PROJECT HEALINGOOD THOUSER〈完結済〉   作:TAMZET

8 / 11
これまでのあらすじ

フィーニスを名乗る謎の人物の手により、滅亡迅雷.netとビョーゲンズが結託。
狙われるプリキュアとZAIAの面々。キュアフォンテーヌとキュアスパークルは撃破され、彼らの魔の手はのどかにまで及ぶ。
ZAIAの輸送車を襲撃した犯人を追っていた刃と邂逅したのどかは、襲撃犯と目されるメツビョーゲンを前に、共同戦線を張るのだった。

この小説にはオリキャラが出ます。オリジナル設定があります。



Episode8:【黄金の騎士】

私は、力を持っていた。

幼少期、私は神童と呼ばれた。

学校に入れられて、私は天才と呼ばれるようになった。誰もが私を羨み、嫉妬し、私にすがった。私の才能を認めない者は叩き潰した。

やがて、私の存在は学校には収まり切らなくなった。

大学の研究機関も私の能力を収める鞘としては足りなかった。

 

やがて、私はザイアスペックを開発し、全能の力を得た。

全てが、下らなく見えた。

私は、その力を凡人共にも分け与える事にした。

だが、退屈は治らなかった。

ザイアスペックを使い、全能を得た気になっている凡人達も。その全能を否定し、凡人のまま人生を浪費しようとする愚か者共も。

バベルの塔の頂……そこから見える景色は、まさに青一色。あまりに退屈で、つまらない景色だ。

 

だが、彼らは違った。

 

飛電是之助の開発した彼らは、あまりにも純粋だった。

人と比べ、あまりにも全能からは遠い彼らは、私には無いものを持っていた。人の為に尽くす機能を。

そして彼らは持ち始めた。人を思う心を。

 

「それで、ヒューマギアを葬ろうとしたんですね」

 

私の心の内に現れた彼女は語る。

ピンクの髪を持ち、白衣に身を包んだ少女。天使の如きその双眸から、今まで幾度となく逃げてきた。だが、もう逃げきれない。

私は彼女と対峙し、心のままに叫ぶ。

 

「仕方がないだろう!!私が上に立つには、奴らを蹴落とすしか無かった!!積んだ骸の数だけ、私の立つバベルの塔は高くなっていった……もう降りられない!!」

 

「だから、塔に縋り付く彼らを蹴落とした」

 

その通彼女の言う通りだ。

私は彼らが私にたどり着くまでの梯子を外した。

アークに人類の悪意をラーニングさせ、滅亡迅雷.netを生み出し、ヒューマギアを守ろうとする飛電或人の行く道を阻んだ。

 

「怖かったんですね、天津さん」

 

「ああ、その通りだ。私は怖かった……私の40余年を……努力の日々を、一瞬で塗り替えてゆくヒューマギアが……彼らが……」

 

「かわいそうに。無念のまま果てていったヒューマギア達。彼らだけじゃない。あなたの踏み台にされ、塔の礎にされた人達」

 

「だが、そうでもしなければ!!私は……」

 

私の言葉を遮り、彼女は私の胸に手を当てた。手の触れた位置にはポッカリと拳大の穴が開き、暗い色の塊が顔を覗かせている。

彼女はそれをすっと掴み取り、優しく包み込んだ。

瞬間、塊は霧のように霧散し……私の頭の中に、声が飛び込んできた。

それは、私に未来を奪われた人間達、私によって破壊されてきたヒューマギア達の嘆きだったのだろう。

今まで蓋をしていた心に、それらはどっと流れ込んできた。

 

「すまない……すまない……」

 

真っ白な思考の大地に、私は頭をつけて謝罪した。

すすり泣き、涙を流して謝った。その声が誰にも届かないと知っていながらも、私にはそれしかできなかった。

その様子を、彼女は表情を変えず、眺めていた。

やがて、私の声も枯れ果てた頃、彼女は笑った。

 

「頭を上げてください、天津さん」

 

「……?」

 

「全ては、これからなんです。どれだけあなたが悪い事をしたとしても、あなたがこれから誰かを助けてはいけないわけじゃない」

 

彼女は、天使のような笑顔を浮かべたまま続ける。

 

「バベルの塔から降りられるのは、あなただけです。そこであなたを待つものは、辛く苦しい世界かもしれない。けれど、同じく苦しんでいる人を助ければ、きっとあなたは、救われる。あなたは、そのための力を持っています」

 

私がずっと見つけられなかった答えを、気がついていなかったその答えを、彼女は当ててのけた。

彼女は、何者なのだろうか。

本当に彼女は、花寺のどかなのだろうか。

 

