PROJECT HEALINGOOD THOUSER〈完結済〉   作:TAMZET

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これまでのあらすじ

仮面ライダーバルカンに敗北したヒーリングサウザーは、ドードーマギアのヒナ達に酷似した謎のマギアの襲撃を受ける。一方、ザイアスペックの過剰使用により倒れてしまったのどかは、親友の沢泉ちゆに諭され、倒れる限界を見極めながら頑張る事を決めるのだった。そんな中、ちゆは帰り道に飛電インテリジェンスのヒューマギア・イズと接触する。イズから密かに受け取った手紙の中には、彼女への秘匿通信回線の番号が記されていた。

今回からオリキャラが出てきます。


Episode4:【動き出す影】

【デイブレイクタウン】

12年前に飛電インテリジェンスの管理施設で起きた大爆発事故「デイブレイク」以降、政府によって立ち入りが禁じられている特別指定区域である。

区の大半は湖の底に没してしており、積み重なった瓦礫が数少ない陸地を形成している。まともな人間は勿論、所謂ワケアリの人間すら、滅多に立ち寄ろうとしない区域だ。

ヒューマギア連続暴走事件の主犯である滅亡迅雷.netの本拠地として使われていたこの地。その後も、黒いヒューマギアの姿を見た、謎の影に人が襲われているのを見たなど、黒い噂は絶えない。

 

そんな廃都の一角、かつて飛電インテリジェンスの研究所があった空間に、蠢く3つの人影があった。

瓦礫の影から気紛れに差し込む陽光が、彼らの、異様な姿を暴き出す。

 

1人は右目の下に滅亡迅雷の紋章を刻んだ黒いスーツの男。

彼の名は祭田ゼット4号。

かつてドードーマギアとして幾度となくゼロワンを苦しめた、滅亡迅雷.netの一員である。

残る2人はフードを目深に被っており、正体を伺うことができない。

 

「迅、手を出してごらん」

 

背の低い黒フードの人物は、迅と呼んだ背の高いフードの男の掌に、自分の手を重ねてみせる。薄桃色の光が漏れるその手をどけると、掌上には桃色のプログライズキーが現れていた。

 

「フライングファルコン、取ってきてあげたよ」

 

迅はそれに見覚えがあったのか、子供のように飛び上がって喜んだ。

彼が飛び跳ねる度、くるぶしの辺りにまで達していたボロボロのロングコートの裾が、それに合わせてヒョコヒョコと飛び上がる。

 

「ありがとう、フィーニス姉ちゃん!」

 

「どういたしまして。ドードー、金庫にいる彼の様子はどうだい?」

 

「まだ眠りこけている。まったく、相も変わらず呑気な奴だ」

 

「ふふ、なら大丈夫かな。計画は順調かい?」

 

ドードーは不機嫌そうに鼻を鳴らし、その身をマギアの形態へと変貌させる。

 

その形態の名は、【ドードーマギア改】。

鳥類を模した兜に、邪悪な髑髏の面貌を持つ怪人だ。彼の武器は小太刀程の長さの双刃と、全身に装備するミサイルの数々である。赤熱した装甲はさらに赤みを帯び、かつてゼロワンと対峙した時よりさらに重厚に強化されていた。

 

ドードーは肩を僅かに震わせ、両二の腕付近のミサイルを展開してみせる。ミサイルは飛び去り、壁を穿ち、部屋の向こう側に広がる空間を露出させる。

そこには、無数のドードーマギアのヒナ達が不気味に佇んでいた。

その光景に、フィーニスと呼ばれた人物は濃紫の唇の両端をもたげた。隣で見ていた迅も、感嘆の声を漏らす。

 

「あの男の言葉を借りるなら、1000%だ……確実に暗殺は遂行されるだろう」

 

「やっぱり暗殺ちゃんすごい!」

 

ヒナ達の中に飛び込んでいこうとする迅を制し、フィーニスはドードーの方へと歩み寄る。得意げに己の刃を撫で回すドードーの耳元で、彼女は舐めるように「慢心はいけないよ」と囁いた。

