PROJECT HEALINGOOD THOUSER〈完結済〉   作:TAMZET

9 / 11
これまでのあらすじ

滅亡迅雷.netと手を組んだビョーゲンズは、3人のプリキュアに刺客を送り込んだ。
仮面ライダーバルキリーと共同戦線を張るキュアグレースだが、刺客・メツビョーゲンはその圧倒的な力により2人を倒してしまう。
絶体絶命のグレースを救ったのは、ヒーリングッドサウザーに変身した天津 垓だった。ゼロワンも助っ人として参戦し、戦いは最終局面に突入する。



Episode9:【さよなら滅病先生】

男は、全てに絶望していた。

男は元々はエリートの外科医であり、その卓越した手術の腕と薬学の知識から、『滅病の牙』と呼ばれ将来を嘱望されていた。子供達からの人気も高く、彼は『滅病先生』と呼ばれ慕われていた。

彼の家系は元々医療関係者を多数輩出しており、その中でも彼は頭1つ抜けていた。

24歳という若さで肝臓の腹腔鏡手術を成功させた事により、一躍医局でも一定の地位を築く。しかし、25歳の春、順風満帆だった彼の人生は急転直下の下り坂を迎える事となる。

右足の人差し指の感覚がなくなり始めたのだ。

症状は徐々に悪化し、26歳の夏には右足の自由が効かなくなっていた。この頃から前線を退くようになり、外科医から診療科医に転じる。

 

男がALSと診断されたのは、それから半年後の事だった。

宗家の対応は厳しかった。

男は家からほぼ見捨てられる形でホスピスに送られ、死を待つのみの身となった。孤独な環境の中で、少しずつ少しずつ、自由になる体の部位が無くなってゆく。

男は人間を憎んだ。自分を崇め、奉り、用が住めばゴミのように捨てた人間をひたすらに憎んだ。

下半身が、指先が、胸のあたりが……やがて、麻痺が呼吸器まで達しようとしていた頃……彼は現れた。

 

「お前、死にかけだな。その命、俺たちのために使ってみないか?」

 

ダルイゼンの気まぐれで『ヒトビョーゲン計画』の実験台に選ばれ、男は4つのエレメントを注入される。

元々備わっていた土のエレメントと合わせて5つのエレメントを手に入れた男はメツビョーゲンとして新生した。

その目に、人への深い憎しみが刻まれていた。

これは、半年前の出来事……ビョーゲンズの人間界侵攻が開始される前の話である。

 

 

 

_____________________________

 

 

 

地下駐車場を、旭光が埋め尽くす。

 

眩いばかりの光の中で操り人形の如く立ち上がるは1人の戦士。白衣の内に菜の花色の戦装束を纏った戦士……キュアスパークルだ。

 

彼女は立ち上がるや否や、変身を解除し、その場に倒れ伏した。

パートナーである猫のヒーリングアニマルのニャトランが慌てて彼女の元へ駆け寄る。

 

「ひなた!おい!」

 

「大丈夫……元気いっぱい、だよ」

 

ひなたは微かに指を動かし、ニャトランにピースをしてみせる。

数時間前、一度はウイルスに蝕まれた彼女。

絶命の淵に立たされた彼女は、一か八か、賭けに出たのである。

命を繋ぎ止める最後の賭け……それは、胸に、ヒーリングステッキをそのまま突き刺す事だった。流れ込むのは、大量の治癒の力。

その力は彼女の中のウイルスを消し去り、傷すらも癒す事に成功していた。

だが、ニャトランの表情は固い。

 

「ひなた、なんて無茶するんだよ!」

 

「でも、復活できたでしょ?」

 

「あのな!!自然と違って、人間の回復力には限界があんだよ。それを超えたら、それはもうひどいことになるんだからな」

 

「へー、それ、めっちゃやばいじゃん。次から気をつけるね」

 

ひなたは壁に手をつき、よろよろと立ち上がる。額には脂汗が浮かび、まだ多少呼吸が荒い。

だが、その目はしっかりと出口を見据えている。それを見たニャトランは、全身の強張りを解き、小さく柔らかな肩に飛び乗った。

 

