「ちょっと、何するのさ! 私たちが先に名前を書こうとしたの見てたでしょ!?」
「自分で言うのもなんだけど、良い大人の貴方が子供の私たちを押し退けてまで先に名前を書くなんて、恥ずかしくないのかしら? まあ、恥ずかしい気持ちが少しでもあるのなら、こんな事はしないでしょうけれど」
入った人気ラーメン屋のラーメンを食べるため、順番待ちの紙に名前を書こうとしていたフランを妨害した上に突き飛ばし、自分が名前を書いてしまった厳つい男に対して彼女は怒りを露にして抗議し、レミリアは愛する妹の顔を押して突き飛ばした男に対する今すぐ殴り殺しそうな程の怒りを抑えつつ、皮肉を交えて抗議した。
「うるせぇ! いくら外国のガキとは言え、あんまり文句言ってるとぶん殴るぞ!」
その真っ当な抗議に対して厳つい男は更に激昂し、今すぐにでもフランとレミリアをぶん殴ると言う行為をし始めそうになり、一触即発の状況となってしまった。周りの客の半分程度はラーメンを食べるのをやめ、どこかに電話をし始めたり厳つい男が不味いことをしないか行動を見始めたが、実際に止めようとする客は居なかった。
まあ、体格がかなり大きい上に格好も普通の人間にとっては非常に威圧的な物であるため、仕方ないだろう。ただ、吸血鬼であるレミリアとフランは、それを変わった格好と言う程度にしか感じていないが。
「ふぅん、随分威勢が良いわね……」
「何ぃ!?」
すると、ぶん殴ってやるぞと威圧されたレミリアが自ら厳つい男の拳の射程圏内に歩いていくと言う行動を起こし、それを見た周囲の客たちの大半は血の気が引いた。端から見れば、無駄に怪我をしに行くような行動にしか見えなかったからである。
「嬢ちゃん! 無茶な事は止めて、早く逃げてくれ! ここはオレが」
「あら……貴方私の心配をしてくれてるのね、ありがとう。でも大丈夫よ、すぐに終わるから」
「え? 一体どういう……!!」
そんな光景を見ていたたまれなくなった客の1人が自らの身を呈して目の前の少女であるレミリアとフランを守ろうと、2人に近寄ろうとした時にレミリアがすぐに終わるからと言って、その客を止めた。そして……
「社会的に死にたければ殴りかかってくるが良いわ。そんな度胸があるならね」
吸血鬼としての力を使い、厳つい男を笑顔で威圧した。瞬間、その男を含むフラン以外のほぼ全ての客や従業員の視線がレミリアへと向く。どう考えても、ただの少女の発する威圧感ではないためだ。
しかし、レミリアはそんな視線には目もくれず、最初に厳つい男と対峙してからこうなるのは仕方ないと、理解した上で威圧している。吸血鬼であるとバレなければ、注目を浴びてしまう位やぶさかではないと言うのは、レミリアやフランが現代旅をする上での意思であるためだからだ。
「な……なんだよあの嬢ちゃん……」
「そんな事よりお前、見てみろよ! あの男、ビビって腰抜かしてやがるぜ。全く、あれだけ大層な事を言っておきながら情けねーな! ハハハ!」
「いや、あれは誰だって腰抜かすでしょうが。何せ、本能に訴え掛けてくる位の恐怖だからな。まだアレを向けられた対象がアイツだから良いものの……」
そうして周りがレミリアの話題で騒がしくなったところで、誰かがいつの間にか呼んでいた警察が到着し、レミリアやフランを含む店内の客に事情を聞き、防犯カメラを確認してからビビって腰を抜かした厳つい男を連行していった事で、若干雰囲気が変わってしまったものの、概ねトラブル前の平和な状況がこの店に戻った。
「お騒がせしてごめんなさいね……あ、そこの紙に名前を書いても良いかしら?」
「……あ、はい。どうぞ」
レミリアが騒がせたお詫びを店員を含む皆にしてから紙に名前を書いた後は、ちょうど空いていた椅子に座って仲良く話しながらゆっくり待った。こんな事があったからか、やたらとレミリアとフランに話しかけてくる待っている客も居たりしたため、30分程の待機時間はあっという間に過ぎた。
そうして店員の案内で2人で席に着いた後は、どれを食べようか散々悩んだ挙げ句、2人一緒に『醤油ラーメン』を頼む事に決めて頼み、どんな味なのかと楽しみながら待つ。
