「ねえ、お姉様。何かこう……凄くワクワクして、一緒に楽しめるような面白い事やっぱりない? この間話した、外の世界の娯楽くらいの」
「外の世界って、フランが1ヶ月前まで居たって言うところよね?」
「うん! 見た事も聞いた事もない物、身体を動かす『遊び』ばかりで楽しかったし、何よりのび太お兄様と出会えたし……また行けたらお姉様と一緒に行きたいなぁ……」
とある日の紅魔館、異変等の出来事もなく時間を持て余していたフランは、1ヶ月前まで居た外の世界の娯楽や経験と同等の、何か楽しい事を求めてレミリアの自室へと訪れていた。そこでの出来事が相当刺激になったようで、幻想郷へ戻ってきて安心すると同時に退屈していたようである。レミリアに対して思い出を語るその姿は吸血鬼の面影などない、純粋な子供そのものであった。
「フラン。紅魔館はおろか、話を聞く限り幻想郷のどこにも外の世界と同等の娯楽なんてないわよ。そんなにワクワクしたいなら弾幕ごっこでもやる?」
「うーん……弾幕ごっこは飽きたしなぁ。かと言って純粋な戦いはそうそうやるものじゃないし……」
幻想郷は吸血鬼にとって暮らしやすくて平和である。食糧となる人間は八雲紫が定期的に調達してくれるため餓死の心配はなく、翼丸出しで外を出歩いていても殺される事もない。スペルカードルールのお陰で異変を起こしやすいため、妖怪としての存在意義を持つのも簡単だ。
かと言って、楽しみたいがために年がら年中異変を起こしまくれる訳ではないし、弾幕ごっこだけをやってる訳にもいかない。そうなると他の事をして暇を潰すのだが、幻想郷は娯楽の種類が乏しい。それでも、外の世界に飛ばされる前までのフランは何とか耐えられてはいたが、そこで多数の娯楽を経験したが故に、帰ってきてからの退屈さに耐えきれなくなってしまっていた。
だから、外の世界と同じくらいの何かがないかとレミリアに聞き、その問いに対する『弾幕ごっこでもするか』と言う答えに対しては、今まで数えきれない程やっていて飽きていた事と、それ以外にやる事がないのもあって、フランは答えに窮していた。
「もしやらないとなると、貴女がワクワクするだろう事はもう他にない――」
「あ! だったらお姉様、私といつものキスしてよ!」
「またやるの? キス以外のスキンシップもぶっ通しで3時間、半日前にやったばかりなのだから、楽しみは次の日に取っておかないとね。疲れるし、さっきまで寝てて起きたばかりだし」
「むぅ……じゃあ、この暇な時間に何すれば良いのさ」
弾幕ごっこをやらないのであれば、フランがワクワクするような遊びはもうないとレミリアが言っていたその時、突然思い出したかのように声を上げた。そのすぐ後にフランはレミリアに対して『私とキスして』と、話の流れを断ち切ってスキンシップを要求した。
しかし、もう既にぶっ通しでキスやハグ等の軽めのスキンシップから、人様どころか知り合いや館の住人にすら間違っても言ったり見せたり出来ない激しいスキンシップまで、流れのままにやったばかりで疲労感がまだあるため、レミリアはフランの要求を即却下した。
「はぁ……仕方ないわね、フラン。軽めの奴なら良いわよ。それ以上は駄目だからね」
「本当? やったぁ!」
弾幕ごっこ等は飽き、やりたかったスキンシップは却下されて不満を露にするフランだったが、そんな彼女を見たレミリアがやれやれと言った感じで軽めのやつなら良いと許可を出した事で、再び笑顔を取り戻した。そして、フランが早速レミリアに飛び付くようにして抱きつき、キスをしようとしたところで……雰囲気をぶち壊す人物が何の気配も感じさせず、空間にスキマを開いて登場した。
