スカーレット姉妹の現代旅   作:松雨

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スカーレット姉妹と学校見学(後編)

「えっと……レミリアさんとフランドールさん、本当にこのベンチでの見学で大丈夫ですか? 今日、結構日差しが強いですけど」

「ああ、その事なら全然問題ないわ。昔から、無くても平気な不思議体質だからね」

「うん! 私もお姉様と同じだから、日傘は要らないよ!」

「そうなんですね。あ、もしも水分補給したくなった場合はグラウンドの端の方に水道がありますので、ご自由になさって下さい」

 

 算数の授業の様子を見学した後、そのクラスの児童に詰め寄られると言うトラブルに巻き込まれるも、特に遅れる事なく別のクラスの体育の授業を、案内役の先生に心配されながら日差しをモロに浴びるベンチに座って見学していた。授業内容は、1クラス内で2チームに別れての野球の試合をすると言うものだったため、レミリアとフランも楽しめていた。

 

 更に運の良い事に、野球の授業をやっているクラスがのび太の居る場所であった事もあり、フランのテンションは最高レベルにまで上がりきっていて、レミリアの『のび太の集中を削ぐのは良くない』との諭しがなければ、今にも大きな声で応援し始める位だった。

 

「どうやら、今のところのび太の居るチームが負けているらしいわね」

「うん。お兄様、大丈夫かな? 今日はこの間と違ってあんまり調子が良くないみたいだけど……勝って欲しいなぁ」

「まあ、のび太は運動自体あまり得意ではないのだから仕方ないじゃない。むしろ、苦手なりに頑張ってる方だと私は思うわ」

「確かに。お兄様が怪我しないでくれれば、私はそれで良いや」

 

 現在、クラス内対抗の野球試合はチーム分けが偏りすぎている事もあってか、のび太の居るチームが劣勢となっている。レミリアやフランが一緒に遊んだ時のように都合良くホームランを打てる調子になる訳もなく、集中してヒットを狙うが空振りをしてしまう。

 

 試合を見始めて10分経つ頃には、観戦しているフランの機嫌があまり良い状態とは言えない所まで悪くなってしまった。レミリアの方も、負けるのはともかくとして、これではただの一方的な蹂躙劇だからチーム分けやり直した方が良いのではと、案内役の先生に対して聞いていたが、そう思っていようとも彼は担任ではないため口出しが出来ない。

 

「むぅ……これが授業じゃなければ私がお兄様のチームに参加して、相手に一泡吹かせてやったのに!」

「フラン、落ち着きなさい。今回は仕方なかったのよ。次からチーム分けを平等にしてくれる事を願いましょう」

「まあ、そうなるよね……はぁ」

 

 そんな感じで野球の試合観戦は続き、最後の最後にのび太の居るチームの児童がホームランを当てて一矢報いた展開があったものの、案の定大きな差をつけられて負けてしまった。こうなる事は分かってはいたものの、レミリアとフランは思わずため息をつく。しかし、野球自体は楽しめたようである。

 

「やっぱり負けちゃったかぁ。けど、お兄様の顔が清々しそうだったよね」

「ええ。あそこまで大差をつけられたから、勝負は捨てて楽しむ方に舵を切ったのよ。きっとね」

「なるほど。もしそうなら、あそこまで清々しそうだったんだから、お兄様は野球そのものをスッゴく楽しんだんだね!」

 

 体育の授業が終わり、2人でグラウンドの端の水道で水を飲んで補給を済ませた後は再び学校内へと戻り、行き交う児童や先生たちに挨拶を交わしたり軽く話をしながら色々な場所を見て回った。学校に通う間は確実に使う職員室やその近くにある校長室はもとより、理科室や音楽室などの、教室では行わない教科の授業を行う場所も案内をしてもらっていた。

 

「教室だと出来ない授業の時は大変そうだね。最初の2~3日は迷うかも」

「確かに。でも、毎日2人だけで移動する訳じゃないし、私たちの入ったクラスの児童たちに助けを求めれば助けてくれるだろうし、分からない事はきっと教えてくれるはずだから、そんなに心配しなくても大丈夫よ。仮にそれが無理だったとしても、のび太が居るじゃない」

