PROJECT HEALINGOOD THOUSER〈完結済〉   作:TAMZET

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〜これまでのあらすじ〜
ビョーゲンズと手を組んだ滅亡迅雷.netの手により、次々と撃破されてゆくプリキュア達。一方、ドードーマギア達のA.I.M.S.本部襲撃により、不破と天津、刃の3人は危険な逃避行を強いられる事となる。
そして、のどかの元へと危険な魔の手が迫っていた。



Episode7:【最後の二人】

ここは、とあるヒューマギアの思考空間。

前後左右上下のあちこちを規則的に流れる数字の羅列の中、彼女は、息を大きく吐き、回線を開いた。

思考インターフェースに表示される発信先の欄には、『沢泉ちゆ』の名と、彼女の顔写真が映し出されている。

4コールの後、音声回線がつながった。

 

「何だ、コイツの通信端末か」

 

集音器の向こうから聞こえてくるのは、低い男の声。

ヒューマギアは、その声に聞き覚えがあった。

口元一つ動かさず、ヒューマギアは電話口の向こうにいる彼に向けて返答する。

 

「大変お忙しい所、申し訳ありません。私、飛電インテリジェンス代表取締役社長・飛電 或人様の秘書を務めます、秘書型ヒューマギア・イズと申します。滅亡迅雷のアンサツ様でお間違いありませんか」

 

「ゼロワンの所の秘書型か。要件は分かっている……コイツの解放だろう」

 

男は否定も肯定もしなかった。

しかし、通信端末の拾う少女の微かな呻き声と咳込みの雑音が、ヒューマギア・イズの仮説を確信に変えた。

 

「安心しろ、まだ生きている」

 

電話口からは、何かを殴るような鈍い音と、押し殺したような悲鳴。そして、荒い息遣いが聞こえてくる。

協力を依頼した沢泉ちゆが捕まってしまったのはイズにとって想定外だった。彼女が持っている交渉のカードはたった一枚である。この交渉をしくじれば、後はない。

しかし、ここで焦っては、それこそ相手の思う壺だ。

イズは声色一つ変えず、回線の先のドードーマギアへ語りかける。

 

「はい、要件の一つはそれで間違いありません。ですが、それとは別にもう一つ、耳寄りな情報がございます」

 

イズは、この2週間で調べ上げた情報群……その全てをデータとしてアンサツに送りつけた。

電話口の向こうが、沈黙に陥る。

数分後、重々しい声でアンサツはイズへと問いかけた。

 

「これは……本当か?」

 

「はい。貴方の主人……フィーニスを名乗る彼女は、精力的に滅亡迅雷の妨害を行っているようです」

 

「あの狸め……ッ!!」

 

何かを殴る轟音が、通話口からイズの聴覚回路を刺激する。

殴られた相手がちゆでない事を祈りつつ、イズは続ける。

 

「彼女を解放し、A.I.M.S.への攻撃を中止してくださるのであれば、現在の彼女の居場所をお伝えします」

 

「いいだろう。最早、奴の命令に従う理由もない」

 

アンサツの返事に、イズは思考回路の中でほっと胸を撫で下ろす。

本来ヒューマギアは理知的な思考ができる存在である。勝算の低い賭けであったが、どうやら賭けは彼女の勝ちに終わったようだ。

 

「しかし、どんな風の吹き回しだ。ZAIAはお前たちの敵でもあるだろう」

 

訝しむアンサツに、イズは返答を戸惑った。何故自分がこんな事をしているのか、『彼』の敵であるZAIAを助けようとしているのか。

答えはすぐに出た。

私の敬愛する彼なら、きっとそうしろと言うと思ったからだ。

 

「或人社長をお助けするのが、私の仕事ですから」

 

イズは自信を持って、そう答えた。

 

 

_____________________________

 

 

 

目が覚めた時には、空は暗くなっていた。

 

「う、わっ!?」

 

閉じようとする目蓋を無理やり開き、夜風に冷え切った身体を叩き起こす。

 

(もしかして、寝ちゃってた!?)

