なにやらチートのような体を手に入れたので楽しく生きたいと思います(願望) 作:nonose
「ふぅ、ちぃっとまじったかな」
ロズワール邸1日目、その日が終盤に差し掛かる前。ナツキスバルはロズワール邸での使用人としての雑用をこなした疲れを浴場の湯船で癒していた。
その間スバルは湯に身を任せながら反省の念を込めて頭を抱えていた。
同刻、「死に戻り」に関して現在のスバルのように頭を抱えているランサー。そしてスバル、彼もまた同じくしてこの不可解な事象「死に戻り」に悩まされていた。
ランサーの考えていた通りこの「死に戻り」という状況を作り出しているのは───直接的に関与している訳では無いが───このナツキスバルで間違いなかった。
「出来るだけ今回も前回と同じように辿ってやろうって思ってたのに、初っ端から出鼻をくじかれたワケだ。やるせねえな」
スバルはそう天井を見上げて独りごちた。
スバルが出鼻をくじかれた……そう言った理由は同じように「死に戻り」を何度か経験しているランサーのせいにほかならない。
1度目と違い最初にロズワールに話した彼女の身の上話がまるっきり違っていたのだ。
1度目、ロズワールへ彼女が返した問答への答えは思わずスバルでも呆けて耳を疑うかのようなことを吐いた彼女だったが今回は違う。
1度目、2度目のスバルよりも圧倒的にこの世界のことを知っていなければ出てこないように辻褄を合わせた嘘八百がペラペラとその口から出ていた。
1度同じ体験、場面に遭遇しているスバルだけが分かる違和感と不可解さ。この状況を1番訝しんでるスバルはランサーに疑いの目をかけた。
だからこそスバルは当然考えた。
もしかすると俺以外にも「死に戻り」をしている人間が居るんじゃないか? と
もしくは、彼女がこの「死に戻り」という状況を作り出している犯人なんじゃないか? とも
「だからこそ、今回はあの白髪の姉ちゃんを観察しようって思ってたんだがこっちも想定外だった。前回と違って仕事量が多すぎる。これじゃ観察どころの話じゃねえよ」
またそう言いスバルはやるせなさにため息をついてより深く湯船の中に身体を沈ませる。
今回の謎に始まった「死に戻り」に、白髪の怪しい女性、それに何気に辛い使用人としての雑用。
色んなことが重なってスバルの頭の中は既にキャパオーバーになっていた。
そんな現状を憂いながらうーだとかあーだとか声にもならない呻き声を上げている彼の元に1人、男が現れる。
「おや、なぁにか悩み事かーぃい?」
普段付けているピエロのような装束も白塗りの化粧もいまは風呂場だからかどちらも付けてはいないため首を傾げたが現れたのはスバルもお世話になっているこの屋敷の主のロズワールその人だった。
「……ロズワールじゃん。悩み事っちゃ悩み事だけど、どしたん?」
「どーぉしたもこーぉしたもなーぁいよ。自分の家でお風呂に入ってるだけだーぁよ」
「それもそっか。ここエミリアの家じゃなくてお前の屋敷だもんな……。初日が忙しすぎて頭からすっぽ抜けてたわ」
「そうかいそうかい、ところでご一緒してもいーぃかな?」
「お前の屋敷なんだから好きにしろよ。それに断わってもどうせ入んだろ?」
「うーん、実にその通り。じゃあ失礼するね」
そう言ってロズワールはスバルと同様に─スバルの横に─湯船に浸かる。
ふう、と一息しゆっくりと身体を解す。入浴した際の快感というのはどの世界でも共通なようでスバルは謎に親近感を覚える。
「なんか、こう。ジジくさいな」
「その表現は実にただしーぃいよ。……なんだかんだ私も歳だからね」
「あぁ?」
そう言うロズワールにスバルは眉を傾げたが、お前のその見た目で何が年寄りだと考えてロズワールの妙な言い草を心の中で一蹴した。
「それよーぉり? 何か悩み事なんじゃなーぁいかい? ここは使用人であるスバルくんの悩みを聞いてあげるのも雇用主としての役目だと思うんだーぁけど? どうかーぁな?」
胡散臭そうな表情で胡散臭そうな声音で胡散臭そうなことを言うやつだなとスバルは内心思いはすれど言葉には出さず、せっかくこう言ってくれてるんならとロズワールに話を切り出してみた。
「んー、ランサーと名乗ってるカララギから来たあの侍のことか。それに関しては私の方でもよく分からないからね、彼女の言っていることは大体は辻褄がつく。そして君とは違って常識もある……疑う要素がない訳では無いがかと言って疑う程でも無い……ってところかーぁな」
「……そうか」
ロズワールは淡々と冷静に彼女のことを評価し、現在の印象をそのままスバルに伝える。嘘偽りなく本当にそう思ってるからこそなのか普段の道化のような喋り方とは違う平坦とした喋り方だった。
スバルは言い聞かされた彼女の評価を思考に入れて彼女のことを少し考えていた。
それはエミリアに敵意をもつ間者なのではないか? との予想。
もし、自身と同じように「死に戻り」していると仮定してその能力が敵側に回っているとするなら随分と厄介だなと考えていたのだ。
ただロズワールから聞かされていた話からその線を少し薄めてはいたが。
「それにしてもなんでそんなことが気になったのかーぁな? ……もしや恋、かな?」
「ちっげぇよ!!」
浴場にスバルの心からの叫び声が木霊した。
◆
「──完全に黒ですね」
この身になって元の身体より若干鋭くなった五感で浴場の会話を俺は聞いていた。
まあ、こちらが疑っているのだから向こうが俺の事を疑うのは至極当然な話ではあるが……なんともまああんなに堂々と大きい一人言を喋れるもんだ。
誰かに聞かれたりしない、だなんて思わないのだろうかあの男は……。
現に俺が聞いているし
「……あら、お客様。こんなところで何を? 覗き?」
などと考えながら早速他人に話しかけれる俺。
そしてそう言いながら入ってきたのは桃色の髪の女の子……あの時竜車を引いていたメイドの子だ。確か名前はラムさんと言ったか、そんな彼女からあらぬ誤解を受けていた。
「いいえ? ただ男性が裸同士の付き合いで何の話をするのか気になりまして。こういう話を聞ける機会って中々ないですし」
「はあ? ……そうですか、てっきりロズワール様の裸体を視姦しに来たのかと」
この子思ってたよりズバズバ言うな!?
顔に出ることは無いがクールな子だと思っていただけに思わずビックリした。
「目つきの悪い年下の男児も、胡散臭い道化師もタイプじゃないので安心してください」
「そう、ならよかったわ。バルスのことはどうでもいいけど」
ただ俺もこの身体になってからこういう物言いしか出来なくなってるからいかんしがたいが
「誤解されるのも嫌ですし、邪魔者はさっさと居なくなりますね。それでは」
とりあえずいまはこの場を去るのが1番だろう。
そう言って彼女に背を向けて部屋から出た。
ただいやに彼女からの視線が気にはなったが。