「でもよ、無事で良かったぜ」

 

辺りに敵の姿は無いが、そう遠くない地点から爆発音や衝撃音が聞こえてくる。そう遠くない地点で、戦いが起こっているのだ。

のどかが戦っているのなら、早く助けに行ってあげなきゃいけない。

壁を伝い、ひなたはエレベーターを目指す。

 

「おいおい!無茶すんなよ」

 

「無茶じゃ、ないし。あんなヤバイの、のどか1人に任せられるわけ、ないじゃん」

 

立ちはだかるニャトランを押し除け、前に進む。のどかは、自分助けなきゃいけない。その思いが彼女を動かしていた。

 

ひなたの眼前で、エレベーターが動き出す。誰かが降りてこようとしているのだ。普通の人かもしれない、けど、そうじゃないかもしれない。

ヒーリングステッキを構え、その前に立つ。震える足、軋む体。けれど、負けられない。

 

銀の小部屋に入ってたのは、2人の人物。

 

額の汗を拭い、ヒーリングステッキの肉球をタッチしようとしたその時、2人のうちの1人が声を発した。

 

「ひなた!大丈夫!?」

 

「ちゆちー?」

 

声の正体は、ちゆだった。

霞む視界の中で、その姿が鮮明になる。

服はあちこち破け、何箇所も包帯が巻かれているが、彼女の歩みはしっかりしている。

 

(無事だったんだ……良かった……)

 

一歩を踏み出したひなたは、そのままちゆの身体に倒れ込んだ。

正直、立っている事すら限界だったのだ。

 

「ひなた!!大丈夫!?」

 

「よかったぁ……ちゆちーは無事で」

 

「……人の心配より、自分の心配をしなさい。のどかの所にも助けが向かってるはずよ。みんな、この人のおかげだったの」

 

ちゆは頷くと、もう1人の人物を手で指した。耳におかしな被り物をつけた、綺麗な女の人だ。

あの飾り物をつけている人たちを最近よく街で見かける……確か、ヒューマギアとかいうロボットの人達だ。

 

「イズと申します」

 

ヒューマギアの女の人は、両手を揃え、ぴったり90度腰を折ってみせた。あまりにも整ったその仕草に、それがお辞儀だという事に気がつくまで時間がかかった。

 

「あ、はじめまして、平光です……って、違う違う!」

 

私は首をぶるんぶると振る。

挨拶がしっかりしすぎていて、妙に受け入れてしまった。この人がヒューマギアなのは頑張って飲み込むとして、なんでこの人がちゆと一緒にいるんだ。

 

「ちゆちー、この人誰!?」

 

「今言ってたでしょ?イズさんよ」

 

「そうじゃなくて!」

 

「冗談よ。でも、込み入った事情だから、詳しく話すと長くなるのよね……」

 

「私が解説いたします」

 

ちゆを制し、イズと名乗った女性は慎ましやかに前に歩み出た。

 

「私は飛電インテリジェンス代表取締役社長、飛電或人社長の秘書を務めております。会社に関わる厄介事を調査するのも秘書の仕事の一つ……この2週間、沢泉様には、我々を取り巻く『事件』について、情報提供をお願いしていました」

 

「社長秘書か……え、それってめっちゃ凄くない!?てか事件って何?私だけ何も分かってないよ〜!」

 

頭を抱える私の肩を、ペギタンとニャトランが叩く。彼らもちんぷんかんぷんといった様子だ。

同士を得た私は、改めてちゆに説明を要求する。

ちゆは少し顎に手を当てると、説明を始めた。

 

「簡単に言うと、誘拐事件?」

 

「ちゆちーもハテナマークつけてるじゃん!」

 

「と、ともかく!イズさんと私は、色々調べたの。変な敵が突然現れたり、街に知らない場所が現れてたりした事とか……ね」

 

「変な場所って?」

 

「例えば、すっごい高いビル群ね。あと、警察みたいな建物だったり」

 

