PROJECT HEALINGOOD THOUSER〈完結済〉 作:TAMZET
ついに姿を現した、ヒューマギアのフィーニス。
4人の戦士の力を持つフィーニスことゼロワンビリオンクラスタホッパーに、ヒーリングッドサウザーが挑む。
世界と世界が完全に重なり、別世界への扉が開く皆既世食まであと少し。それまでにフィーニスを倒す事ができるのか!!
イズは刃を担ぎながらモール内を逃げ回っていた。彼女を追うは大群をなしたドードーマギアのヒナ達である。どの個体も目を赤く染めており、凄まじい殺気を放っている。
ヒューマギアの彼女ですら、彼等の勢いには恐怖を感じずにはいられない。
(或人社長に無理をさせないために、あのマギアに協力を依頼したのですが。逆効果でした)
心中で後悔しながらも、イズは最速で脚を動かし続ける。私は社長秘書、或人社長と合流するまでは、捕まるわけにはいかないのだ。
そんなことを考えていると、モールの出口が見えてきた。そこには2人の人影……それは、彼女の待ち望んでいた人物であった。
「或人社長!!」
「イズ!!無事だったか!!……って、ちょっと速過ぎでしょおっ!!」
タックルかと見紛うイズの突進を、或人は全身で受け止めた。刃を加えた三人の体は出口付近の壁に激闘し、小さなクレーターを作る。
「い、イズ?俺、怪我人なんだけど」
「これは、失礼しました。しかし、速度を殺すとアレらに追いつかれてしまいますので」
「アレら……?あー、マギアね。そうそう、インコみたいな顔したドードーマギア……って、えーっ!?こんなにいんこ!?」
「今のは、インコといんのをかけた、非常に面白いジョークですね」
「いやー、やっぱりイズ分かってるねぇ!」
「もちろん、社長秘書ですから」
「「はい、アルトじゃないとっ!!」」
ポーズを決める2人の頬の間を、バルカンの放った弾丸が掠める。弾丸は複数のヒナ達を巻き込み、爆散させた。
「いちゃつくのはそこまでにしろ。状況は変わってないんだぞ」
不破の一喝に、2人はしゅんと身を縮こませる。
ため息をつきながら、不破はイズが背負っていた刃の頭を叩いた。パシンといい音が鳴り、彼女の細い身体がピクッと跳ねる。
「お目覚めか?」
「……ッ!?アイツは、メツビョーゲンはどうなった!!」
「天津社長によって倒されました。もっとも、さらなる強敵の出現により、状況は予断を許しませんが」
「なんだと!?それをもっと早く言え!!」
刃は慌ててイズの背中から降りると、ヒナの群れに向けて駆け出した。彼女を迎え撃つべく、ヒナ達も横一列に陣を組む。
しかし、ヒナ達の元へ達する前に、刃の身体はぐらりと地面に崩れ落ちた。メツビョーゲンとの戦いでの消耗が、体に襲い掛かったのだ。
「無茶しやがって!」
彼女を庇うべく、バルカンがヒナ達の前に躍り出る。半身を切り、防御の構えをとる蒼軀。
しかし、直後ヒナ達の列が崩れた。彼等の背後では巨大な爆発が起きている。
明らかに、何らかの攻撃によるものだ。
やがて、ヒナ達の群れは散り散りになり、その前に髑髏面の怪人が姿を現した。
それは、4人がよく知る怪人であった。
「ドードーマギア!」
「祭田ゼット……」
彼の瞳は、緑と赤に交互に点滅していた。その動きは、さながら回線のショートしたロボットのようであり、ヒューマギアが機械である事をその場にいる彼等に再認識させた。
バルカンと刃が銃を構える中、或人だけがその間を抜け、彼へと歩み寄る。
ドードーマギアは、刀刃を手にした右腕をゆっくりと持ち上げ……そのまま、或人の胸の中へと倒れ込んだ。
「約束は、まもった、ぞ」
彼の背中には、無数の刀刃が突き刺さっていた。凄まじい重量を持っているはずのその身体を、或人は額に筋を立てながらも抱きとめ続けている。
ドードーマギアは変身を解除すると、ゆっくりと目を閉じた。薄く透けたまぶたの奥の光が、徐々に弱まってゆく。
「叶うなら、お前ともう一度、闘いたか、っ、た」
やがて祭田ゼット4号は、機能を停止した。
或人はゆっくりとその身体を地面に下ろし、背中の刃を一本ずつ丁寧に抜いてゆく。
