スカーレット姉妹の現代旅   作:松雨

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スカーレット姉妹の旅行(3日目)

「なあ、レミリア。昨日、のび太とフランの2人に一体何があったんだ? あの時のフラン、明らかにヤバい領域にまで達してたからな」

 

 旅行の最終日である3日目の朝、旅館内にある食堂に全員が集まって食事を済ませ、全員でのび太たちの部屋へと向かってから不意にジャイアンがレミリアに対して、昨日の夕方にのび太とフランの間に一体何があったのかと言う質問を投げかけていた。どうやら、あの時のフランが見せた独占欲を開放していたと言う、普段と様子がかなり違った理由について知りたいようだ。

 

 あの時以前にもフランののび太に対する独占欲は随所に現れていたが、それは懐いている程度の範疇に何とか収まるレベルであった。故に、今まではジャイアンたちも『フランはのび太にとても良く懐いている』と言う認識でいたため、特にそれ程気には止めていなかった。

 

 しかし、昨日の夕方にフランは、のび太は自分のもの(恋人)であると豪語した上にジャイアンたちを見るや否や、のび太はおろかドラえもんやレミリアですら厳しい口調で渡さないと言い、場合によっては実力行使も厭わないレベルで抵抗する構えを見せた。

 

 これが、質問を投げかけたジャイアンを筆頭にスネ夫やしずかちゃんたちも、フランが明らかにのび太に懐いていると言う範疇を超え、本人が側に居ないと日常生活に大きく支障を来す可能性が出てくる程、強く依存させる何かがあったとしか思えてならなかった。そのため、その内容が気になると同時に、幻想郷へと帰った後のフランの事を非常に心配しているが故の質問でもある。

 

「あの時? のび太がフランに、自作絵入りのマグカップをプレゼントした()()だから、特に何かがあった訳じゃないわ。まあ、フランの喜び様が想像の斜め上を行き過ぎたお陰で、皆に心配かけたのは少し申し訳なかった」

「えへへ……あっ、ごめんなさい!」

 

 そんな感じの質問を受けたレミリアは、昨日の夕方に起こった出来事を説明した後、フランが皆に余計な心配をかけてしまった事を軽く謝った。

 当の本人のフランも、レミリアが謝ったのに気づいてからすぐにジャイアンたちに向けて謝ったものの、昨日の余韻に浸って顔が緩んでいたため、笑みを浮かべながらの謝罪となっている。

 

「ふふっ……なるほどね。確かに、フランはのび太に()()()()()()。でも、心配しなくても大丈夫よ。幻想郷に帰ってからでも、想定出来るありとあらゆる最悪な事態には()()になり得ないから。重要な事だからもう一度言うけど、絶対になり得ないわ」

「そう! だから、心配しなくても良いよ! だって、私が元気で居ないと大好きなお兄様も悲しむだろうし、大好きなお姉様だって悲しむだろうからね!」

 

 しかし、質問に対してレミリアが何か特別な事があった訳ではないと答えたとしても、ジャイアンたちの中に潜んでいる『のび太が居なくても大丈夫なのか』と言う不安は抜けきらなかった。そのためなのか、のび太にべったりなフランの方を見て、何かを考え込むような仕草をし始めた。

 

 すると、その仕草を見ていたレミリアがジャイアンたちの心の中に潜む不安を察したらしい。それを解消させるため、フランがのび太に依存しているのは事実であると普通に認めた上で、例え幻想郷に帰ってのび太にしばらく会えなくなったとしても大丈夫だと、考えうる最悪な事態には絶対にならないと断言をした。

 フラン自身も、レミリアに続いて心配しなくても大丈夫だと笑顔で断言し、皆の不安を何とか解消させようと頑張って説明を試みる。

 

「そうか……そうだな! レミリアもそう言ってるし、フランもそう言ってんだから、間違いねえよな!」

「きっとそうだよ、ジャイアン」

「私も、話を聞いた武さんやスネ夫さんと同じで、フランちゃんなら大丈夫だって思っているわ」

 

 結果、レミリアが自信ありげに同じ事を繰り返し強調して言ったのを聞き、フランも同様に説明して心配は要らないと言ったのを聞いたジャイアンとスネ夫としずかちゃんは、ここに来てようやく安心する事が出来たようで、ホッとひと安心していた。

 

「さてと、疑問も解決したところだし……皆で外に遊びに行こうぜ! 今日の午後3時まででこの旅館に居るのも最後だし、勿体ないだろ?」

 

