スカーレット姉妹の現代旅   作:松雨

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スカーレット姉妹と濡れ衣

「お兄様、おはよう! 早速なんだけどさ、今日って学校休みだし、誰とも遊ぶ約束してないんでしょ?」

「……うん、おはよう。まあ、確かにそうだけど……それがどうかしたの?」

 

 レミリアとフランが初めて学校に通った日から3日後の午前9時、日曜日であるが故に時間を気にせずゆっくり寝ていたのび太を借りた未来の目覚まし時計で叩き起こした2人は、おはようの挨拶と同時にいきなり誰とも遊ぶ約束はしていないかと、質問を投げ掛けていた。

 いきなり未来の目覚まし時計によって叩き起こされたのび太は、日曜日なのだからもう少し寝かせて欲しかったと心の中で思いつつ、遊ぶ約束は誰とも交わしていないと、フランからの質問にそう答える。

 

「だったら、お姉様と私と一緒に遊びに行こうよ! お買い物したり、お散歩したり、美味しい食べ物を食べたりとか、色々ね! お兄様のお母様にも許しをもらってるからさ、お願い! 良いでしょ?」

「私からも是非、お願いしたいわ。ここに来てから、私とフランとのび太の3()()()()で遊んだ事、殆どなかったし……」

 

 本人の口から、今日は誰とも遊ぶ約束はしていないと聞いたフランは待ってましたと言わんばかりに、のび太に対して自分とレミリアを含めた3人だけで外に出て色々な事をして遊ぼうと、そうお願いを持ちかけた。

 レミリアも、ここに来てから3人だけで外に遊びに行った回数が少ない事を引き合いに出し、上目遣いでのび太に対してフランと同じようにお願いをした。

 

「確かに、言われてみればそうだね……分かった。朝ごはんを食べてすぐはちょっとあれだから、少し経ったら一緒に行こう」

「ありがと! じゃあ、先にお姉様と下に行ってるから、早く顔洗いと歯磨きと着替えを済ませたらキッチンに来て!」

「ふふっ……のび太なら、きっと頷いてくれると思ってたわ。ありがとうね」

 

 レミリアやフランからそうお願いをされたのび太はまだ眠い目を擦りながら、確かに自分を含めた3人だけで出かけた回数が結構少ないなと納得したのと、母親から許可を既にもらっていたと言う事もあって、朝ごはんを食べてから準備を済ませるためなどの時間を少し取った後に外に出かける事を決めて、2人にそう伝えた。

 

 そうして、外遊びの了承を得た2人が上機嫌で部屋を出て行った後、のび太は言われた通りに顔洗いと歯磨きと着替えを済ませ、まだ寝ているドラえもんに向けて『レミリアとフランと一緒に外に遊びに行ってくる』との書き置きを押入れに残してから、朝食を取りにキッチンに向かった。

 

「あれ? 2人ともまだ食べてなかったの? もしかして、僕を待ってた?」

「そうだよ! やっぱり、朝ご飯はお兄様も入れて皆で一斉に食べた方が楽しいでしょ? あ、昼ご飯も夜ご飯も一緒だけどね」

「私は早速食べようとしたら、フランに止められたのだけどね。まあ、皆一緒の方が楽しいって言うのは納得だから、従ったけれど」

「やっぱりね。ただ、早く食べたいのに無理して僕を待つ必要は全然ないから、もしもそう言う時は先に食べてて」

「うん、分かった!」

「ええ、そうするわ」

 

 出された朝食を1口たりとも食べる事なく、仲睦まじく会話を交わしながらじっと待っていたレミリアとフランを見て、自分が来るのを待っていたのだと理解したのび太が、確認のために2人に待っていたのかと聞いたところ、案の定そうだったと答えた。

 

 2人の話を聞き、特に待ってなくても先に食べててもらって良かったとのび太は思っていたが、今回待っていた理由が皆で楽しく会話を交わしながら食べたかったと言うものである。なので、口から出かかった言葉を飲み込み、無理してまで待たないでくれとのお願いの言葉に変えて伝え、了承を得てこの話し合いを済ませた。

