なにやらチートのような体を手に入れたので楽しく生きたいと思います(願望)   作:nonose

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リゼロ第3期の影響か、チラホラとまた読まれ始めてるらしい



水に流して

 

 

 

 

 

 

「───起き掛けからまあ、とんだ無礼な御挨拶なことで。どういう了見ですか」

 

 

 メイドの放った風の魔法が、ランサーとナツキスバルへと迫り土煙を起こしたその先。桃色のメイドは確かな手応えを感じた……その筈だった。

 しかし、土煙の向こうから聞こえてくるのは本来聞こえてくるはずのない、そして聞こえてほしくなかった声が自身たちの耳に届く。

 

 優しげな鈴を鳴っているかのような声で、静かにただ静かに……されど確かに自身達に向けられた彼女からの明確な怒りの感情に初めて、メイド達の身体が強ばった。

 まさに蛇に睨まれた蛙のように、両手両足が金縛りを受けたかのように動かなくなってしまう。

 

 

「あぁ……言わなくても結構。というか貴方達に襲われた所までは覚えてはいるので」

 

 

 ランサーはそう言った。

 メイド2人はランサーの言う意味が分からなかった。その言い草ではまるで、先程までは自身に意識がなかったかのように思えたからだ。

 しかしそれこそありえない。だからこそ意味が分からない。

 

「あの道化意匠の主人に命じられたのか、自身達の私情なのか知りませんが」

 

 メイド達の混乱する思考と気持ちとは裏腹に、ランサーはゆっくりと2人に近付いてくる。土煙を掻き分けて、その姿が顕になり、自身達の元へと。

 漸く歩みを止めた頃には既に、その手に握られた一振の刃が青色のメイドの首を薄皮1枚切り込んでいるところだった。

 

 メイド2人が知る由もないが、そのランサーの手に握られた刀はかつて上杉謙信、又その息子が所持していたとされる『無銘一文字 山鳥毛』である。

 

 月が雲に隠れた、月明かりのないこの夜空の下でも、妖しげにその鳥の羽毛のような刃文が、光を発しているように思えた。

 

 

「貴方達の私情であるならば、貴方達の命だけで許しましょう。ただ、あの道化の命であるのならば、貴方達共々あの男を殺します。私は上からふんぞり返り、貴方たちのような者に口先だけで命令を下す下衆がこの世で1番嫌いなのです。そうするのならば、自身が前に出ればいい。己で解決すればいい」

 

 

 ランサーは2人に次の言葉を急かすことはそれ以上言わない。ただ少しずつ、青色のメイドの首から流れる血が多くなるだけだ。

 青色のメイドは口を開きはしない。どうすれば良いのか分からないからだ。

 これが相手が魔女教徒ならば憎悪で身体も動いたであろう、しかし自身の目の前にいる彼女から【魔女の悪臭】は少しも漂っては来ない。

 そればかりか、輝いてすら見える。もし本当に神が居るとするのならば、まさにこのような人間を指し示すのだろうと、そう思えてしまうほどに。

 

 もう既に抵抗の意志も、彼女を殺そうと思うことなど青色のメイドには出来なかった。メイドの心はもう折られてしまっていたからだ。

 

 

「……貴方達を、襲おうと……そう言い始めたのは、私よ」

 

「ね、姉様……?」

 

 

 心折れ、もう抵抗の意思すらもない青色のメイドに反して、そう口にしたのは姉である桃色のメイドだった。動かそうとすれば強ばる手足を、力任せに動かし、ランサーと妹の間に腕を差し込み首に宛てがわれた刃を握りしめる。

 

「それで?」

 

 ランサーはその発言を聞いて、こう問うた。

 ──貴方はそう言い何を求める

 誰が見ても自身の半身である妹を庇ったような発言のようにしか聞こえない。それを分かっていて、今度こそランサーはメイドに次の言葉を急かした。

 

「だから……レムの命は、助けて」

 

「随分と虫のいい話ではありませんか?」

 

「それは分かっているわ……」

 