 

「セイショクの期限は短いんだ。この作戦を失敗すれば、次はないかもしれない。油断せず、確実に天津の首を取ってくるんだよ」

 

「お前に言われずともやってやる。俺たちを甘く見るなよ」

 

ドードーはフィーニスを鋭く睨めつけ、その白く艶かしい喉元に刃を突きつけてみせた。威嚇とも取れるその行動に、彼女もにやけた口端を真一文字に戻す。

二人の間で張り詰める緊張の糸、その間をあせあせと行き来する迅。そして、この状況を退屈そうに眺めるもう一つの影があった。

 

「なんだ、揉め事か?」

 

陽光の元に姿を晒した影は、鬱陶しそうに目元を隠す。暗色の装衣に身を包み、貴族然のマントを羽織った少年……気品を感じさせるその出で立ちは、異国の王子とも没落した貴族とも映る。

側頭部から伸びる湾曲したツノ、深緑色の肌に、唇の端から伸びる鋭い牙、人並みならざる外見的特徴を持つ彼だが、3人はそれに驚くこともなく、彼の元へと歩を進める。

 

「これは、よく来てくれた」

 

「お前か」

 

「ダル君久しぶり!」

 

それぞれに挨拶をする3人を一瞥し、少年は高所の瓦礫に腰掛けた。脚を組み、高みから彼等を見下ろす様子はまさに傲岸不遜といった格好である。

 

「せっかく招かれてやったと言うのに、椅子の一つも無いのか」

 

「申し訳ないね、同志ダルイゼン。見ての通り我々は敗残でね……物資の節約が必要なんだ。君達ビョーゲンズには、アークも感謝しているよ。おかげで彼等は、アークの意思を遂行できる」

 

「フン」

 

「ありがとう!ダル君!」

 

迅を鬱陶しげに払い除け、少年はフィーニスを真っ向から睨み据える。二人の眼から放たれる圧力に、迅とドードーも身を硬らせる。

 

「感謝の意は行動で示すんだな。さっきお前自身が言った通り、お前達は急ぐべきだ。キングビョーゲン様の気は、そんなに長くないぞ」

 

「だってさ、ドードー」

 

「言われずともだ。古の戦士の力を手に入れたサウザー。相手にとって不足はない」

 

いうや否や、ドードーはヒナ達のいる瓦礫の隙間へと姿を消した。「よーし、まずはバルカンにリベンジだー!」と己の身を奮い立たせ、迅もその後を追う。

彼らが消えていった先の亀裂を眺め、フィーニスはやれやれとばかりに肩を竦めた。

 

「話は最後まで聞いてほしいね。今回の対象は飛電ではなくZAIA。アークの意思を踏みにじった彼等こそ、我々の真の敵だというのに」

 

「俺たちからの要求は、プリキュアの排除ただそれだけ。アイツら、丁度お前達の敵とも手を組んでるようだし」

 

「でも、プリキュアは女の子なんだろう。そんなに強い敵とも思えないんだけれどもね」

 

「奴らを侮るな。奴らはお前達より遥かに巨大なメガビョーゲンを倒している。何度もな。正直、お前達だけでは心許ないくらいだ。俺からも助っ人を貸してやる」

 

ダルイゼンが右腕を上げると、長身の男が瓦礫の影から姿を現した。

白衣の上からでも分かる鍛え抜かれた筋肉と、戦闘経験を積んでいる事が分かる佇まい。伸びた不揃いの前髪の隙間から覗く双つの三白眼が凄まじい殺気を放っている。

男はフィーニスの前まで歩を進めると、不遜にも至近距離で彼女の顔を覗き込んでみせた。

 

「君は……あの時の青年か」

 

「今はメツビョーゲンだ。またよろしくな、ガラクタの親玉さん」

 

「おや、随分と行儀が悪いじゃないか」

 

二人の間に渦巻く殺気、周囲の大気を震わせるほどの強大さに、ダルイゼンの口端が醜く歪んでゆく。

 

「安心しろ。コイツの強さは折り紙付きだ。お前達は100%勝てるさ」

 