 そうして、レミリアとフランが3人の不安に終止符を打ったところで、今日の午後3時で旅館を出発して各々の家に帰ると言う、スネ夫の両親が決めた予定があるため、それまでに早く外へと遊びに行こうと全員に呼びかけて同意を求め始めた。

 

 ジャイアンの呼びかけに対してスネ夫やしずかちゃんはすぐに同意し、のび太やレミリアにドラえもんは少し考え、呼びかけに同意を示す。しかし、フランは大好きなのび太の気が、同じく大好きなレミリア以外の他の友人たちに散ってしまい、自分の相手をしてくれなくなる可能性があるかもしれないと言う理由から、問いに対する答えを出し渋る。

 

 ただ、昨日の夕方に思う存分に独占欲をある程度は満たせた事と、のび太の皆で一緒に遊びたいと言う気持ちを無視して、これ以降疎まれたり嫌われたりするかもしれないと考えた結果、身体が震える程恐ろしく思ってしまったが故に、他の皆と同じように皆で遊ぶ事に同意を示した。

 

 しかし、フランの心の中に潜む独占欲は消滅していないため、上手い事のび太の意思を尊重しつつ、少しでも長い間レミリア以外の友人たちに気を引かせずに自分へと気を引かせようかと画策し始める。勿論、今日1日ずっと想定し得る最悪(会話がほぼ不可能)と言う可能性も想定はしているが、出来れば想定通りにならないようにと祈る事も忘れていない。

 

「よし、決まりだな! それじゃあ、行くぞお前ら!」

 

 色々と頭の中でフランが思考を巡らせていると、全員の返答を聞いたジャイアンが勇ましく言った事で、一斉に皆が出かける準備をするために動き始めたのを、少し時間を置いてから目にする。なので、自身も急いで財布や手提げバッグを用意し、先に準備を終えて行ったのび太やレミリアの後を追い、ドラえもんと共に旅館を出て行った。

 

「この混み具合、昨日の昼間と良い勝負よ。朝9時半でこれだから、お昼頃になってきた時が恐ろしいわ」

「うん。人気があるレストランとかにはそれなりに人が並んでるし、食事処も30分~1時間待ちってところが多いなぁ。しかも、私たち合わせて7人だから、あの時お姉様と行ったラーメン店を基準に考えると……席が2ヵ所ほぼ同時に空かなければ、食べ終えるタイミングがずれるし、困るよね。お土産屋さんとかも、お会計のレジに列が出来てるみたいだし……早く決めていかないと、余計に酷くなるよ。お土産も、売り切れちゃいそうだしさ」

 

 で、思う存分に皆で買い物や食事を楽しむつもりで旅館の外へと出た7人であったものの、まだお昼前とは思えない程の混み具合に中々寄りたいと思った店に入る事が出来ないでいた。お土産屋さんなどの店では会計のレジに列が出来ていて、レストランなどの食事系の店では大体の人気店で30分以上待ちと言うところが多い故である。

 

 昨日、姉妹2人で同じエリアを出歩いたレミリアとフランもこれには辟易し、早くどこに寄ろうか決めていかないと行列が酷くなり、お土産もどんどん買われて売り切れてしまいそうだとの会話を交わしていた。しかし、どこもかしこも混んでいるが故に、全員結局は寄る場所を決めきれずに、ただ時間が過ぎて行くだけの状態となってしまっている。

 

「……参ったね、ジャイアン。こんなに混んでると、レストランとかは殆んど1時間近く待つ事になるよ? お昼時ともなれば、下手すればもっと待ち時間が増えるかもしれないし、どうする?」

「うーん……仕方ねえ。買い物はともかく待ち時間が嫌なら、食事はコンビニとか旅館に戻って済ませるようにするか? 折角ここに来てまでコンビニとかだと、何の面白味もねえが」

「いや、確かにコンビニは楽だけど、それはちょっとね……」

「だよなぁ」

 

 更に時間が経ち、あまりにも寄る場所が決まらずジャイアンとスネ夫との会話の中で、お土産はともかくとして食事はちらほら見かけるコンビニで済ませてしまおうと言う、楽に済む案が出てくる程になってきていた。まあ、スネ夫によって即座に却下されてしまうが。

 

「もうキリがないからさ。取り敢えず、混んでても何でもどこかへ寄ろうよ。例えばそうだね……あのお土産屋さんとかどう? お客さんも他のところと比べると少ないし、色々と売ってそうだから。見た感じ食べ物も売ってるみたいだから、レストランとかに行かなくても食事は済ませられそうだし」

