PROJECT HEALINGOOD THOUSER〈完結済〉 作:TAMZET
Episode1:From21to1
少女、キュアグレースこと花寺 のどかは困惑していた。
あの巨大な怪物は何だったのか、今自分が身に纏っているこの装いは何なのか、キュアグレースとは何なのか。数秒前、それら全ては、戦いの中で忘却の彼方に運ばれていた。
ラビリンとの協力でメガビョーゲンなる怪物を倒した後も、まだグレースの心臓の高鳴りは治らなかった。赤茶色の病原霧はもう殆ど見えず、萎れた草木も顔をもたげ始めている。
(私、やったんだ……本当に、私が……)
深呼吸し、息を整えようとする彼女の前に、『それ』は突然姿を現した。
グレースと20mほどの距離を挟み、ゆっくりを歩を進めてくる『それ』。
「あれ、なに?」
思考が口をついて出る。それほどに、その存在は酷く彼女の常識を外れていた。
金色の鎧を身に纏った、人型のカブトムシ。少女の抱いた第一印象はそれであった。頭に生えた五つのツノ、人型の全身は金色に光り輝き、陽光を眩いばかりに反射している。
無機質にこちらを見つめる、大きな紫色の目。その奥からくぐもった声がする。
「君が何者か、さっきの怪物が何なのか、聞きたい事は山ほどある。だが、まずは我がZAIAエンタープライズが管理する敷地内での破壊活動を止めてもらわなくてはね」
若い男の人の声だ。落ち着いた、気品に満ち溢れた声。
しかし、仮面の奥から漂う不気味な気配は、グレースの四肢を強張らせるには十分であった。そして、それを敵意と知るには、彼女の心はあまりにも初心であった。
「この人……さっきのビョーゲンズって奴の仲間?」
「違う……はずラビ。けど、なんだか危険な香りがするラビ」
ヒーリングステッキにくっついているラビリンも、仮面の騎士が危険だと感じているらしい。
草の根を踏み分け進み来る金色の騎士との距離は、既に5m程までに詰まっていた。どちらかが踏み込めば、射程距離に到達する。
「仮面ライダーサウザー。私の強さは、桁外れだ」
瞬間、金色の騎士……サウザーが動いた。反射的に突き出したグレースの右拳に、騎士の左肘が激突する。衝撃は山の木々を揺らし、草木を震えさせた。両者の攻撃は拮抗し、生まれ出た力の奔流は二人の間の地面を大きく抉る。膠着状態を破り、距離を取ったのはサウザーだ。
「この固さ、人肌のものではないな。だが、マギアとも違う。油断はするべきではないか」
どこからともなく金色の手槍・サウザンドジャッカーを取り出し、腰を低く構えるサウザー。
「アイツの強さ、メガビョーゲン以上ラビ!ともかく、ラテ様をお守りするためにも、ここは覚悟を決めるしかないラビ!」
「うん、分かった!」
言うや否や、グレースはサウザーに向けて跳んだ。
身体の軌跡は低い放物線を描き、真っ直ぐに突き出されるは、先の戦いでメガビョーゲンを吹き飛ばした剛の拳。
勢いの乗った、必殺の一撃は、しかし彼を数cm後退させるだけにとどまった。
「止められた!?プリキュアのパンチが?」
驚愕するグレース。その拳を払い除け、サウザーはサウザンドジャッカーによる突きの連続攻撃で彼女を責め立てる。
「どうしました?防御してばかりでは何も始まりませんよ」
急所を狙って次々と繰り出されるサウザーの連撃を、グレースは防ぐだけで精一杯である。
「この人、強い……ッ!!」
「サウザーの連撃をここまで防ぎきる身体能力、ますますただの人間ではありませんね。何故ZAIAの所有地を襲ったんです?」
「あなたこそ、どうして私たちを!?」
「この敷地は我がZAIAエンタープライズのもの。先程の惨状は、君が引き起こしたものなのでしょう?」
「違う!私はそんな事してない!」
「そんな言い訳が信じられるとでもッ!」
勢いの乗った突きの一撃が腹部に直撃し、グレースの身体が宙を舞う。かつて彼女が経験したどんな衝撃よりも、強く、激烈な衝撃。
彼女の身体は地に伏し……しかし、彼女は、間髪入れず立ち上がる。既に足が、身体が、頭が、逃げたいと訴えている。だが、彼女の心はそれを許さなかった。
(ここで逃げるのは簡単だけど、それじゃダメ!絶対に助けるって決めたんだから!)
