「昨日は一緒に寝てくれてありがとね! お兄様!」
「どういたしまして。満足出来た?」
「勿論だよ! お兄様に加えて、お姉様とも寝れたんだから! えへへ……暖かかったなぁ」
フランの万引き犯疑惑騒ぎと言った厄介事に巻き込まれながらも、と楽しい思いをする事が出来た休日の翌日の朝、のび太たち3人は学校に登校する道すがら、当日にあった事などを話の種にして歩いていた。何だかんだ言って、楽しめたようであった。
特に万引き犯の疑いをかけられ、一時的に精神が追い詰められていたフランに至っては、のび太が最初から完全に無実を信じてくれた上、自分の事の様に必死になって周りの人に無実であると言うの分かってもらうために動いてくれた事に加えて、昨晩一緒に寝てくれた事さ嬉しさから、思い出したくない出来事ではなく自分から話の種にする程の出来事と化していた。
だからと言って、もう1度経験したいかと問われれば、2度と経験したくはないとフランは思っている。そのため、フランの手提げバッグにはチャックを取り付けてもらい、狭い通路が多い店に立ち寄る際には挙動不審にならない程度には周りに気を付け、更に会計を終えた後のレシートを家に帰るまでは持っているなどと言った対策を取る事を決めた。
ここまでしておいて疑われ、昨日みたいな出来事が振りかかってくる場合も考えられるものの、完全にその可能性を無くす事は不可能である。だから、この対策は疑われない確率を上げつつ、万が一疑われた時に防犯カメラや他の誰かの視線などによって、無実を証明しやすくすると言う側面の方が強い。
「のび太。今更なんだけれど、1人分の布団に3人も寝るなんて窮屈じゃなかった? もし窮屈で嫌だったとか、暑くて辛かったとかの理由があるなら、今日以降は自分の布団も持ってくる事にするけど……」
そんな感じで、フランとのび太が昨日起こった事を含めた会話を交わしていると、レミリアが2人の話が切れたタイミングでのび太に話しかけた。どうやら、本来1人のみで寝る事を想定している布団にレミリアとフランを加えた3人で寝た事で、のび太が窮屈で嫌だったのではないかと今になって思い立ったようだ。
もし、窮屈であった事や密着していて暑かったと言う理由で嫌だった場合は、次回からは布団も人数分持ってきて寝る事にすると、レミリアはそう持ちかけていた。
「うーん……窮屈かなとは思うけど、別に問題ないかな。それに、真夏の蒸し暑い夜ならともかく、今の季節は秋だから……君たちさえ良ければ、僕は昨日の感じで構わないよ。と言うかとか寒さなら『テキオー灯』とか『あべこべクリーム』を使えば解決するから、あってないような問題だけど」
「そう? なら、昨日のままで行くわね」
「……」
しかし、のび太は1つの布団で3人で寝た際に窮屈だとは思っていたものの、嫌だと思う程ではなかったようで、問題はないとレミリアに答えていた。もう1つの問題である暑さについては、テキオー灯やあべこべクリームと言ったひみつ道具を使えば解決するから問題ないと、同じく答えた。
結果、今日以降も一緒に寝る事になった場合は変わらず1つの布団に3人で寝る事が決まり、それに対してレミリアとフランも、その返答を聞いて良かったとホッとしていた。
「さて、今日の授業は……3時間目の体育の練習試合以外は普通ね」
「うぇ……そうだったの忘れてたぁ」
「あら、何だか凄く嫌そうね。まあ、のび太は運動苦手だから仕方ないのかしら」
「そうなんだよ。しかも、男女別で試合って……僕、足手まといになりそう……」
そうして昨日の話題が一段落し、レミリアが今日の授業の話をし始めた所で、のび太が露骨に嫌な顔をし始める。3時間目の体育の授業が『ドッジボールの練習試合』であったためだ。
これが男女混合のものであれば、のび太はレミリアやフランのサポートを受けながら何とか立ち回る事が出来るが、男女別ともなれば話は別であると言う理由があった。自他共に認めるかなりの運動音痴であるのび太を、流石のジャイアンたちでもカバーしきれない事が度々あり、
「手抜きしないで頑張れば大丈夫だから、元気出して! もし、それでお兄様を傷つける人が居たら、私が
「うん。ありがとう、フラン」
「どういたしまして!」
役に立たないどころか足手まといになりそうだと少し沈み込んでいるのび太を見て、昨日のお返しが出来るとここぞとばかりに、手抜きせずに頑張れば大丈夫だと、フランが励ましに入った。更に、それで失敗したとして、のび太を過剰に傷つける奴が居るならば、自分がそれ相応の
結果、少し気が楽になったのび太はフランの頭を優しくポンポンと叩きながら、励ましてくれてありがとうとお礼を言った。ただ、フランのどうにかすると言う部分が、のび太にとってはソイツらをボコボコのギタギタにしてあげると言う意味に聞こえてしまったために、心配事も増えてしまったが。
