俺、上杉風太郎は、林間学校の最終日に五つ子全員から告白をされた。そして、俺はその中から四葉を選び、恋人同士となったのだった。
最初のデートは、恋人たちにとって特別なイベントである。
それは、俺と四葉にとっても例外ではなかった。そのため、俺は場所を決めかねていた。
しかし、四葉から遊園地がいいという強い要望があり、最初のデートは遊園地になった。
そして当日。最寄り駅前のコンビニに待ち合わせをしていたのだが、
「遅い。もう10時だぞ」
『9時集合です。遅れないでくださいね!』とメールを送ってきたあの日の四葉はどこへ行ってしまったのか。
あれだな、天国に行ったのかもしれないな。俺の彼女天使だし。そうなると彼氏である俺も天使なのかもしれない。大天使フタエル。
暇つぶしも兼ねて、そんなくだらない妄想をしていると、突然天使に声を掛けられた。マイエンジェル四葉ついに降臨。
「うーえすーぎさーん」
大きく手を振りながら俺に近づいてきた。今日もニコニコだ。可愛い。
「おう、やっと来たか」
俺は少しだけドスの効いた声で言う。別に怒っているわけではない。
しかし、俺の声にビビったのか、四葉は恐る恐るといった様子で質問をした。
「ま、待ちました?」
「待った。1時間待った」
「あはははは。す、すいません遅刻しちゃって」
勢いよく頭を下げる四葉を見て、やっぱり頭の上に天使の輪は付いてないんだなと、どうでもいいことを思いつつ俺はそっと四葉の手を握った。
「う、上杉さん!?」
「ほら、行くぞ」
こうして俺と四葉の初デートが始まった。1時間遅れで。
それから、さらに1時間電車に揺られ、目的地である横浜コスモスワールドに到着した。
ここは日本でも有数の広さで「子供だけでなく大人も楽しめる乗り物がいっぱい!!」というフレーズでお馴染みのテーマパーク。
なんと言っても目玉は、超巨大ジェットコースター「キオトン」だ。名前の由来は、これに乗ったら恐怖で記憶が吹っ飛ぶかららしい。
四葉はキオトンを見るとすぐに繋いでいた俺の手を引っ張って口を開いた。
「上杉さん、あれ乗りましょう!」
「わかった。じゃあ行くか」
「はい!」
俺たちは30分ほど並んだ後、お姉さんの説明を聞きながらキオトンに乗った。
ちなみに並んでいる時、四葉はずっと「楽しめですね〜」と言って笑顔だった。めんこい。
「いよいよですね上杉さん」
「おお、結構高いな」
今、ちょうど1番高い場所。ここからコースターが落下していくのだが、これ、多分やばい。
何がやばいって、乗ってみたらわかるのだが高さが異常だ。しかも落ちる角度が急すぎて前のレールが見えない。
俺の彼女たる四葉は、それはもう楽しそうに乗っているため彼氏の俺が怖いなんて言えなかった。
「落ちますよ上杉さん」
「ははは」
俺の苦笑いが合図となったのか(そんなわけない)、ジェットコースターは急激に角度を変え、落ちていく。
「楽しいですね上杉さあああぁぁぁん!!」
「うわあああぁぁぁぁ!!!」
そこからジェットコースターは落ちたり上がったり、不意に回転したりと大忙しだった。主に俺のリアクションが。
なんか体の体液という体液が全部飛んでいった気がする。
しかも、ジェットコースターから降りたときには、記憶が曖昧になっていた。キオトン乗ってみたーい。
フラフラしていた俺を心配そうに見た四葉は、お茶の入ったペットボトルを俺に差し出した。
「大丈夫ですか上杉さん?お茶飲みますか?」
「あ、ああ。悪い」
四葉からもらったお茶を俺は勢いよく飲もうとしたが、ふと思ってしまった。
これ、間接キスになるんじゃないか。
ペットボトルを確認すると蓋は開いており、お茶も少しだけ減っていた。
このお茶は確実に四葉が1度飲んでいる。
だが、何も恥ずかしがることはない。もう俺と四葉は付き合っているんだ、間接キスくらいなんでもない。
自分にそう言い聞かせペットボトルに口をつけた。
間接キスを意識して恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしたのは俺、ではなく以外にも四葉だった。
「う、上杉さん。それ、私が先に少しだけ飲んじゃってたやつでした。ごめんなさい、か、間接キスに、うぅ」
「いや、別に大丈夫だぞ」
「き、気にしないんですか?」
上目遣いで四葉は言った。しかも顔はまだほんのり赤い。四葉 is スーパーウルトラミラクル天使。
やっぱり天使の輪が付いてるんじゃないか。
そんな妄想をしていると、四葉は、今度は俺を心配そうに見つめた。
やばい、何か言わなくては。
「俺はいつも四葉とのキスを妄想してるからな」
ミスったあああぁぁぁ!!