ふらつきつつも構えをとるグレース。歪む視界の中でサウザー影が揺れ……気がついた時には、すぐ側にその金色の偉駆は在った。
直後、腹部を鋭い痛みが襲う。その痛みは、病院でされる注射に似ていた……実際は、痛みはそれの何倍にも凄まじいのだが。
サウザーの持つサウザンドジャッカーは桃色に染まり、再びグレースの胸元へとその穂先が向けられる。
「君達は確かに強かった。しかし、このサウザーある限り、私の勝つ確率は1000%だ」
「ッ!?」
サウザーサウザンドジャッカーのトリガーを引くや否や、その内に秘められた桃色のエネルギーの奔流が放たれる。紫の光線を象ったエネルギー波は、凄まじい速度で彼女の身体を通り抜けた。
『ジャッキング・ブレイク……©️ZAIAエンタープライズ』
崩れ落ちるグレースを背に、サウザーは勝利宣言とばかりに己のベルトに手をかける。
「あれ……身体が、軽い?」
「何ッ!?」
それは両者にとって予想外の展開であった。グレースの体力は完全に、それこそメガビョーゲンと戦う前の漲りをみせていたのだ。対してサウザーが放ったのは『必殺技』である。相手の持つプログライズキーの力を応用して放つ必殺の一撃……それを受けて無事でいられるはずがない。
視線を以て牽制し合う両者。数秒の逡巡の果て、先に構えを解いたのは、サウザーの方であった。
「ふむ、なるほど……どうやら私は大きな勘違いをしていたようだ」
ベルトに手をかけ、変身を解除するサウザー。解除された金色の鎧の内から現れたのは、白装束に身を包んだ男性であった。
中肉中背、しかしその佇まいは彼が只者でない事を伝えている。
「白い、男の人?」
「すまなかったね。君が襲撃犯だと勘違いしてしまっていたようだ。是非お詫びをさせて欲しい」
「はぁ……」
「私は天津 垓。ZAIAエンタープライズの社長を務めている」
「ザイ、ア?」
「君の名前は?」
「私は……」
これが、ZAIAエンタープライズの社長である天津 垓と、元・病弱な少女の花寺 のどかの初対面であった。
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謎のワンちゃん……ラテの手当ても終わり、野山には真の平和が戻った。その様子をガラス越しに眺められるZAIAの休憩所に備えられたベンチに、のどかは腰を下ろしていた。
鳥達の囀りを聞きながら、膝の上で眠るラテの頭を撫ぜる。心地よい空気と快適な温度に当てられ、ラビリン達3人も眠りについているようだ。
病院の窓から眺めるしかなかった豊かな緑、静かな街々。あれほどに恋い焦がれた、普通の日常が自分の肌に触れている事に、のどかは無上の幸福を感じていた。
とはいえ、今彼女の隣には、それを覆い隠して有り余るほどの非日常が座っている。
ふうっと短く息を吐くと、のどかは非日常……天津 垓の方へと向き直った。
「あの、今日はありがとうございました。こんな休憩所まで用意してもらって」
「せめてものお詫びといった所さ。ZAIAの所有地を怪物から守ってくれた君を、私は撃退しようとしてしまった。これでも、1000%の謝罪には遠く及ばない」
「せ、せんパーセント……すごいですね」
「ZAIAの理念は全人類の幸福。その実現のためなら、私はいつだって、1000%以上の努力してみせる」
言っていることは冗談としか思えない程に壮大だが、天津さんの表情は真面目そのものだ。その目はどこかずっと先の未来を見ているようで、どこか寂しくなる。
会話が途切れ、2人の間には沈黙が訪れる。静かなのは好きだが、沈黙は好きじゃない。話題を探すのどかは、ずっと気になっていた事を質問してみる事にした。
