「な、なんなのよ…これ―‼」
震えた声で身構えているのは、駆逐艦叢雲である。ダークグレーの戦闘服を身に纏い、左肩にはIFPOのワッペンが縫い付けられてある。彼女は今、三笠公園にて、巨大な深海棲艦と対峙していた。
筋骨隆々の体に、大きく肥大化した腕、鋭利な鉤爪、背中からは煙突のようなものが突き出ている。図体に比べて妙に小さな頭は、長い前髪が束になったような角が、右目を覆い隠していた。
(こんな深海棲艦、見たこともないわよ…)
胸部が船首のようにカーブして突き出しており、そこから女神像の上半身らしきものが生えている。その頭は潰れており、左側から湾曲した紅い角が前方に伸びていた。
謎の深海棲艦の周りには、大量の艦娘が大破し、撒き散らされていた。中には自身と同じIFPOの艦娘も、多数混じっていた。海洋で戦闘する艦娘は、撃破されると沈んで視界から消えてしまう。なので、こうして血と重油に塗れている仲間を見るのは、叢雲の心を深く抉った。絶望が、彼女の判断力を奪っていく。赤い瞳は泳ぎ、細い脚は震え、息が荒くなる。心臓の鼓動が頭に響いている。
(よ、よく見れば、手がデカいだけで、主砲とかは無いじゃない。な、何よ、余裕じゃない!)
恐怖から一刻でも早く逃れたい―その一心で、深く思考することを忘れてしまう。
激しい長期戦が故に、叢雲は主砲や機銃、魚雷を全て撃ち尽くしていた。唯一の攻撃手段は、マストを模した槍のみ。明らかに不利な状況なのに、彼女は勝てると判断してしまう。
右手で獲物を構えて牽制しつつ、左手で首のチョーカーのスイッチを入れる。すると、全身から静電気がバチバチと瞬き始めた。それはマストに帯電され、電気の迸る音と光が次第に大きくなっていく―。
「閃電紫突ッ‼沈めッ‼このバケモノがァ‼」
疾風の如く、その頭を目掛けて突進する。奴の手が、彼女に向けられる。直後―
(し、しまっt―)
避けるには速度が出すぎていた。次の瞬間、巨大な手から発射された爪が、腹部を貫いた。そして、爆ぜる。
「がぁあああああああああ⁉」
傍にあった機関車の模型に、勢い良く打ち付けられた。激痛で脳が破裂しそうになる。
(……応急修理要員ッ)
溶けたアイスクリームと化した艤装から、消火器を背負った妖精が現れ、大至急で消火を始める。
〝マズい…下半身が…無くなっているッ⁉〟
妖精の言葉を理解し、戦慄する。爪を刺されたところを中心に、胴体を真っ二つに爆ぜ斬られていたのだ。痛みが引いて、代わりに意識が朦朧とし始めた。出血が多すぎたのだ。自らが生物であることを改めて実感する。逃げようとするが、腕に力が入らない。
だが、怪物は叢雲がまだ生きていることに気付いてしまった。最後の一撃を食らわせるために、再び巨大な爪を構える。諦めて、瞼を閉じる。その時―
『―ブォォオオオオオオ‼』
見上げると、闇の空にエンジンを高鳴らせ、航空機たちが攻撃体制に入っていた。その機体は濃紺で、翼に白い星のデカールが施してある。
(TBM-3D…なぜ米軍機が?)