周囲のヒナたちも、頭を抱えて苦しんでおり、最早戦意は感じられない。
「ゴメンな、2度も守ってやれなくて」
まだ薄らと熱を持ったドードーマギアの胸に手を当て、或人は悔しげに目を閉じるのだった、
____________________________
衝撃波の波を抜け、私はなんとか天津さんの近くまでたどり着いた。あと少しで、攻撃が届く範囲までたどり着ける。
しかし、踏み出しかけたその一歩は、フォンテーヌよって止められた。
「早く天津社長を助けに行かないと!」
「無理よ」
「でも!?」
猶も前に出ようとする私を、今度はひなたちゃんが止める。その表情は真剣そのものだ。その上で、とても悔しそうだった。
「のどかっちにも分かるでしょ。正直、アレは私達が入っていけるレベルじゃないよ。私達が入っていって、人質にでもなったら、あの社長さんに迷惑かけちゃうじゃん」
「ひなたちゃん……」
確かにそうなのだ。
触れるだけでも切れてしまいそうな衝撃波の雨、攻撃の余波だけでここまで辛いのに、私達が実際にあの攻撃を受けて仕舞えば、それこそひとたまりもないだろう。
きっと、天津さんも分かっているのだ。だからこそ、ゼロワンから逃げない。私達を背に、一歩も引かずに戦っているのだ。
だけど悔しい……悔しいよ。
涙を流す私の横で、ひなたちゃんがポンと手を打つ。
「でも、今、作戦思いついた!私達の必殺技を、一つに合わせるんだよ。そうすれば、きっと、勝てるはず!」
いいアイデアだ。
ダメで元々、でも、何もせずにはいられない。
今、目の前で戦ってくれている天津さん。あの人に全部を任せて、わたしだけ見ているなんてできない。
凄まじい衝撃波の雨嵐に耐えながら、私はヒーリングステッキの肉球を3回叩く。ひなたちゃんとちゆちゃんも同じだ。
「プリキュアの力を一つに合わせて!」
「うん」
「りょーかい」
混ざり合う三つの色が溶け合い、やがて虹色の霊光へと変化してゆく。眩いばかりの霊光は、弓の形を取り、私の手元へと収まった。
弦に手をかける……けれど、弦は硬く引き絞れない。矢の照準も、ブレて定まらない。
こんなところでも、私は……
俯きかける私の横で、ちゆちゃんがそっと弓の下を支えた。弦を持つ指に、ひなたちゃんの手が重なる。
「私が支える!」
「で、私が手伝う!」
揺れていた照準はピタリと定まり、弦は驚くほど簡単に引けた。私一人ではできなくても、みんなとならやれる。
「ありがとう……いくよ!!」
狙いは一つ、一発逆転。
願いを込めて、私は弦から手を離す。
「「「プリキュア・ヒーリングアロー」」」
轟音が耳を劈き、私の世界から音が消えた。
放たれた光の矢はゼロワンの胸に突き刺さり、その青い身体を壁の端まで吹き飛ばした。
彼女が持っていたであろういくつものプログライズキーが地面に散らばる。その中には、ゼロワンドライバーも混じっていた。
「やった……の?」
疲労に歪む視界で、どうにか目の前の景色をとらえる。モールを覆う爆煙の向こう、フィーニスはまだ、立っていた。
よろけながらも壁から這い出してくるその姿に、私の心はズンと重くなる。
「……ッ!!!やるじゃないか。このボクに、ここまで、ダメージを与えられる、なんて」
青いゼロワンの胸からは煙が立ち上がっている。矢は確かに、フィーニスの胸に当たったはずだ。
それで倒しきれないという事は、もう……
「ダメ……なの?」
辛うじて身体を支えていた脚から、力が抜ける。こちらに近づいてくるフィーニスの進路を塞ぐように、天津さんが私の前に立ってくれる。
これじゃ、何も変わらない。
何もできない私、守られてばかりの私。
そんなの、嫌だ。
「わああああっ!!」
私は自分を奮い立たせると、震える脚を無理やり動かして走った。狙いは、ゼロワンが落としたゼロワンドライバー。
「のどか!?」
ラビリンの声も聞かず、私は駆けた。
「ふふ、それで何をしようというのかな?」
フィーニスは、このドライバーを使って変身していた。あの銀色の仮面ライダーは強かった。
(これを使えば、私も仮面ライダーに……)