「天津さんの……その、ザイアって、どんな事してるんですか?」
「ZAIAを知らないのか?まぁ、ザイアスペックのコアターゲットではない子供が知らなくても無理はないが……」
「ごめんなさい……私、今日この街に引っ越してきたばかりなんです」
天津さんは顎を手を当て、少し考える素振りを見せた。陽の光に照らされるその横顔は、神秘的でありながら、どこか自分の作った玩具を自慢しようとする小学生のような幼さを帯びているような気もする。
やがて、のどか方に向き直った彼は、広げた掌を天に掲げ、話を始めた。
「ZAIAがしているのは、簡単に言えば人を助ける仕事さ」
「それって……お医者さん、とかですか?」
「そうだね。お医者さんも、ZAIAのテクノロジーを使う事はできる」
「どういうことですか?」
「我がZAIAエンタープライズは、何かをしたくても力が無い人に、その力を授けるテクノロジーを開発している。例えば、お医者さんがしたいと思っても医療知識のない人間には、医療知識と手術のテクニックをあげる事ができる。今はザイアスペックがその代表例だが、ゆくゆくは義手や義足のような、身体機能を補助する装置の開発にも着手するつもりだ」
「なんだか……夢みたいな話ですね」
「そうだね。けれど、みんなの夢を夢のまま終わらせるのは、非常にもったいないとは思わないか」
天津のこの言葉は、その日1日の中で一番、のどかの心を大きく揺さぶった。
あの時の彼女にとって、元気に走れる足、木登りのできる腕、プールで力一杯泳げる身体、それら全ては夢だった。それを夢で終わらせたくなくて、頑張って、その結果夢を叶える事ができた。
その幸せを、他の人にも届けることができる。天津の語る理想は、のどかの心を揺らし、のどかは自分でも気がつかない内に、両目から大粒の涙を流していた。
「大丈夫かい?」
「私、身体が弱かったんです。今はこうやって元気になれたけど、昔はずっとベッドの上にいるしかなくて」
「それでも君はそれに打ち勝った。夢を叶えたんだね」
「はい。でも、一人で夢を叶えた訳じゃありません。お父さん、お母さん……他にも沢山の人が私を助けてくれて。だから、病気を治せるお医者さんになりたいなって思ってたんです」
「立派な夢だ。君は人のために頑張ろうとしている。誰にでも出来ることじゃない」
「ありがとうございます。でも、天津さんの夢の方がもっとすごいと思います。だって、天津さんが叶えようとしてるのは、みんなの夢なんですよね。自分の夢を叶ようとしているのに精一杯の私なんかより、ずっと……」
天津は人差し指を一本立てて、のどかの言葉を止めた。その目は真剣そのもので、見入ってしまうほどに暗く、深くて、彼女は彼の言葉を待つしかなくなった。
「君に一つお願いしたい事があるんだ」
「な、なんですか?」
「君には是非、我がZAIAエンタープライズが誇る新商品『ザイアスペック・セカンド』のテストモデルを引き受けて欲しい」
「ザイア、スペ?せかんど?」
「我がZAIAの英知を結晶した、なんでもできる新型万能メガネと言ったところだ。難しい事はない。もしこれが気に入ったなら、これはそのまま君に進呈しよう」
「シンテイって、そのメガネをもらうって事ですよね?無理です無理です!」
天津の扱う難しい言葉の数々はのどかの思考を阻んでいたが、それでも彼女は自分にとって分不相応な『壮大な』目論見に巻き込まれようとしている直感はあった。
ここは、断らなきゃいけないところ。
断固たる決意を持って立ち上がろうとしたのどかだが、天津はそれを予期したかのように、先にすっくと立ち上がり、腰をかがめてのどかの両瞳をじっと覗き込んだ。
