私、中野三玖はスーパーで買った食材を並べながら意気込んだ。絶対に美味しい料理を作ってやると。
買ってきた食材は、ナス、ピーマン、豚ひき肉、キャベツなど全部で9種類。これで今から料理を作る。
私は1人で燃えていた。
なぜこんなに張り切っているのか、それには理由があった。
今日のデートは日常を過ごしたいとフータローには言ったが、私には1つだけ目標があったからだ。それは、フータローに料理を褒めてもらうこと。私はただ一言、美味しいとだけフータローに言ってもらいたいのだ。
「頑張ろう」
私は、フータローには聞こえないように小さく宣言をする。
だが、気になってそっとフータローの方を見てしまう。
フータローはいつのまにか眠っていた。
そんな姿を見ているだけで安心する自分がいる。
好きな人を見ながら好きな人のために料理をする。私にとって最高の時間なのかもしれない。フータローの寝顔も見れたし。
しかし、そんなことを長く考えているほどの暇はなく、私は焦って料理に取り掛かった。
今回作るのは麻婆茄子と味噌汁とサバ缶サラダの3皿。フータローに喜んでもらうために絶対に失敗はできなかった。
失敗はできなかったのに……。
料理を始めるやいなや、いきなり野菜をうまく切れずに苦戦。さらに調味料を入れる量を間違えてしまい麻婆茄子はすごくしょっぱくなり、挙げ句の果てには目を離しているうちに麻婆茄子がまるこげになってしまった。
「……なにこれ」
開始から1時間後、料理が完成したはずがお皿には黒い物体のみが乗っかっていた。しかも変な匂いがする。
「ん?おお、できたのか」
変な匂いに釣られてか、フータローが起きてきた。
でも、こんなものをフータローこのに見せるわけにはいかない。私は焦りながら言い訳を考えたが……
「これは違う」
「なにが違うんだ?」
「…………」
その問いに対して、いい答えは出てこなかった。
「……失敗しちゃったから、これは捨ててもう1回やり直す」
「捨てるなんてもったいないだろ。それに俺は、その黒い物体で満足だ」
「でも……」
「ほら、机に運ぶぞ」
嬉しそうにフータローは料理を運んだ。
フータローは絶対無理をしている。私のためにしてくれている。
そう思うと私は罪悪感に襲われた。でも、嬉しさもあった。
私のために。
結局、フータローに説得され、私とフータローは失敗した料理を食べることになった。
「いただきます」
「や、やっぱりやめたほうが……」
「心配すんなって、……ぐは!?」
料理がフータローの口に入ったのと同時にフータローは悲鳴のような声をあげ顔色が悪くなる。
「フータロー大丈夫!?」
「あ、ああ、問題ない。結構美味いぞこれ」
「嘘つかなくてもいい」
「本当だって。もう一口、……ぐふっ!?」
再びフータローが悲鳴をあげる。
なんで?なんでそんなにフータローは、私のために体を張って食べてくれるのだろうか。いくらなんでも見てられない。
私は立ち上がり料理を持って行こうとした。
「もういいよ。捨ててくる」
「待てよ三玖。俺は本当に美味いと思って食べてるぞ?」
フータローはそう言って私を引き止めて微笑んだ。
「嘘」
「まあ聞けって」
顔色が戻ってきたフータローは、自信に満ちた声で言った。
でも、いくらフォローしてくれてももう遅い。フータローに心から美味しいって言ってもらえる料理は作れなかったんだ。
私が人に料理を出すのはまだ早かった。
もういい。なにを言われても私は傷つくだけだ。フータローの優しさが私を追い詰める。
しかし、そんな私の気持ちはフータローに届くはずもなく、フータローは話を続ける。
「お前はなんで俺に料理を作ってくれたんだ」
それは、フータローに美味しいって言われたかったから。フータローに喜んでほしかったから。
そんなこと、今更言えるはずがなかった。
しかし、フータローは今度こそ私の心を読んだかのように言った。
「俺に喜んで欲しかったんだろ?だったら褒めてやるよ。すごく美味いよ」
「お世辞はいらない。フータローは気にしないでいい」
「お世辞じゃなくて本当だよ。本当に美味いよ三玖の作ってくれた料理は」
「でも悲鳴あげてた」
「ああ、だからな」とフータローは前置きをしてもう1度料理を食べた。そして再び悲鳴をあげながら言った。
「うぐ!?、た、たしかに味は不味い」
「だから、もうそれは……」
捨てよう。そう言おうとしたところをフータローは遮って話を続けた。
「でもな、味は不味くても三玖が俺のために作ってくれたっていう事実があれば、もうこの料理は美味いんだよ。味は不味いが料理は美味い」
そう言うとフータローは私を見つめ、答えを待った。だから、私はフータローを見つめ直し、そして、答えた。
「意味わかんない」
「え!?そ、そうか?」
さっきの自信はどこへやら、フータローは「マジか」という顔をしてしょんぼりしてしまった。
「でもフータロー」
「ん?」
フータローが美味しいって言ってくれただけで私はすごく嬉しい。今私は最高に幸せだ。だから、だから私は心を込めて言った。
「ありがとう」
「お、おお」
フータローの顔が真っ赤になった。たぶん私の顔も真っ赤になっている。
2人きりのこの部屋には今、恥ずかしくて心地よい雰囲気が流れている。
照れ隠しかのためか、頭をかきながらフータローは言った。
「それに料理作る前にお前言ってただろ『これは妻の仕事だから』って。だから、妻が作ってくれた料理はどんだけ不味くても食べるのが夫の仕事だろ」
「そっか」
「ああ」
「「…………」」
私たちは照れ臭くて沈黙してしまった。
それが気まずいと思ったのかフータローは、今度は焦りながら早口で言った。
「わ、わかったのなら冷める前に食べるぞ」
「でもやっぱり食べなくていい」
「な、なんでだ?」
「フータローには味も美味しいものを食べてほい」
「だからって……」
「大丈夫。次のデートまでには美味しい料理作れるようになるから。だから待ってて」
今できる限りの満面の笑みで私は言う。
この言葉に反応してフータローは少しだけうなずいた。
そして私たちは、私の失敗した料理を諦め出前を頼むことにした。
これでいい。今日ダメなら明日があるから。私とフータローの日常はこれからも続いていくから。
だから何年先かは分からないけど、いつか私たちが夫婦になった時、今度こそ味も美味しいと言ってもらえるぐらい料理を上手くなろう。
私は1人密かに誓ったのだった。
よろしければアドバイスなどお願いします。