IF√トリプルP♪~GirlsHappyRoad~   作:Lycka

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約束

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

 

 

 

とある日の昼下がり。

 

 

 

 

 

俺はやって来てくれるお客さんに精一杯の感謝の気持ちを込めて"いらっしゃいませ"という言葉を口にする。朝のピークの時間を過ぎ、今は少しゆったりとした時間が流れている。そんな中でもせっせこ手だけは動かして、当店自慢のチョココロネの生地を黙々と作っていく。

 

 

 

「すみませーん」

 

「はーい!今行きますねー!」

 

 

 

 

今はお店に俺一人しかいない為、お会計の際は生地をこねるのやめてレジまで急いでダッシュする。時々急ぎ過ぎて手を洗うのを忘れてしまうのがネックだ。

 

 

 

 

「お会計でよろしいですか?」

 

「お願いするわね」

 

「チョココロネがお一つとメロンパンがお一つ、それとやまぶきパンがお二つですね」

 

 

 

 

数え間違いや種類に間違えのない様にするのが大切。前に少し間違えて紗南に怒られてしまった事がある。会計は紗南に任せる事も多いので余計に気を使わなければならない。

 

 

 

 

「いつもありがとね」

 

「いえいえ!またのお越しをお待ちしてます!」

 

「あ、そうそう。これ昨日晩ご飯で作った漬物なんだけどね、作り過ぎちゃったからあげるわよ」

 

「い、良いんですか?しかもこんなに貰っちゃって......」

 

 

 

実は言うと、こういう事は少なくは無いのだ。ウチを贔屓にしてくれているお客さんも沢山知っているし、その中では割と恒例行事の様になりつつもある。今回の様に漬物だったりする時もあればガッツリお肉を貰う時もある。果てにはギフト券や使わなくなった家具まで持って来るお客さんもいるくらいだ。流石に家具に関しては断ったけどな。

 

 

 

 

しかしながら、今回は強く出る事も出来ずになし崩しで漬物を貰ってしまった。また今度新作のパンが出来たら真っ先に試食してもらうとするか。前はお会計で割引しようと思ったら"お代はきっちり払わないとね"って言われたし。ちょっと強引な方が良いのかもしれない。

 

 

 

 

カランカラン

 

 

「いらっしゃいませー」

 

「さんしゃい〜ん」

 

 

 

貰った漬物をそこら辺に置いて駄目にする訳にもいけないので、取り敢えず部屋に戻って冷蔵庫へとしまい込む。そのタイミングでお客さんが来たっぽいので慌ててお店の方へ戻る為に暖簾を潜る。

 

 

そうすると、見覚えのある顔がニヤニヤしながら買っていくパンを吟味しているのを見つける。

 

 

 

 

「ただいまパン焼き上がりました〜」

 

「およ?今回は騙されませんぞ〜?」

 

「純〜、新作のパンちゃんと焼けてるかー?」

 

「むっくん今度何か奢るよ〜?ついでにひーちゃんもつけとくし〜」グイッ

 

「めっちゃ切り替え早いなおい、というかひまりをついでにすんなし」ペシッ

 

 

 

 

新作のパンをダシにおびき寄せると、尋常じゃないレベルでグイグイ来るのは相変わらずのパン大好きモカちゃんである。流石に距離が近過ぎたので懲らしめる意味も込めて宗輝チョップをお見舞いする。"あう〜"と言ってうずくまるモカ。力は全然入れて無いので演技なのがバレバレだ。そこは薫先輩の様に美しく儚い演技じゃないと俺は騙せんぞ。

 

 

 

 

「買いたいパンは決まったか?」

 

「いつもので良いよ〜」

 

「良いよ〜って、何で毎回俺が取らなきゃいけないんだよマジで......」

 

 

 

そうは言いつつもチョココロネとメロンパンにうさぎのしっぽパン、黒糖パンに後はクロワッサンを一つずつ袋へ詰め込んでいく。これも毎度お馴染みの光景である。

 