疑問に感じるのも束の間、怪物の体に変化が現れた。両肩から、駆逐艦イ級のようなものがニョキっと飛び出したのだ。双頭は航空機の群れに首を回すと、口を開けて機銃掃射を始める。
「そんな…」
あれよあれよと云う間に、航空機隊は全滅してしまう。それは、叢雲が助かる希望が、完全に崩れ去ったことを意味する。
『グギギギギギギギ……』
爪が向けられる。今度こそダメだ―そう思った。
「深海棲艦の力を使うとは。落ちたな、上須賀―」
透き通った男の声が聞こえた。すると、東郷平八郎像の横から、男性が歩いてくる。その顔には見覚えがあった。
(佐世保の浜岡⁉)
何故こんな所にいる―という顔になる。
それは、奴も同じだった。
『貴様、始末したはずではッ⁉』
「どういうワケか俺にも分からんが、テメェは俺に倒される運命のようだな」
見ると、彼の破れた服の隙間から見える皮膚の所々が、鉱物のような色と光沢を放っていた。
『フン、貴様如き、何度でも叩き潰してやる。オレの計画は、誰にも阻止させんッ‼』
今や人間ではなくなった上須賀は、そのパワーを全開にして、突撃する。叢雲は「逃げろ」と叫ぼうとするが、喉が焼き尽くされていて、声が出ない。その間に、両者の距離が、どんどん縮まっていく。
『終わりだッ、浜岡ァァア!』
凶悪な爪が光る。標的に向けられる。
(マズいッ‼浜岡さんはあれが何なのか知らない―⁉)
叢雲は声にならない声を上げる。
『チュドンッ‼』
もう手遅れだった。浜岡のいた所が掻き消され、そこを上須賀が踏み潰した。湧き上がった硝煙が、風でマーブル模様を描く。叢雲は思わず視線を逸らした。満足したように、奴は言う。
『所詮、奴はちっぽけな人間に過ぎなかったのだ。さて、確実にトドメをさしt―⁉』
気が付いて、視線を下す。青白い顔が、更に白くなる。
『動けん……まさかッ』
「金剛石(ダイヤモンド)は、砕けない」
『ッ⁉』
顔を上げる。いつの間にか、そこにいた。
『フン、オレの四肢を石化して足止めしたところで、無駄無駄ァ‼』
そう叫んで、赤城を召喚する。鬼灯色の瞳を光らせて、両腕を広げる。
『何度復活しようとも、彼方は燃やし尽くされる運命なのよ』
「いいや、君は―」
言いながら、M49(ASW)を構える。銃口には、『錨』がセットされていた。
「―コイツに封印される運命だ」
寸刻の迷いも無く、引き金が引かれた。絶叫して、赤城を内に戻そうとする。しかし、できなかった。
『グッ⁉』
『赤城ニハ盾ニナッテモラウワ…』
昏く冷たい声が響いた直後、赤城は射抜かれた。シルエットが溶け、吸い込まれる。『錨』が地面に落ちる音だけが残された。
『クソッ、三笠姫。何故お前が…』
『人間ドモニ、蒼キ海原ヲ汚サセハシナイ。貴様ハ既ニ用済ミだ』
『きさ…マ…………』
苦悶に表情を滲ませる。意識を乗っ取られまいと、抗っている。
「そういう事だったのか…あの船首像は―」
そう言って、浜岡の表情が険しくなる。
「…金剛、頼めるか?」
囁いて、駆け出す。ぼわり、と金剛が出現する。射程距離まで、あと5メートル―
『チ、近寄ルナァアアア‼‼‼』
シールドが展開される寸前、徹甲弾の如き一打が、叩き込まれる。
『Burning Loooooooooooooooooooooooooooooooooooooove!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
胸部のフィギュアヘッドが砕け割れる。その衝撃波は亀裂となって拡散していく。石化された剛腕や脚へと伝達し、そのうちの一つが、とうとう首筋まで来てしまう。