しかし、お腹にそれを押し当てても、ドライバーはうんともすんとも言わない。焦る私に、フィーニスが手の先を向ける。
黒い光の塊が、私の眼前で膨張してゆく。
「残念だったね。それには認証のロックがかかっている。ボクも解錠には苦労したんだよ」
「変身、出来ないって、こと……?」
「その通り。もう抗うのは辛いだろう?倒してあげるよ」
闇の塊が、私に向かって放たれた。もう避ける足の力は残っていない。
私は思わず目を閉じる。訪れる暗闇と静寂の中で、悔しさだけが膨らんでゆく。
しかし、いつまで待っても衝撃は来ない。
震える私の手の中から、ドライバーが取られようとする。ダメだ、離してなるものか。
力一杯それを抱きしめていると、ふと肩に温かな感触あった。
「……え?」
薄く目を開くと、そこにいたのは或人さんだった。その向こうでは、青い仮面ライダーさんとオレンジの仮面ライダー……バルキリーが、フィーニスと戦っている。
「ひでん、あると、さん?本物?」
「正真正銘、証明写真も本物の飛電或人です!はい、アルトじゃ〜ないとっ!」
背後ではイズさんが決めポーズを取っている。向こうではひなたちゃんも同じようにポーズを取っていた。ファンなのだろうか。二人の笑顔は、もはや疑いようもなく、私のよく知る優しい人達の顔だった。
私は迷いなく彼にゼロワンドライバーを渡した。
「俺のベルト取り返してくれて、ありがとうな」
或人さんは優しく微笑むと、お腹にドライバーを押し当てた。
『ゼロワンドライバー!』
軽快な音と共にベルトが射出され、ドライバーは或人さんの腰に固定される。その手には、黄色のプログライズキーが握られていた。
「変身?させないよ!」
青いゼロワンの手から、闇の塊が放たれる。塊は或人さんを包み込むように広がり、瞬く間に全てを覆い尽くした。
バルキリーをパンチで吹き飛ばし、青いゼロワンは声を上げて笑ってみせる。
「あはは、これでゼロワンも終わりだ!」
続け様に放たれる闇の塊を、サウザーが全身で食い止める。着弾箇所から火花が上がるが、サウザーは即座に持ち直し再び槍を構え直す。
3人の仮面ライダーを前に、不敵に構えてみせる青いゼロワン。
しかし瞬間、背後で巨大な闇の球が弾けた。
「変身!」
『飛び上がライズ!ライジングホッパー!
A jump to the sky turns to a rider kick.』
青いゼロワンが振り向くと、そこには闇夜にひかるクリアイエローの鎧を見に纏った或人さん……仮面ライダーゼロワンの姿があった。
呆然とする私の前に、輝く手が差し出された。
「一緒に戦おう、キュアグレース」
「はい……はい!!」
私はその手を取った。
その手の何と力強い事。全身の光からそのまま元気が流れ込んでくるようで、私はすんなりと立ち上がることができた。
夜を切り裂く剣を手に、ゼロワンは挑発的に腰を低く低く構えてみせる。
「ここから、形成逆転です!!」
「仮面ライダーとプリキュアの力、見せてやろうぜ!」
ゼロワンの突進を皮切りに、3人の仮面ライダーの攻撃がフィーニスを攻めた。
対するフィーニスは全身に闇の霧を纏わせて防御する。アレは、メツビョーゲンの技だ。
「忘れてはいないかい?ボクはビョーゲンズの力も使えるんだ、数なんて関係無い!」
闇の霧を切り裂き、ゼロワンは青いゼロワンに斬撃を与えてゆく。青いゼロワンも懐から銀の剣を取り出し、それに応戦する。
そんな中、闇の霧を突っ切って二人の元に突進する黄金の騎士の姿があった。
「バカだね。その霧は高密度に圧縮された腐食ウイルスそのもの、いくら君の力でも、おいそれと消せるものではない」
視線を切り、ゼロワンと剣を結ぶフィーニス。しかし直後、黄金の突槍による一撃が彼女の脇腹を貫いた。
「なッ!?」
「回復しながらでも動けるのがヒーリングッドサウザーだ。そして、こんな事もできる」
サウザーは自分のドライバーからローゼンリングのキーを抜き取ると、サウザンドジャッカーのスロットに装填した。