 

 

「お代いくらだっけ〜?」

 

「いんや、今回は特別に良いよ」

 

「え〜、それじゃあ怪盗モカちゃんになっちゃうよ〜?」

 

「別に盗んで無いから怪盗にはならんだろ。それにどうせそのパンみんなに差し入れだろ?」

 

「およ?何でむーくん知ってるの〜?」

 

 

 

そりゃあここに来るのは何もモカだけじゃないからな。先週は巴とあこが二人で買いに来てくれたし、なんなら昨日はひまりが来てパン買った後に小一時間くらい駄弁って帰ったしな。しかも商店街の地域会議で時々つぐみにも会うからその時にアフグロについては色々と話聞くし。

 

 

 

「俺の情報網を甘く見たな」

 

「ふっふっふ〜、モカちゃんの情報網も甘くないよ〜?」

 

「ふっ......それはダウトだな」

 

「この前さーやと二人で映画館デートしてたよね〜?」

 

「おい何で知ってんだよ」

 

 

 

いやマジで。確かに沙綾が映画見に行きたいって言うから一緒に映画見てその後ご飯食べて帰ったけど。何故それをモカが知ってるのか是非教えてもらいたいもんだ。

 

 

 

「お互い様って事だね〜」

 

「じゃあこれは口止め料だな」

 

「それはどうかな〜?」

 

 

 

 

一々はぐらかす様な返事をするのもモカらしいっちゃモカらしい。今後は少し周りを気にしながらデートすることにしよう。

 

 

 

結局、差し入れのパンを袋詰めして渡してから数十分はひまりと同様に世間話を交えて駄弁ってしまった。大体はモカが話して俺が適当に返事してただけなんだが。

 

 

 

カランカラン

 

 

「ただいまー」

 

 

「むむ、もしかしてさーや達帰ってきた?」

 

「そうみたいだな」

 

 

 

 

店側ではなく家側のドアが開く音が聞こえ、パンの材料の調達も兼ねて外出していた沙綾達が帰ってきたのが分かる。荷物があるかもと思い玄関に向かおうとしたのだが、先に沙綾と同行していた紗南が暖簾をくぐって来てしまう。

 

 

 

「宗輝お待たせー......ってモカ来てたんだね」

 

「さーやお帰り〜」

 

「お帰り沙綾。荷物はどうしたんだ?」

 

「お父さんと純が運んでくれてるよ」

 

「呼んでくれたら俺が運んでたのに」

 

 

 

どうやら千紘さんと紗南に言われて二人が運んでいるらしい。まぁ千紘さんは元々身体が余り良くは無いので当然と言えば当然だろう。多分純に限って言えば紗南に命令でもされたんだろう。その辺りはすっかりお姉ちゃんになってしまった紗南。俺でも時々叱られるくらいだからな。

 

 

 

「お兄ちゃんまたエプロン汚してる」

 

「どれどれ......あー、また癖でやってる」

 

「その癖早く治さないとね」

 

 

 

 

なんやなんや言いながらも汚してしまった部分を紗南が綺麗に拭き取ってくれた。パンを作る時に手をエプロンで拭いてしまう癖というのも難儀なもので、知らぬ間にエプロンが汚れているので仕方ないのだ。という風に紗南に伝えると"私の仕事増やさないでよお兄ちゃん"と言われてしまう。紗南のお兄ちゃん呼びには慣れたものの、俺だって好きでやってる訳では無いのを分かってもらいたい。

 

 

 

 

その後も沙綾と紗南と俺とモカの四人で世間話を交えながら楽しくお喋りをして時間が過ぎていった。勿論、お客さんが来たらモカ以外の3人で対応はする。モカはどっちかと言えばお客さんサイドなのでその間は携帯いじってたみたいだけどな。

 

 

 

 