 

モールに並ぶ店々は既にシャッターを下ろし切っており、完全に昼間の賑わいとは違う顔を覗かせている。

夕闇に沈む石畳の風景を眺めていると、なんだか自分一人がそこに取り残されてしまったように感じるのだ。

最後にある記憶は……お買い物に行った時のもの。ベンチで休んで……ひなたちゃんにザイアスペックを預かってもらって……そこから先の記憶がない。

景色は、寝る前と変わっていない。

私自身は動いてないという事だ。

時間は……ザイアスペックで最後に見た時間から丁度1時間くらいのようだ。

空模様の変化の割には、そんなに長く眠ってしまったわけではないらしい。

私は一つノビをし、辺りを見回す。

そういえばみんなはどこへ行ったのだろう。

 

「ひなたちゃん?」

 

呼べど、返事が返ってくる様子はない。

おかしい、一緒にいてくれるって言ったのに。

荷物は既に片付けられている。

先に帰ってしまったんだろうか。

右目をさする。

ザイアスペックはもうない。

視界に映し出される文字がない事に少し違和感があるが、同時に少しホッとしもする。

空には、少しだけ先っぽの欠けた三日月が浮かんでいる。

もう夜なのは間違いない。

けど、なんでだろう。

アレを見ていると、少し不安になるのだ。

 

「ラビリン?ニャトラン?」

 

不安に駆られて読んだ声は、虚空へと消える。

彼らも近くにいないのだろうか、帰ってしまったのだろうか。

ひなたのパートナーになったニャトランはともかく、ラビリンまで返事がないのはおかしい。

そうだ、電話してみよう。

端末を確認すると、ひなたちゃんの電話番号はすぐに見つかった。

見覚えのない発信履歴があるが……これはきっとラビリンだな。

突然いなくなった仲間達、先っぽの欠けた三日月、根拠のない胸騒ぎ。

重なる不安のせいで、ボタンを押す指が震える。

 

「ひなたちゃん、大丈夫だよね?」

 

数コールの後、電話がつながった。

開口一番、私は叫ぶ。

 

「ひなたちゃ」

 

「ああ、お前、花寺 のどかだな」

 

聞こえてきたのは、ゾッとするような低い声だった。

手が震え、思わず電話を落としそうになる。

電話を握る右手を左手で包み、私は深呼吸して言葉を続ける。

 

「だれ、ですか?」

 

「いや、落とし物の携帯からかけてるんだけどよ。警察に届けるのも面倒だし。ひなたちゃんの友達なら、できれば彼女の家の番号でも教えて欲しいんだが」

 

男は理路整然と語った。

口調こそ荒っぽいが、言っている事に筋は通っている。

けれど、声がどうしようもなく怖いのだ。

この人を信じてはいけないと、本能が警鐘を鳴らしている。

私はどうするべきなのだろう。

 

「……えと、その……」

 

「このスマホ、電話番号多すぎて、どれがどれだか分かんねぇんだわ」

 

頭がぐちゃぐちゃになる。

彼が言っている事は何もおかしくない。

けれど、なんでだろう、寒気が止まらない。

誰か助けてほしい。

ラビリンでもニャトランでもペギタンでも、誰でもいいからそばにいて欲しい。

大丈夫だよって言って欲しい。

電話先の人はしばらく黙っていたが、唐突にまた話し出した。

 

「ああ、悪い、もう大丈夫だ」

 

「……え?」

 

その声は、すぐ近くで聞こえた気がした。

背後に人の気配がする。

振り返ると、白衣を着た長身の男の人が立っていた。

 

「きゃあっ!!?」

 

反射的に、身体はその人から飛び退いていた。

目元を隠すほどに伸びきった髪、その隙間から覗く瞳の冷たさに、頭の中の非常警報がガンガンと鳴り続ける。

 

「位置探知終了。案外近くて良かったぜ」

 

男は口元まで裂けそうなくらいに口端を歪ませる。その笑顔の不気味さときたら、まるで昔絵本で読んだ鬼か悪魔のようで。

一度止まりかけた心臓が、早鐘のように休みなく鳴り続ける。

足が震えてうまく立てない。

 

「そう怖がるなよ。ただ、お前を消しにきただけなんだから」

 

