スカーレット姉妹の現代旅   作:松雨

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スカーレット姉妹と旅行(2日目前半)

「ん……あれ? お兄様とお姉様が居ない……? あっ、もう11時過ぎてる……早く寝たのに、何で? どうして? 最悪……」

 

 旅行の2日目、朝早く起きてのび太やレミリアと楽しい1日を過ごそうと思っていたフランであったが、その計画は早くも頓挫する事となった。何故なら、のび太に合わせて朝早く起きるつもりだったのが、実際には昼近くまで眠っていた事に気づいたからである。

 

 こう言う事が起こり、時間を無駄にした挙げ句にのび太やレミリアと楽しく遊ぶ機会を失うのを恐れていたため、フランは高ぶる気分を抑えて夜更かしなどはせず、全員と一緒の時間に眠ると言う対策はしっかりと取っていた。にもかかわらず、11時を回る時間帯まで眠ってしまったと言う事実に、本来であれば最高の目覚めとなるはずが、フランにとっては最悪の目覚めとなってしまった。

 

「お兄様、無理矢理にでも起こしてくれれば良かったのに……でも、きっと優しいお兄様の事だから、寝てる私を無理矢理起こすなんて考えなかったんだろうなぁ。むしろ、起こそうとするお姉様とかドラえもんを止めそう」

 

 故に、フランの頭の中にはのび太に対して、無理矢理にでも良いから起こしてくれれば良かったのにと言う不満が、少しずつ芽生え始めてきた。

 ただ、今まで一緒に過ごしていく中で、自分がスヤスヤと気持ち良く眠っている時に、心優しいのび太が無理矢理起こしてくるような性格ではないだろうと思い立ったため、その不満は即座に霧散する事になった。

 

「さて、1人で喋っててもひたすらに虚しいだけだし……着替えてお姉様探しに外でも行こ」

 

 その後、独り言を言っていてひたすらに虚しくなってきたフランは、恐らくドラえもんと出掛けているだろうのび太を探しに行くのは取り敢えず後にしておき、まずは自分を置いて何処かに出掛けたりしないはずのレミリアを探す事を決意した。なので、善は急げと思ったフランはパジャマから替えの洋服に着替えた、歯磨きをしてから濡れタオルで顔を拭き、万が一の事態が起こらないようにのび太かドラえもんのどちらかが置いたと思われる、枕元のテキオー灯を使用してから部屋を出て行こうとした。

 

「あら、ようやく起きたのね。目覚めはどうかしら? フラン」

「一言で言えば、最悪。せっかくお兄様やお姉様と一緒に楽しく過ごしたかったのに、こんな時間まで寝てた私のせいで自分の楽しみを壊しちゃってさ。と言うか、それだけならまだマシ。1番嫌なのは、お兄様とお姉様が私を加えた3人でのお出かけを楽しみにしていたのに、出来なくてがっかりさせちゃう事。だから聞くけど、お姉様はどう思ってるの?」

 

 すると、靴を履いて木目調の扉を開けようとしたタイミングで、ほぼ同時にレミリアが扉を開けて玄関へと入ってきた。そのため、計らずもレミリアを探すと言う、フランの目的の半分が速攻で達成される事になった。

 

 一瞬喜びそうになるフランであったが、レミリアから目覚めの気分を問われた時に一転して表情を曇らせ、気分は最悪であると言ってから、自分が朝早くに目覚められなかった事に対する後悔をし始めた。そして、そのせいでレミリアが楽しみにしていた、自分とのび太を合わせた3人でのお出かけが今日出来なくなった可能性が高まり、がっかりさせていないかとの問いを投げ掛ける。

 

「大丈夫よ。私は何とも思ってないから。それと……ごめんなさい、フラン。最初は貴女を起こしてあげようと思ったのだけど、幸せそうに寝言で『えへへ、お兄様……お姉様……』って言ってるのを聞いたのび太が、良い夢見てそうなのに覚まさせるのは忍びないって言ったのよ。私もそう言われて確かにって思ったから、そのまま寝かせておいたの。貴女の様子を見て、間違いだったと思ったわ」

 

 心配そうな表情でそう問われたレミリアは、自分は一切その事については気にしてはいないと笑顔で断言をした。その後、目覚めが最悪だとフランが言っていたため、幸せな夢を見ていそうなフランを起こすのが忍びないと言うのび太の意見に同調をして、正午近くまで寝ていたのに起こさなかった事を謝った。気を遣ったつもりが、それがかえって裏目に出たからである。