 

 その後はいつも通りの流れで出された朝食を食べながら、外に出かけてからどうしようかとの相談を、のび太はレミリアやフランと始めていた。

 

 沢山寄りたい店ややりたい事を提案した2人であったが、のび太は自分の持っている小遣いではそんなに多くの店にも寄れないし、当然やりたい事も多くは出来ないと言い、もう少し減らしてくれないかとお願いをした。

 しかし、資金の問題については紫から渡されているお金を使えば良いと、のび太は何も気にせず自分たちと一緒に遊びに付き合ってくれればそれだけで十分だとフランが言った事で、即解決した。

 

「じゃあ、行ってくるね」

「行ってきまーす!」

「行ってくるわ」

「ええ。3人共、楽しんで行ってらっしゃい」

 

 外遊びについての話し合いをしながら食事を終えた後は、3人それぞれ部屋に一端戻って出かけるための荷物を取りに行き、母親の見送りられながら家を出て行った。

 

「お姉様とお兄様だけでお出かけ……えへへ」

「あら、まだ家を出てからそんなに経ってないのに、随分と楽しそうじゃないの。フラン」

「だって、3人だけなんだよ? 波風が立つから今まで言わなかったけど、友達が居るとさ……お姉様もお兄様も、どうしてもそっちに気を取られるじゃん」

「まあ、そうだけど……それは仕方ないでしょう?」

 

 朝食は取ったばかりであるため、まずは買い物と言う事で商店街へ向かう道中、フランがまだ5分程度しかのび太やレミリアと歩いていないにも関わらず、もう既に沢山楽しんだかのような様子を見せ始めた。それを見たレミリアが、まだほぼ何もしていないのに随分楽しそうだと言葉を発した。

 

 すると、フランはそれに対して反応し、レミリアやのび太が気を取られてしまう要因の人物が居なくなり、2人を独り占め出来るからだと、たった5分の散歩でも嬉しくなった事の理由を説明した。

 

「分かってる。だけど、1~2回おきならまだしも殆んど毎回のペースでドラえもん以外に一緒に居られるとさ、なんかなって」

 

 説明を聞いたレミリアが、のび太の友達が居れば気を取られてしまうのは仕方ないだろうと言うと、それを理解しつつも遊びに行く度に居られる事に対しての不満を露にした。ただ、ドラえもんに関してはのび太のたった1人の大親友であるが故、下手な事を言って嫌われる恐怖から、フランの不満を向けられる対象からは自然に除外されている。

 

「だから、たまには居ない方が良いなぁって思うの」

「「……」」

 

 フランが発したこの一言により、レミリアとのび太は凍りついたかのように固まった。瞳のハイライトが消え、赤に塗りつぶされているような感じに変化している事から、これは本心だと言う事が2人には良く理解出来たためだ。

 それと、たまには居ない方が良いとやさしめの言葉で言ってはいるものの、意味は『ほぼ毎日居られると、レミリアやのび太の気が自分に向きにくくなるから邪魔』と言う事であり、それを直感で察した2人が、放置しておくとこれは不味いと思ったためでもある。

 

「あっ……でも、それなら私がそうお願いすれば良いだけの話だったよね。お兄様、ごめんなさい。お友達を邪魔者みたいに言って八つ当たりみたいに……」

「良いよ。今度からそう言う時はちゃんと言ってね」

「……うん! 許してくれて、ありがと!」

 

 反応に困ったせいで凍りついた雰囲気の中、自分の言った事がどう解釈しようと良い意味で捉えられていないと分かったフランが先程までの発言を謝罪し、のび太がそれを受け入れて次から3人だけになりたい時はちゃんと伝えてと言った事で、雰囲気は元通り楽しいお出かけムードに戻った。

 