 ふむ、とランサーは悩む。

 この時点で既にランサーの中には怒りは消え去っていた。あのまま何も喋らなければ良し、自身の命の保身の為に半身を捧げるのならばそれでも良し。

 2人を殺してやろうとそう思っていた……のだが。

 自身の妹の為に、自身の命を差し出してきた桃色のメイドのその行動はランサーにとって、とても好ポイントだったのだ。

 凛々しく、恐怖に打ち勝ち自身の家族を守るその勇敢な女の姿に、目を惹かれた。

 

「貴方、名前は確か」

 

「ラムよ」

 

「ラムさん。ええ、良いでしょう、それならばこの場は一旦矛を収めるとしましょうか。まぁ持っているのは刀ですが」

 

「……いいの?」

 

「貴方がそうしてくれと言ったのでは? おや? もしかして、本当は嘘で姉妹共々やってほしかったと? そうなら早く言ってくださいよー。まさか異世界にも『押すなよ』文化があるとは思わないじゃないですかー」

 

「違う! 違うから! ……だからやめて」

 

「はいはい」

 

 ちょっとしたジョークのつもりだったのだが、本気に取られるとは思わなかったランサー。桃色のメイド、ラムの言葉通りに先程までの尋常ではない怒気と圧を霧散させ、刀から手を離す。

 すると不思議なことに、手から離れた刀は地に落ちる前に光の粒子となって消えていった。恐らく『霊体化』の一種だろうとランサーは思う。

 ランサー自身は少し事情が違いただのサーヴァントでは無いため『霊体化』は出来ないが、知識として頭に"刷り込まれている"ため、そうなのだろうと納得したのだった。

 

 

 次にランサーがしたことは、未だ後方。

 風の魔法を受けた地点に取り残されたナツキスバルを回収してくることだった。

 多少の恐怖が残っていたのか、引き攣った顔をしながら膝を子鹿のようにブルブルと震わせていたが傷一つなく元気そうだったので気を掛ける必要は無さそうだ。

 

 

「さて、まあ。思っていたよりも早く終わってしまったのと同時に、貴方達2人の降伏も確認出来たので、いまのうちに話し合いをしましょう」

 

「は、は話し合いか……」

 

「ええ、そちらはどうですか? 嫌だと言うのなら、まあ如何様にも此方もやりようがありますが」

 

「それで構わないわ。そもそも私達が生きていられているのも、貴方の気分次第でしょうし」

 

「分かってもらえているようで何より。して、そちらの妹さんは……あー、元気なくしてますね」

 

「レムのことは気にしないで。こうなっているのを気に病んでいるだけだから」

 

「うーむ、まあいいでしょう。話さえ耳に通ってくれれば」

 

 ──では、改めて。話の初めはこうだった。

 ランサーがラムに問いだした3つの質問。

 まず1つ、なぜ私達を襲ったのか? 

 これに対してのラムの回答は、貴方達を魔女教の関係者だと思ったから。

 次に2つ、どうしてそう思ったのか? 

 これに対してのラムの回答は、ナツキスバルから漂う魔女の悪臭を妹のレムが嗅ぎ取ったから。

 最後3つ、今回のこの件に関してロズワールは知っているのか? 

 ラムは言い渋りながらも答えた。全く知らないと

 

 

「さてまあ、どうしたものか。ナツキスバル、貴方はどうしたいですか?」

 

「どうしたい……って言われてもなあ、このまま穏便に話が済んでくれりゃあ、俺としては願ったり叶ったりなんだが」

 

「ふむ、その意見には概ね同意です。私も仮宿もなければ金銭も一銭もありません。つまりこのままだと宿無し金無し職無し、つづいて来るのは飯無し酒無しと悲惨なことにしかなりません。それは勿論貴方もそうだと思ってますが、どうです?」

 

「それこそこっちこそ同意だぜ。ランサー、お前なら強えし最悪どうにかなるかも知んねぇけど、俺に関してはそこに力無し能力無しも入ってくるスッカンピン男だからな」

 

「ということでここまで言えば分かってくれるでしょうラムさん」

 

「今回のことは水に流してやるから、ちゃんと口添えをしろ……ということよね。分かってるわ」

 

「物分りのいい子は嫌いじゃありませんよ私は、撫でてあげましょう。よしよし」

 