「お兄様……うん! 確かに心配ないね!」

 

 咲夜の能力応用による空間拡張や広大な地下空間はないものの、自分たちの住む紅魔館と遜色ない広さと部屋数の多さに、レミリアとフランは楽しみつつも驚きを見せた。特殊な力抜きの敷地の広さに関して言えば、館を超える事が理解出来たためである。

 

 ただ、学校は数百人単位で児童や先生と言った人たちが一時的に使う場所であるのに対し、紅魔館は妖精メイドを入れても100人に満たない上に2人の純粋な住む場所である。建物の用途が非常に大きく異なり、どういう見方をするかによってどちらが優れているのかは変わるため、一概に決める事は出来ないだろう。

 

「私の館……レミリアさんやフランドールさんって、アメリカでは館に住んでいたんですね。学校と比べてると言う事は、相当広い感じですか?」

「そうよ。流石にここ程外の敷地は広くないし館自体もとても大きいとは言えないけど、地上は勿論の事地下にも巨大な地下室や大図書館もあるから、中の広さは同等かここ以上じゃないかしら。まあ、全部見ない事には何とも言えないけどね」

「それにメイドさんも60人位居てね、凄く賑やかで楽しいの! まあ、仕事を良く間違えたり談笑したりしてサボってる人が多くて、咲夜が苦労してるんだけどね。後は……」

 

 次の場所に向かう途中、レミリアとフランが学校と紅魔館の広さを比べて話をしていた時、案内役の先生がそれについて気になったらしい。話が少し途切れたタイミングを計らって、2人の住んでいる紅魔館の広さについて質問を投げ掛けていた。当然全てをそのまま話す訳にはいかないため、おかしくない程度に変えたりぼかしたりしながらレミリアは先生に館の広さやどう言った物があるかなどを語った。

 

 加えて、フランが妖精メイドたちの事を説明する際には人間のメイドに置き換え、パチュリーや小悪魔についてはある程度伏せたりぼかした上で、美鈴と咲夜は能力と種族のみを伏せて後はそのまま説明した。

 

 元々紫が見学前に自分の事も含めて色々と話をつけていたこともあって、案内役の先生の中でレミリアやフランは『アメリカでも相当凄い資産家の令嬢』と言うイメージを抱いていたが、2人の話を聞いてから改めてそれを再確認し、ただただ衝撃を受けるばかりであった。

 

 そんな雰囲気の中各学年の教室や体育館などを見て回り、授業で使う場所はあらかた見終えて図書館に入った時、フランが本を手に取って読みながら、レミリアに話しかけた。

 

「パチュリーの図書館じゃ見た事ないけど、これも日本……と言うかこの町特有の本なのかな? お姉様」

「そうだと思うけど、何せとんでもない量の色んな本があるパチェの図書館だし……」

「確かに、最近また本棚増えてたよね。あんな調子で増えるなら、それこそ読みきるのに数百年位かかりそう」

「まあ、あの量の本を見たらそう思うのも無理ないわね」

 

 紅魔館で読んだ事のない種類の本を読みながら仲睦まじく話すレミリアとフランを見ながら、案内役の先生と紫も少し離れたところで休憩も兼ね、椅子に座りながらのんびり会話をしている。この場の誰も知らぬ内に、司書の先生の計らいで図書館が貸し切り状態とされ、誰も入ってこないため良い感じで話が出来ている。

 

「結構時間が経っていますけれど、この後の予定は大丈夫なのでしょうか? もしあれなら、私がレミリアとフランドールに言い聞かせますが……」

 

 見学のために図書館に入ってから20分経った頃、紫が案内役の先生に向けて時間は大丈夫なのかと、そう投げかけた。今までは授業見学の時を除くと長くても10分程度しか滞在せず、図書館もその位の予定であると聞いていたからだ。

 

