IF√トリプルP♪~GirlsHappyRoad~ 作:Lycka
『それじゃありんりんおつかれ!』
「あこちゃんもお疲れ様」
「燐子ー、ご飯出来たぞー」
『りんりん宗輝呼んでるよ?』
「うん、じゃあ行ってくるね」
これは私の夢の様な幸せなお話。
『頂きます!』
「あことNFOやってたのか?」
「うん、今日から新イベントが始まるからって」
「なるほどね」モグモグ
だから朝早くから起きてPCいじってたのか。モゾモゾし始めたからトイレなのかと思いきや布団から出て帰ってこないし、俺が二度寝して起きたら既にRinRinモード入ってるし。最近は朝のおはようが少なくなってきた気がする。
「宗輝君は準備してお出かけ?」
「ちょっと巴達とお茶してくる」
「ならお家で待ってるね」
「前みたいに鍵掛けたら駄目だぞ?」
「だ、大丈夫だよ」
この前俺がお出かけして帰って飯食おうと思ったら鍵掛かってて入れないし、燐子に電話しても一向に出ないしでどうしようかと思ったわ。結果燐子が寝落ちしてただけなんだけどな。マジで家よじ登って窓から入ろうとか焦ってたからな。
「イベント初日の朝から大変だな〜」モグモグ
「あこちゃんも張り切ってるみたいだよ」
「練習の時にあこがNFOの話すると俺が友希那に怒られるんだけどなぁ」
これに関しては俺一切悪くないよね?だって俺が一緒にやってるわけじゃないんだし。いや時々はパーティー組んでクエストいくけどさ。大半は燐子との二人パーティーでクエストやら何やらしてるし。あ、玉子焼き美味しい。
「まぁ友希那さんも悪気......は無いと思うけど」
「悪気があったら完全に八つ当たりだからな。というか今日は練習は無いんだっけか」
「うん、一日offにしてリフレッシュしてきてって友希那さん言ってたよ」
友希那にしては珍し......くも無かったな。リサと猫カフェ巡りするからって練習を前日にキャンセルしてまで行くくらいだからな。なんなら俺にも連絡がくるまである。それを機に紗夜さんも日菜と出掛けてるらしいし、あこと燐子は相変わらずNFOやってるし。
「燐子はどっか出掛けないのか?」
「お昼からもあこちゃんに呼ばれるかもしれないから」
「あこならあり得る話だな」
「宗輝君は気にせずお茶してきてね」
「お留守番頼むな」
さてと、大人しく留守番してくれるみたいだし行きますかね。
ピコン
[りんりん起きてる?]
「あこちゃんからだ」
宗輝君がお出掛けしてから数分が経った。お昼ご飯は宗輝君が作ってくれたから、せめて片付けはやろうと思って食器を洗っているところであこちゃんからメッセージが飛んでくる。
[起きてるよ。どうかしたの(・・?)]
[お姉ちゃんがどっか出掛けちゃったからイベントの続きしよーよ!]
そういえば、さっき宗輝君が巴ちゃん達とお茶って言ってたっけな。でも巴ちゃんは何であこちゃんに行き先を伝えてないんだろう?