「そろそろ帰るね〜」

 

「おう、気を付けて帰れよ」

 

「モカさん、また来て下さいね」

 

「さーなのお願いじゃしょうがないですな〜」

 

「今度はちゃんと自分でパン選べよモカ」

 

 

 

 

結局、先日のひまりと同様に駄弁るだけ駄弁って帰ってしまった。その間千紘さん達にパン作りの方を任せっきりになって申し訳ない。接客は沙綾に任せといて俺は千紘さん達と交代してくるか。

 

 

 

 

「千紘さんお待たせしまし......あれ、千紘さん何処行った?」

 

「母さんなら家の方だよ」

 

「純か、悪いな荷物運び手伝ってもらって」

 

「うん、それは良いんだけどさ」

 

 

 

 

何か浮かない顔をしている純を見て、俺は咄嗟に頭の中でひらめいてしまったのだ。純がこうして何か悩んでいるように見える時は大体理由が分かってしまう。純も思春期真っ只中ってわけだ。

 

 

 

「もしかして令香の事考えてたのか?」ニヤリ

 

「......」コクリ

 

「何かあったのか?」

 

「......今朝送ったメールの返信がまだ来てないから、もしかして嫌われたのかなって思って」

 

 

 

 

あー、これはもう恋しちゃってますね。まぁ分かってたことではあるんだけどな。俺が沙綾の家に本格的に手伝いに来るようになってからというもの、令香もお店の方に顔を出す様になり、その都度相手してもらってたから純も意識し始めてもおかしくはないんだよなぁ。んー、確かあいつ今日から修学旅行って言ってたっけな。

 

 

 

「多分だけど、今日からあいつ修学旅行だからそれで返信遅れてるんだと思うぞ」

 

「本当?俺嫌われてないかな?」

 

「心配すんなって、令香がそんな人間に見えるか?」

 

「でも......」

 

 

 

純は案外乙女というかなんというか、恋愛には奥手なんだが少々メンタルが弱いのかもしれない。香澄とかに抱きつかれるとすぐ逃げてた辺り歳上の女の子耐性がないのか。それとも逆に歳上好きなのか。多分後者なのだろうな。

 

 

 

「それなら確認してみれば良いって事よ、ほれ」ヒョイ

 

「えっ!?ちょ、何してんの兄ちゃん!?」

 

『もしもしお兄ちゃん?』

 

「も、もしもし!」

 

 

 

通話相手は勿論マイスイートエンジェルシスター令香。この方法が一番手っ取り早いと思ったのですぐ行動。まぁ携帯が俺のだから令香は俺が電話かけてきたとしか思ってないかもな。

 

 

 

『あれ?この声......もしかして純君?』

 

「はい!」

 

『どしたの?またお兄ちゃんが何かやらかしたの?』

 

「そういう訳では無いですよ!最高の兄ちゃんです!」

 

『......怪しいなぁ』

 

 

 

純があからさまに俺の事褒めるから令香が疑い出したじゃねぇか。別に俺は令香に電話かけただけで何もして無いです。

 

 

 

『まぁ良いや、それで何か用事でもあった?』

 

「えーっと......修学旅行楽しいですか?」

 

『うーん、まぁ普通かな。というか純君に修学旅行の事言ってたっけ?』

 

「姉ちゃんから聞きました!」

 

『沙綾さんからって事はお兄ちゃんが情報源だね』

 

 

 

それから修学旅行の事について数分間程ではあるが、純と令香の二人で何やら楽しく話していた。俺は既に令香の修学旅行の予定については把握済み。今は確か水族館らへんを観光しているに違いない。俺らの時は近場で京都だったのに対して、令香達は沖縄だから羨ましい限りだ。

 

 

 

「じゃあ俺お店の手伝いしてきます!」

 

『うん、頑張ってね純君。それとお兄ちゃんに代わってくれるかな?』

 

「分かりました!」

 

 

 