「これから私のいう事を、よく聞いてくれ」
小さくて、鋭くて、触れたらそのまま切り裂かれてしまいそうな瞳。さっきからずっとこの眼に圧され続けている。
「大人は、夢を見られない。色んなものを捨てていく内に、夢を見られなくなってしまうんだ。けれど、その代わりに大人は理想を描くことはできる。私の理想と君の夢は、1000%似ているんだ」
「理想と、夢?」
「君はさっき、私の理想を素晴らしいと言ってくれた。同じように、私も君の夢を応援したくなったんだ。理想の実現のためには力が必要だ。私に、君のしたい事の助力をさせてはもらえないかな」
天津さんがのどかの前に差し出した一包みの小箱。それは彼女の想像していたものよりずっと軽くて、とても重く感じられた。
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公園と街をつなぐ長い階段を降りるのどか。少し危ういその背姿を、天津は見つめている。
その背後から、ゆっくりと歩み寄る者があった。ZAIAの社長直轄開発担当……天津の右腕を務める女傑、刃唯阿だ。
「新型ザイアスペックの開発、独自に進めていたのですね」
「アレは方便さ。君に隠し事などはない」
不信の目を向ける刃に、天津は不適に笑んでみせる。それこそ、いたずらっ子が大人を揶揄うように。
「あのザイアスペックには、彼女のあらゆるデータを観測し記録する機能を取り付けてある。探りを入れておけば、まだまだ情報を引き出せるかもしれないよ」
刃は心中でため息を漏らす。あの少女との会話は、近くで作業をしていた刃にも聞こえていた。夢と理想を語り合う大人と子供。飛電インテリジェンスを相手取り互角以上の戦いをしてみせている彼の、初めての人間らしい一面に、刃の胸の内には密かに安堵の心が芽生えたものだった。
しかし、それも彼女にザイアスペックを手渡すためだけの方便だったと知れた今、この男は、より人間からかけ離れて見える。
彼女の胸中などいざ知らず、白装束を纏った人外は、くるりと身を翻し、己の研究施設の方へと歩き出す。
「公園の被害状況の調査は順調か」
「それが……報告にあったような被害は一切見られませんでした。あれだけの目撃者がいる中で、誤報とは考えにくいのですが」
「だろうな。ここは一度破壊され、その後すぐに修復されたんだ」
「そんな事が、あり得るのですか?」
「あり得ないだろうな。ZAIAの力を以ってしても」
男の口調に、刃は違和感を覚える。この男は何かに感づいている。それが公園を襲ったものの正体か、それとも公園を復元した力の正体が、あるいは別の何かか……
「先程の戦闘で手に入れたこの力。これの分析を頼んだ。うまく使えば、計画はさらなる飛躍を遂げるかもしれない」
「分かりました」
彼の頭の内で展開されている絵は、自分では到底見ることも叶わない。
それだけが、刃の理解する唯一の事実だった。
第一話をお読みくださり、ありがとうございます。
この小説は、サウザー大好き人間が書いているので、天津社長はとっても美化されています。この時点ではまだ普通の悪役ですが、この後プリキュア効果によりどんどん美化されてゆくので、楽しみにしてください。
私自身自分の作品をレベルアップさせたいので、できればコメントをいただけるとありがたいです。
このシリーズは、1日1話更新します。明日もまたお会いしましょう。
P.S.
Pixivに投稿したものを、編集してこちらにも掲載しています。
1日ごとに更新してるのは、編集に時間がかかってるからなんです。決して向こうのセルフ週刊連載が辛いからじゃないんです(震え声)