「……だな。よし、皆行こうぜ!」

 

 どこへ寄るのかと、良い案が出ずにさてどうしようかとなっていた時、皆の会話を聞いていたのび太が声をかけ、たまたま見かけたとあるお土産屋を指差しながらあそこに寄ろうよとの提案を皆に投げかけた。そして、案が出ずに困っていたジャイアンはそれに即座に同意し、皆にのび太が指差した大きなお土産屋さんに寄ろうぜと声掛けしたお陰で、ようやくこの話に終止符が打たれる。

 

「ねえ、お兄様! このお饅頭、凄く美味しそうだよね! 買わないの?」

「限定版のお饅頭……確かに美味しそうだけど、ちょっと高いかな。僕は買わないでおくけど、フランが買いたければ買っても良いと思うよ」

「そっか。じゃあ、箱2つ買って1つはお兄様にプレゼントするね! マグカップのお返しだから、値段がどうとかそんなの気にしなくて良いよ!」

「買ってくれるの? 何かごめんね。ありがとう、フラン」

「うん! それと、お姉様はお饅頭、買う?」

「ええ。限定版だし、買う事にするわ」

 

 そうして、のび太の指差した先にあった大きなお土産屋さんの中に入ると、フランは即座にレミリアを連れてのび太の側に付き、誰かに話しかけられる前に限定版のお饅頭の話を繰り出して気を引き、他の誰かが話しかけづらい雰囲気を作り出す事に成功した。

 

 勿論、話しかけづらい雰囲気を作り出すだけであるため、タイミングを合わしてくるなどしてドラえもんやしずかちゃん、ジャイアンやスネ夫がのび太に話しかけてきた際には自分の会話を中断して一歩引き、会話が終わるまでは我慢して側で見ているつもりのようではあるが。

 

「はぁ……ジャイアン。何か店の人としょうもない理由で揉めてるお客さんが居るよ。ただでさえ行列が出来て待ち時間が長いのに……」

「スネ夫。俺に言われても困るんだが?」

「じゃあ、ドラえもん。この状況、ひみつ道具でどうにかしてきて」

 

 各々お土産屋さんで買いたいものを選び、かごに入れて順番で並んだ際、お釣りの渡し方などが気に食わなかったと言う程度の理由で、とある迷惑な客が周りの客たちや他の店員の迷惑を考えずに跪かせた上に怒鳴りつけ、レジの店員がひたすら謝り倒すと言う光景を目にしてしまい、全員の気分が少し落ち込んでしまった。

 

 ただでさえ行列が出来ていて待ち時間が長くなると言うのに、これでは更に待たされる事になってしまう。故に、スネ夫がそれによって時間が押してきてしまうのを危惧し、ジャイアンにその事を愚痴った後にドラえもんに対して、ひみつ道具で解決してくれとお願いを持ちかける。

 

「どうにかしろって言われても……いや、まあまあ棒を使えば何とかなる……フラン?」

 

 スネ夫からそう言われたドラえもんは、突然のそのお願いに困惑しながらも、迷惑客の怒りを何とかするための『まあまあ棒』と言うひみつ道具を取り出すポケットに手を突っ込もうとした。

 

 すると、今までこの光景をじっくりと見つめていたフランが持っていたかごをレミリアに預けると、無表情で怒鳴り散らす迷惑客の方へと向かっていき、服を引っ張るなどして自分の存在に気づかせた。

 

「ねえ、今すぐ黙ってくれない? それでさ、迷惑だから早く消えて。せっかくの楽しい一時に、貴方は邪魔なの」

 

 無関係な来客ですら萎縮してしまう程の威圧感を放ち、聞くだけで恐怖を煽ってくる声のトーンで店員を跪かせている迷惑客に向けて、笑みを浮かべながらそう言ってのけた。容姿が可愛い女の子と言う事も相まって、余計に印象が強くなっている。

 

「……」

 

 結果、さっきまでの威勢が完全に消滅した迷惑客はいたたまれなくなったらしく、無言で買ったお土産を持ち、店を急いで出ていった。突然の出来事に面食らう店内の来客と店員たちであったものの、すぐに気を取り直して買い物を再開したり、各々の仕事に移るなどして日常風景が戻っていった。

 

「お兄様、お姉様! これでお買い物が進むね!」

 