「うーん、見たことあるような……無いような……あっ!最近、お使いの帰りによく知らない道に迷い込んだりする事は増えたかも」

 

「いや、それは寄り道ばっかりしてるからだろ」

 

小言を言うニャトランの頭を小突く。

ニャーニャーと抗議するニャトランを脳天チョップで黙らせ、私は続ける。

 

「とにかく、その変な事が起きてるのには、理由があるって事だよね」

 

「そうね。この異変は全部、1人の人物が企てた計画のせいだったの。ビョーゲンズは利用されてただけ。私が戦った滅亡迅雷.netの人達もよ」

 

「めんぼうしんらい?」

 

綿棒を信頼する組織だろうか……どこかで聞いた事のある名前だ。だが、そんなへんちくりんな組織を忘れる事があるだろうか。

困っている私に、ニャトランが「さっき戦ってたやつだよ」と耳打ちする。

なるほど、彼は綿棒を信頼する組織の一員だったのか。彼の名前は……確か

 

「斜面ライダーだ!」

 

「仮面ライダーな」

 

そうか、仮面ライダーか。

うん、そんな名前だった気もする。

頷く私を無視して、仲間達は話を進めていく。

 

「私達は今から、その真の敵の元へ向かいます。敵の目的が想定通りなら、おそらくあなた方のお仲間もそこに」

 

「のどかの事ね。今1番危険なのも、もしかしたらあの子かも」

 

「えーっ!?じゃあ急がないと!」

 

「大丈夫です。敵もすぐに彼女を襲う事はしないでしょう。もしもの時に備えて、助っ人も呼んであります」

 

「そういう事よ。ちょっと、釈然としないけど……」

 

そう言って、ちゆはカバンからヒーリングステッキを取り出した。

ここから先は、臨戦態勢という事だ。

同じようにする私の前に、イズさんは電子タブレットを差し出してきた。画面には、とある人物とその名前が映し出されている。

 

「この人物に、気をつけてください」

 

「この人……えーっ!?この人が敵なの!?でもそれって……」

 

「はい。率直に言って、状況は危機的です」

 

空は既に暗く淀んでいる。

私の預かり知らぬところで、状況はどんどん悪くなっているらしかった。

 

 

 

____________________________

 

 

 

場所は変わり、モールの広場。

のどかを守るように、2人の仮面ライダーは並び立つ。その偉軀と対峙するメツビョーゲンは……焦っていた。

先ほど広範囲に吹き出した霧は、彼の身体を覆うように展開され、彼の膂力を格段に強化していた。自身の周囲に放った霧を硬化し、身を覆う大鎧を手に入れたという具合である。

身長は3mにも及び、その豪腕から繰り出される一撃はモールの地面を割る程だ。

 

しかし、そんなメツビョーゲンをしても、2人のライダーの攻略は簡単ではなかった。

 

「巨大化した分、動きは鈍重になりましたね」

 

その視界の端で、臙脂色のマントの端が揺れる。直後、鋭い槍の一撃が飛んできた。

彼の反応速度を優に超える斬撃……辛うじて防御が間に合ったのは、メツビョーゲンの戦闘センス故である。槍は霧のバリアを突き破り、表皮ギリギリで止まった。

 

「どうやら、貫けないようだな」

 

メツビョーゲンは笑み、右腕の霧を槍状に変え、サウザーへと追撃する。

しかし、その槍は銀色の盾に受け止められた。ゼロワンのアーマーから分離した銀色のバッタ達が、盾状になり彼を守ったのである。

 

「小賢しい真似を!」

 

反撃で繰り出す拳は、飛んでくるバッタの盾に防がれてしまう。続け様に放つ拳の連打も同じだ。

視界を塞ぐ盾の隙間に、光る槍を構えるサウザーの姿が映る。

 

「感謝などしませんよ」

 

「はいはい。まったく素直じゃないんだから」

 

言うや否や、2人は同時に跳んだ。

サウザーの構える槍の先端はこれでもかというほど光り輝いている。この光は、プリキュア達の使うヒーリングステッキの輝きと同じだ。

 