「けし……に?」

 

男の言葉の意味は、すぐには分からなかった。

 

『けす』

 

その単語の意味も分からないまま、私は後ずさる。

長い足でベンチを乗り越え、男の人はズンズンとこちらへ進んでくる。

私は千鳥足で後退するしかない。

 

「大丈夫だ、すぐ終わるからよ」

 

本当に怖い時、人は頭と口が別々に動くって事が分かった。

頭の中は「怖い」でいっぱいなのに、口は、『ラビリン』を呪文のように唱え続けている。

すると、今まで笑いながら歩いてきていた男の人の足が止まった。

男は無造作に懐を弄り、ピンク色の何かを取り出す。ボロ雑巾のように垂れ下がる『それ』が何なのか、最初は分からなかった。

 

「ラビリン?ああ、このヒーリングアニマルの事か」

 

男の人が掴んでいるのは、動物だった。長い耳に、薄桃色の毛皮……間違いない、アレは、ラビリンだ。

 

「ラビ、リン?」

 

捕まっていたんだ。

この人がひなたちゃんの端末を持ってたって事は、多分ひなたちゃんもニャトランも……

 

「しばらく眠らせただけだ。手荒な真似はしてねぇ。ヒーリングアニマルは今回の計画の対象外だからな」

 

不気味な笑みを浮かべながら近づいてくる男。

邪気に満ち溢れた彼の手を目掛け、私は端末を思いっ切り投げつけた。

端末は狙いを外れて地面へと落ちる。

が、男の顔から笑みは消え、その歩みは止まった。

 

「へぇ、度胸あるじゃん。流石はプリキュアってところだな」

 

その両目の三白眼から伝わってくるのは、明確な悪意。お前を酷い目に合わせてやるぞという、強靭な意思。

けれど、引くわけにはいかない。

私の友達に、大切なパートナーに、こんなことされて、黙ってられるわけない。

 

「ラビリンを……ラビリンを離して!!」

 

男の人の口元がまたにやりと歪む。その目は、獲物を見つけたときの肉食獣のそれだ。

 

「悪いけどな、俺はサディストじゃないんだ。戦いを愉しむつもりは無ぇ」

 

男の人が両腕を交差させる。

瞬間、白衣の隙間から凄まじい量の紫色の霧が吹き出してきた。霧は瞬く間に男の全身を覆い、その長身を隠す。

アレは、メガビョーゲンの霧の色に似ている気がする。

 

『覚醒しろ……メツビョーゲンッッ!!』

 

男の声に応えるように、霧はジェットスチームの如く吹き飛んだ。

その激しさに、私は思わず目を覆う。

 

「きゃっ!?」

 

目を開けた時、そこには人型の怪物がいた。

人型だが、それ以外の面影は無い。

左手にはナイフと見間違いそうな程に巨大なメスが握られ、右腕は注射器を模したガラス瓶のようになっている。

白衣を纏ったその体は、つぶつぶの鱗に覆われ、まるで蜥蜴かワニのようだ。体躯は変身前と変わっていないが、顔面はメガビョーゲンと同じように醜く歪んでおり、向けられる悪意は桁違いに増している。

 

怪物は「ヒヒッ」と君悪い笑い声をあげ、私の前で深くお辞儀をしてみせた。

 

「俺はメツビョーゲン。キングビョーゲン様の忠実なる下僕だ。今からお前を始末するが、安心しろ。痛くはしねぇ。ちょっとチクッとするだけだ」

 

ラビリンを放り、メガビョーゲンと名乗った怪物は私の方へと歩を進める。

対して、私はヒーリングステッキを正中に構えた。ラビリンが起きてこなければ変身はできないが、脅しにくらいはなるだろう。

怪物の歩みは止まらない。いつでもお前を倒せるぞとでも言わんばかりの悠然とした歩みに、私の足が下がりたいと悲鳴を上げる。

でも、下がっちゃいけない。

 

(私は今怒ってるんだ、こんな奴に、好きなようにされてたまるか!)

