Admiral's Report   作:田村天山

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 美舩村、そして横須賀に掛けて起きた、戦後最大の武力衝突―たったの一夜にして自衛隊横須賀ベースが壊滅し、艦娘約31000人、自衛隊員約2400が犠牲になった。この事件は後日、報道によって拡散され、戦後の艦娘の在り方について世界中に訴えかけた。その結果、各国で艦娘の人権に対する見直しが行われた。更に、艦娘保有国等が連合を組織する事で、国家間での監視の強化に繋がった。
 しかしながら、上須賀率いる『レッドアジュア』の崩壊は、かえって艦娘の軍事利用化を推し進めてしまった。彼の技術が何者かの手によって漏洩、世界全体で共有されてしまったのである。
 ドイツでは、『黒鉄協会』による艦娘の対人兵器化が飛躍的に進んだ。「事件解決の為に」と浜岡がビスマルクへ託した『髪飾り』が、皮肉にも大きく貢献してしまったのだ。深海棲艦の遺伝子を持つ艦娘はイタリアやフランスなどのヨーロッパ諸国へと広がった。
 それ等に対抗すべく、アメリカ、イギリス、ロシア、中国でも、上須賀の技術を利用した研究開発が進んだ。『妖精によるリミッターを解除し、敵国の艦娘を早急に撃沈し、国民を護る』という大義名分だが、対人兵器になった事に変わりはなく、国民からの批判も少なくない。
 また、日本では上須賀の技術がそのまま流用された。事件を受けて、政府が艦娘による命令違反や暴動を問題視し、対策として『角』が採用されたのだ。艦娘たちは『角』を介して、司令官に管理されている。しかし、不明な点が多く、諸外国からは大きな疑念を抱かれている。


19.Next Stage

 事件から程なくして、浜岡はIFPOに提督としての才能を買われ、再び艦隊の指揮を執る事となった。深海棲艦の無き今、彼の艦隊は艦娘による暴動の取り締まりや、艦娘保有国の監視を行っている。また、深海棲艦が復活した時の為に、浜岡は彼女たちに日々演習をさせ、戦力を上げている。

 

     ※

 

 ハワイ州オワフ島、真珠湾―。

 浜岡櫂は港と海が一望できる、執務室の椅子に座っていた。大きな窓からは暖かい日差しが差し込み、のんびりとした空気が漂っていた。彼の軍服が、日の光に照らされて白磁に輝いている。

「…………」

机には一枚の写真が立てられている。そこには戦艦三笠と朝日をバックに、暁と浜岡が並んで写っている。あの事件に終止符を打った時、重巡青葉に撮られたものだった。

 

「艦娘とは、『矛』ではなく『盾』である―」

 

執務室の壁に飾られた青銅の『錨』を見て、浜岡は呟いた。それを見る度に、佐世保鎮守府時代の艦娘たちの顔を思い出していた。彼女たちの遺志を守り、そして美舩村と横須賀の悲劇を忘れない為に、軍服の袖には『錨』を掴み飛翔するハクトウワシの紋章が施されている。

「失礼します…」

「入れ」

ドアをノックして入ってきたのは、婦警の恰好をした戦艦姉妹―アリゾナとペンシルベニアだ。彼女たちから報告書を貰い、内容を確認する。

「よし、いいだろう。上々だ」

サインを書き込み、本部へ送る封筒にしまった。

「…先程、ロイヤルネイビーからの連絡がありました。正午までには、全艦がパールハーバーに到着予定とのことです…」

「分かった、此方もそろそろ合同演習の準備を進めないといかんな。向こうには『歓迎する』と伝えておいてくれ」

「承知しました…」

その間に、ペンシルベニアは窓から港の様子を眺めていた。

「カイ、貴方が着任して3年―此処もようやく活気づいてきたわね。結構よ」

「そうだな。全体的な練度も、かなり上がってきている。それに、近頃は艦娘保有国の雲行きが怪しい他に、アメリカでは艦娘による薬物犯罪が増えてきている―俺たちの艦隊が、今後ますます重要となるだろう。いつか来たるその日の為に、人命を護れるように、これからも努力を惜しまないでもらいたいッ」

「「イエッサー」」

二人が向き直って敬礼した。浜岡が深く頷くと、無線が入ったので、応答する。

「此方HQ」

“カイ、此方はエンタープライズ。演習中に偵察機が、オアフ島北200海里にて日本の艦娘部隊を確認した。奴等はそちらへ向かっている模様だ”

「何ッ?」

異様な空気を感じ取る。姉妹も無線に耳を傾け始めた。

「艦隊の詳細を報告しろ」

“編成は、正規空母6、戦艦2、重巡2、軽巡1、駆逐9、その他5だ”

「『角』は?」

“―装備している”

一切の連絡も無く、日本の艦娘が艦隊を組んで接近している―あの事件の記憶が、湧き上がった。

「サイレント・ネイビーが何の用かしらね?」

「……さあ」

二人は軽く首を傾げただけだが、彼は額から汗を滲ませていた。そして、震えた声で、言う。

「演習は中止、奴等を追え、攻撃意志を見せたら、即時撃破しろ」

執務室の空気が凍り付いた。

“今、何t―”

「Air raid! Pearl Harbor-This is no drill!!」

悲鳴のような声をあげたので、ペンシルベニアとアリゾナは身を竦めてしまう。

「何故攻撃命令を出したの⁉」

「それは―」

ここで、無線から激しいノイズが響き始めた。それは暫くして収まった。そして―

 

“浜岡さぁ~ん、探したわよ~?…うふふ…”

 

穏やかな声に、浜岡の瞳孔が開く。

「君、まさか―」

“赤城よぉ?お久しぶりぃ~”

どうして、という顔になる。漆黒と血濡れの赤城―その姿が、脳裏に鮮明に映し出される。

「何故だ。レッドアジュアは、もう―」

“そうよ?上須賀様は死んだわぁ。だから……私が遺志を引き継いだの”

「そんな…」

“ネオ・レッドアジュア―それが私たちの新しい組織よぉ~”

「何だと…」

その時、アリゾナと目が合ったので、『出撃せよ』とハンドサインを出す。二人は無言で頷いて、執務室を飛び出していった。

“先ずは、私の大事な上須賀様を葬った貴方から潰させてもらうわ?”

「まだ他にもあるのかッ?」

“ええ、取り敢えず、IFPOを殲滅するわぁ。だって邪魔だもの~”

「貴様、分かって言ってるのか?日本政府にばれたらどうするつもりなんだッ‼」

すると、無線の奥から高笑いが聞こえてきた。浜岡の表情が険しくなる。

“何も分かっていないようねぇ~”

「……………」

“私たち日本、そして黒鉄協会のドイツ、フランス、イタリア―それらを合わせた連合こそが、ネオ・レッドアジュアなのぉ。政府は既に、私たちの指揮下にあるの~”

「な、何⁉で、では日本支部は―」

“そんなの、大分前に捻り潰したわよ?赤子を殺すより簡単だったけれど………あらあら~”

突然、赤城の意識が別の方へ向けられた。

“勘のいい子が追いかけてきたわぁ。そろそろ行かなくっちゃあねぇ。ということで、じゃあねぇ?浜岡元中将さ~ん”

『パンッ』と無線機が爆ぜ、煙を吹いた。慌てて受話器を取り、本部に連絡を取ろうとする。ふと、ある怪物の言葉が、ぞわりと浮かび上がった。

 

 

 

『蒼キ海ガ、紅ニ染メラレ、歴史ハ再ビ、繰リ返サレル』

 

 

 

―To Be Continued.

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