純が携帯を渡してくるので受け取って代わる。

 

 

 

「もしもし」

 

『お兄ちゃん純君に何かしたの?』

 

「何もしてないってば」

 

『変なことしてたら沙綾さんに言いつけるからね』

 

「マジで勘弁してくれ、いや何もしてないのは事実だけど」

 

 

 

 

いつも通りの兄妹の会話をして通話を切る。

 

 

 

 

「あれで良かったのか?」

 

「うん」

 

「何でメールの事聞かなかったんだよ」

 

「お姉ちゃんの声が聞けたから別に良いかなって」

 

 

 

どうしよう、純が物凄い健気でビックリしてる。令香は高校3年生で純はまだ中学生になったばかりだ。そりゃ世間一般的に考えればあまり成立するとは思えない歳の差だろう。だがしかし、これほどまでに真剣に想ってくれてるともなれば応援しない訳にはいかないだろう。例えその相手が俺の妹だったとしてもだ。それに純なら俺の審査には合格してるからな。

 

 

 

「純、お前は良い男になれる」

 

「兄ちゃんいきなり何言ってるの」

 

「宗輝居る?」ヒラッ

 

「お、沙綾どした」

 

 

 

接客してたはずの沙綾が暖簾を潜ってパン作りを行うキッチン的スペースへやってくる。流石に時間かけ過ぎて怒ったか?

 

 

 

「ちょっとお客さんの対応お願いしたいんだけど」

 

「そんなに沢山居るのか?」

 

「うーん、ちょっと厳しいかも」

 

「なら俺が行くよ姉ちゃん」

 

 

 

威勢良く出た純だが、いかんせんあまり接客を得意としない点を俺と沙綾は知っている為少し躊躇ってしまう。純のせいではないのだが、前に一度接客を任せて少し詰まってしまった経験もあるのでどうしても不安が残る。

 

 

 

だがしかし、ここは純に任せてみよう。純だって今回は嫌々するんじゃなくて自らやってみようと決心してるはずだ。それをとめるのは俺の仕事じゃないと思うし。

 

 

 

 

「よし、じゃあ純やってみるか」

 

「うん!」

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫だよ姉ちゃん。俺もやれるってところ見せないと!」

 

 

 

やる気充分といった様子でお店へ駆けつける純。そんな純を見て不安げな表情を浮かべる沙綾。やはりお姉ちゃんとして心配なのだろう。

 

 

 

「ったく、肝心な見せたい奴が居ないのに張り切ってんな」

 

「純に任せても良かったの?」

 

「何かあれば俺が行くよ」

 

 

 

それでも尚、首を傾げながら考えている沙綾を見て少し懐かしい気分になる。俺が最初にお店に立って接客するってなった時も同じ様に心配してくれてたっけな。

 

 

 

 

「心配性なのは相変わらずだな」

 

「じゃあ宗輝は心配じゃないの?」

 

「心配だけどやらなきゃ上手くもならないだろ。まぁ紗南も付いてるし大丈夫だって」

 

「宗輝がそこまで言うなら良いけど......」

 

「沙綾、純は今思春期真っ只中なんだ......男にはそういう時期があるってもんだ」

 

「ごめん宗輝何言ってるか全然分かんない」

 

 

 

 

しっかりしてる紗南も居るし大丈夫だろう。俺達にはパンを作ってお店に持っていくという仕事があるからサボってる訳にもいかん。しかも今日は久しぶりに沙綾と俺のコンビだからな。

 

 

 

それからやまぶきベーカリー閉店までの間、俺と沙綾でパン作りを担当して純と紗南の二人で接客を担当した。沙綾の心配性と同じく俺のエプロン汚しの癖も相変わらず治らないままである。接客の方は何とかピークの時間も二人で回し切る事が出来たみたいで一安心だな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

「お粗末様でした」

 

「俺も片付け手伝うよ」

 

 

 

