私、中野二乃は恋愛において決めていることがある。それは、絶対に引かないこと。後悔だけはしないように攻めて攻めて攻めまくる。
それが私だから。それこそが私だから。
もともと、フーくんと付き合えたのも、5姉妹の中で私が最初に1度目の告白をしたというのが大きかったと思っている。
だから、フーくんがいつ他の子を好きになってもおかしくないし、いつ嫌われてもおかしくない。
捨てられるのが怖かった。捨てられたくなかった。
私だけを見てもらうために、私は積極的に動いて京都まで来た。
2泊3日の京都デート。
フーくんには私をもっと好きになってほしい。一花でも三玖でも四葉でも五月でも他の誰でもなく私だけを。
攻めて攻めて攻めまくる。私はそう決意し、フーくんと共に伏見稲荷大社に向かった。
手織り寿司屋さんを出てから数十分移動をして伏見稲荷大社に到着した。
綺麗な赤色の鳥居が奥までずっと並んでいた。
「ねえ見て!鳥居がいっぱいあって綺麗だわ」
「すげえな……」
フーくんは感嘆の声を漏らした。
私はフーくんに気づかれないようほっと息をついた。よかった、喜んでくれてる。
いや、こんなことで安心してる時間は私にはない。
もっと攻めていかなきゃ。
「フーくん。一緒に写真撮りましょ」
「お、おお!いつの間に一眼レフのカメラを」
「ふふーん。準備は怠らないわ」
私は写真を撮ることを口実にフーくんに体を密着させた。
するとフーくんは、あからさまにたじろぎはじめた。
「二乃、近すぎないか……」
「だ、だってちゃんと写らないでしょ」
「だけど、いろいろあたって……」
フーくんは恥ずかしがっているが、これも作戦通り。私だって恥ずかしい、恥ずかしいけど、それでもフーくんには私の魅力を感じてほしいから。
私は控え気味にシャッターを切る。
「よし。じゃあ早く行くぞ」
写真を撮ると素早く私と体を離し、歩き出そうとした。
でも手は繋いだまま離さないでくれている。
私はフーくんのこういう優しいところが好きで好きでたまらない。
「ちょっとフーくん引っ張らないでよ」
「わ、悪い」
「もしかして照れてるの」
「べ、べつにそういうわけじゃ……」
「また照れてる」
「……」
いじられて怒っているのか、無言でそっぽを向いてしまった。
そんな怒っているフーくんも可愛い。
そんなことを思いながら再び歩き出した。
それからしばらく会話は無く、静かに千本鳥居の下を歩いた。でも不思議と嫌な沈黙ではなかった。
むしろ心地よい、親しい関係だからこそ、分かり合っているからこその沈黙。
そんな沈黙を破ったのはもちろん私だ。私の目標は攻めること、心地よい沈黙でも今の私には必要ない。
「フーくんってさ、他の4人のことどう思ってるの」
「そうだな……」
フーくんは口に手をあてて真剣に悩み出し、千本鳥居も終盤に差し掛かろうとしていたところで、何かを思いついたのか顔を上げて口を開いた。
「あいつらは人生の先生だな」
「人生の先生?どういうこと」
「俺はあいつらと出会わなかったら、友達なんか出来なかっただろうし、社会に適合もできなかっただろうしな。まあ、俺が勉強を教えてやってる代わりに、大切なものを貰ってるってことだ」
今日初めて見たフーくんの真面目な顔。私が1番好きな顔だ。
フーくんが真面目に私たち5姉妹のことを想ってくれるから。
「じゃあ、私のことは?」
「え?お前も同じだぞ」
「でも彼女なんだしーー」
「まあ二乃はお互いに支え合う同僚か」
フーくんは小さな声でポツリと呟いた。聞こえないような声だったが、聞き逃すはずがなかった。
お互いに支え合う、それが恋人とそれ以外の人との差。
素直に嬉しかった。フーくんはちゃんと私を恋人として他の人との線を引いてくれていたのだ。
「フーくん?同僚じゃなくてそこは家族でしょ」
「……聞こえてたのか」
「ナニモキコエナイー。ほら、次の場所に行くわよ」
「ちょまてよ」
「キ◯タクか!」
