自己紹介、特にクラスが変わった後の最初の授業で行われる大々的な自己紹介。それは、この世で最も無駄な行動の1つである。
余談だが『この世で最も◯◯い◯◯の1つ』って言葉は矛盾していると思う。「この世で最も〜」が何個あるんだよ。全部同率1位かよ。
このように、俺みたいにぼっちにステータスを極振りするレベルの人間になると自分で自分のマウントをとり始める。
誰にも迷惑をかけずに自分は楽しめる、この世で最も素晴らしい趣味の1つだ。
……あ、また使っちゃった。
こほん。
そろそろ話を戻そう。自己紹介は無駄という話だったがそれはなぜか。
……だって俺、自己紹介しても友達できないもん。誰とも話さないもん。
だったら俺にとって自己紹介は、個人情報を晒すだけの作業でしかない。しかも誰も聞いてないからたちが悪い。
頑張って話してるんだよ?せめてい聞いて……ほしいわけではないが。
つまり何が言いたいかというと、今すぐに帰りたいということだ。
お察しの通り、2-1組の記念すべき1回目の授業がたった今行われている。
しかもこういう時は出席番号順での発表となる。今日ばかりは親父を恨むしかない。
苗字が安生だもんな……。
これまで出席番号は1番にしかなったことがない。
例年通り、俺からの自己紹介が始まる。
みんな自分のことで頭が一杯で俺の自己紹介なんて誰も聞いてないだろうが、それでも緊張はする。
自己紹介で言うのは名前、部活動、趣味、みんなへ一言の4つ。
基本的には問題ない。名前と部活動は言わずもがな、みんなへ一言も「1年間よろしくお願いします」と言っておけばいい。
まあ、結局1度たりともよろしくしないことになるが。……別に悲しくなんかない。
問題は趣味だ。一般的な陰キャぼっちに趣味なんてない。というか言えるものがない。漫画を読むことだとかアニメ鑑賞だとかは論外だが、読書とかでも陰キャ判定されてしまう。だからといってサーフィンやらサイクリングやら、陽キャの趣味を言って見栄を張るのも地雷だ。もし同じ趣味のガチ陽キャに話しかけられたら終わる。
まあ、話しかけられたことないけどね。
つまり、これらの点からして俺の出した自己紹介がこれだ。
「安生影です。部活動はやってません。趣味は近所をジョギングすることです。1年間よろしくお願いします」
近所をジョギングすること。これがベストだ。ジョギングと聞くと健康的なイメージが浮かび、なおかつ近所と言うワードでそこまでガチじゃないことを強調。まさに素晴らしい趣味である。実際はやってないが。
数人からまばらな拍手が送られていた。少なくない?初っ端からウェルカムな雰囲気じゃないんだけど。
しかしここで、俺の歴史を覆す大事件が起きる。
「安生だよな。よろしくな。俺、安藤誠一な」
後ろの席の奴が話しかけてきた……。
まじかよ。初めだから泣いちゃいそう。主に悲しい意味で。
初めてって、俺はこれまでどんだけキョドってたんだよ……。
俺は安藤をチラ見する。
こいつが噂のキングオブ陽キャか。まあそんなの聞いたことないが。
第一、俺に噂なんて流れてこない。流してくれる友達がいないから……。
とにかく、返事をしなきゃな。俺の友達第1号になるかもしれんし。
「ふへ?……あ、ああよろしきゅ」
俺としたことが「ふへ?」とかめちゃくちゃ可愛い声(ただし美少女に限る)を出しちまった。ちなみに俺はブスです。
「じゃあ俺自己紹介だから行ってくるな」
安藤はそう言って教卓の方へと向かっていった。
リア充ぱねえ。
この様子だと、安藤は自己紹介もさぞリアリアしてることだろう。なんだよリアリアって。全然充実してねえ。超リアルなだけだわ。
「あ、ああ、安藤です。帰宅部ご、ございます。し、趣味はサササ、サーフィンの波を乗ることです。よろしきゅ」
ん?安藤君サーフィンの波を乗るの?
しかも、「よろしきゅ」ってさっきの俺と同じ噛み方してるし。リア充かと思ったら同類の匂いがプンプンするんですけど。本当にリアリアだったわ。
それからは、本物のリア充様がクラスを盛り上げたり光が可愛い自己紹介をしたりで1時間目が終了した。
自己紹介の時に気付いたが、光とクラスが同じじゃないか!YES!神様って本当にいるんだな。
会ったことあるけど……。
2時間目と3時間目も何事もなく終わり、放課後を迎えた。
新学期になってから2、3日は3時間授業って本当素晴らしいと思う。おかげで帰って録画してたアニメ一気に見れる。午前中で帰宅最高。
俺は、クラスの奴らがLINE交換やらクラスのLINEグループ作成やらをしている隙に帰ろうと席を立つ。
クラスのグループLINEって本当にあったんだな。招待してもらったことなかったから都市伝説かと思ってた。
ちなみに俺のLINEの友達が少ないわけじゃない。
驚くことなかれ、なんと友達数は100!