無事に今日のお仕事を終えて、山吹家と俺含め6人でワイワイしながら食卓を囲んだ。最初に食べ終えた純からお風呂へと直行。千紘さん達は部屋へ戻って俺と沙綾の二人だけがキッチンに残ってしまった。まぁ基本はこんな感じで俺が食べるペース遅いからなんだけどな。

 

 

 

ラ-ラ-ラ-ラ-♪

 

 

「ごめん宗輝、電話きたからお願いしても良い?」

 

「了解」

 

 

 

俺と沙綾の食器洗いデートを邪魔するが如く電話がかかってきてしまった。まぁこれも恒例っちゃ恒例なんだけどな。というか食器洗いデートってなんだし。自分で言ってて訳分からんわ。

 

 

 

「さーてと、今日は誰からの電話かなー」

 

 

 

 

食器洗いも終えて、乾燥させる為に綺麗にお皿やコップを並べていく。ここら辺は流石山吹家。最初に少し雑に置いたら紗南に叱られました。

 

 

 

「商店街メンバーの可能性もあるが、意外と夏希とかの可能性も無きにしもあらずって感じか」

 

「何独り言言ってるのお兄ちゃん」

 

「おお、紗南お風呂は?」

 

「もう入ってきたよ」

 

 

 

一通りやるべき事を終えて冷蔵庫に保管してあった食後のデザートを取るところを紗南に見られてしまった。隠れて食べてるのがバレたら何言われるか。

 

 

 

と思ってたら結構前から紗南は知ってたらしく、私の分も寄越せと言わんばかりに手を伸ばしてきたので仕方なく在庫分を渡す。また俺の食後のデザート買っとかないとな。俺はこう見えて甘いもの好きなのである。令香にはあんまり食べない様に言われてるんだけどバレてないよね?

 

 

 

 

「お兄ちゃんさー」

 

「んー」

 

「お姉ちゃんとは付き合ってるんだよね」

 

「そだなー」

 

「はぁ、何処かにお兄ちゃんみたいな人いないかなぁ」

 

 

 

 

いきなり何を言い出すのかしらこの子。俺みたいなやつが他に居るわけないだろう。だってさ?まず周りが可愛い女の子だらけだろ?バンドもスゲェ奴らばっかりだし何より可愛い。果てには世界レベルで富豪な某弦巻家とも仲良しやってんだぜ?この前なんかボソッと"沙綾と二人暮らし出来たらなー"って独り言こころに聞かれてて"どの家が欲しい?"って可愛く聞かれたからな。勿論すぐに断ったけど。

 

 

 

 

「残念ながら俺みたいな奴はいないと思うぞ」

 

「じゃあ紗南と付き合ってよ」

 

「待て待てそれはおかしい」

 

 

 

高校生の頃から何かと好かれてたのは知ってたがここまでとは。俺の甘やかし過ぎが原因だろうか。

 

 

 

「じゃあお兄ちゃんは誰の事が好きなの?」

 

「そりゃあ沙綾に決まってるだろ」

 

「どのくらい?」

 

「結婚したいくらいには」

 

「本当に?」

 

「やまぶきベーカリーに誓って」

 

「それは意味分かんないけど」

 

 

 

酷い紗南ちゃん、やまぶきベーカリーに誓うというのは山吹家では最上級の誓いではないのか。てっきり俺はそう思ってたんだけどな。

 

 

 

「というか俺はもうそのつもりでここに居るんだけどな」

 

「はぁ......やっぱお姉ちゃんには勝てないか

 

「ん?」

 

「もう入ってきて良いよー」

 

 

 

その紗南の言葉を聞いて他山吹家メンバーがゾロゾロとリビングへと入室。もしかして紗南に嵌められたのか?だから妙に質問が多かったのか。いやいや、というより紗南さん何やってくれてんの。あれ全部聞こえてたって事でしょ?あらやだ恥ずかしい。