「…………っ」

 

 満面の笑み─に見えるだけ─でラムの頭を優しく撫でる。ラムはこの歳で幼子のような扱いをされ屈辱に思うものの、反抗すればどうなるか分かったものではないので震えながら恥辱に耐えている。

 それを面白く思ったランサーはラムの頭を撫で続けるのだった。

 

「命狙われた相手だからこう思うのも何だが、この光景良いな。実に百合百合しい、ここにキマシタワーを建設しよう」

 

「殺すわよ……ッ!」

 

「えぇ!? 俺にだけ当たり強くない!?」

 

 そんなやり取りもあった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 後日談

 

 ランサー、ナツキスバル両者とやけに顔色を悪くさせたラム意気消沈したレムが朝日と共に帰ってくるのを見たロズワールとエミリア。

 どうやら昨晩あった奇襲の音で目が覚めたものの、何をしでかしたかの当たりをつけて待っていたようだった。

 そこからはロズワールとランサー ラムの話し合い。何があったか、何をしでかしたかを話し今後の在り方をお互いに言い合った。

 ランサー側の要求は 今後の衣食住や嗜好品の半永久的な支援とラムとレムへの命令権の1部共有。

 それに対してロズワールが要求したのは、ランサーの戦力を此方側に貸してほしいという要求。

 これに対してはランサーも首を縦に振った。まあ妥当な対価だろうとは思ったからだ。

 

 ナツキスバルに関しては、この屋敷で働かせて欲しいということで、それに伴っての衣食住の支援だった。

 ロズワール側からの要求はなし。頑張ってねとの事だった。

 

 粗方話し終えた両者は、ひとまず今回のことは水に流すということで話はまとまったのだった。

 

 

 しかし、そこからが大変だった。まずエミリアからの怒涛の心配と何があったのかの聞き込み。それをうるさそうにハエを追っ払うかのように遠ざけるランサーと朝から騒がしい光景だったのと、一日中ランサーの横につくラムの姿という異様な光景をその後の2日間見せていた。

 

 

 

 

「はぁ、精神的につっかれましたぁ……ここがいまの私の唯一の心の拠り所ですね」

 

「なんて自分勝手な言い分かしら。ここはベティーの禁書庫なのよ、さっさとどっかに行ってしまうかしら。精霊もどき」

 

「誰が精霊もどきですか。貴方こそ純粋な精霊じゃないでしょうに」

 

「──お前、どこでそれを」

 

「──いや言ってみただけですけど」

 

「お、おまおま! お前!! か、カマをかけたのかしら!?」

 

「いや自分で引っかかっただけでしょ。人のせいにしないでくださいよ失礼な、この本借りますね」

 

「ちょっと勝手に持ち出すのはやめるかしら!?」

 

「それじゃあ読みながら話し相手になってください。外はいま騒がしくて敵いません」

 

 

 ランサーはいま屋敷の中の異界。ベアトリスが主を務める禁書庫に出向いていた。

 因みにこの禁書庫への入り方はやけに自信ありげだったのでナツキスバルに任せた。そうすると、ビックリするほど簡単に当たりの扉を見つけてしまうので犬のようだなとランサーは思った。

 

 

「……本当は嫌だけど仕方ないかしら。それで、そう言うには何か話題があるかしら」

 

「ええ実は貴方に聞きたいことがありまして、本来ならこの屋敷の主人でも良いですが。都合悪く席を外しているようでしてね、それで次に魔法に詳しいだろうと太鼓判を押されてる貴方の元に」

 

「はあ、魔法について聞きたいなのよ。まったく、その身体余すことなく魔法の叡智の結晶のようなやつが何を言ってるのかしら」

 

「その話は別で気になるのであとで聞きましょうか。聞きたいことというのは、ある1つの症状でして。眠るように衰弱し、最後には死に至る。そんな魔法は知りませんか? こういうことするなら陰魔法かなと思いましたので」

 

「……衰弱して死に至る。それは魔法じゃないかしら」

 

「魔法じゃない? と言いますと?」

 

