Admiral's Report   作:田村天山

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美舩村入り口―。
 事件から数時間経った今でも、遠くから砲声が聞こえ、スカイラインは戦火によって朱色に鈍く明るみを帯びている。幸い、奴等はここまで進行していないようだ。しかし、警察車両のサイレンの音が全く聞こえてこない。誰も通報していないのか、それとも、通報できない環境にあるのか。異様に生暖かい風が村を包む。
 街灯の明かりの下、浜岡は携帯電話を片手に顔をしかめていた。通話の相手は自衛隊横須賀基地である。
「―だから何度言わせるんだ!美舩村で艦娘たちが暴動を起こしている、早く対処しなければ国民に被害が出る」
“あのですねぇ、艦娘が人を襲えるわけがないんですよ。そんな事で明日の観艦式を止めようったって無駄ですからね?艦娘を無暗に緊急出撃させれば国民に不安を煽るばかりか、マスコミが騒ぎ立て、世界各国に緊張を走らせることになる―それが狙いなんでしょう?”
男がうんざりした声で話す。浜岡の言葉には耳も貸さないようだ。
「既に高速道路で事故を起こしているじゃあないか!」
“…………あれは艦娘とは関係ありません”
気まずそうに言うと、男は通話を切ってしまった。
(ダメだ、あてにならない)
浜岡は携帯電話をズボンのポケットにしまうと、生存者を探しながらタクシーを置いてきたリストランテへと向かうことにした。


7.矛と盾

 『駆逐艦暁鬼』と名乗った少女が、村の発電所の屋上で夜風に当たっていた。そこは事件が起きていることを忘れさせるようなほど静かであった。少女の服の白の部分は、油と煤で黒く汚れており、ブレードと化した左腕は重油がべったりと付着していた。

「敵はここには来ていない…やはり目的は『艦娘のみ』のようね」

独り言のように呟いて、右手で懐から『ジギタリス』と書かれた小瓶を取り出す。中には錠剤が入っていて、面倒くさそうに片手で蓋を開けると、器用に一粒だけ口に流し込んだ。それを飲むと、目を一瞬ギョッとさせたが、直ぐに元の調子に戻る。一息つくと、未だ火柱の立つ商店街を目指して駆け出した。地面をダンッと蹴って、義経が見たら白旗を揚げるような素早さで建物から建物へと飛び移る。

「船が八艘飛びをするなんて可笑しな話よね…」

独り言を言いながらどんどん進んでいく。

 

『ピコン、ピコン』

 

 電探が敵を察知した。俯せになって息を殺す。下界を確認すると、対象がこちらに向かって歩いてきているところだった。どちらも頭に獣の耳のようなものが生えたカチューシャを装備している。街灯が煌々と照らしているお陰で、彼女の様子がはっきりと見えた。白いセーラー服姿で、腰辺りには魚雷発射管があるので、一目で駆逐艦だと分かる。手には何やら赤い剣を携えている。

 白い少女は周囲を何かを探す様子もなく、迷いなく歩いていた。もし彼女の向かう先が発電所だとしたら―

(暗殺するしか、ないようね)

じっとしたまま、対象が真下を通り過ぎるのを待つ。

(3…2…1…0ッ)

暁鬼は立ち上がってふわりと飛び降りる。音一つ建てないそれはまるで忍者だ。しゃがみ込むと背後から一気に突っ込んだ。

「ッ‼」

少女は知っていたかのように振り返る。

『ガリガリ‼』

ブレードと剣が摩耗して火花を散らす。暁鬼は押し跳ばして距離をとりつつ発砲する。彼女は顔色一つ変えず、丁寧に全弾を剣で受け止めた。

「今のは何⁉」

答えを考える間も無く、少女は紅い目で魚雷を真上に発射する―それらは火を噴きながら空へ舞うと、くるっと向きを変えて暁鬼を指した。

(これは―トマホーク⁉)

背を向けて「ダンッ」と駆け出す。トマホークは次々に軌跡に突き刺さり、轟音と共にアスファルトを砕き散らした。

「きゃあッ!」

爆風に足を取られて転んでしまう。振り返ると、噴煙を突き破って少女が突進してきていた。

「やぁ!(チュドン‼」

咄嗟に放った砲弾が剣に吸い込まれる。暁鬼は必至にブレードを構えた。しかし彼女は何もせずに後ろへ下がった。

(なんで?…なんでトドメを刺さないの?)

