「さてと、いよいよこの日がやって来たわね。学校へ通う日が」
「そうだね、お姉様。お兄様は知ってるから良いとして、お兄様のお友達は私たちと同じクラスだって知ったらどんな反応を示すんだろうね。驚くのかな? それとも、大して驚かないかな?」
現代旅を始めてから11日目の朝、初めての学校通いの日がやって来たため、レミリアとフランは高ぶる気持ちを抑えながらランドセルに荷物を詰め込み、買った洋服ではなくいつもの格好に着替え、出発に備えていた。
特に、フランに関してはレミリアはもとより、のび太も加えた3人で共に居る時間が大幅に増える事や学校生活そのものに対する興味、自分たちが一緒のクラスになる事を全く知らないであろうジャイアンやスネ夫、しずかちゃんがどう驚くかが楽しみで仕方ないようで、朝に起きてからずっと高いテンションのままであった。
「うーん……そうね。私の予想だと、大して驚かない方だと思うわ。初見なら驚いたかもしれないけど、ジャイアンやスネ夫たちとは何度かのび太を通して会っているでしょう? 精々、同じクラスになってたのかって、少し思う程度じゃないかしら」
「ふーん……そっか。まあ、それならそれで良いや」
「あら、そうなの? あれだけ楽しそうに言ってたから、結構拘っていたと思ったのだけど」
「拘ってなかった訳じゃないよ。でもね、それはあくまでもおまけ。お姉様とお兄様が一緒なのがメインだから、なくたって構わないの!」
しかし、レミリアは同じクラスになる知らない人たちであればまだしも、ジャイアンとスネ夫としずかちゃんの3人とは既に一緒に遊ぶなどして交流があり、故にそれ程驚かないのではないかと思っていたために、フランの問いかけに対して否定的であった。
更に付け加えるなら、のび太を学校の玄関まで何度も見送りに行ったり、体育の授業を見学したり、それぞれ1度だけではあるものの野球遊びやドッジボール対決をクラスメートと行っているため、フランの期待するほどの驚きを得られない可能性があるのも、レミリアの否定的なもう1つの理由でもある。
ただ、レミリアの否定的な意見を聞き、当のフランはそれならそれで仕方ないとあっさり諦める事を決めていた。本人にとっては驚かせると言うのはおまけであり、興味のある学校生活を大好きな
逆に言えば、レミリアかのび太が何らかの理由で欠けていれば、クラスメートが望む反応を示してくれたとしても、フランが全く楽しめなくなるどころかいずれ苦になる可能性が高いと言う事である。
「それにしても、自己紹介を英語と日本語の両方でよろしくお願いします……だっけ? お兄様も含めて殆んど英語が分からないはずなのにね。しかも自己紹介だけじゃなく、1時間丸ごと交流会に使うって言ってたけど、どうしてなのかな?」
「大方、私たちが
のび太のクラスメートが驚くかどうかの話が終わり、手に取った学校見学の予定表に書かれている『自己紹介も兼ねている交流会の話』になった時、フランがとある疑問を呈した。自己紹介をする際に日本語はともかくとして、
そんな疑問に対して、レミリアはのび太の通う学校にとって
「ふーん、なるほどね。でも、交流会ならきっと『アメリカ』って国の事について色々と突っ込んで聞いてくる人も居るでしょ? お兄様とお兄様の友達なら、お姉様と私の住んでる場所が『幻想郷』であり、『アメリカ合衆国』ではないって知ってるから聞いてこないだろうけど」
「フラン、それなら心配要らないわよ。昨日私がドラえもんに頼んで、これを用意してもらったからね」
「えっと……なんか色々書かれた紙と、食パン?」
自信ありげに話すレミリアを見て、フランは頷いて納得した意思を示すと、アメリカの知識が不足気味な事について少しだけ不安を見せた。交流会と言う事は、絶対と断言しても良い程出身地について聞いてくる人も出てくる。その際に、うっかり皆にとって妙な事を口に出してしまう危険を理解しているがための不安であったが、レミリアはその不安を消すため、フランに一般的なサイズの紙数枚とこれまた一般的な食パンを数枚差し出した。
一体何でこんな物を渡してきたのだろうと不思議に思っていると、レミリアがそれの使い方の説明をし始めた。
レミリア曰く、紙の方は本当に何の変哲もないただの紙らしいが、食パンの方は『アンキパン』と言う、そこに文字を写して食べる事ですぐに何かを覚える事が出来ると言う、ドラえもんの持つひみつ道具との事。使うタイミングによっては最強の道具だが、あくまで食べ物であるため、トイレで出してしまえばそれまでであると言う欠点が存在した。
未来の道具で現代のアメリカまでについて徹底的に調べ上げ、留学生と言う体裁を保つために必要な情報をピックアップして書き込んだ紙にアンキパンを押し付けて写し、食べる事によって丸々その知識を頭に入れれば並大抵の事ではボロが出ないが、前述の弱点のせいで効果時間があまり長くないと、レミリアはドラえもんに説明されたようにフランにも一字一句違いなく教えた。