『もしもーし?りんりん聞こえてる?』
「聞こえてるよあこちゃん」
『今日は練習も休みだしいっぱいイベント走れるね!』
「うん......何か手伝わせちゃってごめんね」
『何言ってるのりんりん!あこ達は仲間でパーティーじゃんか!』
あこちゃんの真っ直ぐで素直なところに今まで何度助けられただろうか。今もこうして私と一緒に居てくれる。その事が嬉しくて嬉しくて、つい微笑んでしまって。それをマイクに拾われて"りんりん何で笑ってるの?"とあこちゃんに聞かれてしまうのも私のいつも通りの日常。
「あこちゃん、いつもありがとう」
『これくらいどうって事ないよ!あ、それより聞いてよりんりん!』
こうして、昔から話のネタが尽きないのもあこちゃんらしいところだったりするよね。
『最近紗夜さんやリサ姉が宗輝と何かしてるっぽいよ』
「宗輝君と?」
『この前も三人でどっか行ってたみたいだし』
そんな話は宗輝君からは聞いてないから本当かどうか分からない。基本宗輝君は今日の様に行き先や相手はしっかりと伝えてくれるから、私も出掛ける時は伝える様にしてるし......。
『りんりんもしかして......』
『浮気されてる?』
あこちゃんの口から出た言葉は信じ難いものだった。
「......浮気?」
『前に読んだ漫画でそんな展開があった気がする!』
確かにそういったジャンルの漫画やアニメがあるのは私も知ってるし見た事もある。でもそれはあくまで非現実的なもので関わりのない事だとばかり思ってた。
「で、でも宗輝君はそんな事しないと思うよ?」
『そういうのはお互いのすれ違い?かなんかで起こっちゃうらしいよ』
「すれ違いかぁ......」
『りんりん心当たりある?』
無い......と一口に言ってしまえば嘘になるかもしれない。最近宗輝君がよそよそしくしてるのを何度か見かけた事もあるし、私だって今回のNFOのイベントの為に準備するので部屋に篭ってた。それが理由になるかは分からないけど、宗輝君にとって何か嫌な事でもあったのかもしれない。それに気付く事が出来ない時点で、彼の彼女として相応しく無いのかも。
「......無いよ」
『そっか、まぁまだ分からないし大丈夫だよ!』
「そうだと良いな」
とにかく今はイベントが最優先事項。あんまり変な事考えないで集中しないと。
「あこちゃん」
『ん?なーにりんりん?』
「イベント、絶対に成功させようね」
『うん!あこに任せてよ!』
「ちょ、巴やめてくれ.....」
「良いだろこれくらい。今更なんだしさ」
「ほら、そろそろ良いですか?」
「紗夜さんまで......」
俺は現在羽沢珈琲店に足を運んでいる。
「私を忘れてもらっちゃ困るな〜」
「リサ駄目だってば!」
「大人しくしておくのが身の為よ」
「ちょ友希那!?」
何故俺が休日の昼間から羽沢珈琲店に来ているのか。
「宗輝君......」
「つ、つぐみ......どうかな?」
その理由は簡単だ。
「うん!凄く似合っててカッコいいよ!」
「ほ、本当か!?良かったぁ......」
取り敢えず絶望的に似合わない事態にならなくてホッとした。
結婚式にて新郎が身に付ける服装にはいくつか種類があるのだが、やはり一般的に知られているのはタキシードだろう。今はそれの試着をしていたところである。何故タキシードの試着を?なんて野暮な事は言わないで欲しい。
「やっぱりアタシの見立ては間違ってなかったね」
「流石は今井さんね」
「今回ばかりはリサに助けられたな」
「ん?今回ばかりは?」
「すみません、いつもお世話になってます」ペコリ
「ん、よろしい」
リサは怒るとちょー怖いので先に俺が謝っておく。あの友希那でさえビビってたくらいだからな。あこなんて泣いてたぞ。もう二度とリサを怒らせたりしないと誓ったね。
「いやー、なんか達成感すごいなー!」
「巴もすまんな。わざわざ付き合ってもらって」
「何言ってんだよ宗輝。さっきも言ったろ?今更だって」
「それでもだよ。他のみんなもありがとな」
今日ここには来てない面子もいっぱい居る。有咲や沙綾、蘭に美咲に花音先輩。彩や麻弥や日菜だって手伝ってくれた。全員の力添えがあってこそのタキシードだと思う。
「最初に頼まれた時は耳を疑いましたよ」
「まぁあれだけ真剣に頼まれちゃ断れないけどさ」
「いや本当に無理言ってんのにあっさり承諾してくれたからビックリしたぞ」
「宗輝君は私達が断ると思ってたの?」
「まぁ若干」
だっていきなりだよ?今まで付き合いがあったとはいえ"結婚式で着るタキシード作り手伝って下さい!!"なんて言われて、はい分かりましたで通るとは思わんでしょうに。
「私達を舐めないで欲しいわね」
「別にそんなつもりは無かったんだけどな」
「それに、頼まれたのはこれだけじゃないしな」
「......そろそろ時間だね。それじゃ行こっか」
~都内某所~
カランコロン
『いらっしゃいませ』
場所は変わって都内某所。つぐみんちからそう遠く離れている訳ではないが、いかんせん人数が人数だ。ここに来るまでにやれ飲み物だの小腹減っただのでコンビニへ。勿論、財布の口が開くのは俺のものだけだった。皆さんお金はもってらっしゃいますよね?ないの?どっかに落としてきたの?