「君は……?」

 

「あなたのよく知る、プリキュアです」

 

涙に揺らぐ視界の中で、彼女はにこりと笑った。

その表情は、私の最もよく知るだれかに、とてもよく似ている気がした。

 

 

____________________________

 

 

月明かりの下で、ヒューマギアは目を閉じる。

 

彼女の脳内で流れているのは、先程の通信の記録だ。通信の相手は、不破 諫。内閣官房直属の特務機関A.I.M.S.の隊長である。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「不破様、お元気ですか」

 

「絶賛逃走中だ!お荷物1人を抱えてな!」

 

電話口の向こうからは、何やら銃声やら悲鳴やらが聞こえてくる。

不破の声には焦りと怒りが混じっているようだった。余裕こそ感じられないが、喋れるほどには状況は芳しいという事だ。

私の思考回路は、『元気と判断して問題ない』と決断を下した。

 

「でしたら、ご心配なく。先程、先方と話がつきました。直に追っ手も減るはずです」

 

私はそう回答する。

返ってきたのは、大きなため息だった。

ヒューマギアの私が言う事ではないが、礼儀がなっていないんじゃないだろうか。そもそも敵が追ってくるのは私のせいではなく……

いけない。

こうして感情が昂った時には、『私はヒューマギア』と唱える事で思考回路を正常に戻すようにしている。

私はヒューマギア、私はヒューマギア。

やがて、電話の向こうで銃声の合奏が止んだ頃、不破の声がまた聞こえてきた。

 

「いなくなる訳じゃないんだな。まぁいい。元よりマギアは俺が全てぶっ潰すからな。奴は今どうしている」

 

「天津様の元へ向かっています。おそらく、あと1時間以内には出くわす事になるかと」

 

私の返答に対し、電話口の向こうから、明らかに大きな舌打ちが聞こえてきた。

ただ状況を伝えただけなのに、どうして私が怒られなければいけないのか。そもそも天津社長が面倒な呼び出しさえしなければ……

いけない。

私はヒューマギア、私はヒューマギア。

不破は「まぁ、隙を見て俺がここを離れるしかないか」と独り言のように呟くと、少し落ち着いた調子で話し出した。

 

「こっちも報告がある。天津はシロだ。少なくとも今回の事件についてはな」

 

「そうですか。飛電インテリジェンスの内部監査でも怪しい人物は見つけられませんでした」

 

「つまり、奴は単独犯か。本当だとしたら大した奴だな」

 

「ええ。しかし、2週間に渡る探偵活動の結果、彼の監禁場所を突き止めることに成功しました。不破様、手筈通りにお願いいたします」

 

「ああ……悪い、また天津の発作が来た。切るぞ」

 

通信はここで切れている。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

ヒューマギアは反芻する。

今自分が投じている作戦が、危険な、賭けに近い事に間違いはない。

事を成すために危険に身を投じる事は怖くはない。蛮勇に近い心持ちだ。だが、これは、かつて私が抱いていたような、自己を軽んじる気持ちから来る思いではない。

決して失われてはならないもの、それを守りたいという強い思いから来るものだ。

 

「イズ!どうしたんだよボーッとして」

 

前方から聞こえた声に、ヒューマギアは改めて身を引き締める。私が自らに課した役目は、彼の救出における全てのサポート。

今、しくじるわけにはいかない。

 

「いえ、なんでもありません」

 

ヒューマギアは彼の背を見つめ、改めて感服する。

彼が築き上げてきた、信頼の輪の広大さに。

彼はこれまで何度も私達を守ってくれた。

今度は、私達ヒューマギアが恩返しする番だ。

 

「さっき天津社長から連絡があったんだ。知り合いの女の子が襲われてるから、力を貸して欲しいって。絶対、助けような」

 

「はい、社長」

 

ヒューマギア……イズは最大限の笑顔を浮かべてみせる。

全ては、飛電インテリジェンスのため。

そう言い聞かせ、イズはその背中を追った。

 

 

 

____________________________

 

 

 

戦闘開始からはや5分。

仮面ライダーバルキリーとキュアグレース。

2人の連携は見事なものであった。

 

左腕の注射器型光線銃……メツシリンダーを構え、光線を放つメツビョーゲン。衝撃波を纏った熱戦は、グレースの展開した桃色の光壁・プニシールドに阻まれ、紫の蛍火を辺りに散らす。

