スカーレット姉妹の現代旅   作:松雨

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スカーレット姉妹とお別れの日

「お姉様もお兄様も、凄く幸せそうに寝てる……手まで握っちゃって、羨ましいなぁ」

 

 最後の登校日にあったドッジボール大会で優勝し、のび太一行を含めたクラスメート全員と記念写真を撮ってもらったりして最高の思い出で飾った次の日の朝、こっそり一緒にのび太の布団の中で寝たフランは1人早く目覚めると、半日以上も眠っているにも関わらず未だに起きない2人を見ながら、羨ましそうに独り言を呟いていた。

 

 何故なら、フランが起きた時には既に、のび太とレミリアがお互いに向き合いながら眠る体勢を取っていたためだ。

 勿論それだけではなく、レミリアがのび太と両手を互いの胸元辺りでがっちりと握っていた状態かつ顔と顔の距離を超至近距離まで近づけて寝ていたためと言うのもあったが……どちらかと言えば、こちらの方が理由としては大きい。フラン自身、のび太と未だにそうやって寝た事がなかったから、尚更である。

 

「今日でお兄様ともお別れ……だから、私もお姉様みたいに、お兄様と何かしなきゃ……」

 

 しかも、前日にはフランの時を超える長い時間と強い快楽を与える吸血行為を、レミリアはのび太に対して行っている。もしかしたら自分たちが居なくなった後に、のび太に残る今までの思い出の多くを押し退けて、レミリアによる吸血行為が頂点に君臨してしまうかもしれないと、フランはそう考えていた。

 

 強い快楽を与えて数多もの思い出を押し退け潰し、のび太の記憶に残す。これは、自分ですら故意で行う事は禁忌であり、例え必要に迫られてした吸血行為によるものなどの故意ではない事案だとしても、あまり好ましくないとフランは思っている。だから、何とかしてそれと同等以上の何かをしなければと考えるが、どう考えてもそれ以下の事しか思い付かず、焦ってしまっていた。

 

 まあ、実際のところはフランも食事のためにのび太から吸血した事は今回の現代旅で3度あり、その上レミリアよりも一緒に居た時間も1ヵ月程長く、のび太自身もフランと共に毎日を過ごしていく事をとても楽しく思っている。なので、たかが1度や2度の快楽を伴う吸血行為では思い出を塗り潰す事など到底不可能であり、心配せずとも問題はない。

 

「フランちゃん、大丈夫? 元気なさそうだけど……」

「まあ、今日でお別れだし、寂しいんじゃないか? のび太の事、お兄様って呼んで慕ってた位だし、無理ないさ」

「うん。だって私、お兄様の事……()()()だから、その……寂しいし、怖いの」

 

 とは言え、覚妖怪のように心を読み取る事が出来ないフランに、それを知る手段などなかった。加えて、今日でのび太と別れる日だと言う事もあり、時間が経つにつれて複雑な思いが頭を巡っていって元気が失われていき、準備を終えて朝食を取っている頃にはのび太の母親やドラえもんに心配される程になってしまった。昨日と今日の落差が激しいが故に、それも仕方のない事だろう。

 

 そんな感じで心配されたフランは、何とか心配を解消してあげようとして、のび太の父親の発言に同意を示そうとした。

 しかし、記憶にあるのび太との幸せな数々の思い出や、一緒に過ごしていく内に少しずつ芽生えてきた恋心、その他抱いている数々の思いに今日がお別れであると言う現実が加わって半泣きになったお陰で、余計に心配させてしまう羽目になる。

 

「そう言えば、2人共起きるの遅くないか?」

「確かに、昨日の夕方6時頃からずっと寝てるし、体調でも悪いのかしら……? フランちゃん、2人から何か聞いてない?」

 

 ある程度の時間、沈んだ雰囲気のまま食事をし終えかけた時、のび太の父親がいつまで経っても起きてこないレミリアとのび太の事を心配に思ったらしく、ふとそんな話題を振り始めた。昨日の夕方から夕食を取らずにずっと眠っている事も確認していただけあって、母親の方は体調でも悪いのかと父親以上に2人を心配し始め、フランに何か知ってる事はないかと問いかけ始めた。

 