「すみません、お願いしてた斎藤なんですけど.....」
「斎藤様ですね。用意出来ておりますので奥の方まで」
「あ、はい」
やはりこういった雰囲気のお店はまだ苦手意識があるな。前にも一度来た事があったけど、俺みたいな人間が来る所じゃないからなぁ。ほら、自分じゃ似合わないなって思うことあるじゃん?その感覚に近いかな。
スーツを綺麗に着こなしている女性店員さんに案内してもらい、お店の奥の方へと全員で向かう。側から見れば何事かと思うだろう。安心して下さい他のお客さん、別に変な集団とかじゃないんで。
「こちらのお部屋に用意しております」
「......遂にきたか」
「なんかこっちまで緊張してきたぞ」
「何で巴が緊張してんだよ」
「仕方ないだろ!こんなの初めてなんだからさ!」
だからといって声を張るのはやめて頂きたい。店員さんも"お静かにお願いします"って顔してるし。すみません悪気はないんです。一応頭だけでも下げとこう。
「まぁ確かに気持ちは分かるわ」
「紗夜さんもですか?」
「これに関しては私達あんまり知らされてないからね〜」
「そうね、誰かさんのせいでね」
「もしかして友希那怒ってる?」
「いいえ」
これは怒ってますね。いやまぁタキシード作り手伝わせた挙句、花嫁衣装の最終チェックにまで連れてこられてる割には何も言ってないからな。今度猫カフェで何か奢ってやるから我慢して欲しい。
「出来れば蘭ちゃん達も居れば良かったんだけどね」
「仕方ないさ、モカとひまりの三人でライブ見に行ってるんだし」
「ハロハピの
「改めて聞いても意味分からんな」
弦巻家主体で現在進行形で開催されているライブツアー。何でも裏では何億とかいうお金が動いてるとか動いてないとか。そんな国家機密みたいな情報をホイホイと一般人の俺にわざわざ教えてくれなくてもいいと思うの。
内容はシンプルで日本全てを笑顔にする為にハロハピが全国各地でライブを行うといったものであり、規模だけで言えばその辺のミュージシャン達よりも余程大きい。流石は弦巻家といったところだろう。高校卒業と同時に飛躍的に成長し有名となったハロハピは、その内日本だけでなく世界を舞台に活躍するのだろう。それこそこころやハロハピのモットーである"世界を笑顔に"を体現するような存在になるのかもしれない。
「そろそろ準備はよろしいでしょうか」
「はい、お願いします」
ハロハピ云々については後日またみんなで話すとして、今は花嫁衣装の確認を一番優先すべきだな。
「それではどうぞ」
『りんりんそっちいったよ!』
「分かった!」
ドカ-ン!
『ふぅ......今どれくらいポイント貯まってる?』
「現時点で10'237ptだよ」
『結構貯まってるねー』
宗輝君が家を出てから数時間が経った。今も変わらずあこちゃんとNFO内のイベントを走っている最中。集中してやってたからなのか、少し腰が痛いし目も疲れてきた気がする。
「でも......1位の人とまだまだ離れてる」
『どれどれ......って、1位って
「だから簡単にはいきそうにないね」
私達は現在10'237ptで零が15'690ptと約5'000ptもの差がある。しかも零は今回のイベントにもソロで挑戦している為、本来であれば私達より2倍以上苦労するのにも関わらずこの大差。やっぱり私達と決定的な何かが違うのかな?