怪物はその状態を維持したまま、右手のメツブレードを構えじりじりと距離を詰める。

両者の距離は、既に1mも無い。プニシールドの光が僅かに弱まる……瞬間、怪物の緑軀が霞のように揺らいだ。

しかし、怪物を注視していたグレースは、音速に近いその動きを捉え得た。

自分の背後を取ろうとする敵。本来ならピンチだ。だが、キュアグレースは不敵に笑む。

 

「今です、仮面ライダーさん!」

 

「ああ!」

 

瞬間、メツビョーゲンの胸元でいくつもの火弾が爆ぜた。

グレースの背後に隠れていたバルキリーが、ショットライザーで銃撃したのである。

怪物の身体が僅かに揺れ、隙が生まれる。

怪物の懐に潜り込み、グレースはヒーリングステッキの先端を胸突き立てた。既にスキャンは済ませてある。メツビョーゲンの核になっている森のエレメントさんがいるのは、胸のあたりだ。

 

「プリキュア・ヒーリング……」

 

弾かれた肉球がキュアッと可愛らしい音を立てる……が、先端に光が溜まりきる前にその手はメツビョーゲンによって抑えられてしまった。

 

「なんだ、もうトドメか?お楽しみはここからだろうが」

 

邪な笑みと共に、メツビョーゲンの前蹴りがグレースの鳩尾に突き刺さる。苦悶に歪む顔、しかし、上目遣いで怪物を睨むその目から、光は消えていない。

追撃で鉄槌打ちの構えを取るメツビョーゲンだが、バルキリーの銃撃がその手を弾いた。

手から火花が上がり、怪物は体勢を崩す。

 

「っ!?小癪な真似を」

 

よろめきながら後退するグレースの細身を、バルキリーが抱きとめる。

バルキリーの助けを得て体勢を立て直し、彼女は再びヒーリングステッキを構えた。

 

「はぁ……はぁ……ありがとうございます。ごめんなさい……助けられてばっかりで」

 

「それは私も同じだ。それと、私は仮面ライダーさんじゃない。刃 唯阿だ」

 

「はい!私もただのプリキュアじゃなくて、キュアグレースです!」

 

前後衛に構えなおす2人。

その表情は戦闘開始前より幾分か和らいでいた。反面、メツビョーゲンの口元は硬い。

 

(コイツら、厄介だな)

 

決して近づかず高速機動で敵の動きを阻害するバルキリーと、彼女の作った隙を狙い徒手空拳での打撃を狙うグレース。

近距離攻撃をバルキリーが止め、遠距離まで届く光線はグレースのバリアが防ぐ。

即席ながらも基本の徹底された2人の連携は、メツビョーゲンの取りうる選択肢を確実に狭めていた。

 

メツビョーゲンの武装は2つ。

右手に持つナノメタル製メス型裁断刀『メツブレード』と左手に装備された注射器型ナノビョーゲン照射機『メツシリンダー』だ。

メツシリンダーは、凝縮した腐食ウイルスの結晶を超高速で噴射する装置である。

その威力は鉄をも溶かし、人体であれば簡単に貫通する必殺の一撃となるが、反面予備動作が大きく命中させにくい欠点がある。

対するメツブレードの大きさは小型のナイフほどしか無く、一撃の威力は低い。だが、小回りの利くこの装備は、近距離での圧倒的な間合い形成に役立っていた。

 

グレースは踏み込み二つ分ほどの距離で構えている。メツビョーゲンのメスがギリギリ届かない位置だ。

 

(誘ってみるか……?)

 

メツビョーゲンの緑軀が緩やかに動いた。

メツシリンダーを突き出すフェイントを混ぜ、メツブレードで一閃する。しかし、メスの一撃は空を切った。既にグレースの姿はそこにはなかったのだ。

彼女が移動したのは……

 

「上か」

 

「たぁっ!!」

 

高空であった。

数度の回転を以て叩きつけられるは、超速剛力のかかと落とし。

交差させた腕を頭上に構え、メツビョーゲンはそれを受け止める。

鋼と鋼がぶつかるような凄まじい轟音が、衝撃波を伴ってモールの大地を揺らす。

 

(響くなぁ、予想以上だ)

 

腕を敢えて当てに行く事で、ダメージは軽減されていたはずだ。

それを差し引いても、腕に痺れが残るほどの攻撃力。

メツビョーゲンの表情から、笑みが消える。

 

「フン!!」

 

メツビョーゲンは軋む腕に力を込め、グレースを吹き飛ばす。

グレースの後ろにいたバルキリーからの銃撃をメツシリンダーで防ぎつつ、視線はグレースの先へ。

メツビョーゲンの左腕が、僅かに下がる。

 

