紅葉が桜に変わる頃   作:本条真司

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4話

「もしもーし」

『お電話ありがとうございます。オーレリアテクノでございます』

「冬風でーす」

『お世話になっております。申し訳ありません、現在社長は席を外しておりまして…』

「あらま。戻ったら折り返せって伝えてもらってもいいですかね?」

『承りました』

電話を切り、ため息をついた夜斗

オーレリアテクノという会社は、夜斗の友人が経営する会社だ

正確には友人の父親の会社だったのだが、彼の父親が早期引退したため友人が経営することになったのだ

「終わったわ。案外簡単だったわね」

「初っ端から難しいテストやっても仕方ないしな」

夜斗はテスト用紙を受け取り、驚愕した

実を言うとこのテスト、IQや性格を診断するためのものだったりする

このテストで満点を出されたのは、今回が初だ

(ほう。これほどとはな…。あとは体力の試験もあるが、やる意味はないな。昨日の感じからして体力はないだろう。となれば…)

「で、これで私の適性がわかるの?」

「まぁ本来はこのあと体力テストと射撃テストがあるわけなんだが、体力がないのは知ってるし射撃だな」

夜斗は社員の一人に任せる、と告げて奏音を連れて外に出た

「俺の事務所がもつ射撃場まで連れて行く。そこでの適性次第でお前の仕事が決まるぞ」

「わかったわ」

夜斗は車の鍵を操作してポケットに入れた

事務所の一階部分が左右に開き、中から大型の車が現れる

「…これは?」

「普通車に見せかけた装甲車だ。水分分解機構を備えてるから、水中での活動も可能だし、衝撃分散材質だから戦車砲やICBMにも耐える」

「…よくこのサイズに詰め込んだわね」

「トランクは全部潰してるから買い物には向かないな。買い物に行くなら草薙に頼め、あいつのは普通車だから」

「格差がすごいわ…」

夜斗は車に乗り込み、ドアを閉めた

ボタンを押してエンジンを始動させ、サイドミラーが開いたことを確認し、ギアをDに切り替えて走り出した

車庫から出てすぐ、シャッターが降りてなんの変哲もない飲食店のような風貌になる

「オートマなのね」

「マニュアルで作ってほしいって言ったら、そんな機構積む余裕がないって言われた」

「そう…」

奏音は外の景色を見た

今まで見てきた中で最もアングルが高いため、いつも見てる景色であるはずなのに全てが新鮮に見える

「そういえば奏音」

「なによ?」

「お前彼氏いるのか?」

「早速セクハラかしら。答えはノーよ。私に彼氏いるなら誰にでもできるわ」

そういう奏音だが、実際のところは奏音に話しかける人がいないだけだ

それほどに見た目が良く、また性格も良いということなのだが

「ふーん。ならあんま言う必要ないけど、うちの社宅は基本的に部外者の立ち入りは厳禁だ。俺の許可がいる。他の会社だと家族や友人はいいみたいなのあるけど、うちは家族や配送業者もダメだ。郵便や宅配物は事務所に届けるように配送業者に伝えてあるから、特に手続きはいらん」

「例えば夜斗が彼氏になった場合、入れるのかしら」

「俺の部屋に来ることはできるが逆は無理だな。女性階と男性階は別にしてある」

「他のアパートに住むのは?」

「子供ができれば許可するつもりだが、うちの社員は半数以上が未成年だからなんとも言えん」

夜斗は交差点を右折してすぐのところにあるコンビニに車を止めた

「…?」

「飲み物を買う。なにか飲むか?」

「…超甘いコーヒー」

「了解。エンジンはかけておくが触るなよ」

「触らないわよ」

奏音は拗ねたように顔を逸した

夜斗は笑いながらドアを閉め、コンビニの中に入っていく

「…変わってないわ。あの頃から。私が貴方を好きなのも、変わってない」

奏音はそう呟き、ため息をついた


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