槍の穂先は薔薇色に染まり、そこから放たれる光線が青いゼロワンを吹き飛ばす。
「アレって、私のヒーリングフラワー!?」
「ッ!?」
ヒーリングフラワーが霧を払い、青い仮面ライダーさんとバルキリーの射線が開ける。
二人は示し合わせたように頷くと、フィーニスに向けてありったけ銃撃した。
凄まじい量の火花が青の鎧から吹き上がり、フィーニスはその場に膝をつく。
「ッ!?かくなる上は!」
ドライバーの手の部分のスイッチを2度押すと、フィーニスは空へと飛び上がった。その背にはピンクの翼が生えそろっている。
フィーニスは上空で翼をはためかせると、その一部を地面にいるゼロワン達に射出した。
羽弾は複雑な軌道を描き、地上の仮面ライダー達の身体をえぐる。
「どうだ、ついてこれないだろう!!」
せせら笑うフィーニス。そのこめかみに、私は渾身の蹴りをたたき込んだ。
重い鐘を鳴らしたような響きが脚から全身に伝わってくる。けれど、私は攻撃をやめない。
「空中戦なら、私達だって!」
「君達プリキュアでは、ボクは倒せないよ」
羽弾に弾き飛ばされ、距離が取られる。しかし、間髪入れずにフォンテーヌの水流がフィーニスの体制を崩した。
「たとえ力負けしているとしても、あなたがビョーゲンズである限りは、癒しの力は通じるはず!!」
「小癪な……小娘風情が!!」
「仲間を利用するだけ利用して、人の力を奪って。そんなの、絶対に許せないじゃん!!」
夜空を逃げるフィーニスの青軀に、スパークルの爪の一撃が叩き込まれる。完全に制御を失った彼女の身体は、轟音と土煙を立ててモールの地面へと落下した。
「な、何故、何故ここまで違う!スペックならボクが圧倒しているはずなのに!」
這い出してくるフィーニスを、サウザーがさらに追撃する。止む事のない槍の連撃に、後方からの銃撃が加わる。
「くそっ!!」
「君は仲間というものを甘く見過ぎた。1人では1000%の力でも、2人3人と手を取り合えば、その力を無限に高め合うことができる。花寺のどかとその仲間達の戦いが、私にそれを教えてくれた」
「なかま、なんてっ!!」
前方に銀色の盾を展開するフィーニス。
しかし、サウザーの肩を踏み台にしたゼロワンが、その盾を超え、彼女の背後を取る。
「仲間がいるから、俺達はここまでやってこれた!」
手に持ったアタッシュカリバーの刀身が金色に光り、フィーニスの脇腹を切り裂いた。
【ライジングカバンストラッシュ】
「ッ!?」
その一撃により、前方の盾の制御が失われる。浮き出る文字を待つ事なく、バルカンとバルキリーの凄まじい銃撃が、フィーニスの胸に直撃した。
【ランペイジ・オール・ブラスト】
【ダッシュラッシングブラスト】
青鎧の悪魔はモールの壁端まで吹き飛び、その身体をぐったりと項垂れさせる。
今度は、私達の番だ。
2人も分かっているのか、ヒーリングステッキに備え付けられた心の肉球を3回タッチしてみせる。
「行くよ!!プリキュア・ヒーリングフラワー!」
「ヒーリングストリーム!」
「ヒーリングフラッシュ!」
3つの光線は束になり、大きな一つの閃となってフィーニスの身体を貫いた。光は優しく彼女を持ち上げ、その体の自由を奪う。
「まだだ、ボクはまだ、負けてない!」
「さあ、トドメだ」
満を辞してとばかりに、サウザーがベルトのスイッチを入れる。金色に光る脚を夜に晒し、臙脂のマントを翻し、サウザーは光る爪先をフィーニスの身体にたたき込んだ。
轟音と光の渦がモールを埋め尽くし、その身体を包み込んでゆく。
【サウザンド・デストラクション ©️ZAIA】
「ぐ、う、う」
フィーニスは2、3歩よろよろと前に歩み、そのまま前のめりに倒れた。凄まじい爆発がモールを揺らし、私は思わず顔を覆う。
爆発の煙が晴れた時、そこには全身からショートの火花もを上げるその姿があった。
青いゼロワンの鎧はほぼ原型を止めておらず、マスクは右目のあたりを残して全て壊れてしまっている。
明らかについた決着。
しかし、それでもフィーニスの口元は歪む。
「このビリオンクラスタの能力は学習能力だと言ったよね」
「何が言いたい?」