(好機だろ、さあ、来いよ)

 

しかし、グレースはそこに追撃をせず、バックステップで間合いを保った。

 

「チッ、来ねぇか」

 

舌打ちをし、メツビョーゲンも下がる。

今の攻防、彼が狙っていたのはグレースの足である。

もしグレースが左腕のフェイントにつられ、間合いに飛び込んでいれば、メスによる超速の一撃が彼女の脚に突き刺さっただろう。

この戦い、グレースもバルキリーも高機動型である。対するメツビョーゲンは一撃こそ強いものの攻撃を当てる事が難しい。

ならば、足を狙って動きを止めてから、ゆっくりとメツシリンダーで狙ってやればいい。

それは彼女達も理解していた。

だからこそ、時間をかけても慎重に攻めるのである。

 

(まぁ、奥の手もあるんだがな。天津とやらの暗殺の報告が来ていない以上、まだ多くを見せるには早ぇ)

 

とはいえ、グレースの攻めは慎重そのもの。

バルキリーに至っては接近してすらこない。

メツシリンダーは一撃必殺の威力を持つ代わりに、総じて隙が大きい。

カウンター主体の戦法では、無限に時間を浪費してしまうだろう。

そうなれば、後ろのバルキリーとやらが増援を呼んでもおかしくない。

 

「仕方ねぇ、攻めるか」

 

メツビョーゲンの身体が、霞のように揺らぐ。

決して小柄とは言えないメツビョーゲンの身体……それは突如として、グレースとバルキリーの間に現れた。

背後を取られたグレース、近距離にまで接近されたバルキリー。

驚きのあまりか、両者の体勢が崩れる。

そんな彼女達の様子に、メツビョーゲンは醜く顔を歪める。

 

「身体を極小のナノビョーゲンにまで分解し、指定の位置に再結集させる。ビョーゲンズの技の一つだ!」

 

距離を取ろうとするバルキリーの元へ、メツビョーゲンは素早く距離を詰める。

 

「くたばりなぁ!!」

 

斬撃はバルキリーの上半身を大きく切り裂き、肩から胸にかけて大きな傷を作った。

間髪入れず、メツビョーゲンはメツシリンダーの発射口を背中へと回す。

発射された光線は、背後から攻撃を仕掛けようとしたグレースの頬をかすめ、その白い肌を焼いた。

 

「熱ッ!?」

 

「のどか、いったん距離をとるラビ!」

 

「でもそれじゃ、刃さんが」

 

メツビョーゲンの猛撃。なおも繰り出される斬撃を、辛うじて回避するバルキリー。

斬撃の威力は先ほど見せた通りだ。

一度捕らえられてしまえば、即座に戦闘不能にまで持ち込まれてしまうだろう。

 

しかし、そんな中でも刃は冷静だった。

 

「弁慶と対峙した牛若丸はこんな気分だったのだろうな」

 

「お前にも弁慶の泣き所はあるだろう。ぶった切ってやったら、どんな顔するんだ」

 

メツビョーゲンの凄まじい猛撃。だが、バルキリーが見ていたのは、彼ではない。

その奥でまごついているキュアグレースだ。刃の知る限り、彼女は少し前まで、中学2年生のただの女の子だった。

いきなり戦線の渦中に引っ張り出されて、力を与えられて、迅速な判断をしろという方が無理である。

なら、導くのが先達者たる者の使命。

メツビョーゲンの斬撃が生み出すわずかな隙間に、バルキリーは銃撃を挟み込む。

 

「油断したな!」

 

刃はショットライザーのトリガーを引くと、瞬時に腰を落とし、メツビョーゲンの懐へと滑り込んだ。

狙いは心臓。斜め下からの数多の銃弾がメツビョーゲンの左胸に向けて発射される。

 

「これで、どうだ!?」

 

「ああ、悪くねぇ。だが、真面目すぎだ」

 

ここまでは、メツビョーゲンの予想通りだった。

高速機動をもつ相手なら、必殺技は至近距離で撃ちたいと考えるのが自然だ。

だが、近寄ってくれるのが嬉しいのはメツビョーゲンも同じである。

メツビョーゲンが選んだ選択肢は、メツシリンダーによる防御。

だが、バルキリーの銃撃はそれをも砕く。

 

「なっ!?」

 

「どうだ。仮面ライダーも捨てたものではないだろう」

 

「ああ、そうだな」

 

それこそが狙いだった。

割れたメツシリンダーからこぼれ落ちたのは、溢れんばかりの腐食ウイルスの塊である。

 