「いえ、算数と体育の授業見学以外は全て僕の裁量で問題ないと校長から言われておりますので、大丈夫です。あの姉妹の様子を見ていたら、何だかもう行きましょうとは言いにくくて……時間にもまだ余裕はありましたので、気の済むまで居させてあげようと思いました。今日のこれは授業ではなく、見学ですしね」

 

 紫からそう質問をされた案内役の先生は、仲睦まじく会話をするレミリアとフランから視線を戻すと、先ほどまでしていた体育の授業見学まではそのクラスの都合などがあったため時間通りに進めていたが、その後からは全て自分の裁量に任されているから大丈夫と答えた。最初は10分程度で別の場所へ行こうと計画していたが、あの様子を見て延長しようとその場で決めたとの事らしい。

 

「それにしても、本当に仲良し姉妹なのですね。微笑ましい限りです」

「ええ。一緒に遊びに行って、一緒に食事して、一緒にお風呂に入って……寝るのも一緒な位ですから。それに、キ……あ、申し訳ないけど今のは忘れてくださる?」

「はい。分かりました」

 

 それから、レミリアとフランの変わらぬ様子を見て思った事を言い、盗み見たのか館の誰かから聞いたのかは不明な、2人が部屋に居る時の話を紫がうっかり喋りかけるなどと言ったやり取りを交わすなどして過ごす事更に20分、流石に時間が押してき始めてきてしまう。なので、紫がレミリアとフランに時間が押してるからもう行くと声をかけ、まだ見切れていない場所を見に行くために図書館を出て行った。

 

 図書館以外の会議室や事務室と言った、児童たちが殆んど使う事のない部屋や、トイレや避難場所の確認と言った特定の用事がある時以外は長い時間居る必要のない所では伸びる事なく、軽く説明を受けて立ち去ると言った感じが数回繰り返され、あらかた見学し終えた後は、学校に来た時に1番最初に入った部屋へと戻った。

 

「さて、見学の方は如何でしたでしょうか?」

「うーん……楽しかった! ここなら1ヵ月頑張れそうかな!」

「私も同じね。知り合いも居る事だし、楽しく過ごせそうだったわ」

「私も、ここなら安心出来そうでしたわ」

「それは良かったです。では、最後に各曜日の授業予定表に教科書と……最初の登校日と、レミリアさんとフランドールさんが1ヵ月授業を受けるクラスををお伝えします」

 

 それからは最後に学校見学の感想を求められて答えたり、教科書や予定表などと言った授業に必要な物を受け取ってから、初登校日と1ヵ月お世話になるクラスが伝えられたところで、フランのテンションが急激に上がる事となった。理由は、そのお世話になるクラスには()()()()()()ところであるためだ。

 

 流石に都合良く隣にはなれなかったものの、同じクラスにのび太が居る上に隣がレミリアであると言うのも、フランにとってこの上ない幸せを感じる要因になっている。

 

「やったぁ!! お兄様も一緒、お姉様も隣……これで毎日一緒に居れるんだね……私、今とっても幸せだよ!!」

「ふふっ……良かったわね、フラン。それに、のび太の友達も同じクラスって言ってたから、これで分からない事があっても心配なしね!」

 

 レミリアの方はそれ程声をあげる喜びの表現はしなかった代わりに、フランに抱き付きに行くなどのキス以外のスキンシップや、しばらくそれを堪能した後に案内役の先生に満面の笑みで大袈裟な位に感謝の言葉をかけ、顔が緩む位の幸せを感じていた。ただ、クラス分けを決めたのは彼ではない故に少し困惑しつつ、決めた先生にそう伝えておきますとレミリアに言った。

 

 ある程度2人の興奮が収まったところで紫が声をかけ、3人で今日の見学に付き合ってくれた先生に対してありがとうございましたとお礼を言い、今居る部屋を出て行った。そうして、興奮冷めぬまま学校を出て帰ろうとした時に、ちょうどのび太位の背丈の男の子が友達らしき男の子と楽しそうに話をしながら校門を出て行くのを見かけたフランが、思い出したかのように声をあげた。

 