訝しむサウザーの眼前で、青いゼロワンの鎧が瞬く間に再生してゆく。
慌ててヒーリングステッキを構える私の前に、フィーニスは闇の球を放った。先ほどよりも格段に小さいが、その爆発のせいで近づけない。
「君のヒーリングッドサウザーの力もラーニングさせてもらったからね。ボクは回復できる……最後に笑うのは、このボクだ」
やがて、完全に再生した青いゼロワンの鎧を身に纏い、フィーニスは再び私達に銀の剣を向けた。
全員がたじろぐ中、サウザーだけが臆する事なく彼女との距離を詰めてゆく。
「それは、どうかな?」
銀の剣を構え、突進するフィーニス。サウザーを貫かんばかりの勢いだ。
「ふふ、まずは1人……」
しかし、剣は衝突の瞬間、無数のバッタになって夜の闇に消えていった。優雅に歩みを進めるサウザーの前で、フィーニスの変身が解除される。彼女は明らかに狼狽していた。
「な……ッ!?ど、どうして!?」
「君のその力はビョーゲンの力でもあるんだろう?病気を治してしまったら、もう変身できないじゃないか」
「そんな……ッ!!」
フィーニスの肩に手を置き、変身を解除した天津さんは天を仰いでみせる。そこでは、暗く歪んだ巨大な円が光り輝いていた。
「頼みの皆既世食が起きているようだが、ただのヒューマギアになった君に出来ることはあるかな?」
「お前……ッ!!」
フィーニスの拳が天津さんのお腹に当たる。しかし、天津さんは微動だにしない。
「お大事に。ただのヒューマギア君」
背を向ける天津さん。襲い掛かろうとしたフィーニスを、刃さんが取り押さえる。
こうして、長きに渡る私達の戦いは終わった。
____________________________
2週間後、私は天津さんの元を訪れていた。
待ち合わせ場所は、最初に私たちが出会ったあの公園。昼間の日差しが肌を焼き、汗が溢れる。
小山を登り切ると、そこにあの人はいた。
街を一望できる丘の一角。そのベンチに座る彼の姿が、かつての私と重なる。
と、見惚れている場合じゃない。
時計を見ると、時間はギリギリだ。
「待たせちゃってごめんなさい!」
私は急いでそう挨拶すると、社長の隣に腰を下ろした。まだ少しだけ息が荒い。
社長は「焦らなくていいさ」と笑っていた。私は少しだけ恥ずかしくなって、早く息を整えようと呼吸を止める。
やがて、呼吸が落ち着き、小山から見下ろす山の景色にも慣れてきた頃、社長が口を開いた。
「もう、2週間か」
「はい。本当、嘘みたいですよね」
「ああ。だが、本当の事だ。」
天津さんは少しの間口を閉じ、どこか遠くを見ていた。
あの戦いの後、ZAIAエンタープライズは大きな変化を遂げた。
今まで行ってきた兵器開発の実態を明かし、それらをビョーゲンズとの戦いのために活かしてゆく事を天津さん自身が発表したのだ。
当然、ニュースでは連日連夜その報道が飛び交い、私は天津さんにお礼を言う事もできなかった。
否定的な声が多く、兵器の開発など人道にもとる、ZAIAの技術は国の管理下に置かれるべきだという意見も多かった。けれど、天津さんはそれに負ける事なく、断固として自身の技術を国には明かさなかった。
飛電或人さんもそれへの協力を表明し、二人の協力体制の下、ビョーゲンズ根絶の姿勢が今も取られている。
世界は変わった。
ヒューマギアと人間が手を取り合い、同じ敵に立ち向かう世界に。
やがて、天津さんはまた話し始めた。
「メツビョーゲン……いや、滅病 源と呼ぶべきか。彼が自白したよ。数年前から密林でエレメントさんを狩り続けていた事、ダルイゼンというビョーゲンズの指示で、これから人間を襲うつもりだった事も」
あの恐ろしい姿を思い出し、私は身震いする。
彼から伝わってきた、人への憎しみと悪意。
天津さんがいなければ、私は今頃どうなっていたか分からない。
「フィーニスに、メツビョーゲン。末恐ろしい敵だったが、君と力を合わせることで、倒す事ができた」
天津さんの顔は、少し痩せたように見えた。それほど、すり減らしている神経が凄いのだろう。