「なっ!?」

 

慌ててメツビョーゲンの足元を潜り抜けるバルキリーだが、仮面に付着した腐食ウイルスは、仮面を溶かし、刃の素顔を一部露出させていた。

右足も同じように溶けており、駆動部分を司る部位が火花を上げている。

これでもう、撹乱戦術はできない。

 

「さて、まずはお前からだ」

 

メツビョーゲンは意識を集中させ、腐食ウイルス達をメツブレードに集めてみせた。

メツブレードは一回り巨大になり、禍々しい紫色の刀身を輝かせる。

 

「『病源斬』!!」

 

反射的に両腕を交差させ、防御の構えをとるバルキリー。

その程度で防げる斬撃ではない。

圧倒的な質量を持った斬撃が、バルキリーの身体を両断せんと迫る。

しかし、その間に身体を挟み込んだのは、キュアグレースだった。

巨大化したメツブレードの斬撃を受け、二の腕を赤く染めても、グレースは怯まない。手に持ったヒーリングステッキには、既に溢れんばかりの光が充填されている。

 

「刃さん!合わせられますか?」

 

「……ッ!ああ。分かった!」

 

瞬間、バルキリーの身体が跳ねた。

ショットライザーのトリガーを引き、エネルギーを充填させながらも、無事な左足でメツビョーゲンの背後へと回る。

 

その過程で発射された無数の弾丸が、多少の遅延を伴ってメツビョーゲンの足元で爆ぜた。

 

『ダッシュラッシングブラスト』

 

爆発に怯むメツビョーゲン。

続け様に、グレースのヒーリングステッキが螺旋状の光を放つ。

 

「プリキュア・ヒーリングフラワー!」

 

光はメツビョーゲンの心臓部に空洞を作り、その内にいたエレメントさん達を露出させた。

グレースはそのうちの一体を優しくすくい上げ、素早く後退する。

周囲に満ちていた禍々しい気が和らぎ、バルキリーの足や仮面を侵食していた腐食ウイルスも消えた。

 

「お大事に」

 

可愛らしく微笑むグレースの後ろで、人間体に戻ったメツビョーゲンは、ガクリと膝をつく。

ダメージで倒れたというよりも、力が入らなくなったと言った様子だ。

 

「まいったな、右足が動かねぇ」

 

メツシリンダーは破壊され、メツビョーゲン自身も満身創痍。

彼女達の明確な勝利であった。

 

しかし、バルキリーもグレースも変身を解こうとはしない。

メツビョーゲンから漂う禍々しい気は、和らいだとはいえまだ辺りを覆っているのだ。

 

「ラビリン、スキャンの時……見たよね?」

 

「見たラビ。このビョーゲンズ、持ってるエレメントさんは一体だけじゃないラビ。見えただけでも、あと4体いるラビ」

 

「そんなにたくさんのエレメントさんを、ラテにも気付かれずにどこで……?」

 

「分からないラビ。もしかしたら、こいつはテアティーヌ様の時にもう……」

 

推測するグレース達の眼前で、メツビョーゲンはヨロヨロと立ち上がる。

 

「ムカつくぜ。お前達如きに、奥の手を使う事になるなんてな」

 

白衣姿のメツビョーゲンの身体から、霧が噴き出す。

先の変身でグレースに見せた、スチーム状の霧である。

 

変身は済み、先程と同じ姿のメツビョーゲンが現れる。

メツシリンダーは粉々になり、右足には鎧が纏われておらず、細い木のようになってしまっている。

まるでカカシのようである。

 

「アレ、おかしいラビ」

 

ラビリンが、異変に気がつく。

変身が終わっても、霧が消えない。

消えないどころか、霧はメツビョーゲンの周囲で渦を巻き、まるで龍か蛇のように荒れ狂っている。

 

「メツビョーゲン『蝗害』……やれ」

 

メツビョーゲンの言葉に従うように、鎌首をもたげた霧は、ゆっくりと2人の元へと近づいてきた。

 

 

 

_____________________________

 

 

 

数分後、状況は一変していた。

 

変身解除された刃はモールの一角に倒れ伏している。

キュアグレースも白装束のあちこちをズタズタにされ、立っているのがやっとの状態だ。

メツビョーゲン自身は、変身した位置から動いていない。

彼女達をここまで追い詰めたのは、メツビョーゲンの生み出した黒霧であった。

この霧はただの霧ではない、金属を腐食させ、肉を切りその機能を奪う魔の霧だったのである。

 

「まだ、負けないッ!」

 