「あらあら……ちょっと出てくるタイミングが悪かったようね。随分お楽しみだったみたいで」
「こんな時に出てこないでよ、紫! 気分が萎えちゃったじゃん!」
「紫、貴女ねぇ……まあ、良いわ。それで一体何の用事なの? ロクでもない理由とかだったら承知しないわよ」
「勿論、どうでも良い用事じゃないわ……と言うか提案なのだけど、貴女たち2人で
その正体は、妖怪の賢者『八雲紫』であった。何の脈略もなく登場した彼女に対して、フランはせっかくの姉とのスキンシップを妨害されて怒りを露にし、レミリアは静かに怒りつつも一体何の要件でここに来たのかと問いかける。
すると、紫はそんな問いに対して
「紫、外の世界って私の居たところだよね!?」
「ええ。幻想郷にはない、貴女が望む娯楽が沢山あるところよ」
「と言う事はのび太お兄様にも、そのお友達にも会える?」
「勿論よ。まあ、貴女たちの訪れるタイミングと彼らとの都合さえ合えばの話だけれど」
「何時まで遊びに行けるの?」
「一応、何もなければ1ヶ月位を予定しているわ。当然だけど、貴女たちが帰りたくなったら帰れるし、もっと居たいのであればある程度は延長も可能よ」
そうして紫に対し、外の世界とは1ヶ月前まで居たあの世界であるのかと、先程までスキンシップを妨害されて怒っていた事など忘れたと言わんばかりの笑みを浮かべながらそう聞いた。その後もいくつかの質問を紫に投げ掛け、答えを全部聞き終わったところでフランのテンションは最高潮に達し、独り言をぶつぶつ言いながら大好きな姉との現代旅を想像していたのか、興奮していた。フランの中では、もう既にレミリアと共に現代へ行く事は決定事項のようである。
「紫、貴女一体何を企んでいるの? 突然こんな事を言い出して……」
「別に何も良からぬ事は考えていないわ。強いて言うなら
「……分かったわよ。こちらとしても、フランが喜んでいるのに無視は出来ないから、行く事にするわ。運命も悪くはなかったしね」
ただ、レミリアは紫が自分たちを使って何か企んでいるのではと思えて仕方ないようで、この提案に対して懐疑的であった。しかし、妹であるフランが純粋に物凄く乗り気なのと、断られないようにするための紫の罪悪感を煽るような言い回し、能力で見た運命によってレミリアも現代旅を承諾する。
「決まりね。じゃあ、早速このスキマで送るから入って頂戴」
「ええ、分かったわ。フラン、1人で悦に入ってないで早く行くわよ」
「えへへ……はーい!」
そして、1人悦に入っていたフランにそう呼び掛けて手を繋ぎ、用意してあった日傘を持ち、紫から手渡された現金入りの財布と各種荷物が入った手提げバッグを肩に掛け、スキマへと入っていった。
「なるほどね。これは確かに幻想郷が退屈に感じるのも仕方ないのかも知れないわ」
「ふぁぁ……」
「フラン、どうしたの? 大丈夫?」
紫の用意したスキマを通り抜けて出た先は裏山であった。フランにとってはのび太と別れた場所であると同時に彼の血を飲み、身体が震える程の快楽を得た記憶がある場所であるためか、どこか幸せそうな表情をしている。そんなフランの様子を見たレミリアは、何かあったのかと心配に思ったらしく、彼女に対して大丈夫かと聞いた。
「……うん、大丈夫! ただ、あの時の事を思い出してただけだから」
「あの時の事……確かここでのび太って男の子の血を飲んで別れたんだっけ?」
「そう。吸血衝動に耐えてて辛かった時に自分の身を削ってまで、私に血を差し出してくれてね。それで飲んだら、もうスッゴく美味しくて、気持ち良くて……最高だったんだよ! 正直全部飲みたかったけど、それでのび太お兄様が死んじゃったら嫌だったし、何とか頑張って少しで我慢して抑えてきたから、物足りなかったくらいだったの」