「流石、ドラえもんの道具だね。けど、話を聞く限り結構面倒そうだから……早めにそれなしでも覚えた方が良いかも。まあ、今日から1週間位はアンキパンのお世話になりそう」
「そうね。じゃあ、出発時間もそろそろ近い事だし、早速始めるわよ」
「はーい!」
話を聞いて、フランがアンキパンの欠点と面倒臭さからいずれ自力で覚えた方が良いと言ったところで、学校へと向かう時間が近づいて来た。故に、2人は急いでアンキパンに紙の文字を写しては食べるのを繰り返し、何とか必要な情報全てを頭に叩き込む事に成功した。朝食を少し前に取っていたため、元々沢山食べる傾向のあるフランはともかく、小食のレミリアにとってはキツいものとなってしまったが。
そうして知識の詰め込みを終え、外出のための準備も済ませたところで、母親やドラえもんに見送られながらのび太より30分遅れて学校へと2人は出発した。
「ねえ、お姉様。クラスで馴染むために、交流会で話す事を決めようよ! まあ、馴染めなくてもお兄様とお兄様の友達が居るから良いけど、やっぱり思い出づくりには馴染む事が必要でしょ?」
「ええ……なら無難にうちの館の事とか、友人の事とかなら良さそうじゃない。勿論、吸血鬼だとか魔法使いとか妖精とかの部分は上手い事ぼかす必要があるけど」
「なるほど。じゃあ、咲夜は人間だからそのまま紹介するとして、美鈴とパチュリーとこあをどう紹介するか、考えておかないとね!」
道中、丸々1時間使われて行われる交流会で何を話そうかを決め、クラスに早く馴染めるようにしようとフランが提案をしていた。最悪、失敗してものび太やその友人たちがいるので孤立は絶対にないと言いきれるが、たった1度の学校生活を良い思い出で飾るには、クラスに馴染む必要があるとの判断からである。
ただ、言うまでもなくレミリアも同じ事を考えていたため、フランから提案をされた際に、速攻で紅魔館の皆の事や2人の友人の事についてある程度ぼかした上で話す事を逆に提案をした。それに対して、何を話そうか迷っていたのもあったフランは納得し、館の皆をどう変えて紹介するかを考え始める。
2人で15分程度話し合って考えた結果は、全員の非科学的要素を徹底的に排除した上でパチュリーと小悪魔は図書館の司書、美鈴は館の警備員、咲夜はそのままメイド長として紹介する方向で決まった。霊夢や魔理沙、チルノや大妖精やルーミアと言ったレミリアやフランにとっての友人知人については、日本で知り合った人やアメリカでの同級生と言う形で話がついた。
「あっ……フランドールさんにレミリアさん。お待ちしてましたよ」
「えっと、長く待たせちゃったかな?」
「いえ、僕も5分前にここに来たばかりなので、大丈夫です。では、行きましょうか」
交流会の事について話し合いながら学校へ到着すると、玄関前で待っていた見学時にレミリアとフランを案内してくれた男の先生と一言二言交わし、一緒にクラス前まで向かった。その際、レミリアは落ち着いた感じで教室に入る時を待っていたのに対して、フランは対照的に落ち着きがない感じであったが、それには理由が2つある。
1つ目は、40人近くの人間に一斉に視線を向けられた状態の中、1人で何かを話すと言った経験が今までなかったせいで緊張していると言う理由。
2つ目は、40人近くの中にのび太が居る事で恥ずかしい失敗をしてはいけないと言う意識が過剰に強まり、それが枷となっていると言う理由があった。
そんな様子を見たレミリアは色々と察したようで、緊張状態にあるフランの手を優しく握り、『自分も一緒なのだから大丈夫』や『のび太はフランの失敗をとやかく言う性格ではない』などと声をかけ、緊張を和らげる行為に出た。その結果はあったようで、フランの緊張はかなり和らぎ、頑張るから見ててと心の中でのび太にその言葉を向け、気合いを入れていた。
「では、お2人共どうぞ」
待つこと15分、教室の扉が開いて担任の先生が出て来て、レミリアとフランに対して教室に入ってくるように促してきた。遂にこの時が来たかと思った2人は無意識に互いに手を繋ぐ力を強めながら、促されるがままに教室へと入って行った。
「さて、交流会の時どう話しかけようか……俺、英語話せないんだけど、日本語大丈夫だよな?」
「ねえねえ、あの子たちお人形さんみたいで凄く可愛くない!?」
「あっ、そう言えばあの2人と野球をやった覚えが……」
「ドッジボールの時にも居たな! あの時は凄かった!」
すると、教室内がレミリアとフランの姿を視界に入れた瞬間、ざわめき始めた。ある男の子は交流会の時に話しかけたいが日本語話しても大丈夫なのか心配し、ある女の子の集団は2人が可愛い事を前提とした上でどちらが可愛いのか議論し始め、野球やドッジボールを一緒にやった事のある男の子たちはその時の話で盛り上がったりなど、反応は様々であった。
ただ、既に知っていたのび太は当然全く驚かず、ジャイアンやスネ夫やしずかちゃんは少し驚いた程度で、他の盛り上がっている一部の児童たちのようになる事はなかった。