 実際は体調が悪い訳でも何でもなく、ただ単に吸血行為による快楽などが要因でお互いに疲労しきっているせいなのだが、当然そんな事を正直に説明する訳にもいかなかった。しかし、嘘を言おうにも、人を納得させる事が出来るレベルの嘘はそう簡単に思い付かなかったため、フランは黙り込んでしまう。

 

「皆、おはよう……」

「ちょっと遅くなったわ。それと、のび太。本当にありがとう……大丈夫?」

「うん。まだちょっと眠いけど、大分スッキリしたから大丈夫だよ。レミリア、満足した?」

「ふふっ……あれだけ良い気分にさせてもらったのよ? 当然、大満足に決まってるじゃない!」

 

 すると、そのタイミングでちょうど話の渦中にあった2人が、少し眠そうにしながらも体調は良さそうな感じで会話を交わしながらキッチンへと入ってきたのを全員が目にする。

 特に、起きてきたら何があったのかなどを聞こうと思っていたのび太の両親は、起きるのが遅かったのは2人の会話の内容から『もうすぐお別れであるが故の夜更かし』であるからだと解釈したらしく、納得して聞くのを止めていた。

 

「ねえ、お兄様。私ってさ、お兄様の思い出になれたかな? 居て楽しかったとか良かったって思える存在だったかな? 今更だけど、こうやって私がお兄様にくっついたりしてた時、実は気を遣ってただけで、鬱陶しかったり嫌だったりしなかった?」

「えっ? どうしてそんな事を急に……?」

 

 そうして、用意された食事を素早く済ませていたレミリアとのび太を待ち、2階の部屋へとドラえもんと自身を含めた4人で向かって部屋の扉を閉めると、フランは突如として悲痛な面持ちでのび太にそう問いかけた。

 食事時から凄く辛そうな表情をしていたのは見ていたために知っていたのび太であったが、部屋に戻ってから僅かに涙を流すまでに悪化していたのを見て、思わずフランに対してどうしたのかと話しかけた。何となく察してはいたが、本人の口から真実を聞き出して対処を行うためである。

 

「何かね、急に怖くなってきたの。別れて時間が経ったらお兄様に忘れられるんじゃないかとか、私との思い出がお兄様にとって負担になっていないかって」

 

 のび太からそう聞かれたフランは、今日の朝から急に抱き始めた色々な感情や思い、不安などに押し潰されそうで怖くなってきてしまったと言う事を吐露し、大丈夫だよねと言いたげな視線を向けて答えを待ち始める。

 その間にも、仮に大丈夫ではないと言われたらどうしようと不安や恐怖に苛まれ、両手を握ったり周りをキョロキョロ見回したりなどの行動を起こしたり、精神が徐々に不安定になり始めてきていた。

 

「大丈夫だよ、フラン。僕なら大丈夫だから、心配しないで。それよりも、最後の日なんだから君らしい()()()笑顔で居てくれた方が、僕はとっても嬉しいから……ね? だから、笑って欲しいな」

「っ……! うん! えへへ……お兄様に、可愛いって言われた……!」

 

 明らかに不味いこの状況に、フランの突然の変わりように少し驚いていて黙っていたのび太も、早く何か安心させる一言や行動を起こさなければと思考を一瞬だけ巡らせる。そして、その後思い付いた行動を起こしつつ、安心させるだろう言葉をかけた。

 

 不安に押し潰されそうだったフランは、そんなのび太の顔をかなり近い距離まで近づけた上での頭を優しく撫でつつ、言われて喜びそうな言葉をかけると言う行為によって、心の中に巣食っていた不安は最初からなかったかのように消え去った。

 

 それどころか、可愛いと言われた事によって万引き犯騒ぎの日からほんの僅かながら芽生え、2泊3日の旅行時に自作絵入りのマグカップをもらった日に急に増大した恋心がここに来て更に増大し、夢のような幸せな気持ちで満たされる。

 

「えへへ、今日だけは私が大好きなお兄様を独り占め! 例え、お姉様やドラえもんにも渡さないからね!」

 