 

「ううん、お姉様が謝る必要なんて全くないよ! 私がちゃんと起きられれば良かったんだし!」

「そう? 本当に気にしてない?」

 

 第三者から見て、非常に申し訳なさそうな態度と表情で謝っているレミリアを、大幅に寝過ごした事をフランはそもそも()()自分の責任であるとしか思っていない。なので、フランはレミリアに対して、謝る必要などないと言いながら曇った表情からいつもの笑顔に戻し、元気になってくれるように促した。それにより、レミリアの心から重りが取れ、表情から悲壮感が消える。

 

「勿論だよ、お姉様! それと、1つ聞きたい事があるんだけど……お兄様って、何処に居るのか知らない?」

「のび太? のび太なら、フランが寝てる間にドラえもんと『思い出した用事』を済ませてくるって言って、どこかに出掛けていったわよ」

「そっか。はぁ……」

 

 この問題を2分程度でさっくり解決させた後、フランはもう1つの目標であるのび太の居場所を、ほぼ一緒のタイミングで起きたはずだと踏んだレミリアに対して質問を投げ掛けた。

 しかし、のび太は既に朝食を済ませた後、思い出した用事を済ませてくるとレミリアに言い残して、ドラえもんと一緒に旅館の外に出掛けている事が判明する。故に、今日はドラえもんを加えた4人での外出が不可能となってしまい、フランは気分が再び落ち込んでしまった。

 

「しょうがないわよ。それとも、フランにとっては私じゃ、のび太の代わりにはならないの……?」

「え!? お姉様、違うの! そんなつもりじゃ……私、お兄様も

 凄く大好きだけれど、お姉様だって凄く大好きだもん! 例えば、スッゴく私に優しいところとか、容姿とか性格とか振る舞いだって……とにかく全部ね! ただ、お兄様が居ればもっと楽しかったのになって思ってただけで……ごめんなさい」

 

 そんな様子を見たレミリアは、自分ではもはやのび太の代わりを務める事は不可能なのかと言う思いがよぎり、思わず悲愴感が漂う声で、そう質問を投げ掛けてしまった。

 ただ、フランはのび太も好いているが、レミリアも同じ位に好いているため、代わりにならないと思った事など一切合切なかった。故に落ち込み始めたレミリアに大層焦り、必死にそんな事はないと分かってもらうために、言葉や仕草などでアピールしていた。

 

「ふふっ、良かった。私もフランが凄く大好きよ!」

「あっ……うん! お姉様、大好き!」

 

 フランが自分の好きなところをアピールし、決して代わりにならない事などないと必死になるのを見たレミリアは、何を馬鹿な事を考えていたんだと思うと同時に安心し、思わず抱きついてしまう。その行為にびっくりするフランではあったが、大好きな姉に抱き締められた事がとても嬉しかったため、同じように抱きしめ返しながら、大好きだよと言った。

 

「さてと、のび太たちも居ない事だし……私たちも出掛けましょう。2人きりのお出かけだから、旅館周辺を超えた場所にまで遠出する事は出来ないけど」

「へぇ……どうして?」

 

 他人から見れば微笑ましいやり取りを交わしつつ、テキオー灯を手提げバッグにしまっていた部屋を出た後、館内を歩きながらレミリアが旅館周辺1km圏内での、比較的近距離の中でのお出かけをフランに対して提案をした際に、これを超える距離のところへ出かける事は不可能であるとのレミリアは告げた。

 

 旅館からさほど離れていないところにある店だけでなく、パンフレットに書いてあった、少し遠くの楽しめそうな何かがある場所まで行ってみようかと考えていたフランは、レミリアの問いに対してそれは何故なのかと疑問を呈す。

 

「私たち、スネ夫の両親にとっては()()()()()だからね。万が一の時の責任や後始末を考えてみなさい。もし、私たちの身に何かトラブルが降りかかろうものなら、責任は誰が負う事になるのかって」

「うーん……スネ夫のお母様たち……えっと、もしかしたら私たちを旅行に送り出したお兄様のお母様たちにも責任を取る必要が出てくる可能性があるかも?」

 

 すると、レミリアはフランにそう質問をされる事を予想していたらしい。言われてすぐに、自分たちが今は他所から一時的に預かった子供と言う体であるからと答える。そして、仮に変なトラブルなどに巻き込まれたりして何らかの損害を受けた場合、その責任や後始末が誰にのしかかる事になるか考えてみろと、逆に聞き返した。