「はい、静粛に! 2人が困ってるぞ」
そうして1分程経ち、このままだと予定通りに進まなくなりそうな状況になった時、担任の先生が盛り上がっている児童たちにレミリアとフランが困っているから静かにしろと自制を呼び掛けた事で静かになったため、一呼吸置いてからまずは英語で自己紹介を始めた。
「|Hello. My name is Remilia Scarlet.《こんにちは。私はレミリア・スカーレットよ。》
家族や親しい友人知人見せるような感じではなく、幻想郷でも殆んど見せる事のない『高貴なお嬢様感』を押し出した仕草を加えた挨拶をしたレミリアに、のび太を含めた全員が程度の差こそあれ、驚きを見せる事となった。
「|Well, My name is Flandre Scarlet.《えっと、私の名前はフランドール・スカーレットだよ。》
対して、フランは高貴なお嬢様感を押し出した挨拶ではなく、ほぼいつも通りな感じで挨拶を済ませたため、レミリアとはまた違った印象を与える事となった。
ちなみに、のび太を含めた大半の児童は英語が分からなかったものの、このクラスで飛び抜けた天才的な頭脳を発揮している『出来杉』他英会話教室に通っている数人が分かりやすく翻訳し、伝言ゲーム方式で伝えていった事で全員が意味を理解したため、何を言っていたか分からないと言う事態は回避されている。更に、そのお陰で日本語での自己紹介の必要性が完全になくなったため、レミリアとフランは考えていたそれを封印する事に決めた。
「ええ……とまあ、こんな感じで英語で自己紹介をしてもらった訳だが、2人は日本語もまるで日本人のように会話が出来るから、コミュニケーションを取るのは苦労しないから、安心しても良いぞ」
「「「え!?」」」
そうしてレミリアとフランの自己紹介が終わり、出来杉他数人の翻訳が伝わりきったところで担任の先生が話を始めたが、その際に2人がバリバリ日本語が話せると言ったところで、のび太一行と一部の児童以外の全員が今日1番驚く事となった。留学しに来る位だから日本語が全く分からないとは思っていなかったが、日本人と同等に話せるとも思っていなかったためだ。
「さて、自己紹介も済んだ事だし音楽室へ向かうぞ。勿論授業ではなく、交流会のためだ。一応忠告をしておくと、音楽室で出来る事は何でもして良いが、誰か1人でも除け者にならないようにする事。それと、ここの生活に慣れていない2人にあまり負担をかけない事。分かったか?」
「「「はい!」」」
そうして担任の先生がいくつかの約束事をした後に、交流会のために借りておいた音楽室へ向かうと言ったところでクラス全体の雰囲気が活気に包まれ、教室を出て皆が音楽室に着くと大騒ぎとまでは行かなかったが、かなり盛り上がる事となる。
早速好きな食べ物や趣味は勿論、好きな音楽や一体どんな家に住んでるのか、特技や苦手な物なども矢継ぎ早に聞かれ、レミリアとフランはそんな彼らの対処に苦戦しながらも楽しげに質問に答えていた。そんな様子を、のび太一行は少し離れたところで見ながら、
「ねえ、フランちゃん。貴女って日本だとどこに住んでるの?」
「えっとね……お兄様のお家にホームステイしてるの!」
「へぇ、そうなんだ。で、お兄様ってどんな人?」
ある程度皆からの質問が終わった頃、タイミングが掴めずにいた1人の女の子がフランに対して日本ではどこに住んでるのかと質問し、フランがそれに対して
「って事は、レミリアちゃんも一緒にのび太君の家に?」
「うん! お姉様も一緒だよ! この町に居る1ヵ月の間はね、ずっとお兄様のお家に居る事になってるの!」
住んでる場所を聞かれたフランは嬉々として、ジャイアンやスネ夫と話をしているのび太を指差したため、質問した女の子とそれを聞いていた周りから一斉に色々な思いのこもった視線が向けられる。
「のび太、お前いつの間にお兄様って呼ばれる位の仲になってんだよ!?」
「あはは……」
「それに、ホームステイ先に選ばれたなんて羨まし過ぎんだろ! 一体いつからだ? え?」
「初めてあったのが夏休みの頃で、その後なんやかんやあって……レミリアとフランが家に来たのが11日前なんだけどね」
「マジかぁ……運良すぎだぞ」
「確かに、普段何かと不運な僕がレミリアとフランと知り合って、まるで本当の家族のように仲の良い友達になれた事は、とっても運が良かったって思ってる」
その後はレミリアやフランと仲良くなりたい男の子との会話をきっかけに、経緯はどうであれ普段あまり話さないクラスメートとの会話をのび太が楽しんだり、2人がが幻想郷での友人や出来事などを上手い事予定通りにアメリカからの留学生と言う設定に当て嵌めた話をして、それを興味深そうにクラスメートが聞き入ったり、フランが何故か逆立ち歩きを披露して盛り上がるなど、とても良い雰囲気のまま1時間があっと言う間に過ぎて、交流会は幕を閉じた。
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