ヒーリングッドサウザーの力は、私達プリキュアの持つ治癒の力を使っていると聞いた。過回復が人体に及ぼす影響は凄まじい。
それに耐えながら、天津さんはあの時戦ってくれたんだ。
「君には、すまない事をしたと思っている」
天津さんの発言には正直、驚いた。
なぜ謝るのかは分からないにしても、この人に謝るという印象は無かったから。
黙っている私に、彼は続ける。
「君を、滅亡迅雷.netとの戦いに巻き込んだのは紛れもなく私だ」
「それはお互い様じゃないですか。それに、天津さんがいなかったら、私、どうなってたか分からないですから」
社長は少し口ごもったが、すぐに続けた。
「平光 ひなたから聞かせてもらったよ。君がザイアスペックを彼女に託した事」
「あ……っ」
心臓が、ドクンと跳ね上がる。
忘れていたわけじゃない。アレをひなたちゃんに預けたあと、私の中には確かな安息と、申し訳なさがあった。
けれど、後悔が無かったわけじゃない。私を信じてザイアスペックを預けてくれた天津さん。その意思を踏みにじった事になるんだから。
天津さんは続ける。
「君がした選択に、私が正誤を断ずる事はできない。だが、君は1人で楽な道を行くより、仲間と苦難の道を歩む事を選んだ」
「……はい。あのザイアスペックを使っている間、私はずっと1人でした。寂しくて、辛くて……それにも気がつけないくらい、頑張りました」
天津さんは笑い嘲りもせず、私の話を聞いてくれる。その瞳の重さに耐えながら、私はそれでも、続ける。
「けど、ひなたちゃんに教えてもらって、辛かったら頼っていい友達がいる事に気がついたんです。私は、私を助けてくれるみんなのために強くなりたい。そう思えたんです」
「それが、君の答えか」
「はい」
私は天津さんの瞳にしっかりと向かい合う。少しも逸らさない、これが私の思いだから。
やがて、天津さんは頬の硬直を緩めた。
その優しい顔に、私も少しだけ安心する。
「君は、強くなったな。出会った頃の、すべてに振り回されていた君とは大違いだ」
大人っぽく笑ってみせる天津さん。
普通は怒るところなのだろうが、なぜか私もおかしくなってきて。
私達は、声を上げて笑ってしまった。
「天津さんこそ。最初に会った時より、怖くなくなりました。優しくなったっていうか、刺々しさが無くなったというか」
「私は、そんなに怖かったかい?」
「はい。けど、今は私達の未来のために、戦ってくれる。正義のヒーローです」
私の言葉に、天津さんは少し、笑うのをやめた。その手には、プログライズキーがある。ヒーリングッドサウザーに変身するのに使っていた、薔薇の記されたキーだ。
「これが、私を正してくれた。君からもらった癒しの力だ。もしかすると、この力が私に優しさをくれたのかもしれない」
「だとしたら、なんだか素敵ですね。私は天津さんから強さをもらって、天津さんは私から優しさをもらう」
「ああ。奇妙な巡り合わせだ」
「もしかすると、君がいなければ私の辿っていた未来は違ったのかもしれないな。仲間を道具として扱い、眼前には敵しかいない、暗い未来を進んでいたかもしれない」
「今の天津さんからは想像もつきませんけどね」
「まったくだ」
私達はまた、しばらく笑っていた。
私はこの数週間の出来事を決して忘れる事は無いだろう。私に力をくれて、仲間の大切さを気づかせてくれたこの日々を。
そして、私を守ってくれた黄金の騎士の事を。
ここまで本シリーズをお読みくださり、ありがとうございます。
ここまで山あり谷ありでしたが、どうにか投稿を完了することができました。最初はPixivに投稿したものに軽い誤字脱字の修正を加えるだけのつもりでしたが、いつの間にかかなり内容が変わってしまいました。
次回からは、更新するペースが遅れる代わりに、新作を投稿していこうと思います。
その作品をより良くするためにも、評価や感想、苦言等を送っていたけるとありがたいです。
ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
※これは、以前pixivに投稿した作品を編集したものです。