「しょうゆラーメンってどんな食べ物なのかなぁ? でも、お店の中に漂う匂いは美味しそうだから、きっと美味しいんだろうね!」
「多分ね。まあ匂いが美味しそうだからと言って、口に合うかどうかは食べてみないと分からないわ」
初めての醤油ラーメンはどんな食べ物なのかとワクワクしながら待っていると、何故かレミリアとフランの2人の席にショートケーキが運ばれてきた。こんなの頼んでいない、間違えているのではないかとフランが運んできた店員に指摘したところ、店からの細やかなサービスとの事。予想外の出来事に驚きつつも、無料で美味しそうなショートケーキが食べれると言う運の良さに2人は喜んだ。
「やったぁ! ありがとーね!」
「別にここまでしてくれなくても良かったのに……まあ、くれると言うならありがたく味わう事にするわ」
「いえいえ。では、ごゆっくりお楽しみください」
店員が去った後、のんびり出されたケーキを味わいながら醤油ラーメンが来るのを待ちつつ、2人でこれからの現代旅の計画を立てるべく、話し合いをした。結果、食事後は取り敢えず町歩きをしながら、お金の許す限り面白そうだと思ったところや店に入って楽しむ事に決定したようだ。
「お待たせしましたー! 醤油ラーメンです!」
「あ、やっときたよお姉様! スッゴく美味しそうな匂いがするね!」
「確かに、これば美味しそうな麺料理ね。容器も大きいから量も多そうだけど、フランは大丈夫? 全部食べれる?」
「うん、余裕で大丈夫だよ!」
そうしている内に頼んだ醤油ラーメンが到着し、机の上に容器が置かれる。そこから漂う食欲をそそる香りにレミリアは比較的落ち着いた様子であったが、フランはかなり興奮気味のようだ。
「「いただきます!」」
息ピッタリの挨拶と共に、2人は醤油ラーメンを食べ始めた。すると、その美味しさにはまったのか最初は丁寧に食べていたレミリアであったが、フランからここでは思い切り麺を啜ってもマナー的には問題ないと聞いた途端に一気食いし始め、普段は少食にも関わらずとてつもない速度で完食した。ただ、スープに関しては塩気の関係で少しだけ飲む程度に抑えたようである。
「お姉様食べるの早い……」
「あまりにも美味しくて一気食いしちゃったわ。ただ、もう何も入らないわね」
「いつもは少食だもんね、お姉様って」
「まあ、そうね。これで改めて思ったけど、このラーメンの何倍もの量の食べ物を余裕で食べれる幽々子って本当にどうなってるのかしら?」
「確かに、本当謎だよね」
そんな会話をしながらフランも食べ終わり、忘れ物がないかどうかを見た後に2人はレジへと向かった。そうしてラーメン2つ分の代金である1300円を払い、店を後にした。
「ふぅ……美味しかったね。さて、お姉様。取り敢えず、町歩こっか?」
「ええ。まだまだ全容を把握しきれていないしね。お店に入らずとも、私たち……いや、フランは1度来てるからどうか知らないけど、町歩きするだけでも十分楽しめるしね」
「私は大好きなお姉様と一緒に居れるだけで幸せだよ! 今すぐにでもキスしたいくらいにね!」
「ふふっ……私もよ、フラン。でも、ここだと人が沢山居るからあまり激しいのは駄目よ」
「はーい!」
店を後にしてからは食事中に決めた通り、町中を適当にうろつきながら面白そうなところや店だと思えばお金の許す限り楽しむと言う方針に基づいて、2人は町歩きをする。しかし、フランはともかくとしてレミリアにとっては初めてのものばかりである。そのためどれもこれも面白そうに見えてきてしまい、逆にどうするか決めきれないでいた。
「お、フランじゃねぇか! そっちの水色がかった青い髪の子はもしかして、あん時話してた姉ちゃんか?」
「そうだよ! 久しぶりだね、ジャイアン!」
「つっても、1ヶ月位しか経ってねぇがな」
そんな感じでかれこれ1時間程度町歩きをしても見つからず、のび太たちが住むエリアにまで歩みを進めた時、レミリアとフランの背後から声をかけてくる人物が出現した。2人が足を止めて振り向くと、そこには何らかのビラを持っていたジャイアンであった。
「えっと……確か貴方はのび太って男の子の友達の……」
「ああ、俺は剛田武。ジャイアンって呼んでくれ、フランの姉ちゃん」