「く、くそっ!?」

 

サウザーとゼロワン。両者を前に、メツビョーゲンは防御を選んだ。本来ならこれは正解だ……しかし、彼の防御力を優に超える攻撃力を持つ2人に対し、それは悪手である。

光槍から生み出される光は、生み出された無数の銀剣の刀身により乱反射し、増幅される。二人の力を合わせた、合体攻撃がメツビョーゲンの胸に向けて繰り出された。

 

【サウザンド・ヒーリングブレイク】

 

【アルティメット・ストラッシュ】

 

サウザーの槍は腕ごと彼の体を貫き、ゼロワンの剣は破った防御の先にある彼の体を切り裂いた。

二つの必殺技を同時に受け、メツビョーゲンの体が激しく爆散する。

硬化した霧の鎧は剥がれ、彼は再び、矮小な人間の身体へと戻ってしまった。

 

「ぐ……くそっ!!」

 

最早立つことすらままならないメツビョーゲンの元へ、2人のライダーは悠然と歩み寄る。

ゼロワンの剣、サウザーの槍、微かにでも動けばすぐに身体は両断されるだろう。

 

メツビョーゲンは逡巡する。

周囲に展開している霧は有限、彼自身の体に取り憑いているナノビョーゲンそのものだ。

先ほどの攻撃でだいぶ数を減らされてしまったが、まだ変身をし直せるほどに数はいる。

まだ勝機はある。

 

「さて、話を聞かせてもらおうか」

 

「調子に乗るなよ!」

 

メツビョーゲンはそう叫ぶと、右手に精製したメツブレードを強く握りしめた。

彼の体から飛び出たナノビョーゲン達がそこに集まり、身の丈の数倍はあるであろう巨刀を形成してゆく。

 

「ビョーゲンズ・エレメントチャージ!!」

 

【ビョーゲンズ・エレメントチャージ】とは、彼の核となるエレメントさん5体をフルに活用し、一撃の威力を跳ね上げる奥の手である。エレメントさんが4体しかいない今、最大出力は劣るがそれでも問題ない。

本来これは、山一つを丸ごとナノビョーゲンで病に冒すための技である。人間2人を消すことなど訳はない。

 

「分かっていますね、飛電の社長」

 

「ああ。決めるのはアンタなんだよな」

 

「ええ。エレメントさんとやらを救出できるのは、私の持つプリキュアの力だけですから」

 

圧倒的な力を前にしても全く物怖じしない2人に、メツビョーゲンは激昂する。

 

(俺はこれまで、憎しみで生きてきた。俺を見捨てた宗家の人間。俺の助けを受けながら見舞いにすら来なかった患者共。俺の才能を知っていながら、それを評価しなかった医局の奴ら。そいつらを滅ぼすために、俺はこの力を手に入れた。俺は、人が憎い。目に映る全てを滅ぼしても止まらないほどに)

 

憎しみが、彼の力を増大させる。

 

「ほざくな!!」

 

メツビョーゲンはメツブレードを居合の型に構え、横に一閃した。モールを両断せんばかりの一撃が大気を揺らす。

しかし、それは2人の身体が空へと飛んだことによって空を斬った。

ゼロワンの展開する鋼の盾に身を隠し、サウザーは足元にエネルギーを集中させていた。

 

【サウザンド・デストラクション】

 

サウザーの爪先に集められたエネルギーは煌々と光り輝き、刀の先を覆うナノビョーゲン達を浄化せんと迫る。

危機的状況に、メツビョーゲンの頬が締まる。

 

ここまでは予想通りだ。

 

メツビョーゲンは体を半回転させると、回し切りのようにもう一度斬撃を繰り出してみせた。刃はゼロワンと盾の数々を吹き飛ばし、サウザーはの足とぶつかり膠着する。

 

「これで終わりだ!天津 垓」

 

「そうはさせませんよ」

 

サウザーは自身のベルトに取り付けられたスイッチを何度も押した。その度に光は明度を増し、メツブレードから伝わる圧力が大きくなる。

光は闇を打ち消し、ナノビョーゲン達を溶かしてゆく。

 