 そして、迷惑極まりない客であった迷惑客を吸血鬼の力を一部使用して威圧して追い出した後、フランはすぐさまのび太とレミリアの下へと向かい、他の人に聞こえる位の大きな声で『これで会計が進むね!』と言ったと同時に、何かを期待しているような笑みを浮かべながら2人を見つめ始める。

 

「そうだね、フラン。あれは凄かったよ、ありがとう」

「良くやったわね。手を出さなかったのは偉いわ」

「えへへ……」

 

 期待が半端ない程に見つめられたのび太とレミリアの2人は、フランが迷惑客を()便()()追い払った事を、自分たちに褒めて欲しいのではないかと予想した。

 なので、その通りにフランの頭を撫でながら『凄かった』や『偉い』などの言葉で褒め、ありがとうなどのお礼の言葉を投げ掛けてあげたところ、幸せを体現したかのような満面の笑みを浮かべ、照れた様子を見せた。どうやら、2人の予想は当たっていたと見て間違いないらしい。

 

 客数も多く、そんな彼ら彼女らが1度に買うものの量が多いため、行列の進む速度は早いとは言えない。ただ、迷惑客がフランによって追い出されてからは何のトラブルもなくスムーズに会計が進み、30分程度の時間が経った時に、全員がここで買いたいものの会計を済ませ、店外へと出れたため、良かったと言えるだろう。

 

 ちょっとした面倒事があったお土産屋さんを出た後は、周辺をあてもなく全員で会話を交わしながら休憩を挟みつつ歩き回り、店の混み具合や雰囲気などの要素を考慮に入れた上で興味をそそられた店に入り、見て回ってそれなりに気に入った物があれば予算の許す限り購入すると言った流れを繰り返す。

 

「え? お兄様、それだけで良いの?」

「うん。でも、僕はこれだけで持つから心配しなくても大丈夫だよ。フラン」

 

 お昼時になれば、売店で買ったコロッケや唐揚げ、焼きそばなどのお惣菜をたまたま空いていた休憩スペースに持ち寄ったりして、全員で会話を交わしながら楽しく食事を取り始めた。

 

 しかし、他の皆がそれなりな量の食べ物を食べているにも関わらず、のび太だけはコロッケ1個に小さめのサラダパック1つだけと言う少なさであった。そんな光景を目にしたフランが少ないけど大丈夫かと聞くと、のび太はこれだけで大丈夫だと笑顔で答える。

 

「そっか……」

 

 フランはそれを聞き、実は他にも何かを食べたいけど我慢しているのではないかと思いつつ、本人が大丈夫だと言っている事からこれ以上のび太の食事量については触れない事にして、自分の食事を楽しむ事に決めた。

 

 全員で食事を終えた後は再び町歩きに繰り出し、面白いものや出来事などかないかを探し回ったりして過ごした。とは言え、あらかた欲しいものや美味しいものを買ったり食べたりしていたため、殆んどただの

 

「皆、もうそろそろ旅館に戻りましょう。後30分位で時間が来ちゃうから」

「マジか。なら、仕方ねえな……」

「そうね。フラン、戻るわよ」

「はーい! お兄様、行こ!」

 

 そんな時、しずかちゃんが家から持ってきていた腕時計を見た際に、いつの間にか午後2時半を回ってしまっていた事に気がついたらしい。皆に対して早く戻った方が良いと、そう声をかけた。

 

 しずかちゃんの声かけを聞いた他の皆は、もう少し遊びたいなと思いつつも、時間が来てしまうとあっては仕方ないと諦め、旅館の自分たちの居た部屋に帰る準備を済ませるために急いで戻る。

 

「あー楽しかった! お兄様からの贈り物ももらったし、初めて見る物食べる物だらけで、もう最高!」

「うん。僕も、フランやレミリア、ドラえもんたちと遊んだりしたこの旅行、良い思い出になったよ」

「確かにね」

「のび太君も、楽しめたみたいで良かったね」

 

 帰る準備をするために旅館に戻った後、自分たちの部屋へと駆け込んだのび太たちはこの3日間に経験した出来事を振り返りつつ、色々な場所に置かれていた自分たちの荷物を詰め込み、忘れ物などがないか再三再四確認してから旅館を出た。そして、スネ夫の母親が運転する荷物運搬用の車に貴重品以外を乗せると、自分たちはもう1台の方の車に乗り込んだ。

 

 こうして、色々とあった楽しい3日間の旅行は、幕を閉じる事となった。

 




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