「うーん……どこに行こうかなぁ……」
フランの万引き犯の疑いを晴らし、無事に解放されたのび太たちは商店街を満喫した後、そこを出て周辺の町巡りをしていた。
本当ならどこか良いところにレミリアとフランを連れて行きたいと思っていたのび太であったが、そう言う時に限って全くと言って良い程何も思い付かなかったようで、ひたすら町の中を休憩を挟みつつ歩くだけと言う状態となってしまっていた。それだけではあまり面白くないとも分かってはいるが、思い付かないのはどうしようもない故の、苦肉の策であった。
ただ、レミリアは足音や風音、鳥の鳴き声等しか聞こえない位の静かなこの町での散歩を3人だけでしていると言う理由から面白くない退屈な物とは考えておらず、フランに至ってはレミリア以外の誰も居ないこの状況でのび太との散歩を、何物にも勝るとも劣らない幸せな一時であると考えている。そのため、のび太がしていた『レミリアとフランがこの状況に退屈しているのではないか』との心配は、既に杞憂に終わっている。
「レミリア、フラン。散歩ばかりで退屈してないかな?」
「退屈? 心配しなくても、してないわよ。のび太」
「してないし、むしろ楽しくて幸せだよ! だって、お兄様と一緒だもん!」
なので、のび太が2人に対して退屈していないかと聞いた時もレミリアは微笑みを見せながら否定し、フランは眩しい笑顔を見せながらそれを否定しつつむしろ、今この時が幸せであるとこれみよがしにアピールをし始めた。
「僕と一緒に居るのが楽しくて幸せ……そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとう、フラン」
「えへへ……どういたしまして!」
「ふふっ、微笑ましいわね」
この状況を楽しんでいたレミリアとフランの様子を見て、のび太は自分のしていた心配が杞憂に終わった事にホッと胸を撫で下ろし、喜んでくれている事からひとまず散歩は続ける事に決めた。
とは言っても、流石に1日ずっと歩き回る訳にも行かない。そう思っていたのび太は手を繋いで楽しく散歩をしながら、2人にもっと楽しんでもらうため、どうしようかと再び考えを巡らせ始める。
「あっ! このお店、紫にこの町に連れてきてもらってから最初に入った所だ! ラーメン、美味しかったなぁ」
「そんなに美味しかったの?」
「うん。お兄様に会いに行く前に寄ったお店なんだけど、そこでお姉様と一緒に醤油ラーメン食べたんだよね。変な人が居たけど、いい気分になれたよ!」
和やかで良い雰囲気のまま、小休止を挟みつつ町歩き等をする事2時間半、とある店の前を通った時にフランが立ち止まって声をあげた。それは、レミリアとフランが幻想郷から紫によって現代の町に連れて来られた後、最初に立ち寄った人気ラーメン店であった。
歩みを止めて声をあげ、幸せそうな表情をさせる程に美味しいとまで言い始めたフランを見て、のび太はこの店の事について多少なりとも気になり始めたらしく、フランにその店のラーメンの事について聞いていた。
そんな風に、のび太からラーメンについて聞かれたフランは嬉々として、それがとても美味しかった事を説明していた。
「変な人?」
「うん。その時凄く混んでたから……席につく前にお店の予約表だったっけ? それに私とお姉様の名前を書こうとしたんだけど、厳つい顔のおじさんに突き飛ばされて、自分の名前を書かれたって事があったんだよね」
ラーメン店の説明の最後の方、フランが言っていた変な人と言うワードに反応を示したのび太が、それについての続きを少しだけ心配そうな表情をしながら促した。既に終わった事だと理解しつつも、レミリアやフランが嫌な思いをしたのではないかと心配になったからである。
「えっ? 大丈夫だった?」