 

 結果、フランはスネ夫の両親や、旅行に送り出してくれたのび太の両親に責任や後始末が降りかかるかもしれないと言う考えに至った。

 

「うん、スネ夫の両親はほぼ確実と見て良いわ。それに、もし私やフランが傷ついたら、心優しいのび太は一体どう思うのかしらね」

「あっ……」

 

 更に、何かが起こって自分たちが傷ついてしまった時、のび太がどう思うのだろうかとレミリアが言った事で、フランは身震いした。1週間程前に万引き犯の疑いをかけられてしまい、まるで自分の事のように思い、誤解を解こうと必死になってくれた時に見せた、のび太の悲愴感漂う表情を思い出したからである。

 

「そうだね、お姉様。私はもう、あの時のようにお兄様にあんな悲しそうな表情させたくないし、楽しそうに笑っていて欲しいから。本当は遠出したかったけれど、近場で我慢しておく……いや、近場が良いな」

「ええ、それが1番よ。のび太が落ち込んでると、こっちまで落ち込むから」

 

 故に、フランの遠出したい欲は、熱された鉄板に水をかけた時のような感じで急速になくなっていった。それどころか、ドラえもんたちが戻ってくるまで旅館から出ない方が良いのではとまで思い始めたものの、それではレミリアとのお出かけが出来なくなって意味がない。なので、何かあった時に旅館にすぐさま戻れる程度の範囲内でゆっくり外で遊ぶ事に決め、そのまま正面玄関口から出て行った。

 

「ねえ、お姉様。私と居て楽しい?」

「今更何を言ってるの? 大好きな妹と一緒に居るのに、楽しくないはずなんてないわ。フラン」

 

 そうして、うっかり迷ったりしないようにパンフレットを見ながら手を繋いで歩いている時、不意にフランが自分と居て楽しいのかと、レミリアに対して聞いていた。本当であれば、今日楽しみにしていたのび太とのお出かけをするはずであったと言う事実を引きずっていて、それが原因でどうしても、レミリアが自分と居て楽しく思ってくれているかどうかと、不安に駆られていたが故の行動である。

 

 しかし、レミリアはフランと居る時は常に心から楽しく幸せな気分であり、つまらない・嫌い・鬱陶しいと言った負の感情を抱いた事は一切なかった。なので、当たり前の事を聞くなと言わんばかりに、その質問に対してレミリアは楽しいと答えた。

 

「楽しい……そっか!」

「うんうん、やっぱり貴女は笑顔じゃないとね」

 

 結果、心の中に燻っていたその不安は少しずつ塵となり始めて最終的に完全消滅し、気分が軽くなって笑顔が戻る。その様子はまるで、厚い雲から射し込む陽光が徐々に広がっていくようであった。

 

「ほら、お姉様見て! 秋仕様のリストバンドだってよ! 今つけてる私の奴に色以外そっくりだし、買ってったらお兄様とお揃いだね!」

「ええ、確かにね。のび太ならフランからのプレゼントは余程のものじゃない限りは喜んでもらってくれそうだけど……これ、女の子用よ? 男の子ののび太がつけてくれたとして、周りはどう見るかしら?」

 

 それからは一切気分が大きく沈む事はなく、フランはレミリアと一緒に人々が行き交う風情ある町並みを見ながら、何か興味を引くようなものがないかを探したりしていた。

 途中、自身がいつもつけている手首の飾りに、色以外は非常に良く似たリストバンドを見つけたフランがこれを買っていって、のび太とのお揃いにしようかと考えるも、女の子用であるこの商品をつけた場合の周りの目を気にしたレミリアの発言により、断念して他のものにする事を決める。

 

「……うん。考えれば考える程嫌な事しか頭に浮かばないし、お兄様へのお土産は他のにしよう。あ、このリストバンド自体は買っていって、お姉様とのお揃いにするね!」

「なるほど。それなら大歓迎よ」

 

 とは言え、心の中ではお揃いを諦められず、それを過度にからかってのび太の心を傷つけようとする奴がいるならば、問答無用で物理的に半殺しにしてやろうかと言う程の物騒な考えがよぎってはいる。それでも、フランがお揃いのリストバンドを買ってつけさせる事を諦められた理由は、強行してのび太に恥をかかせた上に嫌われると言う、心が焼かれるような苦しみを味わう事態を引き起こす方が、本人にとっては圧倒的に恐ろしかったためだ。

 