 

そして、そんな緊張を破るかのような出来事は、あまりにも唐突に起きた。

 

「のどかに、手は出させないラビ!」

 

手に持った身の丈ほどのハリセンが、メツビョーゲンの頭を叩いたのである。

パシッと乾いた音と共に、怪物の動きが止まる。

打ち据えたのは、ラビリン。

呆気にとられる私と怪物の間に立ち、彼女はハリセンを正中に構えてみせる。

 

「あ?」

 

メツビョーゲンにとっては、虫が止まった程度の僅かな打撃だっただろう。しかし、その一撃は確実にその足を止め、のどかの精神を窮地から救い出した。

 

 

____________________________

 

 

 

時刻は既に19時を回っている。

 

天津をドードーマギア達の襲撃から守るため、刃と不破は共同で彼を護送していた。彼らの全身には無数の傷が刻まれており、ここまでの旅路がどれだけ危険なものであったかを物語っている。

 

目的地は、この付近に点在するZAIAの秘密ラボ。

ラボにはマギア自動迎撃システムが搭載されており、辿り着けさえすれば、敵を確実に振り切る事ができる。

天津曰く、近くまで車が来ており、車に積んである新兵器を使えば、彼らを殲滅できるらしい。

目的地までは、あと少し。

迷宮のように広がるビル群を抜けた先は、閑静な住宅街であった。

 

「どこだ、ここは?」

 

訝しむ刃。

不破も天津も同じ様子だ。

A.I.M.S.本部の近くにこんな場所があったかは疑問だが、ともかく座標ではこの近くが合流地点で間違いない。

物陰をすり抜けるようにして隠れた三人は、己を追跡してくるマギア達の様子を伺う。

 

赤い頭頂部に、短い嘴、そして頭から生えた、二本の湾曲した触覚。

その特徴の多くは、かつてゼロワンとA.I.M.S.が共同で討伐したドードーマギアの手下に酷似していた。

 

「アイツら、あの暗殺野郎の手下か」

 

「そのようだ。二人とも、私のために……済まない」

 

頭を下げる天津に、不破と刃が驚きの表情で振り返る。

二人の反応を見て、天津は深々と頭を下げた。

ドードーマギア達が近くにいるのも構わず、天津はもの悲しげな声で続ける。

 

「刃、私は今まで君を、奴隷のように酷使してきた。君の脳にチップまで埋め込んで……本当に申し訳なかったと思っている」

 

「天津社長……」

 

刃は信じられないと言った様子で口元を押さえる。反面、不破の眉間に寄る皺は一層深くなった。

 

「こんな非常時にどういうつもりだ!俺を撹乱する気か!?」

 

「野良犬君……いや、不破諫。君にも、随分と迷惑をかけた」

 

「気色の悪い!!」

 

しょんぼりとした表情の天津を振り切り、不破は周囲の警戒を続ける。足音が近くなってきている。慎重に立ち回らなければ。

脳内で脱出ルートを構築する不破。しかし、それを妨害するかのように、天津の独白が始まった。

 

「新型プログライズキーの開発に際し、私は彼女たち3人の意識に触れた。その何と優しく純粋な事か。今まで我慢してきたが、もう耐えられない……私を……裁いて欲しい……ッ!!」

 

「あの天津社長が、改心した」

 

「そんな事はどうでもいい!今は……」

 

不破の言葉を遮るように、背後からの銃撃が3人を襲う。

どうやら、既に場所を探知されていたようだ。

口元を固く結ぶ天津。

彼を庇うように、不破はショットライザーを手に、2人の前に立ち塞がる。

ショットライザーには既に、パンチングコングのプログライズキーが装填されていた。

 

「戦う気が無いなら離れてろ!ZAIAの力など借りずとも、この程度、俺1人で全員ぶっ潰す!」

 

 

『POWER!』

 

 

不破の怒声と共に、ショットライザーから電子の弾丸が放たれる。

 

 

『SHOTRIZE!パンチングコング!

"Enough power to annihilate a mountain."』

 

 

放たれた弾丸は彼の元へと戻り、突き出される不破の拳によって砕かれた。

弾丸は焦茶色のアーマーを形成し、彼を仮面ライダーバルカンへと変身させる。変身するや否や、バルカンは突進の構えをとった。

彼の持つ圧倒的なパワーを活かした、猪突猛進の突撃戦術である。

 

「行くぞ、マギア共!!……ッ!?」

 

刹那、二つ目の弾丸が彼の頬をかすめた。

 

『SHOTRIZE!ライトニングホーネット!