「そこまで貴女が言うなんて、是非とも味わってみたいものね。と言うか、のび太って男の子本当に凄いわ。吸血衝動がある吸血鬼に血を差し出すとか、下手すれば死んでたかもしれないのに……そう言う意味でも会ってみたいところね」
すると、フランは元気良く裏山での出来事をただ思い出していただけだから大丈夫だと言った。その後、のび太の血が如何に最高なものだったのかを力説し始めた。フランがそれ程までに美味いと言っているのを聞き、レミリアも少しばかりのび太の血を飲んでみたくなってきたようだ。
「思い出話をしているところ悪いけど、一旦幻想郷に戻るわ。私が居ない時にもし何か現代旅をしている上で困った事があれば、名前を呼んでくれたらすぐに駆け付けるから。それと、呼ばれなくてもたまに様子を見に来るわね。元は暇潰しだから」
「分かったわ」
「はーい!」
そんな感じでレミリアとフランが思い出話に花を咲かせていると、置いてけぼり状態となっていた紫が2人に対して自分は幻想郷に戻ると言って、何かあったら呼べば来る事と、呼ばれなくてもたまに様子は見に来る事を伝えて、開いたスキマを通って幻想郷へと帰っていった。
「さてと、フラン。分かっていると思うけど、私はこの町の事を全く知らないから案内と解説はよろしく頼むわね」
「うん、任せて! 知っている場所と事なら何でも答えるからね!」
紫が幻想郷へと帰った後、外の世界を楽しむため翼を魔法で隠し、仲良く手を繋ぎながら山を下り始めた。道中の自然自体は幻想郷で腐る程見てきたため、2人は特に興味を示す事もなかった。
「分かってはいたけど、幻想郷とはまるで違う町並みね。見る物全てが新鮮で、確かにこれは退屈な生活の刺激にはなりそう」
「でしょ? 他にも色々美味しい食べ物や飲み物が売ってるお店が沢山あるし、絵を見て楽しむ『マンガ』って本が沢山売ってるところとか……とにかく、歩いて見てみれば分かるから早く行こう!」
「ええ、そうね」
そうして裏山を出た2人は、周りの景色を見て楽しく話ながら町歩きを始めた。フランが時折車道を走る車について、幻想郷に居る時は無縁だった交通ルール、その他各種決まり事について、のび太やドラえもんから教えてもらったのをそのままレミリアに教えたりと言った事も平行して行っている。
外の世界に平和的に居るのであれば知っておくべき決まり事ではあるが、どれもこれも幻想郷に居る時は無縁であるものばかりだった。しかもその決まり事の数は多く、破ったりすれば警察と言う組織の『警察官』と呼ばれる人間に捕まってしまう事もあり、守らなければ平和的に過ごすと言う意味では非常に不味い。
まあ、極めて人間に酷似していようとも実際は人間ではないため、捕まった後人間の『法律』が適応されないだろうと言う説明もされた覚えがあるが、良く分からなかったので取り敢えず頭の隅に追いやって、それ以外の部分だけをレミリアに説明する。
「決まり事がいっぱいあって結構面倒な場所なのね、外の世界。まあ、私たちなら敵対しても怖くも何ともないけれど……楽しく過ごすなら気を付けないとね」
「うん。だからそう言う意味で、のび太お兄様に会えたのは幸運だったなって思う。わざわざ目立つ事しないで、生きてくために血を飲めるから。まあ、飲んだのは帰り際の1回だけだけど」
すると、レミリアはフランからの説明を聞き、幻想郷にはない決まり事がある、外の世界は結構面倒臭い場所だと言う認識を持った。実際フラン自身も、初めて聞いた時は面倒臭いと思った決まり事がいくつかあったため、レミリアの反応に同意を示した。そしてすぐに、飛ばされてすぐではなかったとは言え、のび太と出会えた事を幸運だと表現した。