「こんな事もあろうかと、サウザンドライバーの出力を上げてきた。長時間の使用には向かないが、短期決戦なら問題ない」

 

「キングビョーゲン様の最高傑作である俺に、そんなものが通じるとでも!?」

 

「通じさせてみせるさ」

 

サウザーの言葉通り、砕けたのはメツブレードの刃であった。砕けちる破片を押し除け、光に満ちた爪先がメツビョーゲンの胸元に突き刺さる。

必死に耐えるメツビョーゲン。しかし、その体からは徐々にナノビョーゲンが剥がれ落ちてゆく。

 

「何故だ!!絶対の力を持つはずのこの俺が、何故圧倒されている!?」

 

「君の言う絶対は、過去の話だ。人間は確かに、苦難を前に竦み、慄くかもしれない。しかし、それを乗り越え進化するのもまた人間だ」

 

「ニンゲン、だとぉっ!!」

 

わずかに残ったナノビョーゲンをメツブレードに装填し、メツビョーゲンはサウザーの足へと斬りかかる。

しかし、サウザーはサマーソルトの如くメツビョーゲンを蹴り上げると、そのまま空中で宙返りし、返す足刀で頭を蹴り抜いた。

 

「人間を嘗めるなよ。バケモノ」

 

「……くそっ」

 

メツビョーゲンの顔が、醜く歪む。怪物はその身体をぐらりと揺らし、仰向けに倒れ……

 

「末長く、お大事に」

 

声もなく爆散した。

霧散する霧の中から、ぐったりした様子のエレメントさん達が姿を表す。

サウザーは彼らを手で掬うと、槍の先端を彼らに突き付けた。

槍の先端から生み出される光は彼らを照らし、生気を取り戻させてゆく。

 

「さて、これらがどこから盗られてきたエレメントなのか、調査を進める必要があるな」

 

天津は変身を解除すると、既に変身を解除していたのどかの元へと歩み寄った。

彼女も大分回復したようで、満面の笑みで彼を待っている。

だが、天津は彼女の元へたどり着く直前、ガクッと膝をついた。

顔色は青く、今にも倒れ伏してしまいそうな様子だ。

 

「天津さん!!?」

 

「ヒーリングッドサウザーの副作用か……無様な姿を見せてしまったな。ほんの少しの無理でこの体たらくだ」

 

駆け寄ってくるのどか。

今にも泣きそうな彼女の肩に手を重ね、天津は微笑んでみせる。明らかに強がりと分かる笑みに、のどかの表情はさらに曇る。

 

「君の戦いは、バルキリーのメインカメラを通じて見させてもらった。本当なら、もっと早く来るべきだったんだが」

 

「私、何の役にも立てなくて……」

 

「いや、君のおかげで勝てたんだ。唯阿が敵の武器を破壊し、君がエレメントさんを救い出した。これだけで、メツビョーゲンの戦力をどれだけ削ぐことができたか」

 

「でも……」

 

俯くのどか。

静寂の中で、戦いは終わった。

そんな中で、律された機械の声がそれを切り裂く。

 

「いえ、本当の戦いはこれからです」

 

現れたのは、イズと2人のプリキュアだった。

 

 

 

____________________________

 

 

 

突如として現れた緑のヒューマギアの人。その後ろにいる人物を見つけた瞬間、私の体は反射的に動いていた。

 

「ひなたちゃん!!」

 

「のどかっち!!」

 

次から次へと押し寄せてくる感情の波に身を任せ、私はひたすらに抱きついた。

ひなたちゃんの身体には、明らかに力がなかった。本来は彼女を介抱するべきなのだろう。だが、最初に身体に訪れたのは、声も出せない程の安堵の波であった。

 

ちゆちゃんが、半ば呆れた様子で私たちを見つめている。

 

「少し見ない間に、2人とも随分仲良くなったのね」

 

「いや〜、時の流れを感じますなぁ」

 