『よくソロでこれだけのpt稼げるよね』
「私達も頑張ってるんだけどね」
ピコン
『ん?運営からのメッセージ?』
「本当だ......え?」
モンスターを倒したままリザルト画面で放置してたのにも関わらずに、画面が閉じてメッセージが表示される。そこには運営からのメッセージが記載されていて、その内容は少し驚くべき内容だった。
『"今から時間限定でボーナスptゲットのチャンス!!"だってさりんりん!』
「しかもパーティーじゃないとボーナスが発動しないみたいだね」
『んー?どゆことりんりん?』
「あのねあこちゃん.....」
この時間限定のボーナスptゲットの仕組み、簡単に言えばパーティーの人数が多いほど有利に働くみたい。2人であれば獲得できるptは2倍に。3人であれば3倍、4人であれば4倍に......といった形で増えていくらしく、ソロでイベントを行なっている零には一切ボーナスが働くことのないまたとないチャンス。
『おー!!だったら追いつけるかもよりんりん!』
「もう少しペース上げようか?」
『あこは大丈夫だけど、りんりんは時間とか大丈夫なの?』
「まだ宗輝君も帰ってきてないし大丈夫だと思うよ」
それに、今回のイベントは宗輝君の為に頑張ってるからね。相手にしないといけないのは零という高い壁だけど、やっぱり負けるわけにはいかないよね。じゃないと手伝ってくれてるあこちゃんにも面目がないし。
『りんりんと宗輝の為だもんね!あこもこれからもっと本気出して頑張るよ!』
「無理はしなくても良いからね」
『ううん!りんりんはあこの一番の友達だし、あこにとって一番大切な人だから!だから、りんりんが宗輝の為に頑張ってるのならあこが一番支えてあげたいの!』
ここまであこちゃんが私の為を思ってくれてるとは思ってなくて少し驚いてしまう。私はあこちゃんに何もしてあげられないのに。いつまでもあこちゃんを頼ってばかりだったのに。
「......やっぱりあこちゃんはカッコいいね」
『あこなんてまだまだだよ。お姉ちゃんのほうがもっとカッコいいよ!』
「確かに巴ちゃんはカッコいいね」
『でもさ!りんりんだってカッコいいよ!』
「え?わ、私も?」
『うん!キーボード弾いてる時とか、何か闇の力が湧き上がってきて......取り敢えずバーンッ!!って感じでちょーカッコいいよ!』
カッコいいなんて言われた事は、あこちゃんが初めてだと思う。今でこそRoseliaのキーボードとして自信を持って弾けてるけど、最初の頃なんてみんなに合わせるだけで一苦労だった。そんな私を変えてくれたのがあこちゃんでありRoseliaのみんなであり、そして宗輝君だったよね。
『頑張って1位になって想いを伝えなきゃ!』
「......うん、分かってる」
今回のイベント、最終的にはランキング制でTOP100位内のプレイヤーは公表される事になっており、それぞれの順位に応じて報酬が設定されている。私達が狙っているのは勿論1位の報酬。
『えーっと、確か宝石か何かだったよね?』
「グレーダイヤモンドだよあこちゃん」
『そうそうそんな感じのやつ!』
1位の報酬は"グレーダイヤモンド"という宝石になっていて、今回はその宝石目当てでの参加となる。何故宝石が欲しいのかは最近になってアップデートされたNFOのシステムに関係してくる。
丁度1ヶ月程前のアップデートにより、兼ねてから噂されていたNFO内でのプレイヤー間の結婚システムが導入された。それに伴い、直近のイベントでは婚約指輪などに使われる宝石を報酬としたイベントが数多く開催され、NFOは今現在一種のPCゲームとして右肩上がりで人気を博していると言っても過言ではないと思う。
『でも何でそのグレーダイヤモンドが欲しかったの?確かこの前のイベントも報酬が宝石だったよね?』
「まぁ.......私のこだわりかな」
『んー、まぁ難しい事は置いといてイベントの続きしよ!』
兎にも角にも1位になれないとここまで頑張った意味もないし、手伝ってくれてるあこちゃんにも申し訳がたたない。今回ばかりは零になんて負けるわけにはいかないからね。
「......よし、あこちゃん行こっか!」
~数週間後~
チリリリリ!!
