今日は私、中野四葉にとって上杉さんとの大切な初デート。なのに私は失敗ばかりだった。
まず最初の失敗は遅刻をしたこと。
上杉さんには、ずっと私を見てもらいたかった。だから1時間かけて服を選んだ。それで、気がつくともう9時半を過ぎていた。
遅刻なんて最低だ。優しい上杉さんも怒っているように見えた。
2つ目の失敗はキスをせがんだこと。
私たちを見てる人が何人もいた。それに気づいていたにも関わらず、私は上杉さんにキスをせがんだ。もちろん断られた。当たり前だ。
3つ目はキスをしてもらえなくていじけたこと。
これが1番最悪だ。デートの雰囲気を壊してしまった。
私のデートは最悪だった。
でもそのかわり、楽しみも1つできた。それは、上杉さんがキスをすると約束をしてくれたこと。
お昼ご飯を食べているときに上杉さんから、観覧車は最後にしようと言われた。
つまり、観覧車で上杉さんがキスをしてくれる。
これが私の楽しみ。これだけは絶対に成功させる。
午後は失敗しないことにだけ気を配って過ごすんだ。
普通に過ごせばいい。変なことはしない。変に考えたりもしない。ただ上杉さんと楽しく過ごす。
そうやって自分に言い聞かせながら、いくつかのアトラクションを周った。
それから時刻は7時を過ぎ、広場ではパレードが行われ人が集まる時間帯となった。
私たちはその様子を見ながらある場所を目指した。
それはもちろん観覧車だ。
私の今日1番の楽しみはもうすぐそこにある。
観覧車に向かう途中、私たちは一言も喋らなかった。
それでも手だけは繋いでいた。
それだけで十分だ。
上杉さんの温かさを感じるから。上杉さんとの幸せを感じるから。
私たちは、そのまま観覧車に乗った。
私たちを歓迎するように観覧車は動き始める。少しずつゆったりと。
私たちはお互いに見つめ合ったまま動かない。
観覧車は頂上に少しずつゆったりと近づいていく。
それに反比例するように私の心臓が跳ね上がる。
ドキドキ、ドキドキ。
それでもやっぱり観覧車はゆったりと、だけども確実に上へ向かっていく。
もう少しで頂上だ、そう思った瞬間上杉さんが私の肩に手を置き顔を寄せた。
上杉さんの顔がすぐそこにある。大好きな人がすぐそばにいる。
嬉しい。
私は上杉さんが好きだ。そして、上杉さんは私が好きだ。
それだけですごく嬉しかった。たった2人だけの感情で私は幸せだった。
私はそっと目を閉じる。
今私はどんな顔をしているのだろうか。すごく笑顔かもしれない、ニヤけちゃっているかもしれない、緊張で変な顔をしてるかもしれない。
それでも、例え私がどんな顔をしていても、感情だけは1つだと強く確信する。
私は今すごく幸せ。それだけはわかる。
でも、幸せな時間は突然終わりを告げる。
上杉さんは私の肩から手を離し私の涙を拭った。
「……大丈夫か四葉」
「あはは……」
私は観覧車の中で泣いていた。
私と上杉さんの最初のデートで、私は失敗ばかりだ。
観覧車の中で私は再び思う。
4つ目の失敗は大事な場面で泣いてしまったこと。
この場の雰囲気を、上杉さんの勇気を、私の1番の楽しみを全て壊してしまった。
なんで泣いてしまったのかはわからない。
幸せな気持ちに嘘はないのに。それなのに……。
観覧車は無慈悲にも降りていく。私たちを待ってはくれない。
大切な時間は壊れ、過ぎる。
それでも私たちに会話はない。
無言。
さっきまでとは違う嫌な無言。
上杉さんは私が泣いた理由を聞きたいかもしれない。
それでも何も言わない。いや、言わないで待っててくれている。
これが私のために考えた答えなんだろう。上杉さんの優しさだ。
しかし、私の答えは出ないまま観覧車は止まった。
係員の人が退出を促す。それと同時に上杉さんは私に目で確認をする。
私はやっぱり声が出ない。このまま今日のデートは終わるかもしれない。
でも本当にそれでいいのだろうか。
ふと4人のことが頭に浮かんだ。
一花と五月は言っていた。
「私たちの分まで幸せに」と。
二玖と三玖は言っていた。
「幸せにならなきゃ許さない」と。
自分が不甲斐ない。4人は悔しくて悲しい気持ちを抑えて私を応援してくれたのに。
それなのに私は、このままデートを終わらせていいのだろうか。
いいはずがない。終われない。
私は決心した。
何か言わなきゃ。上杉さんに言わなきゃ。
そう思うと心が軽くなった気がした。
みんなが私に勇気をくれたのかもしれない。
だから意を決して私は言う。
「係員さん、もう一周だけお願いします!」
再び観覧車は上に向かって動き出した。
ゆったりとだけども確実に。
私は上杉さんを見つめた。
上杉さんと目が合う。でも上杉さんは何も言わない。ずっと待っててくれている。
だから、私が言わなきゃ。言わなきゃ。言わなきゃ。
「う、上杉さん」
「どうした」
優しい声で上杉さんが言った。
私はその声を聞いただけで心が軽くなる。
やっぱり私は上杉さんが好きだ。これは自信じゃなくて確信。誰に邪魔されても揺らがない私の大切な気持ち。
それを上杉さんに伝えたい。
「私、上杉さんが好きです」
「俺もお前が好きだ」
温かい言葉が心に染みる。上杉さんの言葉が私を幸せにする。
もし、私にも上杉さんを幸せにできる言葉があるのなら、その言葉を掛けてあげたい。
だから私は言葉をつむぐ。
「さっきはすいませんでした。突然泣いて変な空気にしてしまって」
「ああ」
「それに、その前も急にキスをせがんだりとかいじけちゃったりとか」
「別に気にしてない。ただし遅刻は気を付けろよ」
「は、はい。ごめんなさい」
「でもまあ今日のことは水に流して、明日からまたちょっとずつ歩いていけばいい。その、なんだ、ふ、2人で寄り添い合いながら……」
やっぱり上杉さんは優しい。優しく私を包んでくれる。私はその優しさに甘えてばかりだ。
でも今日はこれで終わりたくない。私は私の楽しみを諦めたくない。
「上杉さん目瞑ってください」
「目瞑れって、まさかお前キス……」
「いいから早く早く」
「お、おい、まだ心の準備が……」
もう少しで観覧車は頂上に行く。あと少し。
私は上杉さんの肩に手を置いて顔を近づける。
今度は泣きませんように。
そう願いながら顔を近づけていく。
上杉さんの鼻息を感じる。上杉さんも私の鼻息を感じているかもしれない。
やっぱり2回目でもこの距離は恥ずかしい。
上杉さんはどう思っているのだろう。
一緒にドキドキしてくれてたらいいな。
そう思いながら、私は唇を上杉さんの唇に重ねる。
「上杉さん、帰りましょうか」
私たちは観覧車から出ると、手を繋いで歩き始めた。2人で寄り添い合うように。
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