混乱しながら立ち上がる。白い敵は砲撃すら行わずに、ただ立ち尽くしていた。剣と同じ色をした目が暁鬼を見据える。

「もう、許さない…許さないんだから!」

左肩の探照灯を点けて少女に向ける。彼女は剣で目を覆った。

(これでどうだ!)

12.7サンチ連装高角砲(後期型)を一斉射し、機銃も一緒に注ぎ込む。少女は一歩も動かず、砲弾を浴びていた。あまりに動きを見せないので、暁鬼は攻撃を中断した。

「当たったかしら…?」

探照灯を消す―だが少女は静かに立っていた。それも無傷で。手にしている剣が怪しく光っている。

(剣が弾を吸い込んでいるッ⁉)。

もう一度突進する。少女はやはり避けもせず、ただ構えている。それどころか、一発も撃っていない主砲は明後日の方に向いていた。

『ガキン!ガリリリリリリ…』

防御されることは読んでいた。主砲も動く様子を見せない。ならばゴリ押しするまでである。

 ブレードが天色に輝く―深海棲艦の力である。空洞な左目にも、天色の炎がメラメラと燃える。

「うおおおおおおおおおおおお‼」

だが彼女はビクともしない。一方で剣は赤熱し、ブレードがめり込んでいた。

(このまま頭に一発喰らわせるッ‼)

右手の獲物を奴のこめかみに向ける。

(勝ったッ!)

 

『ドンッ!』

 

主砲を握っていた少女の拳が、暁鬼を殴り飛ばしていた。暁鬼は数メートル吹っ飛ばされ、地面に転がった。帽子も脱げて近くに落ちていた。一瞬遅れて、鳩尾に鈍い痛みを感じる。その時まで、自分が殴られたことにすら気付いていなかった。

(速すぎる⁉)

少女は赤熱した剣を構えて暁鬼をじっと見つめている。

このままではやられると感じて、立ち上がろうとしたが、できない。不思議に思っていると、彼女の足元に奇妙なものを見つけた。それは二つ落ちていて、片方は鉄色の大きな刃のようなもの、もう片方は駆逐艦の主砲で、持ち手を血の気の引いた手が掴んでいる。暁鬼はそれが何なのか理解っていた。

(私の、手?)

暁鬼が見る見るうちに蒼ざめる。思い出したように切断された両腕からドス黒い液体が迸る。

「がぁぁあアアアアアアアアアアアアアアアアア⁉」

溶鉱炉に焼かれるような痛みに絶叫してのたうち回る。それを罠にかかった鼠を見るような目で見降ろすと、口を開く。

「あなたは脳筋なところが駄目です。足元をよく見ていました?」

激痛に唸りながら、少女の目の前の道路にぽっかり穴が開いていることを確認する。

「マン…ホール………ッ⁉」

何かが飛び出したと思い、ふと目を上げると、いつの間にか別の少女が白い少女の横に立っていた。商店街のバザーに行っていたのか、花紺青と唐紅の浴衣に身を包んでいた。手には脇差が握られている。

「流石アヤナミ、剣の効果は絶大だな!身体が軽い軽いィ~」

「ありがとうです」

軽くお辞儀すると、『アヤナミ』と呼ばれた少女は、悶える暁鬼に話しかける。

「私の剣は砲弾を吸うだけのものではないです。あなたはそれを見抜けなかったのです」

そう言って、剣で、アヤナミは自分の腹を、刺す。

「うおぉぉぉおおおおおおおおおお‼」

しかし、血は一滴も流れなかった。その代わり、アヤナミの体が徐々に筋肉質になり、膨れ上がっていく。とうとう服がそれに耐えられなくなり、音を立てて破れる。相方は目を輝かせて見ていた。