真白い八重歯が、キラリと陽光に反射する。ここはデイブレイクタウン、全ての始まりの地である。

 

 

 

___________________________

 

 

 

花寺 のどかがザイアスペックを使い始めてから、はや2週間。

 

 

彼女に起きた変化は、ひなたにも分かるほどに、深刻さを帯びていた。

実害そのものは少ない。生返事が多くなり、昼休みに寝てしまう事も多くなった。その程度で済んでいる。

問題は、彼女のザイアスペックの使用頻度が激増した事だ。かつては運動のみに使用していたそれを、今や彼女は学校生活の殆どに使用していた。

それは、先の服型メガビョーゲンとの戦いからますます加速している。

AIの力は凄まじく、運動やノート取り、掃除などでその力を遺憾無く発揮した。その結果、のどかはクラスでも一躍注目される存在となった。皆は彼女の頑張りを知っていたため、最早それに口を挟む事はしなかった。

かくいうひなたも、彼女のノートに頼っている1人である。ちゆからは白い目を向けられる事はあったが、ひなたはその度に口笛を吹いてごまかした。目の前に転がるダイアモンドを取らない盗賊はいないのだ。

 

 

そんなひなたが、のどかのパートナーであるヒーリングアニマル、ラビリンからの電話を受けたのは、一昨日の事である。

 

「はーい、こちら平光です!」

 

「その声はひなたラビね。実は、折り行って相談があるラビ」

 

「ラビリンじゃん!てか、どうやって電話かけてんの?スマホって心の肉球に反応すんの?」

 

「電話番号見るラビ!!置いてある電話の方からなら、ラビリンでもかけられるラビ。とにかく、相談っていうのは、のどかの気を、ザイアスペックから逸らして欲しいって事ラビ」

 

「なんで?ラテのお世話サボってるとか?」

 

「いや、お世話自体はちゃんとやってくれてるラビ。というか、ラビリンのお世話も含めて、完璧ないい子の日常生活をこなしてるラビ」

 

「なら、いいんじゃない?AIの力っていいじゃん?スゲーじゃん?」

 

「良くないラビ!最近ののどかが何時間寝てるか知ってるラビ?」

 

「えーと、8時間くらい?」

 

「日にもよるけど、5時間切ってるラビ」

 

「はぁ!?マジ?ラビリン何で止めないのよ!!」

 

「止めてるけど聞かないラビ!このままだとのどか、いつか本当に倒れちゃうラビ!」

 

「それはまずい!!安眠妨害はお肌の敵って、一番言うし!!よし!!じゃあこのひなたさんが一肌脱いじゃいましょうか!!」

 

「本当ラビ!?」

 

「おう!アタシに二言は無いのだ!」

 

ひなたの武器は、自称想像力と挑戦心。パートナーであるニャトランとの綿密な打ち合わせの末、計画は完成した。

 

 

_____________________________

 

 

 

そんなわけで二人は今、近くのショッピングモールに買い物に来ていだ。

最初にひなたが選んだのは、比較的庶民的なブティックであった。服屋と呼んだラビリンは、ひなたに頭を小突かれた。

今、のどかは試着室の中である。ひなたのトートバッグの中からは、ラビリンが心配の面持ちで顔を覗かせている。

 

「休ませたいのに、何でこんなところに来てるラビ……本当に大丈夫ラビ?」

 

「まぁ、見てなって」

 

「俺たちの秘策を信じろ」

 

いまいち不安が拭えないラビリンであったが、謎の自信に満ち溢れた二人のの言葉は頼もしくもあった。

 

(ここは、ひなた達を信じてみるラビ)

 

やがて、試着室からのどかが姿を現す。白い七分丈のワンピース姿……一見するとシンプルな選択だが、スカートの模様の窓からは真白い肌が覗いている。

砂浜を歩く、健康的な美女と言った風情だ。

 

「えーと、ど、どうかなぁ?」

 

「おー、これはこれは」

 

頬を赤らめるニャトランの頭を、ラビリンは思い切り引っ叩く。

 