 故に、テンションが猛烈な勢いで上がっていったフランはのび太の膝にぴょこっと座ると、レミリアとドラえもんに向かって今日はのび太を独り占めするから絶対に渡してなるものかと、両手を広げて守る体勢を取り始めた。とは言え、仮に2人がのび太と会話を試みたり出掛けようとしたりしても、理不尽に傷つけさえしなければ魔法や能力を使ってまで守る(奪う)つもりは、本人にはないらしい。

 

「ふふっ……はいはい。ドラえもん、行きましょうか」

「うん、そうだね。じゃあ、ゆっくりしてて」

 

 そこまでしてのび太と2人きりで居たいと言う意思を、自分たちの目の前でまざまざと見せつけられたレミリアとドラえもんは、先程までとはうってかわってとても幸せそうなフランを暖かい目で見ながら、この時間を邪魔してはならないと思ったようで、ゆっくりしててと声をかけた後に部屋を出て行った。

 

「お兄様! これでお部屋で2人きりだね!」

「うん。そうだけど、あまりする事ないよ? フランは、それでも平気?」

 

 レミリアとドラえもんが気を遣って部屋を出て行った後、フランはのび太に正面を向くようにして膝に座り直し、2人きりになった事を喜び、のび太に対して話しかけた。

 

 対して、のび太は2人きりになる事自体は歓迎しているものの、この部屋だとトランプ等のカードゲームやオセロ等のボードゲームしかなく、フランが幻想郷に帰るまでの時間を持たせる事は難しいと思っていたために、大丈夫なのかと問いかけていた。もし、無理であるならドラえもんからひみつ道具を借り、何とかしようとも考えているらしい。

 

「平気だよ! 私はね、どれだけ娯楽のない退屈な場所に居ようと、お兄様と一緒ならとっても楽しいし、嬉しいの。と言うかむしろ、邪魔の入らないこの場所でお兄様と2人きりが良いなって思ってるよ。だって、そうしたらお兄様の気が、()()()に向くでしょ?」

「なるほどね。君がそれで良いなら」

 

 しかし、そんなのび太の問いかけに対してフランは即座に平気だと答え、むしろのび太の気が自分だけに向く幸せを噛み締められると言う意味では最高だと、抱きつきながら言ってきた事によって、本人がそれなら良いかとのび太は納得した。

 まあ、自分自身もフランと一緒に居て、楽しい幸せな時間であると思っている事も大きかったが。

 

 フランとそんな会話を交わした後、そうは言っても話してばかりだとネタもなくなってあれだと思ったのび太は、引き出しからトランプを出してババ抜きをやろうとの提案を持ちかけた。当然、この雰囲気の中で断る理由など全くなかったフランは喜んで了承し、早速ババ抜きが始められる事になった。

 

「やった! またお兄様に勝った!」

「えぇ……ババ抜き3連敗って……僕、そんなに分かりやすいかなぁ?」

「うん、分かりやすいよ! だってお兄様、顔に出てるもん!」

「あはは……なら、次こそは僕も頑張らなきゃね」

 

 ただ、その結果はのび太の3連敗と言う結果に終わる事となったようで、連続で勝って喜ぶフランに対して、負けすぎて逆に苦笑いする様子をのび太は見せていた。

 あまりにも負けすぎるものだからか、自分はそんなに分かりやすいのかと勝負終わりに聞いてみたものの、顔に出てるとの指摘をのび太は受けてしまった。故に、次やる機会があった時は顔に出ないように気を付けなければと、そう誓った。

 

 ババ抜きを終え、トランプで出来る知っている遊びをあらかたやった後は、ここしばらく使っていなかったオセロボードを取り出し、これで遊ぶ事に決めた。が、お互いにルールを良く分かっていなかったため、ルールブックを見ながらとなる。

 

「何とか勝てたぁ……」

「えへへ……お兄様に負けちゃった!」

「フラン、負けたのに何だか嬉しそうだね」

「うん! だって、お兄様と2()()()()で遊べてるんだもん! 負けても勝っても、私にとってはこれだけで凄く幸せな一時なの!」

 

 時間をかけて戦ったオセロの結果は、のび太の辛勝で幕を閉じた。悔しがるかと思っていたものの、負けたはずのフランがとても嬉しそうなのを見て不思議に思ったのび太が聞いてみたところ、本人曰く2人きりで遊べているから、勝敗に関わらずとても幸せだからと即答した。どうやら、のび太と一緒にいるこの状況が、負けた際の悔しさを軽く凌駕しているようである。