「ええ、よろしく。次は私ね……名前はレミリア・スカーレット。まあ察しはついてると思うけれど……」
「ああ、吸血鬼ってんだろ? フランは吸血鬼、それなら姉ちゃんも同じってこと位は分かるさ」
「察してくれて助かるわ」
フランはジャイアンとはのび太を通して面識があったが、当然その時に居なかったレミリアとはお互いに面識が一切なく、話に聞いていた程度であったため、自己紹介からまずは入った。フランでもう耐性がついていたため、レミリアが吸血鬼だと分かっても特に態度を変える事はなかった。
「そうだ。2人共、もし良ければ俺のリサイタルに来てくれないか?」
「リサイタル……?」
「ああ。俺が空き地に友達を招待してな、歌を披露するって訳なんだ」
「って事は、のび太お兄様も来るの!?」
「勿論だ。アイツも来るぜ」
「なら行く! お姉様も良いでしょ?」
「……まあ、断る理由はないしね。のび太って男の子にも会ってみたいし、行きましょうか」
そうして自己紹介が済んだ後、ジャイアンはレミリアとフランに手作りのビラを渡し、リサイタルに誘った。その誘いに対して2人は特に断る理由がなかったため、これを了承した。
「じゃあ、1時間後に空き地でやるから来てくれよ!」
「ええ、分かったわ」
「うん! 時間になったら行くね!」
ジャイアンはレミリアとフランの2人とそんな感じのやり取りをした後、手持ちのビラを自身の友人たちに配りに行くため、この場を去っていった。
「さて、1時間後って言ってたけれど……たったそれだけだと町歩きしてれば余裕で過ぎるわね」
「確かにね。それならどうせやるべき事なんてないし、会場で1時間待つ?」
「うーん……でも彼、会場は露天だって言ってたわ。いくら日傘があるとは言え、1時間も日光の下に町歩きでもないのに居たくないわね」
「まあそうだけど、日傘があれば1時間位は大したことないよ!」
その後、リサイタルが始まるまでの1時間何をしようかと言う話し合いが2人の間で始まった。町歩きをするには1時間程度ではまるで足りず、かといって会場である空き地で待つにはいささか時間が多すぎる等の要素があるためである。ただ、どちらを選ぼうとも同程度のデメリットは存在するし、強いて言うなら町歩きの方が約束をすっぽかして良くない印象を与える事になりかねない。
なので、2人の話し合いの結果は会場である空き地でリサイタルが始まるまで、のんびり話でもしながら待つと言う事に決まった。
「ここが空き地ね。確かに何もない……いや、来た人が座るためのシートは用意されてるから、待つ分には良い感じかしら」
「うん、そうみたいだね」
そうして空き地で色々話したり、誰も居ない上に見ていない環境故に危うく館に居る時のようなスキンシップが始まりそうになりながら、2人が待つ事およそ30分、ぼちぼち人が集まり始めていた。当然だが見た事も聞いた事もない、見た目外国人の10歳前後の女の子がリサイタル会場に居れば皆の注目を浴びる事は必至である。故に彼ら彼女らの話の対象ともなってしまうが、2人は特に意にも介さなかった。
「のび太お兄様来ないなぁ……」
「まあ、まだ時間じゃないのだから当たり前よ。むしろ、私たちが早すぎたのよ」
「そっか! そうだよね!」
その際にフランがのび太の事を
「君ってのび太とはどういう関係なの?」
「え? うーん……大好きなお姉様みたいな人だから要するに、家族みたいな関係だよ。で、どうしてそんな事を聞くの?」
「……気になったから。のび太に外国の子の友達なんて今まで居なかったからさ」
騒いでいる人の中で勇気を出し、フランに対してのび太とはどんな関係なのかと話しかけた人も出てきたが、彼女はその質問に対して家族みたいな関係だと断言した。そのせいで、更に一部ではのび太自身に色々と問い詰めてみようかと言う計画が持ち上がったりもしたが、彼が困ると直感したフランの無言の圧力により、それは立ち消えとなった。
「久しぶりだね、フラン。そっちの子はお姉さんかな?」
「まさか、ジャイアンのリサイタル会場で会うなんて……」
「あ……ドラえもんに、のび太お兄様! こっち来て側に座って! お姉様を紹介するから!」