で、その3時間目にある体育の授業の話題が終わったタイミングで学校に到着すると、話に夢中になっていたせいで歩くのが遅くなっていたのか、いつもよりも時間が10分程度進んでいた事に3人は気がついた。とは言え、遅刻してしまう程ギリギリの時間と言う訳ではないため、慌てずに正面玄関へと向かって上履きに履き替え、いつも通り教室へと話をしながら歩いて行って、扉を開けた。
「あ、おはよう! 昨日、商店街でフランちゃんが万引き犯にされかけて大泣きしてたって聞いたよ! 大丈夫だった!?」
すると、教室へ入るなりレミリアとフランの前の席に座っている女の子とその友人数人が駆け寄ってきて、教えていないにも関わらず昨日の商店街での出来事について、大丈夫だったのかと3人は声をかけられた。
あの時、クラスメートらしき子供は見かけなかったと記憶していたレミリアは、いつの間にかクラス中に情報が行き渡っている事に驚き、フランは落ち着いて考えてみたら沢山の人が居る中、大泣きしながらお兄様呼ばわりした事に恥ずかしさが込み上げてきたらしく、思わずのび太の後ろに咄嗟に隠れた。
「ええ、大丈夫よ。あの時、フランのバッグに入ってた時はおかしいと思っていたのだけど……調べてもらったら、ただ単に誰かのイタズラに引っ掛かっただけって分かったからね。本当、監視カメラ様々よ。それと、のび太のお陰で立ち直りも早かったから、こっちも助かったわ」
「おい、それマジか?」
「ええ。一字一句嘘偽りない、本当の話よ」
「「「うわぁ……」」」
驚きから戻った後、女の子からの大丈夫だったのかと言う質問に、レミリアがあの時の出来事を軽く振り返った上で大丈夫だったと答えた瞬間、その場の雰囲気が即座に凍りついてしまった。この場に居るほぼ全員が想像していた物よりも、かなりキツいイタズラであったためである。
あまりにも酷い内容のイタズラであったせいか、ジャイアンがレミリアにそれは本当なのかと確認をするために問いかけたのに対し、嘘偽りのない話であるとレミリアが言い切ったため、ただでさえ冷えきった空気が更に冷える事となった。
「酷い事しやがる奴も居たもんだな。でも、疑いが晴れて良かったぜ」
「うん。でも、他人事じゃないね。僕たちも気をつけないと」
「そうよね。例えば、チャック付きの手提げバッグにするとか、あまり長時間居座らないようにするとか……」
レミリアの話が終わった後、クラス内の会話内容はフランの受けた酷いイタズラを受けないようにどう対策を取るかや、イタズラを受けてしまったフランを慰めたりする会話が3分の2を占めた。後は、アメリカに帰るまでにこれ以上嫌な思い出を増やして欲しくないと言った話や、相応の罰がイタズラの主に降って欲しいと言った話をする児童がちらほら居る程度であった。
「時間だぞ。皆、席に着きなさい」
すると、その類いの話で教室内が持ちきりになっていたこのタイミングで、担任の先生が時間になってやって来た。ちょうど話を終わりにしようと大抵の皆が思っていた時であったため、話足りないなどと言った事はなく、これを期にこの話題については終わりになるのが決まる。
それから先生の朝の話を聞いた後は、10分間の休み時間を経て1時間目の算数と2時間目の社会の授業が行われたが、担任の先生が間違えて小テスト用の用紙ではなく、単なる白紙を持ってきてしまったため小テストそのものが中止となった以外は、特に変わった事もなく進んだ。
「えっと、次の体育の授業内容は……確か、他クラスとのドッジボール練習試合だったな」
「はぁ……しかも、男子と女子両方とも強いクラスとやるみたいよ。ただ、それでも男子は武君や出来杉君たちが居るから良いけど、私たち女子の方は――」
3時間目の体育の授業のために体育館へと移動している途中、ドッジボールの練習試合の相手が男子と女子共に強いクラスである事から、特にのび太たちのクラスの女子の一部はあまり気分が良くなかった。しずかちゃんやその他2人程運動神経が良い女子は居たものの、それでも相手の方が何らかの運動クラブなどをやるなどして、技術的に上の児童が多かったためである。
「あぁ、ソイツなら心配ないぜ。何で言っても、この2人が居るからな。何て言っても、男子に混じってドッジボールで戦える程なんだからな」
「武君。レミリアちゃんとフランちゃんって、運動でもそんなに凄い子だったの? まあ、頭の良さの方は日本語ペラペラって時点で凄いとは思ってたけど……」
「勿論だぜ。少なくとも、男子に混じってドッジボールを戦い抜ける位にはな。ちなみに、この間やった時は相手のボールに一回も当たらなかったな」
しかし、ジャイアンがレミリアとフランが居るから問題ないと、男子に混じってドッジボールをやり、一切当たる事なく試合を終えた時の事を引き合いに出して、若干不安がる女の子の不安を解消しようと試みた。