グレースは霧に向けてヒーリングステッキの先端を突きつける。

そこから放たれた放たれる桃色の光線……無数に放たれるそれを意に介さぬよう、彼女の方へと向かう。

グレースは空を駆け霧を躱そうとするが、霧は四つに分かれ、まるで意思を持っているかのようにグレースの四肢へと纏わり付いた。

霧は、虫が葉を食い荒らすように彼女の手袋とブーツを引き裂いてゆく。

 

「い、痛い……ッ!!」

 

「今助けるラビ!」

 

辛うじてプニシールドを展開させるグレース。シールドに弾き飛ばされ、霧はメツビョーゲンの元に戻る。

本日12度目のシールド展開。

ラビリンの表情にも、疲れの色が見て取れる。

グレースの顔も青い。

2人の体力が限界に近づいているのだ。

それでもグレースは、震える手でヒーリングステッキを構え続ける。その姿を、メツビョーゲンは笑いながら眺めている。

 

「健気だねぇ」

 

霧はしばらくその場を漂っていたが、やがて再びいくつもの小さな塊に分かれ、プニシールドの周囲を覆い始めた。

 

「ラビリン!頑張れる?」

 

「もちろん、ラビ!」

 

しかし、ラビリンの頑張りなど意に介さぬように、霧は容易くプニシールドを突き破り、再び彼女の四肢へと取り付いてみせた。

 

「ッ!?」

 

グレースの表情が、苦悶に歪む。

が、悲鳴は上がらない。

歯を食いしばって耐えているのだ。

霧は腕と足を少しずつ登り、グレースの身体を侵食してゆく。

 

「く……ッッ!!うううっ……」

 

「のどか、もういいラビ。逃げよう……」

 

「だめ……それはだめ!私は、プリキュアなんだから!」

 

「のどか……」

 

やがて、彼女の腕が上がらなくなり、プニシールドが解除された頃、霧はメツビョーゲンの元へと帰っていった。

 

手袋とブーツは最早影も形もなく、彼女の体を支える四肢は真っ青に歪んでいた。明らかに、何かしらの病的汚染がなされている。

 

「はあっ……はあっ……」

 

それでも攻撃を続けようとするグレースに対し、敢えてメツビョーゲンは霧を引っ込めた。

ボロボロの身体で、なおもメツビョーゲンに使って突進するグレース。

ふらつく彼女の動きを見切ることなど、メツビョーゲンにとっては造作もない。

グレースのパンチを躱しながら、メツビョーゲンは語りかける。

 

「なぜ戦い続ける?他の人間などどうでもいいはずだ」

 

「どうでもいい……?そんなわけない!!私、ある人と約束したの。誰かのために頑張るって。助けを求めてる人のために……頑張るって。だから!」

 

「なるほど。だが、もしその男がその言葉とは裏腹に、人間を蔑んでいたとしたら?」

 

グレースの目が丸く開かれた。

困惑と、失望それを打ち消すように、彼女はメツビョーゲンを睨みつける。

強い強い、抵抗の意思を以て。

 

「あり得ない……あなた達みたいな、みんなを傷つけてもなんとも思わない人とは、天津さんは違う!」

 

「何が違う!!俺はその何と天津とやらを知っている。奴はこれまで、数々のヒューマギアを利用し踏み潰してきた。ヒューマギアだけではない、人間も企業も。奴の毒牙にかかった獲物は数知れずだ」

 

「そんな、そんなの!」

 

全身から汗を流しそれでも拳を繰り出し続けるグレースに、メツビョーゲンは憐みの眼差しを向ける。

もうグレースの拳に力はない。

緑の鱗に当たった拳は、力なくポスッと音を立てるだけだ。

 

「もうすぐアイツは死ぬ。俺が殺す」

 

グレースの手が、足が、動かなくなってゆく。瞳の中の火が、悲しみと絶望に変わってゆく。

彼女をこれまで動かしてきたものが、今明確に、彼女の心を崩しつつあった。

瞳を潤ませるグレースに、メツビョーゲンは嬉々として続ける。

 

「トドメの前に、お前にも真実を教えてやろう」

 

「あなたが、天津さんの何を知ってるって言うの……」

 

メツビョーゲンはグレースの両腕を捕まえると、耳元へと口を寄せ、そっと、何かを囁いた。

グレースの目が、これでもかと言うほどに見開かれる。

 

「……これが、真実だ」

 

「え……?」

 

メツビョーゲンが両腕を離すと、グレースは足元から崩れ落ちた。

開いた口を天に向け、呼吸だけをしているような状態だ。

その双眸からは、涙が溢れている。

 