"Piercing needle with incredible force." 』

 

 

弾丸は、それを放った刃の元へと辿り着き、彼女の身体に黄色のアーマーを形成した。

弾丸を打つことに、迷いはなかった。その位置は、かつて彼女にとって最も居心地の良い場所だったのだから。

 

「お前のその傷では、奴等に倒されて終いだ。加勢してやる」

 

「刃!?」

 

慌てたような不破の仕草が、どこか面白い。

自らの全身に纏われるアーマーを地面の硝子片で写し見ながら、刃はこの危機的状況に感謝すらしていた。

一時的とはいえ、滅亡迅雷.netと戦っていたあの頃のチームに戻ることができたのだから。

 

「勘違いするな。天津社長の護衛のため、共闘してやるだけだ」

 

「いいだろう。足を引っ張るなよ!」

 

「その言葉、そっくり返してやる」

 

両手の甲を突き合わせると、二人は眼前のドードーマギアのヒナたちに向けて駆けた。

武器を構え襲い来るマギア達を、バルカンの豪腕が吹き飛ばす。

 

「不破、詳しくは説明できんが、あまり奴らの体に触れるな!あのツノは、恐らく病原菌を撒き散らす役割を果たしている」

 

「分かった!」

 

よろけるマギア達に追い討ちをかけるように、バルカンは自身の足元へとパンチを繰り出す。

凄まじい揺れが起き、前の方にいたマギア達は転倒した。

だが、その後ろにいた個体にまで衝撃は届かなかったようで、彼等は己の頭から生える黒い触手を器用伸縮させ、バルカンを攻撃する。

 

「くッ!?」

 

両腕を交差させて防ごうとするバルカン……しかし直後、鋭い銃声と共に、バルキリーの銃撃がヒナ達の触覚を切り裂いた。

 

「不破、よく引きつけた!」

 

雨のように放たれる銃撃は、後方のマギア達までをも怯ませる。

バルカンが正面でマギアを牽制する間、バルキリーは彼らの後ろを取るべく回り込んでいたのである。

総崩れとなったマギア達の前後を取り、2人はショットライザーのトリガーに指をかける。

 

「決めるぞ、刃!」

 

「ああ!」

 

同時に発射される無数の弾丸。それらはマギア達の体を貫き、その全てを爆散させた。

辺りを確認し、脅威が去ったことを確認した2人は、変身を解いた。

久々の共闘。

解除の瞬間、不破の口元が、若干緩んでいるように思えた。

 

幻想かもしれない一瞬の光景。しかし、それは凍りついていた刃の心を僅かに溶かした。

 

不破は一つ伸びをすると、天津の腕を引き、近くで待機していたZAIAの輸送車の方へと歩き出す。

 

「刃。何をにやけてる」

 

「に、にやけてなどいない!それにしても、なんだあの頭のツノは……前に戦った時には、あんなもの無かっただろう」

 

「そうだな。本当に何だったんだ、アイツらは……」

 

輸送車に乗り込む天津と不破。

続けて段に足をかけようとした刃を、天津は静かに制した。

その表情は固く、トカゲの如く鋭い相貌が戻ってきている。

 

「天津社長……元に戻ったんですか?」

 

「ああ。ローゼンリングプログライズキーの一時的な副作用のようなものだろう。唯阿、君はプリキュア達の救援に向かってくれ。私の予感が正しければ、彼女達もターゲットにされている可能性が高い」

 

「しかし……」

 

「ドライバーを回収し次第、私もすぐに向かう。不服だが、助っ人も呼んである……頼んだぞ」

 

車の戸が、彼女の眼前で閉まる。

直前、向かい合う2人を見つめていた刃は、確かにその言葉を聞いた。

 

「私は生まれ変わった。今こそ全てを話そう。完成したヒーリングッドサウザーの全てを……」

 