『我ノ蒼キ海ガ…紅ニ染メラレ…歴史ハ…再ビ、繰リ返サレr―』
とうとう、亀裂は頭部を貫いた。
『ブッシァアアアアアアアアァ…』
巨体が弾け四散する。金剛が咄嗟に前へ出て、ドス黒い濁流を浴びた。地面に撒かれた肉片と血は、一瞬にして蒸発してしまった。唯一残ったのは、怪物の体を構成していた大きな竜骨だけであった。
上須賀、そして深海三笠姫は、こうしてこの世から消滅したのである。
三笠公園に、潮騒の音が響いている。時計台の針が、もう直ぐ6時を指そうとしていた。
「……………」
足元の、『錨』を拾い上げる。鈍く、青銅色に煌めいた。
「赤城―」
胴に刻まれた名を呟く。それは先程までにはなかったものだ。上須賀に憑依していた空母赤城、その魂を『錨』が注射器のように吸引したのである。
『破壊しマスカー?』
そう言って、金剛が顔を覗き込んだ。しかし、首を横に振る。
「此奴は、受け継がれなければならない。艦娘は『矛』ではなく『盾』である―その信念を、何時までも忘れない為に。そして、我々人類も、それを戒める為に」
金剛は微笑んで、彼の内に戻る。
「―動くな」
背後から聞き覚えのある声がして、頭に冷たいものが突き付けられた。
(また、大鳳か……)
黙って、両の手を挙げる。右手に持っていたそれを、取り上げられた。
「まあ、よくも生き残れたわね。それどころか、私たちの獲物だった上須賀を倒しちゃうなんて…流石だわ。あの時の言葉、全て撤回してあげる」
「……………これが何か、理解っているのか?」
「ええ、勿論。心配しないで。悪いようにはしないわ」
そう言って、ボウガンを向けたまま、後ずさる。
「じゃあね、浜岡さnグッ⁉…」
突然の呻きに、彼は慌てて振り返る。
「ッ⁉」
大鳳の腹から、紅のブレードが突き出していた。直後、瞳が赤くなり、スレンダーなボディがブクブクと膨れ始める。亜麻色の髪も濡羽色に変色し、乱れながら伸びる。
「た、大鳳⁉」
「だずげで…胸が…く…るし…おし…r(ゴキッ」
装甲のようなライダースーツのせいで、身体の膨張が妨げられていた。それがかえって彼女を圧迫し、とうとう骨が砕け折れたのだ。全身からこもった音を発して、白目を剥いた大鳳は、不自然な大の字の姿勢で硬直する。そのままうつ伏せに倒れると、彼女の背後にいた者が顕わになった。
「……………」
少女の風貌に、思わず身構える。
「き、君は―」
そこには、左半分だけ深海棲艦になった駆逐艦暁が立っていた。少女の瞳は、潤んでいた。
「司令官……」
「あ………暁なのか⁉」
深く頷くと、直立して、敬礼する。
「加賀さんも、霧島さんも―皆、最後の一撃まで、立派に戦われました。暁だけが、こうして、艦娘でも深海棲艦でもない存在になって、生き残ってしまいました……」
「……………いや、いいんだ、ありがとう……」
突然、海風が吹いた。帽子が飛ばされそうになって、暁は慌てて抑えている。その様子を見て、俯いていた浜岡が微笑んだ。
「…暁」
「…はい」
「…おかえり」
「…ただいま」
戦艦三笠の甲板から、朝日が顔を出した。眩しすぎる程の光が、三人を照らす。気絶した大鳳は、ライダースから解放され、ベンチで寝かされていた。
『明けない夜はないネー』
そう言っている金剛のシルエットは、少しぼやけて見えた。
「おーい‼」
声に振り向くと、傷だらけの重巡青葉が、手を振って走って来た。
「あれは―」
その後ろには、何十人もの艦娘が、浜岡に敬礼を送っていた。彼女たちは『角』によって操られていた艦娘たちである。中には、白い軍服を着た高雄姉妹、浴衣姿の陽炎型駆逐艦もいた。全員、『角』から解放されていた。