「なるほど、確かにそうね。と言うか、あまり吸血鬼関連の話はしない方が良くないかしら? 翼を隠してるから正体バレについては大丈夫だとは思うけど、人間……それも子供がそんな話をしていたら、明らかに怪しいと思うのよ。勘の良い人間も居るかも知れないし、用心するに越したことはないわ」
「あ、確かにそうだね! 次から気をつけるね、お姉様」
フランが表現するを聞いたレミリアがそれに同意した後、外の世界であるこの町で吸血鬼関連の話は怪しいし、万が一の事も考えてしない方が良いのではと、彼女にそう話しかける。その考えにまで至っていなかったフランは聞いてから確かにその通りだと思い、次からは気をつけると誓った。
「まあ、難しい話は後にしてさ、町歩き楽しも!」
「ええ……って言うか、さっきから随分人間の視線が気になるのだけど……」
「あれは私たちが物珍しいだけだと思うよ。この町の人間とはかなり姿が違うから」
「なるほど、そう言う事ね。一瞬バレたかって思っちゃったわ」
その後しばらくは何をするのではなく、ただ単に町の風景を見て歩き回ったり、たまたま見つけた公園のベンチで隣同士に寄り添って話したりする等、この時間そのものを楽しんでいた。
時折遊びに来る子供たちやその親からの視線が2人に向けられるも、既に2人だけの世界に入っていたレミリアとフランは、ただ見られているだけで無害であった事もあり、視線に気づいた後もどうでも良いと全く構わなかった。
一通り2人だけの世界を堪能して公園を出た後は、せっかくだから何か美味しい食べ物でも食べようと思いたったフランが、レミリアを連れてたまたま見かけた看板に書いてあったラーメン店へと向かって中に入った。
「……凄い人の数ね。ここに居るだけで人里の総人口超えてる気がしてきたわ」
「確かに、そう思えるだけの数は居るけど……待ってる人が多いし、この分だと食べられるまでに時間がかかるなぁ。お姉様、別のところ行く?」
「いや、せっかくだからここにしましょう。どうせ時間はたっぷりあるのだから」
「うん、分かった!」
すると、とても人気のあるラーメン店だったのか、店内は客で埋まる程の大盛況であった。中で待っている人もかなり多く、どう見てもかなりの時間を待つ事になり、すぐに食べられる状況ではないのは火を見るよりも明らかであり、それを見たフランが他の店に行く事を薦めた。ただ、レミリアが時間なら沢山あるのだからここで良いと言った事で、このラーメン店でラーメンを食べる事がきまった。
「ねえ、フラン。席が空いたらそこに行って座れば良いのかしら?」
「うーん……前に来た時はのび太お兄様の家で食べてるか、一緒に空いてるお店に行った位だからどうするか分からないの……こんなにぎっしり人が居る状況に居合わせた事がないから」
「困ったわね……勝手に空いてるところに座る訳にもいかないし、誰かに聞きましょう……ん? フラン、あれを見て。『お待ちのお客様はここに名前を書いてお待ち下さい』って書いてあるわ」
「あ、本当だ! じゃあ早くあれに名前書かないと永久に食べられないね!」
待っている時にレミリアがふと、席が空き次第勝手に座っても良いのかとフランに聞いたが、この状況が未経験であったためか彼女は答える事が出来ずにいた。さて本格的にどうしようかと悩み、誰か他の人に聞いてみようかとなったその時、レミリアが待ってる客は名前を書いて待ってろと言う張り紙の上に、名前を書く紙が吊るされていたのを発見した。
危うく勝手に座ってしまうところであったと安心した2人は、早速その紙に自分たちの名前を書き込もうとしたが、来ていた厳つい客の1人に非常識な妨害を受けてしまい、名前を書き損ねてしまった。
ここまで読んで頂き感謝です!