(まったく、これだから……)

 

腕をグルグルさせて抗議する彼に、ラビリンは腕組みで対抗する。

 

「あんなの、子供ラビ!ラビリンが若い頃はもっとこう、エレガンス溢れる……」

 

「いいね!のどかっち、それめっちゃいい!」

 

「えー!?ひなたの目は節穴ラビか!?」

 

「黙って見てろよ」

 

ニャトランに押しつぶされ、今度はラビリンが口をつぐむ。気がついたのだ、ひなたの目がキュッと細くなっている事に。

 

 

作戦開始の合図である。 

 

 

ひなたはその身をくねらせながら、のどかの元へとにじり寄る。

 

「でも、何か足りない気がするなぁ……何だろう。のどかっちはもっと大人っぽい感じで攻めたいわけでしょ?」

 

「攻め?……たいのかなぁ」

 

のどかの瞳が泳ぐ。

おそらくはAIのオススメをそのまま選んだだけだったのだろう。のどかの私服を知っているラビリンには、すぐに分かった。

それを否定することで、ひなたはザイアスペックを捨てさせようとしているのだ。悪くない作戦だ。

隣で、ニャトランが得意げにウインクする。作戦は順調だということだ。

戸惑うのどかに、ひなたが畳み掛ける!

 

「自分に正直になりなよ!」

 

その手には、いつ取ってきたのか、明らかにワンピースより布地の少ない衣服があった。たじたじになるのどか……勝機とばかりに、ひなたは身を乗り出す。

 

「その格好は攻めたいって言ってるようなもんじゃん!もしかして、AIは教えてくれなかったりして?攻めるにはこう、肩とか!」

 

「ひゃあっ!?」

 

「脇腹の露出を足していくわけですよ!」

 

「うー!無理だよ……そういうのは私には……って、アレ?これ、私?」

 

ひなたはのどかの身体に衣服を押しつけてゆく。のどかの動きが止まっても、その猛攻が止まる様子はない。

 

「なんだってぇ?着るのか着ないのか、買うのか買わないのか!?どっちだい!!」

 

「う……うん!これに決めた!番頭、これ一つください!!」

 

「合点承知!……って、ありり、自己解決?試着とかしなくていいの?」

 

首を傾げるひなたに、のどかは大きく首を縦に振ってみせた。

抱いた疑問はラビリンも一緒だったが、直後にその答えはのどか自身の口から語られることとなる。

 

「ザイアスペックで、試着した時の格好が見れるの。こんなの、試してみようと思った事なかったから、驚いちゃって」

 

「あ、やっぱりそのメガネ、そういう機能もついてたんだ。おかしいと思ったんだぁ……まぁ、最初のチョイスがね、初めて服選ぶって感じじゃなかったもん。裏の、裏の、裏の、そのまた裏をかいてたからね」

 

「それは表ラビ。無駄に分かりにくいだけの、ただの表ラビ」

 

ラビリンのツッコミは、2人には届かない。

すると、驚くべき事が起きた。おもむろにのどかはザイアスペックに手をかけ、するりとそれを外したのだ。突然の出来事に、1人と2匹から、どよめきが漏れる。

そんな彼女達の思惑など知る由もないのどかは、太陽のように笑顔を輝かせる。

 

「やっぱりすごいよ!!AIのオススメもすごかったけど、やっぱりひなたちゃんのやつの方が、似合う気がするもん」

 

「そうか……そうですかぁ!いや、照れますなぁ!てか!これ!アタシ!AIに勝ったって事だよね!それめっちゃ燃えるじゃん!」

 

「うん!ありがとう、ひなたちゃん!」

 

周りの目も気にせず抱き合う2人。ラビリンの脳内でロッキーが勝利の雄叫びを上げる。

しかし直後、のどかはザイアスペックを掛け直し、おもむろにレジへと向かい始めた。

一同はその様子に、開いた口が塞がらない。

 

「あのー、のどかサン?何でそれ、かけ直したんですかね?」

 

「ここ、ザイアスペックつけてると、30%オフになるんだって。実は、お小遣いもそんなに残ってないし、ね」

 