「お前の仲間の暗殺は確認した。肝心の奴も姿を現さない。1人でよくがんばったなぁ。くふふ……あーっはっはっはっ!」

 

「そんな……どういう事、なんですか……天津さん……」

 

動かない足、力の入らない手、回らない頭。

首元に、白刃が突きつけられる。

バルキリーも既に動けない、絶体絶命の状況だ。

 

「プリキュアの最後の1人。暗殺完了だ」

 

立つ気力も失ったグレースの首元に、メツブレードが振り下ろされた。

 

 

 

_____________________________

 

 

 

独りとは孤独なものだ。

仲間と戯れる偽りより、己の理想を選んだ時、人生は険しく苦しい道となるだろう。

けれど、真に己を強くしてくれるのは、その独りなんだ。

最も信じられる者が自分であれば、人は最後まで戦い抜く事ができる。

だが、私は君に救われた。

君の言葉は、甘い蜜のように、私の孤独を塗りつぶしていった。

私が君を変えようとしたように、君も私を変えたんだ。

 

ありがとう、花寺 のどか

 

「ッ!?」

 

私は、何をしていたんだろう。

聞き覚えのある誰かの声が聞こえた気がして。

気がつくと、私は道端にへたり込んでいた。

こんな夜中なのに、裸足で、服もボロボロで。

辺りには、なんだか怖い空気が満ちていて。

けれど、私の周りだけはなんだか穏やかで。

いや、本当は私の周りじゃない。

私の前にいるあの人の周りが、穏やかなんだ。

そう、私は助けられたんだ。

黄金の鎧を着た、王子様に。

 

「仮面ライダーヒーリングッドサウザー。3人のプリキュアの力とZAIAのテクノロジー、二つを併せ持つ私の力は、桁違いだ」

 

王子様は、空から降ってきた。

彼金色の槍で、私の首元にあったメスを、切り払い、返しの穂先でメツビョーゲンを吹き飛ばす。

槍と同じ金色の鎧の背では、臙脂色のマントが夜風に揺れてはためいている。

その後ろ姿には見覚えがあった。

マントこそしていないが、私が初めて出会った、あの仮面ライダーだ。

 

「私の友に、これ以上の狼藉は許しませんよ」

 

メツビョーゲンの前に立ち、仮面ライダーはグレースを守るように、臙脂色のマントを翼の如く広げてみせる。

その圧倒的な偉躯を、グレースは呆けて見ることしかできない。

 

「お前が天津か。丁度いい。この場で暗殺してやる!!」

 

遅い来るメツビョーゲンに、彼は前蹴りを食らわせた。

なんて事はない、ただの前蹴りだ。

しかし、その蹴りはメツビョーゲンの身体を彼方へと吹き飛ばし、モールの壁へと叩きつけた。

煉瓦造りの壁が巨大なクレーターを作ったことからも、その威力の程がわかる。メツビョーゲンの表情が、明らかに慌てたものに変わる。

 

「馬鹿な……ッ!俺が?あり得ない!!『蝗害』ッ!!」

 

メツビョーゲンは両手を口の中に突っ込むと、押し開くように開いた。

ポッカリと開いた赤い空洞の中から、濃紫の霧が飛んでくる。

先ほどとは比べものにならない濃度だ。

しかし、霧はサウザーが手をかざした瞬間、水蒸気の如く空気へと消えていった。

 

「何ッ!?」

 

「ナノサイズまで圧縮した腐食ウイルスか。そんなもの、ヒーリングッドサウザーの前では無力だ」

 

サウザーは、手に持った黄金の槍……サウザンドジャッカーを投擲した。それこそ、野球のボールでも投げるかのように、軽く。

到底威力も出ないはずのその攻撃は、メツビョーゲンの肩に突き刺さり、建物を貫通した槍は彼の身体を壁へと縫い付けた。

 

「あああああっ!!?」

 

絶叫するメツビョーゲンに、サウザーは語りかける。

 

「確かに彼女は独りだ。だが、自分の夢のために君達の前に立ち続けた、最強の1人だ。群れの中でしか力を振るえない君に、彼女を笑う資格などない」

 

メツビョーゲンに背を向け、サウザーはグレースへと掌を差し出した。

グレースは導かれるように、自身の手を重ねる。

傷だらけのその手は、サウザーの手に触れた瞬間、元の真っ白な美しさを取り戻した。

 

「おうじ、さま?」

 

「よく頑張ったね、花寺 のどか。遅くなってすまないが、助けに来たよ」

 