のび太に話の続きを促されたフランは、自分が突き飛ばされた時の事を含めて、ラーメン店で起こった事を覚えている限り話し始めた。まさか、変な人と言っても態度や様子が変わっている程度だろうと思っていたのび太は、その厳ついおじさんとやらが予想以上にヤバい人であった事を知り、フランの方を見てその時の怪我の有無も含め、大丈夫だったのかと問いかけた。
「お兄様、私の事を心配してくれてるの?」
「当たり前だよ。
「……」
ただ、フランにとって普通の人間に突き飛ばされる程度の暴力は油断しきっていようと、普通は有り得ない奇跡が連続で起きない限りは余裕で耐えられるものである。
更に、万が一その拍子で怪我をしてしまったとしても、吸血鬼としての驚異的な再生能力で軽い擦り傷や切り傷、打撲程度であれば即座に治ってしまうため、問題は全くないと言っても差し支えない。
しかし、のび太にとっては怪我がすぐに治る『吸血鬼』であると知っていても関係なく、まるで家族であるかのような友達であるレミリアやフランが
「えへへ……ありがとね。勿論大丈夫だったよ、お兄様! お姉様がほんの少し脅しただけでビビって逃げてったから!」
のび太の発言を間近で聞いていたレミリアは穏やかな笑みを見せ、フランは万引き騒ぎの際に自分の事を信じて動いてくれていた嬉しさの余韻も相まり、幸せな気持ちで満たされていると言うのが表情と態度に現れていた。
「そんな事が……まあ、少し嫌な目にあったみたいだけど、その後はラーメン楽しめたみたいだし、良かったね」
「うん……あ、そうだ! お兄様、一緒にラーメン食べようよ! ね? 良いでしょ?」
「確かにもうお昼時で、お腹も空いてきたし……うん、分かった。僕は良いけど、レミリアはどうかな?」
「のび太とフランが良ければ私は構わないわよ。そもそも、今日は3人だけで出かけるのが目的だし、行き先は基本どうでも良いからね」
で、その話と幸せの流れに乗ったフランが目の前にあるラーメン屋で一緒に醤油ラーメンを食べようと誘い、誘われたのび太がレミリアに意見を聞き、構わないと言われた事で店に寄る事が確定した。
「いらっしゃいませ……あっ」
そうして、3人で一緒にどんなラーメンを食べようかと楽しげに相談しながら店へと入っていくと、応対しようとして近づいて来た店員の人が、レミリアやフランの姿を見て動きを止めた。店員の人の不可解な様子にのび太たちは勿論、店内に居た殆んどの客たちもどうしたんだど首を傾げていたが、その訳がレミリアとフランが前にラーメン店を訪れた際のあの事件が原因であると、すぐに理解する事になった。
「あ! そう言えばあの青っぽい髪の外国人の子、1週間だか前に居たヤバい奴よりもヤバい威圧感出して撃退した子じゃないですか!」
「言われてみれば、確かにそうだな。俺は見てたが、あん時ヤバい奴に妹さんを突き飛ばされてから、様子が一変してたし……きっと、妹さんが大好きなんだろうな」
何故なら、この店にラーメンを食べに来た客の1人であるメガネをかけた若い男の人が言った、同意を求めるようなその言葉に対して、他の客たち数人と共に頷いていたためである。
「やっぱり目立ち過ぎたみたいね……失敗したわ」
「まあ確かに、あれだけやれば目立っちゃうのも無理ないよ! お姉様!」
「一体、何したんだろう……?」
それを皮切りにして、当日食事をしに来ていた常連客や噂を聞いた事のある人たちが思い出したかのように話を始めてしまい、そんな様子を見て、今更ながらレミリアはあの時の立ち回りを後悔し始めた。
しかし、これは悪い意味で注目を集めているのではなく、女の子がヤバい奴をあっさりと撃退して凄かったと言う、純粋な感嘆から来る良い意味での注目である。そのため、フランはそんな姉であるレミリアをとても誇りに思っていて、のび太はこれ程注目を浴びるなんて一体どんな事をしたんだと、不思議に思っていた。
「お客様、大変失礼しました。席にご案内致します」