「一枚お願いします‼」
返事も待たずに、青葉はカメラを構えて、シャッターを切った。
「ありがとうございます‼……なんじゃこりゃ、背後霊⁉」
驚きのあまりカメラを落としかける。それを見て皆が笑った。
(これが、平和だ。彼女たちが、これから守るべきものなんだ)
しみじみと、浜岡は彼女たちを見回した。そして、手に握られた『錨』に目をやる。
(さて、もうひと仕事しようか―)
東雲の空が、徐々に茜色に染まっていく。一羽の白い鳩が、新しい夜明けの始まりを告げた。
※
その頃、相模湾沖に、一人の艦娘が立っていた。
小さな白いケピ帽、赤い制服はウルグアイ内戦時のイタリア人義勇軍を象徴している―イタリア海軍の軽巡洋艦Giuseppe Garibaldiだ。
「何が何でも、上須賀の技術を抹消しねぇとなァ…」
そう呟いている彼女の艤装から、『UGM-27 Polaris』が今にも放たれようとしていた。
深海棲艦との戦いが始まると、イタリアは経済難に陥った。まず、漁業ができなくなり、人々の行き来が途絶え、観光産業が瞬く間に廃れた。そして、街が襲撃され、多くの死者が出た。不幸中の幸いと言えるのは、イタリアにも艦娘が出現したことである。政府は直ちに艦娘による海軍を発足、彼女たちは周辺海域の敵艦隊を撃破し、制海権奪還の為に戦った。
ここで、当時の大統領は、深海棲艦との戦争をしつつ財政を復活させようと考えた。艦娘のいない周辺国と契約し、高額で艦娘を派遣するのである。しかし、遅かった。『艦娘大国』と言われる日本の手が、既に欧州にまで及んでいたのである。
このようにして、終戦直後のイタリア経済はどん底に落ちていたのである。だが、復興の為の資金が必要である。そこで政府がとった決断―艦娘の売却である。深海棲艦にしか能力を発揮できない艦娘たちは、金喰い虫同然だったのだ。ガリバルディは姉のアブルッツィなどと共に、ロシア海軍に買い取られた。そして、ニコライ司令官率いるレニングラード部隊に配属されたのだ。こうして、部隊のタシュケントやガングートたちとは直ぐに打ち解け、ロシア海軍の艦娘として新たなスタートをきったのだ。
しかし、ガリバルディには昔からもう一つの顔があった。
マフィア組織―Libeccio FamilyのNo.4
イタリア海軍の艦娘だけで組織されており、イタリアの復興と繁栄の為に陰で暗躍していた。更に、戦後は他国が軍事利用の為に艦娘を改造するのを阻止しつつ、その技術を盗むことで最強の艦隊を作り、ヨーロッパの覇権を狙っていた。特に、日本にはあのような因縁があるので、監視を強めていた。
「日本にま~た強くなられちまうとよォ、アタシらは困るんだよォ…」
歯軋りしつつ、核弾道ミサイルの攻撃目標を横須賀と美舩村上空に指定する。セットし終わると、ケピ帽の中から電子音が鳴り始める。実はガリバルディの頭部には、円筒状のサーバが取り付けられており、自身の艤装を妖精の力を借りずに操作できるようになっていた。それは、過去に上須賀から秘密裏に盗み出した『角』の技術が基になっている。
(発射まで残り1分ッ)
ふと、タシュケントたちの事を思い浮かべた。もしも、彼女たちがまだ村から脱出できていなかったら―そう思ったが、愛する祖国の為、止むを得ないと割り切る。
(残り40秒ッ)
“―ソコマデヨ”
突然、無線から聞いたことのない声が響いた。
「誰だか知らねェけど、アタシのポラリスは後数十秒で発射されるぜ?ハッ、遅かったな!」
“ホウ…デハ、空ヲ御覧ナサイ?”