「......うるせぇ」ポチ
「......」zzz
「まだ寝てんのか」
朝の目覚まし時計にも素早く反応出来るようになったのも、燐子との二人暮らしを始めてからだったりする。前は妹の令香が止めにくるまであったからな。因みに携帯のアラームではなく、しっかりとした目覚まし時計である。理由は簡単、偶々寄った家電量販店にて燐子が一目惚れしたから即購入。俺としちゃ買わない理由も無かったしな。グランドピアノをモチーフにしてて可愛いし。
「取り敢えず朝飯作るか......」
「......んっ」
「起きたか?」
ゴソゴソしてたし流石に起こしてしまったか......と思いきや、寝たまま俺のパジャマの袖を掴んだまま離さない。しかも微妙にむにゃむにゃ言ってるし。どうしてくれようかこのクッソ可愛い生き物。普通ならこのまま二度寝と洒落込むのだが、残念ながら今日はダメな日だ。
「燐子〜、そろそろ起きろ〜」
「......あと、5分」
「段々と俺に思考が似てきたな。もう朝だぞ〜」ユサユサ
揺すって起こそうと思ったが別のところが起きそうだったのでやめておく。バインバインに揺れる女神の果実を持つ燐子。恐ろしい子、早くなんとかしないと。
何とかしないといけないのは俺の思考回路の方だったりする。
「つってもどーすりゃ良いんだコレ」
「......すぅ」
「離す気配無いな」
何故かは分からんが最近燐子がこの調子なのだ。ちょっと前までは少し距離があったとも言える時期があったが、今では燐子の方から積極的に絡んでくる始末。いや俺としちゃばっちこい案件なんだけど。今はお腹減って力が出ない斎藤さんである。
しかしながら時間は待ってくれず数分が経過。仕方なく少し強引ではあるが引き離して台所へ向かって朝飯を作り始める。流石にその音で勘付いたのか、はたまた俺がいない事に気が付いたのか燐子が目を擦りながらリビングへ入室。せめてはだけたパジャマを直してから入ってきてほしいものだ。
「宗輝君、おはよ」
「ん、おはよーさん。もーすぐ朝飯出来るから座って待っててな」
「うん、分かった」
未だ寝ぼけているのか俺の茶碗とお箸を持ってスタンバイ。俺がソーセージと玉子焼きを器に盛り付けている間にソシャゲのログインを済ませる燐子。というか俺の携帯でもログボ取っとかないとやべぇな。
「俺のでもログインしといて......って言うまでもなかったか」
「......」ウトウト
「携帯落とすのだけは勘弁なー」
右手に燐子、左手に俺の携帯を持って次々とソシャゲのログインをこなしていく。それもウトウトしながら。なんとも器用な事でございます。
そんなこんなで朝飯が出来上がり、テーブルに並べて頂きますしてから食べ始める。ようやく燐子も目が覚めた様子でパクパクと食べ進めていく。じゃあ話し始めますかね。
「今日は何か用事あるのか?」
「特には無いよ」
「なら良かった」
普段と何一つ変わらないフリを装って話を振る。まぁ今日燐子が予定無しっていうのは既にサーチ済。高校時代に薫先輩に習った演技力のお陰かもしれない。何の力にもなれないかもしれないが、絶賛開催中のハロハピのツアーの成功でも祈願しておこう。
「宗輝君は何か用事?」
「うん、燐子にもついてきて欲しくてさ。駄目かな?」
「大丈夫だよ。何処かお買い物?」
「それは着いてからのお楽しみって事で」
「じゃあ楽しみにしてるね」
純粋無垢な燐子の笑顔、チョー可愛い。やっぱウチの彼女さんは何させても可愛いからな。おまけに頭も良くてスタイルも良いときてる。まさに女神様といったところだろう。と、第三者から見れば気持ち悪い心の中での独り言はやめて準備してくるか。
***
バタン!