 それから、目的地である商店街へと直接向かおうとしたものの、大半の店の開店時間が午前10時からである上、なおかつ今現在の時間が9時半をやっと過ぎた程度でしかない事に気づく。なので、3人は近場にあった公園へと向かい、ブランコやジャングルジムなどの遊具で遊んだり、ベンチで他愛もない会話を交わしたりしながら時間を潰す。

 

 更に、のび太たちが時間潰しのために居る公園周辺に住んでいるらしい近所のおばさん3人が、物珍しさから少し緊張しながらレミリアとフランに話しかけ、日本語で普通に応対出来ると知った途端にいつものノリでの会話に切り替わるなどと言った出来事が発生し、30分どころか1時間以上も付き合わされ、大幅に時間を過ぎてしまうと言う事態が発生した。

 

「お兄様、もう11時過ぎてるから早く行こうよ!」

「確かにそうだね。じゃあ、今行こう」

「うん! おばさん、じゃあね!」

「会話の途中だけれど、行くところがあるから失礼するわ」

 

 これ以上会話を続けていると遊ぶ時間がなくなってしまいそうなため、フランが強引に会話を終わらせておばさんたちと別れて、目的地である商店街へと歩みを再び進め始める。予定がかなり狂ってしまったものの、思いの外面白いおばさんたちであったため、3人はそれ程不満のようなものを感じる事はなかった。飴などのお菓子を気前良く分け与えてくれたのも良い方に作用していた。

 

「流石、日曜日だけあって結構人が居る感じだね」

「確かにね! でも、ランドセルと服を買った時に言ったとっても大きなお店の中よりは居ないかな」

「フラン。あの巨大な複合型のお店とこの商店街だと、規模が違い過ぎるから当たり前よ。むしろ、この規模でこれだけの人が居るのは凄い事だと思うわ」

「うーん……そっか!」

 

 おばさんたちと別れてから10分程歩いた後目的地へと到着し、展開している各店舗を見て回りながら興味がありそうなものを探しつつ、人が沢山居て活気づいた商店街についての会話を交わしていた。日曜日であり、なおかつお昼時が近いと言う事もあるが、それを差し引いてもかなりのものである。

 

「2人とも、ごめん。ちょっとあそこにあるトイレに行きたくなってきたから、その回りのお店で何かするかベンチで座って待っててくれる?」

「うん! だけど、結構人が並んでるね。タイミング悪いなぁ」

「あら、また男の人用のところに1人並んだわよ。悩んでる暇があるくらいなら、私たちの事は気にせずに早く行きなさい。この商店街、トイレの数が少ないからモタモタしてるといつまで経っても行けないわよ」

 

 そんな感じで楽しんでいたある時、のび太が申し訳なさそうにレミリアとフランに対し、トイレに行きたくなってきたからその辺で待ってて欲しいと、お願いをしていた。

 

 この商店街には規模の割に何故かトイレが少なく、平日はともかく週末辺りになるとトイレ待ちの行列が出来上がると、商店の店主から話を聞いて判明した。故に、トイレに行きたくなったとのび太に言われた際、レミリアは自分たちの事は良いから早く列に並べと言い、列に並ばせた。

 

「お兄様、間に合うかな?」

「……大丈夫よ。のび太が恥をかく運命は一切見えないから」

「お姉様がそう言うなら、大丈夫だね!」

 

 トイレに向かったのび太を心配しつつ、レミリアとフランは待ち時間に近辺の本屋や小物を売る店に入り、のび太がトイレを済ませるまでのんびり会話をしつつ見て回り、時間を潰す。

 

「ちょっとお嬢さん方、良いかな?」

「ん? なあに?」

「君たちの手提げバッグの中身、見せてもらえる?」

「あら、どうしてかしら?」

 

 すると、小物の店を出てからすぐに、そこの店員らしき男の人にバッグの中身を見せてもらえるかと2人は声をかけられた。何故いきなりそんな事を言うのかとレミリアが問うと、とある子供から『あの2人の外国人の子のどちらかが、お金を払わずに店を出て行った』と、報告されたとの事らしい。要するに、万引きをしたと疑われているのだ。

