なにやらチートのような体を手に入れたので楽しく生きたいと思います(願望) 作:火桜 葵
───結果として。
そう、結果としてだ。今回のループは驚くべきことにもう既に終わってしまった。
それも1日目の夜に。想定外の事実に思わずループ直後ベットの上に寝転がるナツキスバルと目が合って数秒ほど見つめ合うくらいだった。
そのあとはメイド姉妹が入ってきて何だか気まずい空気感となってしまったため足早に部屋の外へと出たが……。
そして恒例の1日目の朝食を伴う問答も終わらせ、今回も俺は食客として……エミリアの窮地を救った礼としてしばらく滞在させてもらうことになっていた。
前回と違うのはナツキスバルも同様に食客としてこの館に居候することになったということだろう。
どうやら向こうも今回のループは想定していないものだったようで情報収集に徹するみたいだった。
そんでもっていま現在俺は……いや、俺たちは館の庭にある屋根付きベンチ? と言えばいいのだろうか。簡易的な休憩所のような場所でナツキスバル、俺、そしてエミリアの3人が向かいあわせで座っている。
「──あの、この状況なんです?」
思わず、というか……。ナツキスバルは俺同様頭に? マークを浮かばせているし、一方エミリアはニコニコと俺たちの方を見ているだけだ。
このままでは一向に話も進まなければ何故ここに集められたのか、それすら分からないためこうして第一声を買って出たワケなのだが。
「えーとね、良かったら2人のこともう少し詳しく聞きたいな〜って思って」
「……えぇ、と。つまり、どゆこと?」
またこの女はトンチンカンなことを……。
王族候補だというのに何故彼女はこうも少しおつむが弱いのだろうか。不思議に思えてくる
現にナツキスバルも俺と同じようにエミリアが言ったことに対して疑問を抱いてる。俺だけがおかしい訳では無いのだ。
「──ふっふっふ、それはボクから詳しく説明させてもらおう!」
ドドンッ!
漫画ならそんな感じな擬音が彼、もしくは彼女? の背後に映し出されているだろう登場の仕方をしたのはエミリアの契約精霊のパックだ。
先日の腸狩りエルザとの戦いでも戦闘の支援をそれとなくしてくれた頼もしい隣人だった。
「こんにちは2日ぶりですね。先日はどうも」
「あっ、いやいやこっちこそ。君が居なかったら少し危なかったかもだし」
お互い1つお礼を言い合う。ただまあ、社交辞令みたいなものだ。その証拠にお互い既に目線は合っていない。
「……んん、それで? どういうことなのよ、パック先生」
「おっと、そうだったそうだった。つまりね……リアはいままで友達がいたことがないからこの期に2人と仲良くなりたいなぁ、でもいきなり友達になろうって言って迷惑じゃないかな? どうしよう……あっ、そうだそれなら2人のことをもっと詳しく知れれば友達になってくれって言っても大丈夫なんじゃない!? ってことだよ」
「……バカなんですか?」
「ちょっ、おーい!? そういうのは普通濁すもんだろ。いや、俺は全然嬉しいけどねっ!」
「いや、だって……ねえ?」
「まあ、少し。かなりすこーし、ボクもそう思わなくもないけれど。これはリアなりの親切心でもあるんだ。汲み取ってあげて」
「あー、なるほどなるほど……バカなんですね?」
「だからもう少しオブラートに包むっていうことをしようぜっ!?」
「もー! バカバカって! そう言う人の方がバカなんだからね!」
「ほらそういうとこがバカッぽい」
「もーっ!!」
「ヤバい、うちのメインヒロイン可愛すぎ……っ!! じゃなくて、いい加減やめてやれって」
「なんで貴方に指図されなきゃいけないんですか? 死にたいんですか? そうなんですか? そうなんですね? よし殺すいまから殺すさっさと殺す」
「何故!?」
そんなわちゃわちゃとした時間もありながら1日は過ぎていくわけで。
エミリア、ナツキスバルとの謎の自己紹介タイムを挟んだり2人の話すトンチンカンなやりとりを見たりしていたら日も暮れ始める頃になっていた。
そろそろ解散ムードも漂い始めてきた頃、元々予定していたことを進めるためにナツキスバルに1つの紙を手渡して俺はいち早くその場から去った。
そして幾度となく繰り返したループとこの屋敷での3回目の1日目の夜、ようやく俺たち食客同士だけの初めての対談の日となった。
◆
3度目のループ1日目の夜
場所は変わりいまはナツキスバルの部屋へと視点は変わる。
昼の団欒のあと、ランサーから手渡されたナツキスバル宛の紙切れにはただ一言「話がしたい 夜 部屋で待て」と簡略的に【日本語】で書かれた指示通りに彼は自身の部屋のベットの上で待機していた。
「これには深いわけはない。深いわけはない、俺はエミリアたん一筋エミリアたん一筋……ッ!」
しかしまあ、彼も思春期真っ盛り。花の男子高校生である。内面はともかくランサーの外面は非常に整っておりこの館に居る人達に負けない美貌を持っていた。
そんな彼女から極秘裏に手紙を渡され、話がしたいから夜に部屋で待っててと書かれていようものなら想いを向けている異性がいるスバルであろうと少し心乱されても仕方のないことかもしれない。
「……傍から見たらスゴく怪しいですし、そういうのは人が見てないとこでやりませんか?」
そんな下心満載の男子高校生の純情を破壊するのもまた彼女、ランサーであった。
「うわぁっ!? いつからいたの……」
「貴方がソワソワと忙しなく部屋の中をグルグル歩き回ってる辺りぐらいからですね」
「思っていたよりお早い御来客ですね! ……ちくしょう、穴があったら入りたい」
ベッドの上で火照る顔を頭を抱えて隠すナツキスバルを横目にランサーはこの部屋唯一の椅子へと腰掛ける。
座ると椅子から作りが荒いのか経年劣化か分からないがギシッと木材が軋む音がランサーに聞こえる。
「座り心地の悪いイスですね……。まあそれは置いといて、です。────話があります、私たちの置かれている状況のことについて」
「あああぁぁぁ……っ! え?」
未だ呻きをあげるナツキスバルへランサーが口を掛ける。
「単刀直入にお聞きしますが、これを引き起こしているのは貴方ですか? それとも別の誰かが?」
ランサーがそうナツキスバルへと口火を切った。