 

 

 

「ちょままぁ!!」バサッ

 

「何やってんのお兄ちゃん」

 

「やめて恥ずかしい見ないで」

 

「兄ちゃんカッコ良かったよ!」

 

「今はやめてくれ純......」

 

 

 

 

沙綾とか千紘さんに聞かれてたと思うとクソ恥ずかしいので顔をエプロンで隠してしまう。あんなにも臭いセリフをいつから吐ける様になったのだろう。多分令香辺りにバレると笑われるに違いない。

 

 

 

「宗輝はさ、私なんかで良いの?」

 

 

 

顔を赤く染めながらモジモジと聞いてくる沙綾。普段は高校生の時と比べお姉さんっぽさ増し増しだが、こういうのを見るとやはり根の部分は変わってないんだと思う。相変わらず甘え下手だし心配性だし世話焼きだし。

 

 

 

でも、きっと俺はそんな沙綾だからこそ惹かれたのだろう。だからこそ、この質問には自信たっぷりでこう答えるしかない。

 

 

 

 

 

「俺は沙綾が良い。沙綾じゃなきゃ嫌だからな」

 

「そ、そっか......えへへ、嬉しいなぁ」///

 

 

 

 

照れているのがイマイチ隠し切れていない沙綾。ボソッと言ってるの全部聞こえてるんだけど可愛すぎか。

 

 

 

「宗輝君、高校生の時に私が言ったこと覚えてる?」

 

「千紘さんがですか?」

 

「あの約束忘れたのかしら」

 

 

 

 

千紘さんの口から"あの約束"という単語が出てきて久しく思い出す事が出来る。

 

 

 

 

 

あれは沙綾がポピパに入る以前の話だ。香澄達に協力して沙綾をポピパに誘ってた時期で、確か俺が沙綾んちにお邪魔してた時だったっけな。いや待てよ、でもこの話の流れから察するにそういう事?だとすれば千紘さんはとんでもない策士か一種の天才だろ。

 

 

 

「沙綾を貰ってくれるって約束よ」

 

「ちょ!?母さん何言ってんの!」///

 

「あら、別に良いじゃない。沙綾だってさっき宗輝君の気持ちは聞いたんでしょう」

 

「それはそうだけどさ」

 

「だったら沙綾も気持ちを伝えるべきじゃないの?」

 

 

 

 

千紘さんに言われてギクっと反応する沙綾。確かに俺の気持ちだけ盗み聞きとは納得いかない。流石千紘さん、やっぱり分かってますね。

 

 

 

「ほらお姉ちゃん」トン

 

「姉ちゃんファイトだよ!」トン

 

「純と紗南まで......分かったよ」

 

 

 

純と紗南に背中を押されて決心したのか、俺と正面から向かい合う形で目と目が合う。

 

 

 

「最初は正直宗輝の事あんまり意識してなかった。だけど、ポピパのみんなや宗輝と触れ合っていく中で私に色々な物を与えてくれた。それは経験だったり思い出だったり、時には辛い事もあったけどみんなと一緒なら乗り越えられるって感じてた」

 

「うん」

 

 

 

沙綾と初めて出会ったのは入学式の日。クラスを見てた香澄が偶然ぶつかった事から始まった。あの日沙綾と出会ってなかったら、と思えば偶然や奇跡や運命様に感謝すべきかもしれない。

 

 

 

「宗輝が私を救ってくれたあの日から、私の恋が始まったんだと思う。笑ってくれれば嬉しくて、悲しんで泣いてたらこっちまで苦しくなって。いつしか宗輝のことばっかり考える様になってた」

 

「......うん」

 

 

 

 

どこまでも純粋な沙綾は、きっと誰よりも優しい女の子だ。困っていれば助けてくれるし迷っていたら導いてくれる。そんな誰よりも優しく強い沙綾だからこそ、歪な過去を持つ俺でもこんなにも好きになれたのだろう。