「あー、うん、なるほどね。割引ですね。これは想定外。いやぁ、ハイカラだなぁ!」

 

レジへと駆けてゆくのどかを止められる者は、もはやこの場にいなかった。ひなたも呆れ顔だ。トートバッグの中から、ラビリンがひょっこりと顔を出す。

 

「どうするラビ!?」

 

「焦るな、ラビリン。アタシ達には次の作戦がある」

 

「そうだ、俺たちに任せろ」

 

自信満々といった様子の彼等に、ラビリンはとりあえず託してみることにした。

 

 

結果は……散々であった。

 

 

イチゴ1000%作戦、ニュルンベルクのマイスタージンガー作戦、V作戦……それら全てが、紙一重で失敗に終わった。

あまりにも硬いのどかのガードに、ひなたもだんだん飽きてきたのか、作戦は次第に雑になっていった。

そんな事をしているうちに、日も暮れ、2人の手から下がる紙袋の量は増え行く。最早純粋にショッピングを楽しむ2人の横で、2匹のヒーリングアニマルはやれやれと肩を竦めるのだった。

 

 

 

____________________________

 

 

 

特務機関A.I.M.S.本部の一角、真白いテーブルとライトスタンドのみが置かれた四畳間ほどの広さの一室は、窓から差し込む西日で、辛うじて明るさを保っていた。入り口のプレートには特殊取調室とある。

 

向かい合うのは2人の男。

 

1人は、天津 垓……世界有数の巨大グループ、ZAIAエンタープライズの社長である。

余裕綽々な天津に対し、取り調べを行うA.I.M.S.隊長……不破 諫の表情は硬い。眉間のシワは川の字を描き、睨み殺さんばかりの視線とは裏腹に、その表情には明らかな焦りの色が見て取れた。

 

勾留は今日で2日目……

 

卓上のグラスを取ろうとした天津の手を、不破の手がピシャリとはねる。グラスを掴み損ねた残念そうに空を舞い、やがて、いつも通りに膝下へと組まれた。

 

「俺達を襲ったツノ付きのマギア……アイツらは何なんだ」

 

「私に分かるとでも?まったく、ヒューマギアの進化とは恐ろしいものだ」

 

「お前の差し金じゃないのか」

 

「敢えて自分の命を危険に晒す必要がどこに?」

 

不破の質問攻めを飄々と躱す天津。不破も慣れっこなのか、語気を強めて追撃する。

 

「通報のあった暴走マギア、アレはお前が作ったモンだろう」

 

「どうやって故意にヒューマギアを暴走させると言うのです」

 

「お前がゼツメライズキーを所持している事は調べがついている!ラボに査察が入れば、すぐにわかることだぞ」

 

「反論はできますが、まぁ、企業秘密と言っておきましょう」

 

「ふざけるなっ!人工知能特別法違反を始め、誘拐に監禁……お前の容疑は星の数だ!」

 

「身に覚えのない容疑が多いですね。私がいつ誰を誘拐したと言うのです」

 

「それはお前が一番良く分かっているだろう……ッ!」

 

不破は潰れそうになる程に、拳を固める。彼がこれほどまでに焦る理由は単純明快……時間がないのだ。

国家、企業を問わず様々な企業が天津の技術提供を受けている。内閣官房所属のA.I.M.S.とて例外ではない。この場で彼は、本来客分以上の扱いを受けるべき存在である。

彼等がZAIAに反旗を翻した理由は一つ。

ZAIAが滅亡迅雷.netの成立に関与した数々のグレーな証拠を足で集めた不破の強い説得に応じ、内閣官房が重い腰を上げたからである。建前は査察、その実は国家による一企業への強制捜査だ。

命令は即座に警察庁へと通達され、令状の発行から強制捜査、天津の身柄確保までは最速で行われた。

事件の真相に迫るために手段を選んでいられない不破にとっては、まさに望んだ展開。もしZAIAのラボから起訴可能な証拠が一つでも見つかれば、より長くこの男をここに縛りつけることができる。そうなれば、ほぼ勝利は決まったようなものだ。

