クソ雑魚ひ弱TS後衛職に英雄の卵は荷が重い   作:タニシ以下の凄い奴

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「そういう訳で、お前にはこのファミリアを出ていってもらう」

 

 何がどういう訳なんだ、と俺は叫びたくなった。

 

 俺の名前は実は2つあるんだが、今もっぱら名乗っている名はリツ。ただのリツだ。銀髪がトレードマークの魔法使い。いや、女でしかもほぼ子供だから魔法少女といっても無理ではない。…ごめんやっぱりきついわ。中身的にこの歳で魔法少女はちょっとNG。

 

 っと、今はそんな話をしてる場合じゃなかったな。俺の話をしよう。とはいえ、俺のことを語るのであればちょっと信じられないような与太話もしなければならなくなるが、それでも構わないというのであればこのまま聞いてくれ。

 

 俺は実は転生者だ。前世で普通の男子高校生やってたただの一般人。ひょんな事から神様のミスで殺されて、無理やりこの世界に女の子の体で転生させられた現転生者。それが俺だ。

 

 まあ、もう1年間もこの世界で生きているから、そろそろ転生者って肩書も卒業かもしれないが。俺完全にこの世界に染まってきてるし。最初は日本に戻ってパソコンやゲームしたいファーストフードで体に悪い食事したいとか思ってたけど、今ではこの世界も結構良いかなって思えてきてる。

 

 まあ、だからといって神への怒りが消えた訳ではないのだが。何が『赤ちゃんスタートは色々と面倒だと思うから、最初は10歳からスタートってことにしとくね!頑張れ!遠くから応援しとくよ!』だ。問題はそこじゃねえ。性別を変えるな、人をミスで殺すな、勝手に転生させるな。…まあ、もう過ぎたことだからこれ以上は言わないけどな。

 

 さて、この世界に来てから、俺は想像以上に苦労しまくった。

 

 まずこの世界では俺が知る常識ってやつが全く通用しなかった。人間は獣人やパルゥムという小人、エルフ、ドワーフなど様々な種類がいるし、ダンジョンがあってモンスターがいて剣が未だに使われていて魔法が存在する。加えて神が地上で人間に混ざって生活しているという話を最初聞いたときは逆に笑えたくらいだ。

 

 で、普通の男子高校生な俺は最初の時点で躓いた。っていうのも、俺にある種の固定観念があった所為だ。性別も変わったしチートも無いけれど、俺も一応は転生者。なら異世界に来たのなら冒険者になって冒険したり、魔法使って敵を殲滅したり、女の子にちやほやされたいって感じでな。転生者=冒険者って感じで、それ以外の道を一切見ずに突き進んでしまったわけだ。

 

 だが、よく考えて欲しい。身分も無い、お金もない、見るからに華奢、唯一の長所はこの美少女アバターのみ。そんな人間を誰が取ってくれるだろう?

 

 答えは全滅。氷河期時代の就活生の気分を全身で味わうことになった。

 

 ギルドと呼ばれる冒険者支援に力を入れてる機関から紹介されたファミリアは全部蹴られた。残るのは本当に名前のない零細ファミリアか、それか風俗系ファミリア…つまり、体を売る系のファミリアだけだった。なお、後者は割と歓迎してくれそうな雰囲気はあったが、元とはいえ男の俺が男の相手をするなんて絶対に御免こうむるので全力で辞退させていただいた。

 

 しかし、そんな俺のギリギリな生活もなんとか終わりを迎えることができた。ヤオヨロズファミリアってところが、俺を拾ってくれたのだ。理由はなんか面白そうだったからとか適当な理由だったが、心底感謝した俺は即入団を決意、冒険者としての第一歩を刻むことになった。

 

 そっからはまあ色々とあった。魔法とスキルが完全支援職だったせいで冒険できなかったり魔法使って敵を殲滅できなかったり女の子にちやほやもされなかったりしたけど、本当に色々とあった。俺という人間も結構成長できたかな、って経験も色々とした。まあ、冒険者としての実力はあんまし上がんなかったけどな。成長系チートとか期待したけど、全然だったし。あの神転生させるだけ転生させて、後は完全放置するタイプの神だったらしい。っつか、神とか言ってるとこの世界の神と混同してしまうのでこれからは上位存在クソ野郎X、略してクソXと呼ぶことにする。

 

 まあ、つまり俺は結構満たされていたわけだ。楽しくなかったり辛かったりもしたけど、総合的にこの世界に来てよかったと思える程度にはここ1年、良い人生を歩ませてもらった。

 

 しかし、だ。そんな日常も、つい先月に終りを迎えた。

 

 俺は新人だったからほぼ関わっていないんだが、『闇派閥』という物騒な連中に主神であるヤオヨロズ様を殺された。加えて上位にいた先輩方も多くが殺される、もしくは再起不能に。

 

 すなわちそれまでのヤオヨロズファミリアは、事実上の壊滅を余儀なくさせられた。

 

 だが、ヤオヨロズファミリアそのものは、今も存続している。というのも主神であるヤオヨロズ様は神の中でも変わった性質を持っているらしく、基本一度死んだら天界へ強制送還、二度と戻ってこれなくなるというのが神々のルールではあるが、ヤオヨロズ様は中身が代わり転生するという特性を持っている。つまり、ヤオヨロズという名前を引き継ぎ全くの別神が降臨するのだ。

 

 とはいえいくら存続したからって、俺を含むそれまでの古参のメンバーは旧ヤオヨロズ様に忠誠を誓っていたのであって、今のヤオヨロズには忠誠を誓っていない。しかも、旧と今とでは性格が正反対と言えるまで変わっており、正直殆どの団員が困惑し、その一部はすぐに見切りをつけていなくなり、また半分以上は様子を見ているという状況が続いていた。

 

 そして、ファミリアというのは一つの団体である。中には野心を持ち、悪意を用いて成り上がろうとするやつもいる。その代表例が、現ヤオヨロズファミリアの団長だ。彼は過去のヤオヨロズを完全に消し、自分を中心とした新ヤオヨロズファミリアを作りたいと考えているらしく、古参のメンバーをどんどんと辞めさせていった。

 

 そして、今日目をつけられたのが、俺というわけだった。

 

 理由は『戦闘中、直接的な戦績に一切関与していないから』とかいう馬鹿げたものだった。後衛職の俺に、モンスターの群れに突っ込めっていうのか?普通に死ぬんだが?

 

「さあ、役立たずはとっとと消えろ。まあ、俺のペットになるって言うなら残らせてやってもいいけどな。ぎゃはは!」

 

 くそっ、好き勝手言いやがる。前の団長が生きてる間はものすごい大人しい奴だったくせに、死んだ途端に本性表しやがって。

 

 今までは俺みたいなクソザコ冒険者、改宗させてもらえるファミリアなんて無いと思って所属してたけど…こうなっては仕方ない。ちょっとだけ蓄えもあるし、もし冒険者になれなくても一応魔法は使えるんだ。外に出れば一応食べていける。

 

「…分かりました。今までお世話になりました、主神様」

「…」

 

 現ヤオヨロズはこちらを見向きもせず、ぼおっと飯を食べるのみ。

 

 はあ、やっぱり前の神様のほうが良かったな。ため息を付きつつ、俺は踵を返して一年間慣れ親しんだ拠点から出ていった。踏み出す先はまさしく路頭への迷路である。これからのことを考えて、暗澹たる気持ちになる俺だった。


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