 

 

 

 

「一人で何でも出来る様に見えて人一倍頑張り屋さんで、強がりだけど寂しがりで自分に厳しいけど本当は甘えたがり。他の人の知らない部分を私は沢山知ってるし見てきた」

 

 

 

 

悔しいが言ってる事はあながち間違いじゃないから否定できんな。まぁ俺だって沙綾の事沢山知ってるしお互い様か。

 

 

 

 

 

「だから、そういうの全部引っくるめて宗輝が好き......大好き」

 

 

 

 

真っ直ぐな眼差しで俺を見つめ"好き"という二文字(気持ち)を伝えてくれた沙綾。

 

 

 

 

「ありがと沙綾」

 

「お熱いわね〜」

 

「見てるこっちまでドキドキしてたよ」

 

「母さんも紗南もやめてよ恥ずかしい」///

 

 

 

 

千紘さんと紗南の一言を皮切りに少し張り詰めていた空気が和らぐのを感じる。千紘さん達の前でこんな事するとか思いもよらなかったが結果的に良しとしよう。改めてお互いの気持ちを確認できた良い機会だったしな。

 

 

 

「じゃあこれから家族会議でもしましょうか」

 

「それなら俺はこの辺で一回帰りますね」

 

「あら、何言ってるの宗輝君。家族会議なんだから宗輝君も参加しないと駄目でしょう」

 

 

 

 

いや、あれでも恥ずかしかったのにまだ続けるんですか千紘さん。案外千紘さんはSっ気が強いのかもしれない。

 

 

 

「いやでも家族会議ですしおすし」

 

「だから()()会議でしょう?だったら宗輝君も必要よね?」

 

「あ、はい分かりました」

 

 

 

 

 

 

そして、家族会議とやらが始まる。

 

 

 

 

内容は至ってシンプル。俺と沙綾の馴れ初めやら何やらをアルバムを用いて振り返ろうという企画だったのだ。お陰で俺と沙綾はまたしても辱められる事となった。紗南や純は根掘り葉掘り聞いてくるし。もうやだ恥ずかしくて軽く泣けてくる。

 

 

 

 

 

 

「あ、今日は泊まっていってね宗輝君」

 

「でも寝る場所無いんじゃ......」

 

「寝る場所ならあるでしょう?」

 

「......」ツンツン

 

「ん?」

 

 

 

袖をツンツンされたので振り返るとまたしても顔を赤らめた沙綾を発見。既に物凄く嫌な予感がするが逃げられない事は確実だし大人しくしとこう。

 

 

 

 

 

 

「私の部屋で良ければ......」///

 

「ぎゃ、逆に良いのか?」

 

「うん。今日は一緒に居たい......かな」

 

 

 

 

隣で亘史さんの目と耳と鼻を押さえて満面の笑みを浮かべている千紘さん。鼻押さえる必要は無いのでは?そのせいで口でしか息出来なくなってるけど亘史さん大丈夫かな......。

 

 

 

「因みに今日は私達は良く眠れそうだからあんまり音とか鳴っても起きないからね♪」

 

 

 

何が因みになのかは聞かないでおこう。小悪魔的な笑みを浮かべる千紘さんが亘史さんを引きずって寝室へと戻っていく。それに合わせて純と紗南もリビングから自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

「じ、じゃあ俺達も寝るか」

 

「うん......よろしくね宗輝」

 

 

 

 

このテンションだと変な意味にも捉え兼ねないから煩悩退散の歌でも歌っておくか。

 

 

 

沙綾が一人、沙綾が二人、沙綾が三人.....って最高じゃねぇかそれ!!

 

 

 

 

 

今日は眠れそうにないな......

 

 

 

 

 

 

 

 

                      IF√:約束

 

 

 

                                                 ~fin~

 

 

 

 

 





後の展開は皆さんのご想像にお任せ♪

p.s
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