「ええ、よろしくお願いね」
レミリアが店の客たちから良い意味での注目を浴びて恥ずかしがっていると、先程まで固まっていた店員の人がようやくのび太たちを空いている席に案内をするために待たせたお詫びをいれつつ、再び声をかけて来たため、ついていった。
「では、ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さいませ」
店員の人に席に案内された後は、備え付けられたメニュー表を見ながらどうしようか相談しつつ、他愛もない会話を交わしていた。
「お姉様は何にする? 私はあの時と同じで醤油ラーメンにするけど」
「うーん……じゃあ、この味噌ラーメンにするわ」
「お兄様は?」
「僕は、フランが美味しいって言ってた醤油ラーメンにするかな」
「私と一緒……分かった!」
相談の結果、レミリアは味噌ラーメンでフランは前回と同様の醤油ラーメン、のび太はフランと同じ醤油ラーメンと言う事に決まったため、店員を呼んで注文を伝える。
「そう言えば、このお店のラーメンって量が結構多いけど、お兄様食べきれる?」
「まあ、お腹空いてるから大丈夫だとは思うけど、無理だったら仕方ないかな」
「確かにそうだよね。私がお願いしたんだし、もしお腹一杯になったら無理しすぎないで残して、私に押しつけても構わないよ。お兄様。後、お姉様もね」
そんな感じで、この店のラーメンの量についての話などをして盛り上がる事35分、3人分のラーメンが1度に運ばれてきた。フランから量が多いと聞いていたため相当量が多いとのだろうなと思っていたのび太であったが、運ばれてきたラーメンは案の定山盛りとまでは行かないものの、予想よりも大盛りに近いレベルの量の麺と具の量の多さに、少し驚いていた。
しかし、お腹が大分空いている事と、物は違うがテスト勉強のために『アンキパン』を山のように食べた経験がある事が功を奏し、頑張れば食べられなくはない量だとの判断を、のび太は下せていた。
「あー、うん。確かにフランの言う通りだったね。この醤油ラーメン、凄く美味しいよ」
「良かったぁ。お兄様に気に入ってもらえなかったらどうしようかと思ったし」
「ふふっ……良かったわね、フラン。それはそうとこの味噌ラーメン、味は濃いけど結構いけるわ」
「そうなの? お姉様、1口ちょうだい」
「ええ、良いわよ」
「あっ、確かにこっちも美味しいね! でも、私は醤油ラーメン派かなぁ」
運ばれてきたラーメンを美味しく頬張っている途中で、レミリアの味噌ラーメンをフランが1口試しに食べてみたり、勇気を出してレミリアやフランの2人に話しかけてくる客が数人出てきたりするなどと言った出来事があったものの、特に不快な思いをする事はなく、3人は笑い合いながら会話を楽しんでいた。
「うっぷ……流石にアンキパンを無理矢理詰め込んだ時よりはマシだけど、もう何も食べたくない……」
「私もよ。普段こんなに食べないから、本当にキツかったわ。醤油ラーメンの時はこうじゃなかったのに……」
「じゃあ、お姉様は味噌ラーメンよりも醤油ラーメンの方が好きだって事だね」
「ええ、そうみたいね。あの時は今ほど満腹感を感じなかったもの」
そんなこんなで楽しむ事40分、運ばれてきたラーメンのスープ以外を、3人は全て食べ終えた。フランはまだ少し食べられる余裕があったものの、のび太とレミリアは何とか食べきったと言う感じであり、デザートを含めたありとあらゆる食べ物を少量でも口に入れる気が全く起きない程であった。
故に2人はすぐ立ち上がって歩き始める気が起きず、会計を済ませて店を出る事が出来たのは、食べ終えてから更に15分が経った時とな る。
「お姉様にお兄様、大丈夫? 無理だったら私に残り物を押しつけても良いって言ったのに」
「あはは……フランが良いって言っても、流石に僕の食べ残しを押しつけるのは不味いと思って、つい無理したんだよね」