俺は焦って変なカミングアウトをしてしまった。
四葉はというと、俺が見たことがないような顔をして「はわわわわ」と言っていた。
「上杉さんは私とキスしたいんですか?」
小さく呟くように四葉は言った。
キスはしたいに決まっている。だがしかしだ。今、正直にそうやって言うことが正解なんだろうかと考えてしまう。
なぜなら、周りで俺たちを見ているやつが何人かいた。ニヤニヤと。
やっぱり、ここでキスする流れになるのはまずい。ていうか恥ずい。
「……したい」
しかし、俺の本能が勝ってしまった。9:1の圧勝だ。
嘘は駄目だからな、うん。
というか、天使の前で嘘はつけなかった。しょうがないさ、人間だもの。
「そ、そうですか。上杉さんがそう言うなら……」
四葉はモジモジしながらも目を瞑って顔を上げた。
やばい、キスの流れだ。
今なら四葉にキスができる。……ただし、くそギャラリーがいなければ。
「よ、四葉?もう1度乗ろうかキオトン。な?」
最善の一手を打った、……はずだった。
しかし、四葉は怒ったようながっかりしたような、どっちとも言えない顔をしていた。
「むー、意気地なし」
「わ、悪い。でもほら、みんな見てるし」
「いーですよーだ。もう1回乗りましょうキオトン。ふん。」
四葉は俺の手を、ここに来た時とは違い荒々しく引っ張る。
それを見て「怒らせた〜」とギャラリーの1人が笑った。おいコラ。
俺らは、もう1度キオトン待ちの列に並んだ。
しかし、四葉の機嫌は直っていないらしく頬を膨らませて終始むすっとしていた。
かくいう俺も、並んでいるうちに忘れていたキオトンの恐怖を思い出したため、足が震えてしまい四葉どころじゃなくなっていた。
結局、俺らに会話は無く、そのままキオトンに乗る。
「な、なあ。まだ怒ってるのか?」
ジェットコースターの1番高い場所、つまり落下する直前に俺は四葉に恐る恐る聞く。
ちなみにこれは、大きな恐怖の前だと小さな恐怖はなんともない作戦である。
「別に怒ってませんよーだ」
四葉は明後日の方向を見ながら言った。
どうやら機嫌はなかなか直らないらしい。
なら、俺は恥を捨てて言うしかない、四葉の機嫌を直すために。
「あの、四葉、……さん?」
「なんですか?」
「後で2人きりになったら……」
「なったら?」
「キスしよう」と俺が言おうとした瞬間、キオトンが俺に牙を向いた。ここでまさかの急降下。
「キスしようううぅぅぅぅ!!!」
俺は、ジェットコースターに乗りながらキス宣言をしたのだった。
「上杉さーん?大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
キオトンから降りてから5分ほどが経っていた。
どうやら四葉の機嫌は直ったようだった。
その証拠に四葉は、俺のために走って水を買ってきてくれた。
ん?でもなんで四葉は怒っていたんだ?なんで四葉の機嫌は直ったんだ?
俺はキオトンに乗る前後の記憶が曖昧になっていた。
まあ、四葉が楽しいならそれでいいか。
俺は1人で納得し、安心した時だった。
「キス期待してますからね」
四葉は笑顔でそう言った。
キス。
その言葉で、俺は思い出した。
そうだ、ジェットコースターに乗りながら叫んだんだ。
「キスしよう」って。さて、どうしたもんか。
それから、俺と四葉はコーヒーカップやメリーゴーランドなど様々なアトラクションに乗った。なんでも、四葉は全てのアトラクションを制覇するのが目標らしい。
コーヒーカップに乗っている時も、並んでいる時も、俺の視線は四葉の唇に集まった。
どこでどうやってどのようにキスをするか。俺はそのことで頭がいっぱいだった。
気がつくともう昼の12時を過ぎており、俺たちは四葉が作ったおにぎりを食べながら休憩した。
そこで俺は1つ思いついた。キスをする絶好のスポットを。ベタかもしれないがあそこしかない。
俺たちは、俺が四葉に1つ提案をしてから、アトラクション巡りを再開したのだった。