無音。
居心地が良い。
時が止まったかのように感じる静かな時間。
俺らボランティア部は今日もゆったりとした日常を過ごしていた。というか暇だった。
たまに聞こえるのは、本のページをめくる音だけ。
だが、中3の時、エミちゃんに告白をした後に訪れた沈黙とは違う。
あの時の雰囲気を言うならばそう、まるで学校の行事で行くキャンプのカレー作りの時、張り切って任せろと言ったはいいものの結局うまく火がつかずべちょべちょのご飯でカレーを食べた時の班のみんなの雰囲気のような……。
これも俺じゃん。
結局エミちゃんには断られた。
ちなみに「もう受験で忙しいから」と言われた次の日に映画館でエミちゃんとばったり会った時は気まずかったなあ。
気まずすぎて持ってたポップコーンをぶちまけたのはいい思い出だ。
ぐすん。
「影ともう1人ちゅーもーく!」
「なんだぁー?もしかして俺に惚れたかー?」
最近安藤のドヤ顔も慣れてきた気がする。
そんなことよりあの時のポップコーン代戻ってこないかな。
「あんたペット飼ってる?」
「飼ってない」
「よかった。間違って犬とか燃やしちゃったらさすがに可愛そうだよね」
「何する気だ!?俺の家燃やすのか!?」
「そんなことしないしない。私はただガソリンを撒くだけだから。たまたま不運でそこに火の粉が降りかかっちゃうけど」
「これが世に言うヤンデレってやつか。可愛いじゃないか」
「死ね」
ポップコーンといえば昔チサトちゃんと……。
危ない危ない。また黒歴史を掘り返すとこだった。
にしても、最近俺は昔のこと考え過ぎだな。
……いい思い出なんて1つも出てこないし。
ここは1つ、光との楽しい小学校生活の記憶でも、……思い出したいが出てこない。
「……ポップコーンなら覚えるんだけどな」
「そう!ポップコーン。だからなの!」
「は?」
俺の呟きを聞いた光が心底嬉しそうに言葉を返した。
いくら光を観察するのが趣味の俺だからといっても今の言動は読めない。
ん?光の観察ってなんだって?そりゃもちろん、学校では1日に3回トイレに行くなとか、体育の日はテンション高くてよく揺れてるなとか。主に胸が。
「とにかく!映画館に行こう!」
「おー!」
「おー、……ってえ?なんで?」
「聞いてなかったの?」
「ご、ごめんなさい」
俺が妄想をしている間にかなり話は進んでいた。
具体的には、光が個人的に友達から相談を受けたが自分1人では無理だと判断。なのでボランティア部で受けようと考えたんだとか。
その人が映画館の売店で働いてるからポップコーンで反応したということだ。
ということでそれから30分後。
俺たちはその子が働いているショッピングモール内の映画館を訪れた。
「あ!ほらほらあの子だよ」
「ほほう。あれが未来の嫁候補か」
「誰のだよ」
「もちろん俺様だ」
時々、安藤はこんなウザいキャラで定着していいんだろうかと心配になる。
べ、べつに安藤の心配してるわけじゃないんだからね。
………。
結論。ツンデレは美女に限る。
「確かに可愛いな。俺様にぴったりだ」
「あ?なんで恵三に上から目線?は?」
怖。光、怖。
めっちゃ睨んでるんだけど。ていうか安藤半泣きなんだけど。
どんだけ恵三ちゃん好きなんだよ。安藤がウザいだけか。
「……ん?恵三って言ったか?」
「うん。佐々木恵三子」
「佐々木恵三子ってエミちゃんじゃねえか!」
「何言ってんだ安生?さてはバカか?」
安藤は後で殴るとして今は置いておこう。
そんなことより、よりにもよって恵三ってポップコーンのエミちゃんかよ。
まさか光と仲良かったなんて。
会っても気まずいだけだな。
くそっ。来なきゃよかった。
「あれ?影って恵三と接点あったっけ?」
「いや、ちょっとな……」
言えねーよ。告って振られましたなんて!次の日この映画館でポップコーンぶちまけましたなんて!
「影くんは告白したんだよねー」
「そうそう。それで振られて」
「次の日にここでポップコーン叩きつけたんだよねー」
「ああ。あの時は感情が高まって、……ってなんで言うんだよ!?」
いつの間にか俺の後ろで笑っている彼女が佐々木恵三子本人である。
張り裂けるくらいの笑顔に活発な動きでよく揺れるポニーテール。まさに俺のハーレムの1人に加わるために生まれた存在!