それから、さらに数カ所の観光スポットを周り、クタクタになってホテルに到着した。
某有名ホテル。外見も派手で高級そうな雰囲気を漂わせている。
「おいおい、なんだこのホテル」
「すごいでしょ。頑張って予約したんだから」
「ほんと悪いな何から何まで」
「いいわよ。私たちはもう家族なんだし」
「家族にはなってないぞ!?」
クタクタなはずのフーくんのツッコミのキレに感心しつつ、私たちはホテルに入った。
外見どころかロビーも廊下も部屋もトイレも何から何まで高級オーラが漂っていた。
「おい二乃見てみろ!琵琶湖がすごい綺麗だぞ」
「私たちのこの部屋は23階だから景色もいいのよ」
「は?今、私たちのこの部屋って言ったか?」
フーくんが驚いて質問をしてきた。
「言ったけど」
「え?同じ部屋なのか。だってベット1つしかないぞ」
「カップルなんだしいいじゃない。それよりお風呂に行くわよ」
「おいおい!」
「ナニモキコエナイー」
私が聞こえないフリをしてお風呂に向かうと、フーくんはしぶしぶといった表情でついてきた。
まだまだこんなの序の口だ。もっと攻めてやる。
「おいおい。なんで手繋いだままなんだ。脱衣所いけないだろ」
「心配ないわ。脱衣所一緒だから」
そこには、男とも女とも書かれていない脱衣所看板があった。
「は?」
「このホテルは部屋ごとにお風呂の時間が決まってるの。だから混浴もできるのよ」
「こ、混浴!?に、二乃は恥ずかしくないのかよ……」
「恥ずかしいけど、フーくんならいいよ……」
「二乃」
「フーくん」
「でも恥ずかしいから脱衣所では見ないでね」
「なんでやねん!!」
フーくんの芸能人もビックリなキレのあるツッコミから少し経ち、私たちは2人でお風呂に入っていた。
「いやー、いい湯だな」
「今日色んなところ行って疲れたわね」
「いやー、いい湯だな」
「伏見稲荷大社の千本鳥居も綺麗だったわね」
「いやー、いい湯だな」
フーくんは緊張で完全に壊れていた。
何を話しても「いやー、いい湯だな」しか返してくれない。
逆に言うとフーくんは私の体を意識してるってことだ。つまり攻めるチャンス。
「フーくん。いいんだよもっと近くに来ても」
「だ、大丈夫だ」
急に真顔になって答えた。フーくんの真面目さは時にあだとなるのかもしれない。
「フーくんは私の裸を見ても興奮しないの?」
「し、しなくもない、……な」
「だったらさ、2人きりだし、フーくんのしたいことしていいんだよ」
「し、シタいこと!?いやまて、そんなこと、したくなくなくないが、だが、……そ、そうだ、部屋でしよう」
「……やっぱり最初はベットがいいの?」
「それだと俺がめちゃくちゃシタい奴みたいに聞こえないか!?まあ、確かにシタいかもしれないが……」
「わかったわ」
「何がわかったんだ!?」
「フーくんのエッチ」
お風呂から出た後は、夜ご飯を食べた。普段とは違い、様々な料理が出されたが、味はほとんど覚えていない。無心で食べ続け、部屋に戻った。
ついに、フーくんとひとつになる。ここまで頑張って攻めた自分を褒めたい。
とりあえず私たちはベットに入っていった。それから電気を消して、そして……
「……フーくん、来て」
「……」
「焦らさないでよフーくん」
「……」
いくら話しかけても返事がなかった。
「フーくん?」
「Zzzzzz」
「ね、寝てる……」
そういえば私もクタクタだ。三玖と同じくらいしな体力のないフーくんは限界を超えていたのだろう。
私はがっかりしつつも、なぜか安らかな気持ちで眠りについた。
こうして、私たちの京都旅行の1日目は終わった。
私とフーくんのカップルは、大事なところでうまくいかない。それでもめげないで頑張ろう。
また明日がある。明日こそは攻めて攻めて攻めまくろうと夢の中で私は誓ったのだった。
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