様々であったが、俺との関係は明らかにおかしくなってしまった。そこからニ乃、三玖、四葉の三人と話し合い、なんとか友人関係が元通りになったのである。
え?五月はどうしたって?アイツはパピコを半分渡したら上機嫌に「私たちは親友ですね」と言ってくれた。五月なりに気遣ってくれたのだろう。
とにかくなんだかんだあり、一花との待ちに待った初デートは付き合ってから2週間後となってしまった。
3日後、駅前に10時集合。
そう一花と約束してからの3日間は、これまでで一番長く感じる3日間であった。まあ、3日間単位で考えたことがなかったが。
「(にしても、早く来すぎたか…)」
時計を見ると8時50分。待ち合わせよりも1時間以上も早く来てしまった。
別に楽しみで早く来たわけではない。大事なことなので2回言おう、別に楽しみで早く来たわけではない。
まあ、確かにちょっとは楽しみかもしれないが……。ちょっとだけだ。
自分のツンデレぶりに呆れつつも、辺りを見渡すと、驚くことにもう一花が駅前のベンチに座っていた。
しかし、鏡を見て髪をいじったり、突然笑顔になったりと不審な行動をしている。自称お姉さん(笑)である。
数10秒眺めていると、流石にこちらに気がついたのか真っ赤になった一花が俺に近づいてきた。
「もう、来てたなら声かけてよフータロー君。恥ずかしいとか見られちゃったじゃん」
「まあ俺は一花の可愛いとこが見れて良かったよ。って、何言ってんだ俺……」
「……あ、ありがと」
「「……」」
なんだこれ、恥ずかしい。
お互い顔を真っ赤にして立ち尽くしていると、周りの視線に耐えられなかったのか、一花が焦った様子で喋り出した。
「ま、まあ、とりあえず行こっか。今日のデートはこの一花お姉さんにまかせて!」
「ああ」
一花の予定では、午前中に3ヶ所周りいい感じに小腹が空いたところで人気のカフェに行き、食事をするはずだった。
だったのだが、何もかもがうまくいかず最悪なデートになってしまっていた。
最初映画館に向かった。バスに乗って行こうとしたのだが、なかなか来なかったので確認してみたところ、今日は日曜日なのに一花は平日の時刻表を調べていたのだ。
結局歩いて行くことになり、見る予定だった映画も既に上映済み。替わりに見た『おっさんずハグ』という映画も何度もおっさん達がボディービルの大会で抱き合うという酷い内容のものだった。ちなみにこの映画の決め台詞は「上腕二頭筋と同じぐらい愛してる」だ。ノーコメント。
その後は、時間が予定よりも大きく押していたため、次に行く予定だった駿河屋は断念することになり、向かったのは水族館だったのだが、ここもかなり酷かった。改装中だったため魚は1匹もいなかったのだ。もう閉館すればいいのに。
俺たちはわかめやもなどを見て周った。
最初は「意外とわかめも可愛いね」とか「出汁出てるのかな」とか言って盛り上げてようとしていた一花だったが、終盤は「ももももももも」と1人で呟きながら歩いていた。
気を取り直して、次に行こうと俺が提案すると、一花は呪文を唱えるのをやめ「カフェのサンドイッチ絶対美味しいから楽しみにしててよ」と言い何とか正気を取り戻した。カフェに向かう途中、例のごとくバスは来なかったがそれでも3キロの道のりを2人で歩き、ついにカフェに着いたのだった。ちなみに店は休業。
「本当にごめんねフータロー君。これじゃあデートぶち壊しだよね。あはは」
「そんなことはない。俺はその、……一花と一緒ならそれで幸せだ」
「ふ、フータロー君!?」
一花の顔がみるみる赤くなっていく。当然俺の顔はもう真っ赤だ。
「ありがとねフータロー君。励ましてくれて」
「ああ」
「「……」」
気まずいと感じたのか一花があわてて話しを振ってくる。
「これからどうしよっか」
「ここからは俺に任せてくれないか?」
「別にいいけど行きたいところでもあるの?」
「まあな」
「じゃあエスコートよろしくねフータロー君」
少し申し訳なさそうに一花が笑顔になる。俺は恥ずかしくなり、無言で歩き出すと今度は口を膨らませて怒った表情をする。
「ちょっと待ってよフータロー君」
「ああ、悪い」
可愛い人はどんな表情でも可愛い。今日からこれをモットーにして生きよう。俺が人生最大の決断をした横で一花が疑問を浮かべていた。
「どうしたんだ?」
「どこ行こうとしてるのかなって」
「駿河屋だけど」
「え?」
「もちろん先に昼ご飯は食べるぞ」
「そういうことじゃなくて!」
一花が心底驚いた顔をした。なにこの子、さっきは自分が言ってたのに。なんで驚いてんだ?なんで驚いた顔も可愛いんだ?
「いやフータロー君?確かに私も駿河屋って言ったけどさ」
「まあ任せてくれ」
俺はドヤ顔で親指を立てた。
こっからは俺のターンだ。ドロー。
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