 

「うーん、もう遊ぶようなものがない……」

「それならさ、座ってお話ししようよ! 私はそれでも良い……いや、それが良いの!」

「分かった」

 

 オセロを遊び終えた後、他に何か遊べるようなものはないかと部屋中を探し回ったものの、トランプとオセロボードしかない事が判明したため、ゆっくり座って会話をする事に2人で決めた。

 

 そうして始まった会話は何回か聞いた事のあるものや、他愛もないものであった。しかし、フランはのび太の話す言葉一つ一つを、とても幸せそうな笑みを浮かべながら真剣に聞き入っていた事から、話の内容云々よりも、自分を退屈させまいと頑張って話す姿を見ているだけで問題ないらしい。

 

 逆に、フランが話した事は純粋に初めて話す内容のものが多く、聞いているのび太にとっても興味のある事柄も多かった。なので、時折質問したりするのだけど、自分の話を真剣に聞き入ってくれている事に嬉しさが爆発したのか、それに気がつかずに進んでしまう事が多々あり、結局はそれ程幻想郷の事については分からずじまいで終わってしまう。

 まあ、のび太はフランが喜んでくれているので、特に幻想郷の事が分からずじまいでも気にはしていないようだが。

 

「盛り上がっているところ悪いけど、そろそろ帰るわよ。フランドール。レミリアも下で待っているから、出来るだけ早く準備を済ませて頂戴」

「えっ……帰る……?」

 

 ただの会話でお互いに盛り上がり、それが1時間を超えたある時、突如として2階の部屋に紫が入ってきて、もうそろそろ帰ると言ってきた事によって、のび太はともかくフランの幸せな気分が粉微塵に吹き飛んでしまう。もうすぐお別れだと言う現実を見ないようにしていたのに、これによって現実に再び引き戻されてしまったためである。

 

 本当であれば、大声で泣き叫んでもここに居たいと言いたかったフランであったが、のび太が自分の笑顔を可愛いと言ってくれた事と、大好きな姉であるレミリアを困らせる訳にはいかないと言う事もあって一瞬困惑したものの、すぐに無理矢理笑顔を作ってから急いで居間へと向かい、各種荷物をしまうなどして準備を済ませた。

 

「ありがとう。1ヵ月間、とっても楽しかったわ」

「私も楽しかったよ! 皆、ありがとね!」

「君たち2人に楽しんでもらえたのなら、何よりだ」

「レミリアちゃんもフランちゃんも、帰っても元気で居てね」

「ええ、勿論よ」

「うん、勿論だよ……あっ、そうだ!」

 

 そして、玄関口で紫たちとのび太たちが集まり、各々が感謝などを言い合ったりするなどしてやり取りを交わし、さて帰ろうかとなったところで突然フランがのび太の前にやってくると、自分の身長と同じ高さに視線を合わせてくれと、別れる前の最後のわがままと称してお願いをし始めた。

 

「大好きだよ、私だけのお兄様。だから、いつまで経っても私の事……忘れないでね」

 

 不思議に思いながらも、のび太がそのお願いを聞き入れて視線を合わせてくれたのを確認すると、フランは一言のび太に言った後にその軽く唇にキスをした。そしてすぐ、顔を赤くしながら紫とレミリアを置いて日傘を差し、逃げるようにして外に出て行った。そんなフランを微笑ましく見つつ、のび太と両親とドラえもんに一礼してから、紫とレミリアは後を追って家を出て行く。

 

「……」

 

 まさか、軽くとは言え唇にキスをされるとは夢にも思っていなかったのび太は、驚きのあまり言葉を発す事が出来ぬまま、去っていく紫たち3人を見送る。

 そして、フランにキスをされたのび太を、ドラえもんたち3人はとても微笑ましいものを見るような目で見つめていた。

 

 こうして、レミリアとフランの1ヵ月以上もの色々あった現代旅は、幕を閉じる事となった。

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価、感想をくださった方にも感謝です。お陰様で、完結まで持ち込めました。
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