「よーし着いたぞー!」
「運転お疲れ様」
「ありがとさん」
燐子が助手席に乗り俺が車を運転すること数十分。都会とは思えない程の自然が綺麗な駐車場へ到着。
「これからどうするの?」
「ん?良いからこっちこっち」
「ちょ、宗輝君?」
あまりべらべらと喋り始めるとボロが出る可能性があるので早めに目的地へ向かうとしよう。まぁ案外燐子って鈍感なところあるから大丈夫そうだけどな。鈍感というかドジっ子属性というか天然というか。高校時代ならドジっ子属性なら花音先輩居たし、天然属性なら天下のおたえさんが居ましたからね。丁度良い塩梅なのが燐子だったのかもしれない。
燐子の手を引き歩き続けて2.3分。カップラーメンを待つ間に辿り着く事が出来たのは、俺が何度もこの場所を下見して最速ルートを研究してきた賜物だろう。そんな大袈裟に言える事でも無いんだけどね。いや本当に、何に対して熱量注いでるんだよって話だよな。
「宗輝君......ここは?」
「どこだと思う?」
「うーん......何かの教会?」
「50点ってとこだな」
歩いている内に見えてきたのは、燐子の言う通り教会らしき建物。だがしかし、燐子の回答では50点といったところ。
「実はここ結婚式場でな」
「結婚式.......結婚式場!?な、何でそんなところに?」
「まぁまぁ。取り敢えず行こうぜ」
若干取り乱し始めた燐子だが、まだまだこれは序の口。これからもっと凄いの用意してるからな。この後の反応が楽しみなSの宗輝君です。
綺麗な草花を生い茂らせる庭園の様な場所を抜け、式場の入り口へと到着。というか本当に細かいところまで綺麗にしてんなぁ。流石は弦巻......おっと、これ以上は禁句だな。
「扉開けてみ」
「う、うん」
一度燐子とは手を離し観音式の扉を開ける。
ガチャ
「......綺麗」
「こういうの西洋式?って言うんだっけか」
晴天に恵まれた青空、激しく照りつける太陽の光を浴びて一層キラキラと輝くステンドグラス。内装は白を基調とした落ち着いたデザインで、やはり燐子の言う通りアニメやらでよく見る教会を彷彿とさせる。
「......」
まぁ初めて見る燐子は仕方ない。俺だって初見の時は言葉無くしたからな。燐子が周りを見てる間に用意するかな。
「燐子、ちょっと良いか?」
「うん」
「こっち来てくれ」
一度その部屋を出て、もう一つの部屋へと案内する。今度は俺が扉を開けて中へ手を引いたまま入室。
「ッ!!......宗輝君......これは?」
「見て分かるだろ?ウエディングドレスってやつだよ」
その部屋に置いてあったのは、先日みんなで仕上がりを確認したウエディングドレス。正直なところ、俺はウエディングドレスの知識なんて全く無かったし説明されても分からなかった。だから、そこら辺はリサや友希那達に意見を貰って最終的に俺が判断した訳だ。
しかし、普通のウエディングドレスでは俺は少し満足出来なかったので特注品を用意させてもらった。
「黒の......ウエディングドレス?」
「こっちは完全に俺の好みだったんだけど......どうかな?」
「凄い綺麗......私好きだよ」
気に入ってもらえて一安心。因みに白のウエディングドレスは"貴方の色に染まります"的な意味合いを持つらしい。黒のウエディングドレスにもそういうのがあるらしく、プランナーさん曰く"貴方以外には染まりません"という強い意味が込められているらしい。あまり違いは無いらしく、最近では海外で人気っぽいとの事。
「ここまでで大体察してると思うけど......まぁ良いか」
「宗輝君?」
最後にこの
───俺と、結婚して下さい!────
───はい......喜んで!!───
~その夜~
[RinRin と 輝 は 結婚した!]