気がついた時には、既に車両は彼女の目の届かない位置まで走り去ってしまっていた。

天津の知る『全て』とは何なのか、あのドードーマギアのヒナ達は何を狙っていたのか。

天津が逮捕前に言っていたビョーゲンズという巨悪、そしてヒーリングッドサウザーの完成。

自身の知らない地点で加速する陰謀に、刃の疑念は、加速していくばかりだった。

しかし、数秒後、その思考は唐突に切り裂かれた。

 

『ドガァァンッ!』

 

凄まじい衝撃と共に、砂塵を伴った突風が刃の全身に叩きつけられる。

爆発が起きた事はすぐに分かった。そして、爆心地が車両のあった方角である事も。

想定されるのは、最悪の事態。現場を確かめるために、刃は息を切らせて駆ける。

幾つもの角を曲がった先、刃が見た光景は、彼女の想像を大きく超えるものだった。

 

 

 

____________________________

 

 

 

ラビリンのハリセンによる一撃が頭部に直撃し、メツビョーゲンの動きは止まった。

 

「隙ありラビッ!」

 

それを機と見たのか、ラビリンはハリセンによる連続攻撃を加えてゆく。

メツビョーゲンは動かない。

一頻り打ち終えると、ラビリンは私のところに帰ってきた。

 

「これが、象をも倒すハリセンハンマーの威力ラビ!ラビリンも、のどかを守るラビ!」

 

勇しく胸を張るラビリン。

近くで見る彼女の毛並みは所々崩れており、大変な目に遭っていた事は容易に想像がついた。

私は、拳を固く握りしめる。

メツビョーゲンに腹が立つのはもちろんだ。けれど、ラビリンがそんなに頑張ってる時に、のんきに眠っていた自分に1番腹が立つ。

何がみんなと同じになれるように頑張るだ。

肝心な時に動けなきゃ、意味がないよ。

 

「のどか?何してるラビ!早く変身してアイツを倒すラビ!」

 

「わかってる……ちょっと、自分に喝入れてただけ」

 

動き出したメツビョーゲンに、ヒーリングステッキの先端を向ける。

花のヒーリングボトルを装填すると、ステッキの先端から光が放たれ始めた。

眼前の怪物は余裕の表情で眺めている。まるで、いつでも戦えるとでも言わんばかりに。

今まで戦ってきたメガビョーゲンは、そんな事はしなかった。

どちらかというと、人間に近い仕草だ。

 

「あなたさっき、人間って言ったよね。あなた、人間なの?」

 

「ああ。俺は人間だった。だが、俺はキングビョーゲン様に忠誠を誓った。今の俺はビョーゲンズだ!」

 

こちらに向かってくるメツビョーゲンに向けて、私は躊躇無くヒーリングステッキのスイッチを入れる。

 

『キュアッ!』

 

可愛らしい音と共に無数の花弁の弾丸が飛び、怪物の動きを止める。舞い散る花弁の中で、私の身体は光に包まれる。

 

「なら、あなたを止める。プリキュアとして……1人の女の子として!行くよラビリン!プリキュア・オペレーション!」

 

「エレメントレベル上昇ラビ!」

 

光の中で、私……花寺 のどかの身体は、プリキュアの戦士キュアグレースへと変わってゆく。

 

「重なる二つの花!キュアグレース!」

 

花を纏った戦装束に身を包んだグレースは、瞬間、メツビョーゲンへと飛んだ。

ヒーリングステッキと怪物のメスがぶつかり合い、凄まじい衝撃波を生む。

 

拮抗する二つの力、その中で、グレースはメツビョーゲンの虚な瞳を睨み据える。

必ずその悪行を止めると、固い決意を以て。

 

「来いキュアグレース。お前の命を、キングビョーゲン様への最後の供物として捧げよう」

 

「言ったら焦ると思って隠してたけど、実はひなたが大ピンチラビ!こいつをやっつけて、早く助けに行くラビ!」

 

「うん。分かった。速攻で終わらせよう!」

 

みんながいなくて寂しいとか、そんなこと思っててどうする。私はひなたちゃんに、ちゆちゃんに助けてもらってたんだ。

今度は私が助ける番。

そのためにも、まずは私がこの場を切り抜ける。

 