「右に同じよ。それに、フランだって誰かの残り物を食べるなんて嫌じゃないの?」
しかし、歩き始めたとしても満腹感から来る身体の重さに眠気と言った要因から、のび太とレミリアの歩みはラーメン店に寄る前と比べると歩みが遅く、表情も少し辛そうな感じとなってしまっていた。そのため、2人の様子を見ていたフランは、無理なら自分に残り物を押しつけても良いって言ったのに、どうして無理をしてまで全部食べたのかと問いかけていた。
「確かにお姉様の言った通り、他の人の残り物
「まあ、そう言うなら」
「分かったわ、フラン」
フランからの真剣な問いかけに対し、のび太は流石に残り物を押しつけるのは気が引けたからと言い、レミリアもそれに乗った上で逆に、残り物を食べるのは嫌じゃないのかとの質問を投げ返した。
すると、フランはレミリアからの、誰かの残り物を食べる事に関する質問に対して確かに嫌だと答えつつも、家族同然ののび太と家族であるレミリアが残した物である事を前提として、今日のような時であれば構わないと即答した。
ただ、本人が良いとは言うものの、やはり残し物を押しつけるのは気が引けると思っているのび太やレミリアは、フランを納得させるために取り敢えず表面上は同意する事にしておいて、この場を切り抜けた。
その後はラーメン店に寄る前にやっていた事と殆んど変わらず、休憩多めで町歩きをしながら景色を見たり、楽しく会話を交わしたり、軽めのお茶やジュースを買って飲んでみたりなどをしていた。のび太やレミリアが食べ過ぎであまり早く動けないでいたため、午後4時頃までロクな場所には行けなかったが、フランにとってはそれでも満足出来る程の楽しい一時であったようだ。
「フラン、もうそろそろ帰りましょう? のび太のお母様やドラえもんが心配するわよ。そうでなくても、のび太も疲れきってるからね」
「うーん……お兄様が疲れきってるなら、仕方ないね! 分かった!」
更に1時間後、日が暮れ始めてきたタイミングである事と、のび太の体力が本当に限界に近くなってきた事もあって、家に帰る事をレミリアが提案したため、町歩きをやめて帰る事が決定した。
「お帰り、3人とも。楽しかったかい?」
「勿論だよ、ドラえもん」
「うん!
「ええ、楽しめたわ。それと、悪いのだけどのび太と私の夕食は抜きにしてもらえるようにお母様にお願いしておいてくれるかしら? お昼にラーメン食べ過ぎたから……本当、申し訳ないとも言っておいて」
「分かった。伝えておくね」
家に帰った後は、出迎えてくれたドラえもんからの質問に対して簡単に答え、手洗いうがいを済ませてからレミリアとのび太は居間で休憩へ、フランは夕食を済ませるためにキッチンへと向かう。
そして、それらが終わり、各々宿題や入浴等のやるべき事を済ませた後は、多少なりとも疲れている事や明日が学校の日である事などもあって、少し早めに寝ようと決まった。
「お兄様! 今日だけで良いから、一緒に寝ようよ!」
「その……差し支えなければ、フランとだけじゃなくて私ともお願いしたいのだけど……」
で、のび太が2階にある自分の部屋へと向かい、布団を敷いた後にさて眠ろうと電気を消して横になろうとしたその時、パジャマ姿のレミリアとフランが一緒に寝たいと押し掛け、のび太が非常に断り難いだろうと直感したお願いの仕方を実践した。
「うん、良いよ」
「えへへ……やったぁ! ありがとね、お兄様!」
「ありがと、のび太」
結果、そのおねだりはのび太に全く拒否される事なく受け入れてもらう事に成功し、2人はとても満足げな表情を浮かべながら一緒の布団へと入っていった。
こうして、色々とあった1日が幕を閉じる事となった。
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