「なんかアッサリしてんな」
「ふふ......そうだね」
俺の用意していたマリッジリングこと結婚指輪。運命とも言うべきなのか、NFO内で燐子が用意してくれていたグレーダイヤモンドの指輪とモロ被りしたのである。話を聞いた時は泣きながら驚いたな。
そして、早速試してみようと思いPCが二台並べて設置してある所謂"ゲーム部屋"にてNFOにログイン。俺の方は少し久し振りのログインだったのでインストール時間やら何やらで数分待たせてしまった。その間燐子はリビングに行ってアイスを取ってきてくれた。なんて出来た彼女......いや婚約者なのだろうか。お風呂上がりにアイス食べながらPCゲームとはオツなものである。
「というか燐子滅茶苦茶強くなってね?」
「そうかな?」
「だってあれだろ。この前この指輪をかけて零と戦って勝ったんだろ?」
「まぁ、あれはボーナスとか色々あったからね」
このグレーダイヤモンドの指輪を手に入れる為に一生懸命イベント走ってくれたみたいだし。まさかウチの妹に勝ってしまうとは。あれで結構負けず嫌いなところあるからな。だからこの前電話で色々と愚痴聞かされたわけだ。
「これ結婚したは良いけど何か変わるのか?」
「んー......ストレージの共有化と各ステータス上限解放、それに称号なんかも解放されてるみたいだね」
「称号?どれどれ......おいおい、一部プレイヤーに反感買いそうな称号ばっか増えてんぞ」
"幸せ者"や"夫婦"といったポピュラーなものから"愛の体現者"や"ラブ・ドリーマー"など絶対に付けたくない称号までバッチリ解放済。俺も高校入るまではこんなのクソ食らえとしか思ってなかったけどな。今考えてみりゃ、ガールズバンドメンバーや燐子に会えなかったらこんな風にならなかったと思うと冷や汗が止まらない。
「宗輝君も指輪ありがとね。高かったんじゃ......ないの?」
「まぁそれなりにな」
嘘ですごめんなさい給料3ヶ月分とか良く聞きますけどそれ実は3ヶ月分どころじゃないんです。店舗で色々探しててこれだァ!!って見つけて値札見た瞬間凍り付いたね。人間こういうレベルになるとマジで言葉出なくなるんだよ知ってた?
「グレーダイヤモンドの石言葉って知ってるか?」
「ありのままとか......自分らしくとかだったような気がする」
「良く知ってんな。そんでもってグレーダイヤモンドは永遠の愛とか絆だとかを築く守護石、みたいな意味もあるらしいぞ」
俺はポエマーなどでは断じてない。だがしかし、結婚指輪くらいになら夢を見させてもらっても良いだろう。現に燐子の顔が段々と赤くなってるのが丸わかりだし。そんな顔されると俺も恥ずかしくて燐子の顔見れないんだけど。
「だからさ......この先もずっと一緒な」
「......うん」ギュッ
永遠なんて無いんだろうけど、それでも俺は何があろうと燐子の側に居る。今まで色んなことがあったけど、その一つ一つが忘れられない燐子との大切な思い出。そしてこれからも、そんなちっぽけだけど大切な思い出と共に二人一緒に歩んで行こう。
いつか、家族みんなで笑い合って過ごす為にも。
『ふっふっふ!我は魔王......の娘であるぞ!!』バ-ン
「ちょっと!めぐちゃん早く早く!」
『この力、存分に味わうが良い!!』ドカ-ン
「そろそろ戦闘中にお決まりの台詞挟むのやめにしない?」
『えーなんでー?お母さんみたいでカッコいいよ?』
「ウチのお父さんの方がカッコいいもん」
「樺音〜、ご飯出来たから降りてこ〜い」
「あ、お父さん呼んでるから行ってくる!」
『ちょ、樺音ちゃん!?』
「また後でログインするから!」
『もー!樺音ちゃんだってお父さんに呼ばれたらすぐやめちゃうのやめてよねー!』プンプン
「もうめぐちゃんとは良いの?」
「うん!お母さんも早く行こ!」
「ふふっ......急ぐと怪我するよ」
「はーい」
IF√:Happness Fairy Tail
~Fin~
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