 のび太にとって、自分が両親やドラえもんと並ぶ重要な存在で居て欲しいと言う強すぎるフランの想いの前には、元から持っているあらゆる衝動すら、頭によぎる事はっても表へ出る事は出来なかったようである。

 

 ただし、フランが普段つけているものとそっくりなリストバンド自体は購入し、つけても何ら問題のないレミリアにプレゼントしてお揃いにする事を決めた。そう言われた本人も妹とのお揃いを喜んでいるため、フランは店前にあった実物を1つ取って店の入り口にあるレジへと持って行き、素早く会計を済ませた後にレミリアにつけてあげていた。

 

「お姉様とのお揃いの物は買ったし、次はお兄様とのお揃いの物を買わなきゃ! でも、何を買ったら良いんだろう? うーん……やっぱり眼鏡かなぁ?」

「あらあら……」

 

 レミリアにリストバンドをつけてあげた後は、自分が身に付けても殆んど問題のない、のび太とのお揃いの物を買うためにフランははしゃぎながら色々な店を巡り始めた。最初はのび太へのお土産を買ってあげる予定だったのが、いつの間にか自分が身につけるお揃いの何かを探す行為へと変化していた事に、後からついていっているレミリアは、微笑みながらそれを見守っていた。

 

「あっ! お姉様、これなんかどう!? 形が少し違うけど、色合いとかがお兄様のつけてる眼鏡とそっくり!」

「へぇ……フランの眼鏡姿なんて初めて見たけど、可愛いわね。私的にはその姿、好きよ」

 

 20分程歩き回り、入っていった店の中にあった伊達メガネをフランが発見した。形状などに差異が見られるも、のび太のつけている普通の眼鏡と似ていると言えば似ていて、女の子がつけても問題がなさそうなそれに、フランのテンションは上がった。試しにつけてみたところ、レミリアも可愛いし好きであると答えた事でフランは速攻で購入を決意し、他にも適当なスナック菓子をかごに入れてレジに向かい、会計を済ませる。

 

「あら、つけて歩かないの?」

「うん! だって、お兄様にサプライズで見せたいんだもん! もし、この辺でお兄様たちが歩いてたら、見られちゃうかもでしょ? それに、他人に見られてたって全然嬉しくないからさ」

「なるほどね」

 

 会計を済ませて店を出た後、買った伊達メガネを壊れないようにケースに入れて手提げバッグにしまったフランを見て、レミリアはつけて歩かないのかと疑問を抱いたため、そう聞いてみていた。

 すると、フランはこの姿をサプライズで見せたいのだけど、もしのび太たち一行がこの辺りで歩いていたらそれが台無しになってしまうのが理由だと答えた。後は、他人に見られて何か言われたとしても、全然嬉しくないからと言う理由もあるらしい。レミリアはそれを聞き、なら納得だとその理由に同意を示した。

 

「おじさん! コロッケ2つちょうだい!」

「はいよ! 嬢ちゃん、熱いから気を付けな!」

「はーい! お姉様、美味しそうなコロッケだし、一緒に食べようよ!」

「ええ、勿論よ」

 

 楽しく会話を交わしながら旅館の近場を歩いて回りつつ、大分遅めの昼食としてコロッケや唐揚げを頬張り、飲食店に入ってサラダとお茶などを美味しく食べて、殆んど空腹を解消させていた。最近は吸血行為をしていないが故に、完全には解消される事はないものの、まだ耐えられそうではあるらしい。

 

「ふぅ……随分と楽しんだわね。日が暮れ始めたし、そろそろ戻るわよ」

「はーい! でも結局、お兄様は見当たらなかったなぁ……」

「まあ、保護者として信頼されてるドラえもんが居るから、そこそこ遠くまで出掛けてたんでしょうね」

「そっか! まあ、大好きなお姉様と楽しく過ごせたし、良いや!」

 

 日が暮れ始めた時間帯、そんな会話をしながら2人は戻り始めていた。結局、のび太と出歩けなかった事に対して多少の後悔のようなものはあったが、それでもフランにとってはかけ替えのない思い出の1つとなったようである。

 

「お帰り、フラン。えっと、君に渡したいものがあるんだけど……受け取ってもらえるかな?」

 

 そうして楽しい気分のまま、20分程かけて歩いて旅館へと到着した2人が自分たちの部屋へと戻ると、一辺が15cm程の正方形の箱を4つ持って、先に部屋に戻っていたのび太に出迎えられた。

 




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