とは安藤の後日談である。
俺もそれに概ね同意だ。最後以外は。
「いやー、ごめんねーわざわざ来てもらって。そうだポップコーンでも食べてく?奢るよー」
「いや。ポップコーンはいい、……ぐすん」
「ごめんごめーん。冗談だって」
そっか冗談か。全部冗談なんだな。俺が告ったのも実は冗談なのかもしれない。うん。そうだな。
「ねえ。恵三子……」
「ひ、光…さん?」
「さっきの告白って本当?」
……さっきから怖すぎじゃないですか光さん。
もっとアンパンマンみたいに優しい存在かと思ってたんだけど。
ついでに「私の好きなところ食べて?」とか言ったりして。
なにこれエロ。
「おい影。何ニヤけてるの?」
「ただ光がアンパンマンに……」
「あ?」
「なんでもありません!」
助けてバイキンマン。俺じゃあ相手にならないみたいだ。
「とにかく場所変えよっかー。みんな見てるし。ね?」
エミちゃんがフードコートを指差しながらそう言いうと光が小さく頷いた。
「安藤はもう帰っていいよ」
「は、はい!」
光は笑顔で提案という名の脅迫で安藤を帰らせる。
怖いよ。笑顔ってのが更に怖いよ。
「よ、よし!フードコートにレッツラゴー」
「お、おー」
「…………」
ギスギスした雰囲気の中、ショッピングモール内を5分ほど歩きフードコートに到着した。
平日にも関わらず意外と混んでおり、何も買わずに場所だけ取るのは申し訳なかったので飲み物を買ってから話を始めた。
「で?さっきの告白の話は本当なの?」
「いや、さっきのは……」
「本当だよー」
エミちゃんが俺の言葉に被せるように言った。
「なんで言っちゃうんだよ!」
「嘘はよくないよー」
「……そうだけど」
「それにおもしろそーだしねー」
「えぇ。……なにそれ」
俺たちの会話を聞いていた光がフッと笑って一言。
「楽しいそうだね」
「「…………」」
この言葉で完全に会話が止まった。
笑顔は怖いからやめてくれないかな。マジで。
「影はなんで恵三に告白したの」
「そんなのなんでもいいだろ。光こそなんでそんなに怒ってるんだよ」
「それはねー。光は影くんのことがー」
「恵三子?言いたいことわかるよね?」
「黙れ」でしょ。ぼっちの俺でもわかります。
「でも私わかっちゃうんだよねー。みんなが考えてること」
「なんだそりゃ」
「大丈夫だよ影くん。話してあげても光は怒らないよ。私に告白した理由」
なんでエミちゃんはそんなに自信満々なんだよ。
やっぱりリア充は俺らぼっちとは違うな。
『俺ら』じゃなくて『俺』か……。
だが、そんなこと言っててもこの会は終わりそうもないな。
もともとはエミちゃんの相談だったし、早く家に帰らないと妹も待ってるし。
何より光の頼みだしな。
……しょうがない。
「そ、その、光に似てたんだよ」
「え、私?」
「俺たちがが中3の時、エミちゃんが友達に『ありがとう』って笑いかけてたんだ。その顔が光に似てたから」
「なら私に告白すれば良かったじゃん。好きだったんでしょ」
「いや、……まあ。でも断られて光との関係を壊したくなかったから。だから、その、こんなことエミちゃんに言ったら悪いけど、代わりに……」
「そっか」
光は顔が見えなくなるぐらいまで俯いた。
どんな顔してるのか気になる。
俺のこと気持ち悪がってるのか、エミちゃんを代わりって言ったことを怒ってるのか、それとも喜んでるくれているのか。
「……今は?」
「へ?」
「今は私のことどう思ってるの?」
「それは、その……。今も俺は……」
「あのー。私もいるんだけどー」
「ご、ごめん!忘れてた!」
「どいひー」
止めてくれて良かった。流れに乗って告白するとこだったし。
「はあ。あと少しだったのに……」
「なんか言ったか光?」
「なんでもない」
「怒ってる?」
「怒ってない!話し終わったし帰ろ」
「そうだな。じゃあエミちゃんまた……」
「なに言ってんの?これからじゃん」
「「え?」」
「は?」
あれ?光の怒りは収まったし他に用事なんかあったか?
「私の相談で来てくれたんでしょー今日は!」
ありました。メインでした。
「ごめん恵三!」
「まあ、愛には勝てないかー」
「え?どういうことだ?」
「ちょっ!?なに言ってんの恵三。影も気にしない!」
「全然意味が……」
「で!相談でしょ恵三!どうぞ!」
「オッケー」
「え、ちょまっ」
おかしいな。なんで無視されてるの俺?
なにが悲しいって普段と変わんないから違和感がないのが1番悲しい。
「実は手伝ってほしいことがあるんだけどー。影くんの能力で私がパパと話せるようにして欲しいんだよね」
「能力って、……光まさか!?」
「ごめん。恵三には言っちゃった」
「勝手に言うなよな……」
「ごめん」
あと12回しか使えないからなこの能力。
人に能力を使うのを頼まれるのも嫌なんだよな。
まあ光は可愛いから許すけど。
「でもなんで俺の能力が必要なんだ?」
「実は私のママ、私が中学生の時に死んじゃって……」
「悪い」
「あ、別にいいんだけどさ。それでね、パパに進路のこととかいろいろ話したいことがあるんだけど、生憎パパは仕事で忙しいらしくてね。家でも顔合わせないからさ。影くんに時間を止めてもらってパパと話せないかなって」
「でも俺が止められる時間は3分だけだし俺が近くにいないと動けないぞ」
「うん。3分で十分だし影くんがいてもいいよ。パパと話した記憶すらないからそれでもすごく嬉しいよ」
「そうか」
「それに私も能力持ってるからーー」