しかし、それでもなお、彼の心中は穏やかではなかった。

 

(これは、賭けだ。それも、限りなく勝ち目の薄い……な)

 

滅亡迅雷.netの脅威が去ったとはいえ、ヒューマギアは暴走を続けている。その強さは日に日に増し、レイドマギアなる存在も現れ始めた。能力を持たないトリロバイトマギアだけなら現存の一般兵装でも対処できるが、レイドマギア、アークマギアのレベルともなると、まともに戦えるのはZAIAから借り受けた兵装しかない。

国が重い腰を上げたのも、その技術を手中に収めておきたかったからに過ぎない。

しかし、この捜査で成果が挙げられず、ZAIAが技術協力を完全に絶った時……それこそ機動隊でも動員しない限り、マギアの駆除は不可能となる。政府としてもそれは避けたいだろう。

もしこの査察が失敗に終わった場合、真っ先に政府が考えるのは天津のご機嫌取り。袖の下に添える供物としてお偉い方が差し出すのは、実行を指示した不破の首である。

絵に描いたようなトカゲの尻尾切りが行われるまで、あと少し。これは、彼の進退を賭けた戦いでもあった。

 

(だが、それがどうした。俺はヒューマギアをぶっ潰す!コイツが今起きている事件の元凶なら、コイツもぶっ潰すだけだ!)

 

不破は懐から、桃色のプログライズキーを取り出す。サウザーが変身に使った『ローゼンリング』のキーだ。二日前に彼から押収したものである。

それを見てなお、天津の余裕は揺るがない。だが不破は、天津の視線が一瞬、それに吸い寄せられるのを見逃さなかった。

 

(コレが、鍵か)

 

不破の視線が、これ以上ない程に鋭くなる。

 

「質問を変える……このプログライズキーを、どうやって手に入れた」

 

「手に入れたとは失敬な。これは我がZAIAの製品……君たちの使っているショットライザーと同じルーツのものです。私は今、世界を蝕む巨悪と戦う準備を進めている。こんな所に拘束されている暇は無いんですよ」

 

「何が巨悪だ。巨悪はお前たちZAIAだろう!!」

 

「おやおや、名誉毀損で訴えられても仕方がない言動だ。しかし、今の私は寛容でね。君がこの聖戦に名乗りを上げてくれると言うなら、新型のプログライズキーをテストさせてあげましょう。それにより、君は更なる力を得ることになる」

 

「あ?」

 

不破の手が天津の襟を掴み上げる。あまりにも素っ頓狂な天津の言動に、不破の中の何かが切れたのだ。

 

「ふざけるな、何が聖戦だ!!俺はこの目で敵を見続けてきた。人類を滅亡させようと躍起になる、マギア共をな!そして、滅亡迅雷.netは壊滅させた。滅も俺達が拘束している。言い逃れは通用しないぞ」

 

「何も知らない野良犬君に教えてあげましょうか。私が戦う敵はビョーゲンズ。姿を持った病原菌です。ヒーリングサウザーは彼らに対する特効薬なんですよ。もっとも、アレはまだ設計途中ですが」

 

「未完成……だと?」

 

「……ふふ、これより先は、企業秘密です」

 

「なら何度でも聞いてやる!その企業秘密を、喋れっ!!」

 

激昂した不破が、騒ぎを聞きつけた同僚達に取り押さえられるまでに、そう時間はかからなかった。

数人がかりで引きずられながら部屋を後にする彼の様子を、天津はさもおかしげに眺めていた。




第4話をお読みくださり、ありがとうございます。
この小説は仮面ライダーゼロワンの24話後の時間軸で話が進められているので、現在のゼロワンを観ている方には、少し「あれっ」となるようなシーンが多いと思われます。24話から世界が分岐していると考えてお読みいただければ幸いですが、不明な点がある場合は感想やメッセージなどでご質問を頂ければお答えします。
よろしければ、次回もお読みいただけるとありがたいです。

P.S.この小説は、過去にpixivに投稿したものを編集しております。
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