「力が溢れるッ!馴染んでいくッー‼」

成長しきったそれは、SLのような鼻息をたてて仁王立ちしている。

「『鬼神』の力、早速試してみるです…ッ!」

「試し打ちかァ、いいねぇ、やっちまいな!」

鬼神はズンッと跳び上がると、像の脚ぐらいまで太くなった剛腕を振り上げる。さっきまで無表情だった顔は、勝利を確信し狂喜に歪む。

 暁鬼は―嗤っていた。相方は足元の二つの腕を見て、何かに気付き、アヤナミの名を叫ぼうとする―。

「見抜けなかったのは、あなたのほうよ?」

拳は振り下ろされなかった。バランスを崩して、暁鬼の真横に落下したからだ。

「あがッ⁉…ぐ…頭が…割れそう…で…ッ⁉」

言い終わらないまま身体をビクンビクンと痙攣させる。

「こ、こいつ…」

「そうよ、私は駆逐艦暁鬼。身体の半分が『深海棲艦』なのよ?」

その言葉が意味するもの―アヤナミの剣が取り込んだもの、それは暁鬼のブレードの力、つまり深海棲艦のエネルギー。

 肥大化した身体が疼き、手足の爪が鋭利な鉤爪と変貌する。髪はなまはげのように伸びて荒ぶり、その姿は巨大な港湾棲姫のようだった。剛腕が彼女の意志とは無関係に動き出す。むくっと立ち上がったそれは、彼岸花色の瞳で相方を見下ろす。

 直後、相方は不思議な感覚に捕らわれた。アヤナミの顔を見上げていたはずなのに、何故か彼女の顔が視界の下にある。

(あたい、無意識にジャンプしたの?―)

しかし、体は宙に『静止』していた。

(…あら、あたいのスピードが速すぎて、時間を止めt…)

彼女の首がガクンと下を向いた。力が抜けて、頭を支えることもできなかったからだ。そこで眼に入ったものは、己の胸からまっすぐに伸びた腕だった。彼女には、自身に起きたことを理解する暇はなかった。心臓を貫かれた体は、あっという間に血を失い、意識が水底へと沈んでいったからだ。

『ボチャ…』

真っ二つになった相方が、水っぽい音を立てて落ちる。白い怪物は無言のまま、暁鬼に向き直る。そしてゆっくりと近づく。

「グギギギギ…」

未だに立ち上がれない小さな体に向かって、巨大な鉤爪が振り上げる。

「そろそろじゃないかしら―」

それを合図に、月白の何かが横切る。怪物の腕を斬り飛ばし、また横切った。怪物は手の無くなった手首を見る―その頭に生えた角を鉛丹色の光線が撃ち抜く。

「グッ、グォォオオ⁉」

呻きながら頭を抱える―ダメ押しというように魚雷発射管が撃ち抜かれ、爆ぜる。

『ボンッ‼ボンッ‼』

爆発に耐えきれず怪物は腰から崩れ落ちた。巨体は呻きながら業火に焼かれ、やがて動かなくなった。カランと墜とされた剣は、最早その力を失い、錆びてバラバラに砕けた。

 道路わきの陰から、艦娘たちが姿を現した。短機関銃の綾波、フランキスカの敷波、そして―

「待たせたな、暁」

「あら~ほんとに深海棲艦と艦娘の半分こねぇ~。うふふ」

天龍と龍田が続いて出てきた。龍田は落ちた両腕を拾い上げると、暁鬼の方へ駆け寄る。

「はい、お手て」

「ありがと。お礼はちゃんと言えるし…」

そう言って切断された部分同士を合わせる。黒いものがそれを絡め取り、あっという間に縫合してしまう。

「うぎゅ…へっちゃらだし」

少し顔を歪ませるも、直ぐに指先が動くまでに回復した。その光景を四人は興味津々で見ている。

「スゲェねぁオイ!マジで治っちまったぜ」

「凄いね、綾波」

「そうね、綾波」

「深海棲艦って便利ねぇ~」

暁鬼は立ち上がると、試しに右手で帽子を拾って被って見せる。そしてドヤ顔を決めるも、四人はクスッと笑っていた。

「何よ!ぷんすか!」

「うん?帽子がズレてるぜ」

そう言って天龍が直してあげる。

「これでヨシ。うっしゃぁっ!次行こうぜ、奴等を村から一歩も出させやしねぇぜ!」

軽く暁鬼の肩を叩くと、先頭に立って歩き始める。他の四人も続けて歩き出した。ふと暁鬼が綾波の顔を見る。

「ねぇ、あの話はどうなったの?」

「そうねぇ…熱が冷めちゃったかしら、ねぇ、敷波」

「そうだね、綾波」

敷波はそっけない声で返事をした。

 彼女たちは、砲声の聞こえる海岸を目指して進む。

 

     ※

 

 浜岡は記憶を頼りにリストランテへ向かっていた。

 敵を警戒して、壁に沿うようにして歩く。艦娘や深海棲艦の射程を考えて、浜岡は常に遠方を注視している。右手には、大鳳に渡された『気休めの』ハンドガンが握られていた。

 

 丁度、通りの角を曲がろうかとしている時―奥の通りから何人か人が飛び出して、そのまま反対の通りへと消えていった。続けて、鼠色の巨大な主砲と飛行甲板を装備した、白の着物に黒い袴の艦娘が後ろ向きに飛び出した。

(あれは、伊勢型?)