 

「……だったら早く見ればいいわ。フラン、出してやりなさい」

「はーい」

 

 疑われている事に対してレミリアは不快感を示しながらも手提げバッグを渡し、フランにも同じように手提げバッグを渡すように促した。万引きなどしていない2人は、これで疑いも晴れるはずだと思っていた。

 

「「……へ?」」

 

 しかし、フランのバッグの中身を見た時、一切この店の商品に手を触れていないにも関わらず、()()()未会計のこの店の商品である小物が1つ見つかってしまう。故に、出てくる訳がないものが出て来てしまった影響で、レミリアとフランは2人揃って訳の分からない状況に追い込まれてしまった。

 

「ふむ……本当だったね。さて、金髪の方のお嬢さん。ちょっと話を――」

「何で……? 私、こんなの知らない……!」

「知らないもなにも、君のバッグから見つかったんだから……」

 

 万引き行為どころか、見て回っただけでこの店の商品に指先すら触れていないフランは当然、こんなの知らないと否定する。ただ、客観的にフランの手提げバッグから未会計の商品が見つかった以上、帰すわけにはいかないため、店員も全く引き下がらない。当たり前だがレミリアはフランを庇い、監視カメラとやらを見てみれば分かる事だろうと声を荒げるも、無駄に終わる事となった。

 

 更に、そんなやり取りを人通りの多い場所で、互いに大声で交わしていれば当然のごとく遠巻きにそれを見るような人が出てきてしまい、事態が余計に大きな方向へと向かい始めてしまう。

 

「あっ……」

 

 そして、こんな状況にいつの間にかこの騒ぎを聞いていた誰かによって呼ばれていたらしい、数人の警察官が言い争いをしているフランたちに近づいていくと、フランが急に黙り込んでしまった。決して万引きなどしていないと言ったのが嘘であった訳ではなく、この世界の『警察官』と言う存在にこの状況で世話になると言う事が、トイレに行っていて居ない、のび太の自分に対する印象を大きく落として嫌われしまう可能性が現実味を帯びてきたためである。

 

 周りの有象無象の人たちからの印象が落ちようともフランはほぼ気にしないが、レミリアと同じ位大好きなのび太からの印象が落ちて嫌われるのは、フランにとっては、如何なる物理・精神的攻撃よりも効果が高い攻撃を受けるのと同義である。ただ、同じく大好きな姉であるレミリアが居るので、完全に精神が崩壊する事は絶対にないが。

 

「嫌だ……いやだ……! お兄様ぁ……私を嫌わないでぇ……」

 

 そうして、この状況を把握するために話を聞こうと女性警官に話しかけられた瞬間、フランは嫌われたくないと言う強い感情が溢れだし、人目も憚らず泣き出してしまった。と言っても、まだ感情爆発のレベルには達していないため、地面に座り込んでうわ言のようにトイレに行っていてこの場に居ないのび太に対して、嫌わないでくれと言う程度で済んでいる。

 

「うーむ、困りましたね……」

「あ、その事でしたらもう既に自分が話を聞いておきました。どうやらそこの女の子が『万引き』したみたいで、目撃者も物も出てきています。ただ、それにしては様子がおかしいので、監視カメラの映像を確認したら……とにかく、彼女たちは一旦彼と一緒に居てもらって、自分と見て頂ければ……」

「そうですか。では――」

 

 しかし、話にならない状態にはなっている。なので、女性警官がさてどうしたものかと困っていると、同僚らしき男性警官が例の店から2人出て来て、女性警官に対して監視カメラの映像を確認するように促していた。その促していた男性警官が神妙な顔つきになっていて、もう1人の警官が可哀想と呟いていた事から、フランにとって何が起こった事は明白であった。

 

 男性警官2人からそう言われ、早速監視カメラの映像を確認するために店の中に向かおうとしたその時、ようやくトイレを済ませたのび太がこの状況の中、何が起きているのか理解出来ていない感じで戻ってきた。

 




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