「男子に混じって……ねえ、2人共。武君がそう言ってるけど、本当?」
「あぁ……そう言えば、そんな事あったわね。ええ、本当よ」
「本当だよ! 証拠はそうだね……授業の時に見せてあげる!」
ジャイアンが言い終えると、その話を聞いた女の子は真偽を確かめるためにレミリアとフランに対し、それは本当なのかと問いかけた。
実際、男子に混じってドッジボールの試合をやって、なおかつどんなボールにも当たらずに試合を切り抜けた経験が2人にはあった。そのため、女の子からの問いに対してレミリアは自信満々に本当だと答え、フランに至っては授業の時に証拠を見せてあげると堂々と全員に宣言をした。そこまで自信ありげに言うのなら、きっと本当なのだろうと問いかけた女の子は思ったらしく、体育館に着く頃には不安の表情は消えていた。
「今日はよろしくお願い致します。あくまで練習試合と言う体でありますが、お互いに全力でやりましょう」
「ああ、勿論だ!」
そうして体育館に入ると、既に待っていたらしい相手クラスの男の子が1人近寄ってきて、お互いに頑張って試合をしようと言いながら握手を求めてきたため、手を差し出されたジャイアンはそれに応じ、手を差し出して握手をした。相手クラスの女の子の方は、しずかちゃんが握手に対応している。
「それにしても、まさかアメリカからの留学生の子と戦う事になるとはね。貴女たち、運動は得意?」
「ええ、得意よ」
「私もお姉様と同じだよ!」
「……みたいね。これは、舐めてかかると痛い目を見る事になるか」
お互いのクラスの男の子と女の子の代表同士が握手をしたり言葉を交わすなどした後、代表とは違う相手クラスの背が高い女の子がレミリアとフランの下へ近寄って行き、運動が得意かどうかといきなり質問を投げ掛けた。聞かれた2人は実際に運動が得意であると、そう自分達のクラスにもジャイアンを、女の子に対してもそう答えを返した。
あまりにも自信満々にレミリアとフランが得意だと答えたからか、そう言われるまでもなく何かを感じ取ったのかは分からないものの、相手の背が高い女の子の2人に対する警戒心が最大級にまで跳ね上がった。その様子を見ていた相手クラスの女の子もそれに触発されたのか、2人に対して同様に警戒心を露にし始める。
「では、全員準備は良いか? これから授業を始めるぞ」
その様な雰囲気の中、チャイムが鳴り、相手クラスの担任の先生が体育館に居る全員に向けて授業を始めると言ったため、
まず最初は、お互いのクラスの男子による練習試合が始まった。と言っても男子全員でではなく、その中の7人程度から選んで出ると言った感じであるので、こちらから出るのはジャイアンや出来杉や他5人の運動神経抜群な男子だと決まっている。練習とは言え、あくまでも試合であるから仕方ないとは分かっていながらも、のび太が弾かれた事にフランは露骨に不満げな表情を見せたが、声には出さなかった。
今現在、のび太のクラスと相手のクラスの男子同士の戦いは、ジャイアンと出来杉の活躍によって互角の様相を呈していた。こちら側が当てれば相手の外野がすかさず仕返し、相手が当てればジャイアンや出来杉がやり返すと言った光景が続き、一向に試合が進展しない状況が4分程続いた。
「くっ! 剛田に出来杉……他の奴も大概だが、やはりこの2人は別格だ! やるではないか!」
「そう言うお前らも、出来杉を外野に追いやるなんてやるじゃねえか!」
ただ、流石に体力の消耗からか時間が経つにつれてどんどん人数が減っていき、終いには味方側と相手側が残り1人ずつと言う所まで試合が進展していった。
「ねえ、お姉様。ジャイアンと相手の男の子、どっちが勝つと思う?」
「そうね……余程のミスをしない限りだと、ジャイアンかしら。見たところ技術的にはほぼ互角みたいだけど、体力面でジャイアンの方が有利だからね。この試合を見てて分かったわ」
「へぇ……」
互いの実力が拮抗している白熱した練習試合を、何だかんだで楽しく見ていたフランが、何となく今残っているジャイアンと相手の男の子のどっちが勝つと思うかを、同じく楽しんで見ていたレミリアに問いかけた。
すると、そんなフランの問いかけに対して、レミリアは殆んど考える事なく、今回勝つのはジャイアンの方であると断言した。今までのジャイアンとの付き合いと、今行われている試合の様子から導きだしたらしいが、フランはレミリアが能力を使って『少し先の未来』を見たのではないかと勘ぐっていた。
「よし! 何とか勝ったぞぉ!」
2分程経った後、能力を使って少し先の未来を見たからか、はたまた普通に導きだしたからなのかは不明であるものの、試合の結果はレミリアの予想通り、ジャイアンが一対一のボールの投げ合いを制し、この試合を味方側の勝利で飾って終えた。
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