「ほんの1週間前まで、身体動かすのにも難儀してた子がねぇ」

 

「本当ですなぁ。まったく」

 

おばあちゃんみたいなやり取りをする2人に構わず、私はひなたちゃんの胸で安心を享受し続けていた。

そんな私達に構わず、向こうの話は進む。

 

見た事の無いお兄さんが、緑のヒューマギアの人の隣で話を聞いている。腰につけているベルトを見る限り、あの人が、さっきゼロワンに変身していた人だろうか。

 

やがて、緑の人の説明が終わり、うんうんと頷いていたゼロワンの人が、喋り出す。

 

「つまり、俺たちがさっき倒した奴とは別に、この戦い起こした本当の敵がいるってわけね」

 

「はい。元々この一連の襲撃事件は、その裏に隠された『とある人物の誘拐事件』をカモフラージュするために起こされました。そしてその犯人は、この中にいます」

 

イズさんのその一言で、場に緊張が走った。誰もが互いに顔を見合わせている。

あ、ひなたちゃんだけは、まだ首を捻っている。状況が分かってないみたいだ。

 

自然と円形になった私たちの輪の中に、天津さんが前に進み出た。

 

「それは本当でしょうね。こちらは部下を1人やられているんだ。下手な説明をするようなら、ただじゃおきませんよ」

 

「まあまあ天津社長」

 

「馴れ馴れしいですよ。まだ私は、あなたを完全に信用した訳ではありません」

 

天津さんの表情は硬い。

きっと天津さんも、ここに来るまでに長い戦いをしてきたのだろう。

 

事件についてはよく分からないが、この中に真犯人がいるらしい。

私は後ろ手に構えたヒーリングステッキをギュッと握りしめる。

 

まだ、事件は終わってないんだ。

今この場にいるのは……

私……【花寺 のどか】【ちゆちゃん】【ひなたちゃん】【イズさん】【ゼロワンの人】【天津さん】【刃さん】そして倒れてる【メツビョーゲンの人】

この8人の中に、真犯人がいるんだ。

イズさんが、緩やかに指先を動かす。

 

「その犯人は……」

 

しかし、その指が誰かを指し示そうとする前に、乱入するものがあった。

 

「待ちたまえ!!」

 

場に、天津さんの声が轟いた。イズさんの手の動きが止まる。

 

「天津社長、どうされましたか?」

 

「私にも犯人がわかったのでね。ヒューマギアの君では思いもつかないような、1000%完璧な推理だ」

 

イズさんは目をパチクリさせている。それはそうだ、推理を横取りされたのだから。

皆の混乱に構わず、天津社長は細長い指の先をある人物へと向けた。

 

その人物は……

 

「犯人は君だ、飛電の社長」

 

「ええっ!?俺なの?」

 

ゼロワンの人は、オーバーリアクションでよろけてみせる。隣にいたイズさんも、驚きのあまり口が塞がらないようだ。

 

2人の反応で確信を得たのか、天津社長は悠然と彼等の元へと歩み寄る。

 

「君は自社のヒューマギア達を壊され、兼ねてより私に恨みを抱いていた。そして、ZAIAと敵対するビョーゲンズと手を組み、国家権力をけしかけることで、ZAIAエンタープライズ全体を失脚に追い込もうとした。その傍ら、私に協力する花寺のどかを誘拐し、その力を己のものにしようとした。全ては、ヒューマギア達の恨みを晴らすためにね。違うかい?」

 

ズバリと音がしそうな天津さんの指差し。場にいる誰もが口を開かない。皆同じ表情だ。実情を知らない私だって同じである。

 

多分、それは無いんじゃないかなって顔だ。

 

1番最初に復活したのは、指を刺されたゼロワンの人だった。大きなため息と共に、彼は天津さんの指先をやんわりと退けてみせる。

 

「俺たち、さっき一緒にそのビョーゲンズと戦ってたよな」

 

「さっきの戦いがお芝居だったかもしれない」

 

「トドメ刺したのアンタだよな」

 

「君が土壇場で彼を裏切ったのかもしれない」

 