言われるがまま、見上げる。
(流れ星?…いや、あれはッ⁉―)
光の尾を引いて、何かが飛んでいた。だが、明らかに彼女の方を目指している。
“フリッツX…ソノ動力搭載型ヨ”
第二次世界大戦中にドイツ軍が開発し、ガリバルディの僚艦だった戦艦ローマを撃沈した無線誘導爆弾―そのミサイル型である。
完全にロックオンされている。彼女がポラリスを発射する前に着弾するのは明白だった。絶体絶命―
「よォ…アタシは只のガリバルディじゃあねェンだぜ?」
不敵に笑むと、艤装上部の装備が動き始めた。
「RIM-2 Terrier SAM―一発必中の防空ミサイルだぜッ‼」
掛け声と共に、鉛筆のような形をした物が火花を噴く。射出されると、あっという間に夜空へ小さくなっていく。二つの流れ星が接近する―。
『ッドン‼』
空気が轟音に震える―しかし、それは空からではなく、海からであった。ガリバルディが居た所に、高く水柱が上がっている。
(魚雷ッ⁉―)
咄嗟に踏ん張ろうとしたが、できなかった。脚が破壊され、浮力を失っていたからである。バランスを崩して、倒れる。艤装が瞬く間に浸水してしまう。
(……嘘だろ…、マジ、ここで沈むンか…そんなァ…馬鹿な…、マジか…姉貴ィ…)
轟沈―彼女が初めて経験した痛みであった。一分もしないうちに、彼女の姿は水底へと消えていった。
「……………」
暗黒に飲み込まれていくガリバルディを、青と赤の瞳の少女が、静かに見送っていた。
激闘から数週間後、IFPO本部にて―。
「―これで、事情聴取は以上です。お疲れ様でした」
そう言ってスーツ姿の女性が立ち上がる。対面に座っている浜岡、そして暁も席を立った。彼女のブレードのような腕は無くなっており、肩から鉄黒色のロボットアームが生えていた。負傷した艦娘は入渠によって再生が可能だが、半身が深海棲艦した彼女は、かえって深海棲艦化を進めてしまう―従って、このような処置を取る他なかったのだ。まずは薬品の投与によって、純粋な艦娘へと回復することを目指す。ドック入りは、その後だ。
ビルは職員と多国籍の艦娘たちで賑わっていた。その風景が、二人には佐世保鎮守府の景色と重なった。廊下を進んでいると、前方に人影が現れた。暁は眼を見開いた。
「おかえり、金剛」
「ただいまデース!」
「え、ウソ、金剛さん⁉」
「ヘッヘー、元通りになったネー」
憑依霊ではなく、きちんと実態となって、そこに立っている。
「ミスター浜岡の御要望通り、彼女の魂を艤装に定着させることに成功しました。あの『錨』の仕組みは、案外簡単なものだったそうですよ♪」
事情聴取していた女性が、眼鏡のブリッジに手をやった。
「赤城の方は―」
「勿論、幽霊から艦娘に戻れたのですが、いささか精神状態に異常をきたしているようでして、今は此方の方で隔離しています。此処には、PTSDに陥った艦娘をケアする施設もございますので、どうぞご安心下さい」
「それは心強い。是非、お願いします」
「お任せください!」
彼女は明るく微笑んで、軽く敬礼した。
「それと、金剛さんですが、もう暫く経過観察の為にここに残ってもらいます。で、その後の事なんですが―」
「それなら、私から一つ、提案がありマース‼」
張り切って、金剛が飛び出す。
「ワタシ、IFPOの艦娘になりたいデース‼」
それを聞いて、女性はハッとした顔になった。一方の浜岡は、納得したように深く頷いていた。
「君ならそう言うと思ったよ」
「本当にいいんですカー?寂しくないですカー?」
顔を覗き込んで上目遣いするが、彼は首を横に振った。
「君が、この世界のどこかで、平和を、誰かの命を護っている―俺には、それが本望だ」
少ししょんぼりする金剛だったが、直ぐに微笑んで見せた。
「暁も、腕が治ったら、金剛と一緒に行っても、いい?」
「ああ、勿論だ」
「ワタシも嬉しいデース!」
「それでは、お二人にはちゃぁんと資格試験を受けて頂かないと、ですね!」
「し、試験⁉」
「イヤデース…」
そんな感じで、四人は笑いあって歩きだした。浜岡は、長い間止まっていた時間の歯車が、再び回り始めたように感じた。
丁度、IFPOの巨大なエンブレムの前を通った時だった。女性が何かを思い出したような顔をした。
「そうそう、ミスター浜岡」
「何ですか?」
「この事情聴取の報告書、タイトルはどうすればいいと思いますか?フツーに『美舩村・横須賀事件』でも良いのですが、インパクトがないというか…人々の記憶にイマイチ残りにくいと思うんですよねぇ」
少し考えこんだ浜岡は、金剛と暁をチラリと見てから、口を開いた。
「Admiral's Report―なんて、どうでしょうか」
―La Fin.