「絶対、負けない!」

 

ピンチに陥る仲間、人を捨てたビョーゲンズ、その中で自身を支えてくれるラビリン。

様々な事象が重なり合い、グレースの心のボルテージは、最大限に高まっていた。

 

しかし、彼女の背後で轟いた凄まじい爆発音が彼女の意識を逸らす。

目に染みる黒煙と共に焦げ臭い匂いに、彼女は鼻を覆う。

 

「何の爆発ラビ!?」

 

「あの車、中に人いるよね?」

 

メツビョーゲンから離れ、車の中を探すグレース。

だが、車の中は空っぽだ。

運転席にも誰もいない……爆発する前に脱出できたのだろうか。

 

「これも、あなたの攻撃?」

 

「あ?んなわけねぇだろ。ただの事故じゃねぇか?」

 

「そんなわけないっ!!」

 

ヒーリングステッキから放たれた桃色の光線を、メツビョーゲンはステップで躱した。

流れるように放たれるメスでの一撃に、グレースはヒーリングステッキの芯をぶつけて対処。

反撃として放たれたグレースの拳は、怪物の左腕に防がれる。

互いに譲らない攻防を繰り広げる両者の背後で、『ZAIA』の文字が焼け焦げてゆく。

 

そして、混乱した場をさらにかき乱すように、新たな乱入者が現れた。

 

「なんだ、これは……!?」

 

現れたのは、スーツ姿の女性。手には何やら青い銃らしいものを持っている。辺りを見回し、女性はメツビョーゲンへと銃を向けた。

 

「貴様がやったのか?貴様は何者だ!?」

 

メツビョーゲンは鬱陶しげに彼女に視線を送り、続け様に右腕に取り付けられた巨大な注射器の先端を向けた。

月明かりに照らされる注射器……その内に込められた禍々しい液体が黒光りする。

 

「さっきから邪魔が多いな。面倒だ……消しちまうか!!」

 

注射器の先端が、禍々しく濃紫に染まる。

あの紫は、メガビョーゲンと同じ色……アレは、何かしらの攻撃だ!!

 

「ッ!?」

 

「危ないっ!!」

 

直後、グレースの予想通りに注射器から凄まじい出力の熱線が吐き出された。

直径10cmにも満たないほどのシャープな光線。

しかし、熱線の余波が生み出した衝撃波は刃の足元の地面を焼き、遠く離れたZAIAの車両すら吹き飛ばした。

刃の胸から上は吹き飛び、制御を失った下半身が地面に崩れ落ちる……はずだった。

 

「大丈夫ですか?」

 

現実は違った。

刃の眼前に……球状に展開されていた桃色のバリア・ぷにシールドが、彼女を守ったのである。

彼女の隣でヒーリングステッキを構えるのは、笑顔のキュアグレースだ。

 

「危ないですから。逃げてください。ここは私が何とかします」

 

「しかし……」

 

「大丈夫。私はプリキュアですから。もっと大きな敵を倒したこともあるんですよ」

 

この人は銃を持っていた、きっと勇敢な人なんだろう。

私がプリキュアだと言ったところで、説得にはならないかもしれない。

女性は少しの間俯いていたが、やはりというべきか、グレースの前に進み出た。

その手には、橙のプログライズキーが握られている。

天津さんが使っていたものと似ているが、それより小さい感じがする。

 

「いや、私も戦う。私は、仮面ライダーだ」

 

「天津さんと、同じ……」

 

「人間が持つ、最強の兵器だ。覚えておけ」

 

圧倒的な重圧を押し付けるメツビョーゲンの前に、毅然と並び立つ2人。刃 唯阿、花寺 のどか……初対面の瞬間であった。




第7話をお読みくださり、ありがとうございます。
天津社長に改心の傾向が見られますね。これは怪盗弾の仕業……?
ついにのどかさんにも魔の手が伸びましたが、間一髪刃さんの助けも間に合いました。
次回からは、ついに敵との全面的な激突が始まります。ご期待ください。

P.S.この小説は、以前Pixivに投稿したものを編集したものです。
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