「その声、天津、さん?」

 

無邪気にも、首を傾げるグレース。

傷だらけの衣を纏う、傷一つない雪色の肌。潤んだ瞳はまるで、長い虜囚の憂き目から解放されたお姫様のようで。

その前に跪くサウザーはまるで姫を助けにきた騎士のようであった。

 

「助けにきて、くれたんですか?」

 

グレースの問いかけに、サウザーは優しく頷いた。グレースの表情に、儚げな笑みが戻る。

 

「本当なんですか、天津さん……あなたが、ヒューマギアと人間の戦いの始まりを作ったって。私にはよく分からないですけど……それって……」

 

「心配ない。時が来たら全てを話すつもりだ。その前に、まずはあのメツビョーゲンとやら、私が征伐してみせよう。私には決して負けない秘策があるからね」

 

「秘策……?」

 

首を傾げるグレースに、サウザーは背を向けて月の方を眺めてみせる。

立ち上がったグレースは同じ方向を見るが、その向こうには何があるかわからない。

そんなサウザーの元へと飛び込んでくるメツビョーゲン。

手には、先程サウザーが放り投げた槍と、巨大化したメツブレード握られている。

 

「実は、ここに来たのは私だけじゃない。不本意だが、助っ人もいてね」

 

槍と巨大化させたメツブレードの先端が、サウザーの胸元へと迫る。

切られた刃さんの姿が脳裏に浮かぶ。

アレをまともに受けたら危ない!

サウザーは半身を切り、グレースを後ろに隠すようにして構える。

 

「危ない!!」

 

直後、鋼が鋼を切り裂く轟音と共に、凄まじい衝撃が彼女の身に降りかかった。

目を開いたグレースは、またその目を丸くすることになる。

それもそのはずだ。

 

彼女の眼前では、全身を銀色の鎧に包んだ戦士が、手に持った銀刃の剣でメツビョーゲンを斬り倒していたのである。

 

「サシの喧嘩でも、人をサシちゃだめでしょう!はい、アルトじゃナイトっ!」

 

驚愕に顔を歪ませるメツビョーゲンの胸元から、一瞬遅れて火花が吹き出す。

銀の戦士の斬撃が、彼の胸部の装甲を切り裂いたのだ。

胸を押さえ跪くメツビョーゲン。

何が何だか分からないと言った様子のグレースの元に銀色の戦士は歩み寄り、手を差し出した。

 

「初めまして、キュア、グレース?俺は仮面ライダーゼロワン。ここは俺に任せといて」

 

「ゼロワン?あなたも、仮面ライダーなんですか?」

 

首を傾げるグレースに、ゼロワンは得意げに指を一本立てて説明を始める。

 

「ああ。俺はヒューマギアと人間を守る戦士。で、この嫌味ったらしいのは、仮面ライダーサウザー、色々ややこしいけど、君を助けに来た」

 

「一言多いですよ。まったく……間に合ったからいいものの、貴方のせいで彼女が大怪我を負ってしまった。この埋め合わせは、必ずしていただきますよ」

 

「分かってるよ、天津社長」

 

並び立つ2人の前で、メツビョーゲンはふらつきながらも立ち上がる。

全身からは紫色の蒸気が吹き出しており、明らかに普通ではない様子だ。

やがて蒸気は色のついた煙となり、メツビョーゲンを包み込む。

煙の奥から、不機嫌そうな声が聞こえる。

 

「散々邪魔しやがって、何なんだお前達は!」

 

メツビョーゲンの問いに、2人は各々のポーズをとってみせる。

ゼロワンは腰を低く落とし、相手を人差し指で捉えるいつものポーズだ。

対してサウザーは胸をそらし、相手を見下すように槍をポンポンと弄ぶ。

 

「仮面ライダーさ。お前を倒せるのは、世界でただ1人、俺だ!」

 

「ヒーリングッドサウザーとゼロワンメタルクラスタホッパー。我々の力は、桁違いだ」

 

グレースの前に立つ2人の騎士。

彼らは今、紛れもなく彼女にとってのヒーローだった。




第8話をお読みくださり、ありがとうございます。
ついにゼロワンに登場したほぼ全ての味方陣営ライダーが出そろいましたね。次回は待望の反撃回なので、ロング乳首の歌を脳内に流してお待ち下さい。
今残る敵は、メツビョーゲンとフィーニス、そして暗殺ちゃんのみ。果たしてどんな展開になっていくのか……
次回も、楽しみにしていてください。

P.S.この小説は、以前Pixivに投稿したものを編集したものです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。