「土壇場って、俺はアンタに呼ばれたからここに来てるんだろ。もし俺があの怪物の味方だったら、そもそもアンタに協力なんてしないって」

 

天津さんの立場が、目に見えて危うくなってゆく。助け舟を出したいところだが、正直私も、彼の推理が正しいとは思えない。

体力の少なくなった天津さんに、ちゆちゃんが追い討ちをかける。

 

「あなたの推理が正しければ、私達がここに来る前に、彼はまずあなたを襲うんじゃないかしら」

 

「ぐっ……それは、確かにそうだが」

 

ちゆちゃんの援護射撃が、天津さんの体制を崩す。

これは、どっちを応援したらいいんだろう。

 

「分かった!私のヒーリングッドサウザーに恐れをなしたんだ。それなら全ての辻褄が合う!!」

 

もう天津さんの体力は限界のようだ。

そして、ひなたちゃんの一言が、社長にとどめを刺した。

 

「てかさ、それだったら、もうここにみんなが揃いかけた時点で逃げた方が良くない?」

 

天津さんはその場で項垂れた。

その目は家に入れてもらえない家で少年のような目で、どこか哀れみすら感じさせた。

天津さんはその目でイズさんを仰ぎ見る。

 

「私の推理は、合ってるのか」

 

「ほぼ違います。そもそも、天津社長の仰った動機は企業同士の問題であり、今回の騒動とは何ら関係がありません」

 

この発言が決定打となり、天津さんはベンチの上に崩れ落ちた。脳内のゴングがカンカンと甲高い音を立て鳴り響く。

天津さんは服の色の通り真っ白な灰になった。

 

でも……

 

「じゃあ、犯人は誰なんですか」

 

私の一言で、場の空気が再び引き締まる。灰の降り注ぐ一部を除いて。

イズさんの耳元の飾りが、キュイキュイと機械の音を立てる。

数秒の沈黙の後、満を辞して、イズさんは犯人を指し示した。

 

「犯人は、この方です」

 

その指の先にいたのは……意外な人物だった。




第9話をお読みくださり、ありがとうございます。
この小説は、実はミステリーでした……なんて事は無いんですが、何故か小さな謎解き要素が入ってしまいました。
ここまで読んでいただいた方にはもう犯人はすぐにわかると思いますが、一応犯人のリストを挙げておきます。

1.まさかの【花寺のどか】
犯罪と無縁そうな彼女だが、もしかしたら、敵のヒューマギアが化けてるかも?


2.もしかして【沢泉ちゆ】
序盤からイズと絡んでいた彼女。もしかして、誰かと手を組んでいるのかも?
3.さては【平光ひなた】
ここまで怪しいところなど何一つない彼女。でも、その怪しくなさが逆に……?


4.実は【天津垓】
ヒーリングッドサウザーの事を隠していたり、突然強くなったりと怪しさ満点。変な推理を披露したのも、自分から疑いの目を逸らすため?


5.ひょっとして【刃唯阿】
今は気絶している刃。だが、それすらも演技なのかもしれない。


6.ここにはいないけど【不破諫】
天津を取り調べるために政府に協力を依頼するなど、やけに行動的な不破さん。もしかしたら、彼が天津を陥れようとしている?


7.やっぱり【飛電或人】
天津社長の推理はほぼ外れていたらしいが、犯人まで違うとは限らない。本来の彼は犯罪とは無縁だろうが、もしかしたら、敵のヒューマギアが化けているのかもしれない。


8.一周回って【イズ】
この事件を裏で調べ続けていたイズ。様々な人々に協力を依頼していたようだが、そもそも何故裏で活動する必要があったのだろうか。もしかしたら、彼女が真犯人なのかも?


9.逆張りしまくって【メツビョーゲン】
倒されてしまった、正体不明のビョーゲンズの戦士。正直コイツが犯人だと何も面白く無いが、もしかしたらのどかの恩人との関係で犯人になるかもしれない?


次回も、お楽しみに。


P.S.この小説は、以前Pixivに投稿したものを編集したものです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。