彼女は後ずさりしながら、その主砲を撃つ。

『ドゴォンッ‼』

遠くにいる浜岡にも、腹に響くような砲声が響き渡った。

「近くに敵がいるのか⁉」

その疑問に答えるように、彼女は突然に爆発して倒れた。浜岡は急いで駆け寄ろうとする。それに気付いたのか、ボロボロの航空戦艦が驚いた顔で振り向く。

「こっちに来るんじゃあない!逃げろ!」

その低い声で足を止める。同時に彼女が『伊勢型航空戦艦日向』であると分かった。

「ん?そこに誰かいるの?」

どこかから、甲高い幼い声が聞こえる。

「くっ、気付かれたかッ⁉」

 

『ッドン‼』

 

日向の体が軽々と吹き飛ばされる。その後、建物の陰から日向よりも巨大な武装―試製51サンチ連装砲を装備した少女が現れた。やはり、頭には特徴的な一対の『角』が生えている。しかし、武装に似合わず、本体は駆逐艦かと思わせるほど小柄だ。少女は浜岡を一瞥すると、淡々と、言う。

「キヨシモは戦艦しか興味ないの、おじさんはさっさと逃げたら?」

だが浜岡は逃げるそぶりを見せない。

「ほう…君は『キヨシモ』という名前なのか…俺の知ってる清霜は駆逐艦のはずだが?」

その一言に、少女の表情が凍り付く。左側の主砲が浜岡の方を向いた。

「キヨシモは、戦艦だ。ザコな駆逐艦じゃあねェんだよッ‼」

「人間よ、早く逃げるんだ!それ以上コイツを怒らせるな、殺されるぞ」

倒れたままの日向の表情が歪む。浜岡は逃げるどころか逆に一歩ずつ近づいて行った。

「フン、駆逐艦の体で戦艦の武装…ダサイねぇ、まともに戦えると思えない」

「ダサくないもん!キヨシモは戦艦に憧れて、こうして資格を得たのよ!」

浜岡は鼻で嗤うと、持っていたハンドガンを構える。

「おい、正気か人間!その銃を下してさっさと逃げろ!」

「ご忠告ありがとう、しかし、コイツ程度、俺にでも倒せる自信があるッ」

キヨシモはとうとう浜岡に向き直った。拳を握り、両脇の主砲は発砲準備が完了している。

「もう一ペン言ってみろ‼おめェみたいな人間くらい、一発で吹き飛ばせるんだから‼」

「るせ~な~、さっさとやってみろよォ。51サンチ連装砲の戦艦サマなんだろォ?」

「おい、人間!私は既に大破していて動けないのだ。瑞雲も全部コイツの主砲で落とされてしまった。何かあっても助けられないんだぞ」

怒りで震える少女は、ニヤリと嗤った。

「ふーん、そこまで死にたいなら殺ってあげる…ザコを倒すのも、愉快だもんね」

日向が目を覆う。ファンファーレと共に、その冷たい主砲から、真っ赤な徹甲弾が放たれる―。

 

『バッシュゥゥゥウン‼』

 

一斉射された砲弾はまっしぐらに浜岡のど真ん中を狙う。

(―やはり、上を狙ったか)

忍者のように真横に跳ぶ。砲弾はクロスしながら空を描き、遥か彼方にある建物の壁を吹き飛ばした。

「え⁉なんで⁉」

着地した浜岡は、そのまま歩道を韋駄天の如く駆け出す。キヨシモとの距離が一気に縮まる。

「キヨシモよ。君は戦艦の力だけに憧れ、戦艦そのものを理解しなかったんだよ」

少女は大慌てで次弾を装填しようとする。だが、間に合わない。青ざめる。せめて狙いだけでも付けようとする―追いつけない。

「遅いッ!装填速度も旋回速度もッ、駆逐艦より遅いッ‼」

浜岡はもう目と鼻の先まで来ている。

(そうだ!相打ち覚悟で魚雷を地面に…)