「魔法にもいくつかの属性があるのよ。火、水、風、土。そして陰と陽、確かにお前の言う通り魔法の属性内で相手を衰弱させる、というだけなら陰属性に軍配は上がるかしら」

 

 けれどと、ベアトリスは本に目を通しながら話を続ける。互いに本のページをめくる音だけが少し木霊しながら、次の話へと進む。

 

「お前がいった現象、症状はどっちかと言うと『呪い』の類かしら」

 

「呪いというのは?」

 

「そんなことも知らんかしら。はぁ……呪いと言うのは、呪術師達が扱う魔法と似て非なる派生の力かしら。術者が対象に接触、そして呪いの付与。その後は物によっては遠隔から発動可能。人混みに紛れていれば容易くは断定不可能。強いて言うのなら、触れられた箇所から主に呪いが見えるからそこからは断定可能かしら」

 

 ベアトリスのその話を聞いてランサーは少し本から目を離し考え込む。そもそもと言えば、こんな話をベアトリスに聞いたのは、この2日間の間にナツキスバルから聞いた死因によるものだった。

 先程語った症状はまさに、ナツキスバルの死因……ひいては自身の死因に類するものであり、超常的な現象故に魔法か何かだろうと2人で当たりをつけていたのだ。

 ─がしかし、魔法に詳しいであろうロズワールは屋敷から暫くの間姿を消しており、エミリアに関しては精霊術士であるためそう言った話を聞くならベアトリスが適任であろうと、ラムから助言を貰っていたのだ。

 

 呪い。元の世界の日本でも……というより、まさに日本が1番近しいルーツだろうとランサーは思う。

 既に殆どの記憶が混濁され思い出すことが出来ないが、知識が消え去っている訳では無い。

 単純明快に効果のある魔法より、古来より実際現代でも何とか出来そうな手法を用いられているのが呪いだ。有名的なので言えば藁人形に釘を刺したりだとか。

 

 そんな風にランサーの思考が脱線しかけていた頃。

 ガチャリと禁書庫の扉が開く。どうやら今日の仕事が終わったようで、再三の如くなんの手掛かりもなしに禁書庫の扉の位置を今回も当てたナツキスバルがやってきたようだった。

 

 

「今日もだいぶコキ使われた……」

 

「お疲れ様です。外はどうですかいまは」

 

「ラムがお前のこと気に掛けてたり、レムの元気が超絶低い以外は特に何もないぜ。つってもまあレムの方は元気ないだけで仕事ぶりはいつも通り完璧なのが怖ぇけどな」

 

「エミリアの方は?」

 

「さぁ、どうだろう。今日は見てねぇな、ラムが言うには勉強中だとか何とかだってよ」

 

「……何平然と入ってきて、平然と話しているのよ! さっさと出ていくかしら!」

 

「わりいわりい。てか、ランサーもいんだから俺だって別に良いだろベア子」

 

「べ、ベア子!? そ、それはベティーのことを言ってるのかしら!?」

 

「そうだぜ! ベアトリスだからベア子。いい渾名だろランサー何点?」

 

「女性につけるべき渾名では無い。0点」

 

「手厳しい」

 

「ふざけるのも大概にするかしら。そもそもそこの精霊もどきだってここに居させてる訳じゃないかしら! 勝手に居着いてるだけなのよ!」

 

 

 いつもの可愛らしい所作と見た目に反して、歯を剥き出しにグルグルと犬のように唸るベアトリスに、何とかなだめようと抱き抱えるランサー。

 勿論、脱兎のごとく暴れるが素の力は大したことないようでランサーの腕の中から逃れることは出来ず、最終的には体力が尽きてくったりとしていた。

 

 

「にしても、ベア子の言ってた精霊もどきってのは何なんだ?」

 

「さあ、私は知り得ませんね。彼女がそう言っているだけなので、まあ心当たりが無いかと言われればそうでは無いですけど」

 

「まぁ、聞かないようにしとくわ。とんでもない情報来たら来たで考えること増えそうで嫌だしな」

 

「珍しく賢い判断かと」

 

「珍しくってなんだよ」

 

「普段は愚鈍だと言うことですが?」

 

「誰も口にしてくれとは言ってねぇよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

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