「あ! お兄様忘れてたから、探しに行ってくる!」

「ちょっと……フラン!? 急に危ないって……ああ、もう!」

 

 どうやら、興奮していたが故に決めていた学校見学が終わったらのび太と一緒に帰ると言う事を忘れていたが、友達と帰るのび太似の男の子2人を見て思い出したらしく、レミリアの急に走ったら危ないと言う注意も聞かず、一目散に走り出してしまった。

 

 下校の時間に重なって沢山の児童たちが歩いていく中、そんな彼ら彼女らにぶつからないように上手く避けながら校内へと入ると、一目散に5年生の教室がある2階へと駆け上がっていった。そうして廊下を歩きながら3つ目の教室の前を通り過ぎようとした時に、目的であるのび太を発見したものの……

 

「さーてと……今日もオレたちの代わりに教室掃除やってもらうよ、のび太君……」

 

 3人の男の子に1人の女の子に囲まれて威圧されながら、教室の掃除を押し付けられそうになっていると言う異様な状況であったため、声をかける事をしなかった……と言うよりは、のび太が誰かに助けを求めていそうな表情を見て、掃除を押し付けられたせいで帰って来るのが遅かった日の事を思い出し、怒りが頂点に達しそうになったと言う方が正しいようだ。

 

 今行ってしまえばレミリアとの約束を破って半殺しにしかねない。だから深呼吸をして少しでも落ち着こうとするも、見れば見るほど殴り込みに行きたくなってしまうと言うジレンマがフランを苦しめていく。そして、最終的にのび太が『僕を待っている友達を心配させたくない』と言う理由で勇気を出して断り、怒った男の子がのび太を突き飛ばし、運悪く軽い切り傷を負ってしまったところでフランの我慢は限界突破して、教室へと乗り込んでいった。

 

「何してるのかなぁ……?」

「「「え!?」」」

 

 そして一言、明らかに普通の人間と対峙する時に出すレベルではない妖気を放ちながら、のび太を突き飛ばした体格の良い男の子に向かって行き、フランは実力行使へと出始める。

 

 まずは、のび太を突き飛ばした男の子の胸ぐらを掴んで床に無理やり押さえつけ、そこに馬乗りになって逃げられないように完全に動きを封じた。逃げようともがく男の子であるが、いくら殺してしまわないように手加減に手加減を重ねているとは言え、吸血鬼であるフランの力に全く抗う事は出来なかった。

 

 体格の良い男の子が見た目外国人の小さな女の子に全く抗えないと言うあまりの異常事態に、他の2人は何もする事が出来ずにいた。もう1人居た女の子に至っては、腰を抜かしながらもフランが気を取られている隙を見て逃げ出す始末であった。

 

「正直に答えてね。お前は今、のび太お兄様に何してたのかな?」

「……君が見た通りの事をしていた。前にもやった事がある。コイツらと一緒にな」

「で、今突き飛ばして怪我させたよね? どうしてくれるのさ?」

「……」

「まあ良いや。とにかく、もう絶対にやらないって誓ってくれるなら解放してあげるけど、どうする?」

「勿論、もう絶対にこんなバカな事はしない事を誓う」

「はぁ……分かった」

 

 そうして、馬乗り状態で押さえつけた状態の男の子に向けて威圧しながら一言二言会話を交わし、強制的にのび太に対して絶対に掃除を押し付けたり、突き飛ばしたりなどの暴力行為をしない事を誓わせた後に約束通り、解放してあげた。あんな事をされたお陰かさっきまでの威勢は完全に萎縮したようで、男の子はフランに対して終始丁寧な態度を維持していた。

 

「あ、そうそう。もし次に今日みたいな事をやろうものなら、逃げてったアイツも含めてお前たち全員……どうなっても知らないから、覚悟しておいてね?」

「「「……」」」

 

 最後、この場に居る男の子3人にそんな一言を残して睨み付けると、全くこの状況についていけていないのび太の手を取り、いつの間にか教室の外で待っていたレミリアと共にこの場を後にした。

 




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