そうしてリサイタルの開催時間が迫ってきた時、空き地にドラえもんとのび太がやって来た事でフランの気分は高揚し、運が良いのか寄りつきにくかったのかは不明だが、空いている席にのび太やドラえもんを座らせた。その後、レミリアとのび太とドラえもんの自己紹介を状況が状況なので軽く済ませ、ジャイアンが来るまで待った。
「今日は集まってくれてありがとうなぁ!! 衣装の用意が遅れちまって済まなかったな、お前ら」
開催時間を少し過ぎた頃、ド派手な衣装を身にまとったジャイアンがマイクを持って空き地へとやって来たその瞬間、のび太がフランやレミリアに対して小声で話しかける。
「フランとレミリアの2人に聞きたいんだけど、音を遮断する魔法なり妖術とかないかな?」
「私はそんな魔法とか持ってないなぁ。お姉様は?」
「完全に遮断する魔法はないけど、軽減させる魔法自体はあるにはあるわよ。と言うか、何でそんな事を聞くのかしら? のび太」
「確かに。私も気になるから教えてよ、お兄様」
「ああ、それはね……」
それは、音を遮断する魔法や妖術があるかと言う質問であった。完全に遮断する魔法はないけど、軽減させる魔法ならあると答えつつ、今から歌を聞くと言うのに音を遮断してどうするのかと疑問に思ったレミリアとフランは、何故そんな事を聞くのかとのび太に聞いた。
するとのび太は、今まで自分たちがジャイアンの歌によって受けた被害を事細かに話し始めた。耳を塞いでも頭に響いてくる轟音を放ち、側を飛んでいた鳥が気絶して落ちたり窓ガラスを破壊したりして、機械すらそれに耐えきる事は難しく、果ては魔物ですら撃退するレベルである事なども話した。話を聞いていたレミリアとフランは、そのとんでもない威力に呆れ返って言葉すら出なかった。
「どう考えても人間の成せる技じゃないわね。魔物ですら撃退する威力って、幻想郷でもやっていけそう……と言うか、それを聞いてて生きてる貴方たちも凄いわ」
「……だから、お兄様は私たちにそんな事を聞いたんだ。それにしても、ジャイアンって――」
「よーし! 揃ったところで早速始めるぞ!」
そうして、フランのジャイアンに対するイメージが若干悪くなったところで、とうとう時間になったらしく、皆の若干気の抜けた拍手と共にリサイタルが始まった。
レミリアやフランが居るからか、ジャイアンはいつもより気合いを入れている。そのせいで歌の破壊力も増大しているため、これを聞いている人物に等しく与えるダメージも増えてしまう。レミリアは音をある程度遮断する魔法を唱えようにも、想定を遥かに超える威力に集中力が阻害されてしまい、魔法を唱えられない。
「コイツは……強烈ね! 魔物を撃退出来るってのも嘘じゃないわ」
「お姉様、早く!! 頭が痛い……!」
「分かってるけど、強烈過ぎて集中力が――」
「フラン、レミリア! これを耳につけて!」
「うん!」
「ええ、分かったわ」
その時、のび太が側に居るレミリアとフランの2人にとあるひみつ道具を渡した。耳バンデラックスと呼ばれるこれには指定した音を遮断する効果があり、耳につける事によって音が聞こえなくなる。
「ふぅ……これで随分楽になったわね」
「お姉様、大丈夫? それとお兄様がね、ここに居る人たち全体を守るように魔法をかけてくれって! 私たちにくれたこの道具、数が全然足りないみたい」
「ええ、勿論よ……」
これにより、ある程度の余裕が出来たため、レミリアは早速音をある程度遮断する魔法を唱え始めた。そして30秒後、遮音防壁が展開された事により音の影響が半減し、耐えられるレベルにまで抑える事に成功した。
突然ジャイアンの歌がまともに聞けるレベルにまで抑えられた事に周りの人が驚き、中にはレミリアが防壁を展開する動作を見ていた人が本人に問いかけると言う事もあったが、のび太がドラえもんのひみつ道具を使ってもらったと言ったため、大して騒ぎにもならなかった。
そして、ジャイアンが結界に最後まで気づく事なく歌いきった事により、レミリアやフランを含む観客たちの誰も倒れる事がなく、無事にリサイタルを乗り切る事に成功した。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。