そのうち、公式アカウントが98。あと妹と父さん。
母さんなんでだよ。何がLINEやってないだよ。
なんで妹から招待された家族のグループに普通にいるんだよ。
まあつまり、俺はLINEの交換に興味はないってことだ。実際、安藤もスマホ持ってニヤニヤしてるが誰も近づいてこないし。
光なんかは、持ち前の明るさと整ったルックスもあってかみんなに囲まれているが。
だが、光はそこから抜け出して、こっちに向かってきてる、のか?
しかもなんか怒ってる気がするんだが。
「ちょっと影。なんで自己紹介の時部活入ってないって言ったのよ!ボランティア部でしょ。ボ・ラ・ン・ティ・ア!」
予想通り、光は怒ってらっしゃった。
てか、怒るとこそこかよ。
「まだ正式に入ったわけじゃないだろ」
「細かいことは気にしないの!」
「えぇ……」
……細かくないと思うんだけど。まあ可愛いから許す。
「だから!許して欲しかったら……」
「欲しかったら?」
「……LINE交換しよ」
「お、おう」
ついに俺にも家族以外のLINEの友達ができるのか……。
101人目の友達、……いや3人目か。
やっと家族の数と同じ数だな。
まじで母さんなんでだよ。
「ありがと。うれしい」
「こ、こっちこそ」
「うん!」
光が嬉しそうに笑った。
あれ?これいい雰囲気じゃね。告白チャンスきたんじゃね。
「あの、光……」
「何?」
「その、えっと……」
緊張で言葉が出ない……。
顔が濡れて力が出ないとかならバタコさんに顔をもらえばいいんだが、バタコさんいないし。アンパン投げられても困るし。
そういえば愛と勇気が友達とか言ってたなアイツ。
いいなあ。どっちか俺とも友達になってくんないかなあ。
「早く言ってよ。こっちも緊張してんだから」
「だ、だからな……」
「うん」
「俺と付き合……」
「ぼぼぼ、僕ともLINE交換してよ安生君!!」
俺の一世一代の告白を安藤が遮った。
よし、殺そう。今すぐ殺そう。
「ぼぼ、僕が友達になってあげるよ」
「あ?」
「いや、なってください。お願いします」
「は?」
「まあまあ。いいじゃん影。なってあげればさ」
「光が言うなら……」
「やったぜ俺。さすが俺」
「やっぱ無理」
「すいませんでしたああぁぁぁ。どうかお願いします」
「しょうがねえな」
スマホを振り、安藤のLINEを追加する。
ちなみに去年の今頃、俺は1人でスマホを振りまくって勝手にクラスの女子を1人追加したりもした。
その後LINEを送ってみると、……おっとこの話はまた今度にしよう。
目から汗が流れてきて画面が見えないや。
「ちょっと影大丈夫?」
「だ、大丈夫だ」
「そっか。よかった」
光はやっぱり優しいな。最高の彼女(妄)だ。
てかこんなに優しいんだから光が安藤とLINE交換すればよかったんじゃないのか。
たぶん安藤は誰でもいいんだろうし。
「光が安藤とLINE交換すれば……」
「それは無理」
「グフっ!」
「……即答かよ」
光は一発で安藤をKOした。
女怖え。
それから数分が経ち、所変わって今度は空き教室に俺はいた。というか光に連れてこられた。
もしかしてここで襲われるんじゃ。
「影との赤ちゃん作りたいな」とか言われたりして。
「にやにやするな。キモいぞ安生」
このクソ陰キャさえいなければ!クソっ!
「ていうか、どこに連れてこられたんだ俺は?」
「もちろん部室だよ」
「部室だと!」
「お前は黙ってろよまじで」
「ひどいな安生〜。俺たち友達だろ」
クネクネと安藤は動きながら言った。
うわぁ。キモいなその動き。
まじでLINEブロックしよ。
「静かにしてもう1人」
「すいませんでした!」
……もう1人って。光の安藤への扱いやばすぎだろ。
全部安藤が悪いけど。
「なあ光。部室ってもしかしてボランティア部ってやつのじゃ……」
「そのもしかしてだよ。今日からここがボランティア部。部員は私と影の2人」
「あれ?俺は?安藤誠一様は?」
「顧問は二宮先生に頼んだから、もうちゃんとした部活になってるんだよ」
顧問とかより、ガン無視された安藤が気になるんだけど。
「だから、影も入部届けを出したら晴れてボランティア部の一員だよ。今日中に二宮先生に出しといてね」
「わかった」
「俺はもう出したぞ!」
「「は?」」
「俺はもう入部届けは出した!そして副部長というポストもいただいた!」
「よかったな光」
「退部する」
こうして、俺たちの部活動は始まった。始まったよな?本当に光退部しないよな?
……そしたら俺も退部しよ。まだ入部すらしてないけど。