―できない。駆逐艦で在ることを否定し、魚雷も、高角砲も、そして機銃さえも捨ててしまったからだ。

「もし駆逐艦なら、機銃をばらまくか、魚雷を叩きつけていただろう」

完全に見透かされた―キヨシモの頭が真っ白になる。浜岡は続ける。

「駆逐艦がザコだと?笑わせんな。駆逐艦には駆逐艦のスゴみってもンがあるんだ」

そう言って銃をしまう、そして迫る。

(逃げなきゃ、沈められるッ⁉)

装填時間を稼ぐために、逃げようと回頭する。

「ガッ⁉」

無理矢理回ろうとして、脚がぐねって姿勢が崩れる。艤装の重いので、慣性の法則に細い脚が耐えられなかったのだ。

「戦艦とは‼その射程距離を活かし、遠方から敵艦を撃沈せしめるものだッ‼半面、機動性が悪く回避が難しい。近距離で足の速い敵を相手にするなど、君は戦艦を理解っていない!」

キヨシモの脳裏に、憧れだった戦艦武蔵の姿が浮かんだ。

「キヨシモは、戦艦に、なれないの…?」

崩れた姿勢を立て直せられず、そのまま俯せに倒れていく。浜岡はそこに覆いかぶさると、その『角』に手を掛け、むんずと引き抜いて投げた。キヨシモは頭から血を霧吹きのように噴き出すと、ばたりと倒れたまま動かなくなった。直後、その大きすぎる艤装は金切り声を上げると、両側の51サンチ連装砲をゴロリと吐き出し、駆逐艦清霜の艤装へと変形した。それを見た日向が身体を引き摺って寄る。

「死んだ…のか?」

「いいや、眠っているだけのようだ」

少女の首元に手を当てながら、浜岡が答えた。清霜は腕の中で、満足そうな笑みを浮かべて、すやすやと寝息をたてていた。頭部からの出血も治まっている。

「全く、あなたは一体何者なんだ?」

「………ただの艦娘に詳しい人間さ」

そう言ってはにかむと、直ぐに遠くを確認する。

「それで、さっきの『角』は…」

転がっているはずの場所に、それはない、その代わり―

「『来るな』と言ったはずなのだけれど?」

黒ずくめのライダー、大鳳が『角』の生えたカチューシャを握っていた。

「大鳳、なぜそれを‼」

「私たちにとって大事なサンプルなの、じゃあ、またね♪」

そう言うとフックショットを取り出し、横のアパートの屋根に打ち込むと、ふわりと飛んで行ってしまった。

「鮮やかだな…」

日向は関心そうに見ていたが、浜岡は悔しさに歯軋りしていた。

「クソッ!あれさえ手に入れれば、何か分かったかもしれないのにッ」

「残念だが、他から取っと来るしかないようだな」

すると、ハッとした顔で浜岡の顔を見る。

「まさか、君、まだこの村にいるつもりなのか?」

「ああ、艦娘が人を殺めてしまうなんてことは、あってはならないからな」

「君の考えは確かに分かる。しかし、その貧弱な『おはじき』だけでは身が持たんぞ…」

少し考えこんで、日向は懐の太刀を取り出した。

「こいつは『日向太刀』といってな。戦艦の艤装でも一刀両断できる代物だ。本当なら私の艤装を持って行け、と言いたいところだが、人間には取り扱えんしなぁ」

「ありがとう、助かるよ」

それを受け取ると、ずっしりとした重みを感じた。

「絶対に人は斬ってくれるなよ?こいつに人間の血を味あわせたくないからな」

「ああ、勿論さ」

頷いて、腕の中の清霜を日向に預ける。

「この娘のこと、頼んだよ。再び、人命を護る『盾』となれるように」

「ああ、分かったよ…でも、その台詞、誰かの受け売りかい?」

思いがけない言葉に浜岡は鼻白ぐ。だが、否定はしなかった。

「そうだ。昔、とある艦娘に言い聞かされたのさ」

彼女は首を傾げたが、その指輪を見て納得した。

 静かな街灯の下、二人は立ち上がる。

「じゃあ、気を付けて」

「君こそ、死ぬんじゃないぞ」

そう言い合って、背中合わせに、浜岡は村の中心部へ、日向は出口へと向かって行った。

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