「お兄様来ないなぁ……何かあったのかな?」
「……来ないわね。のび太が本当に帰ってくる時間なのかしら? ドラえもん」
「うーん……今日は早く帰ってくるらしいから、本当はこの時間に帰ってくるはずなんだけど……」
フランがのび太の帰りを待つために玄関へと向かってから2時間、やる事がなくなったレミリアとドラえもんも時折一緒に待っていた。しかし、午後2時を過ぎても一向に帰ってこないため、テンションが高かったフランも流石に下がってしまい、何かあったのではないかと心配するようになっていた。
レミリアは、のび太の帰ってくる時間をドラえもんが間違えているのではないかと思ったようで、この時間で合っているのかと質問していた。聞かれたドラえもんは、どうして帰って来ないのか分からないらしく、一生懸命考えていた。
「あ! もしかして、居残りさせられてるのかもしれない」
「居残り……?」
「うん。のび太君、学校の宿題をしょっちゅう忘れたりするから、その忘れた宿題をやらされてて帰りが遅くなってるのかも。後はそうだね……無理やり掃除を押し付けられたりとかした時も、遅くなる事があるんだ」
そうして、ドラえもんがのび太の帰って来ない理由を必死に考えていた時、学校へ居残りさせられているのかもしれないと言う可能性にたどり着いた。その流れで、無理やり掃除を押し付けられていると言う、もう1つの可能性もあるとドラえもんが言ったその時、その話を聞いていたフランの表情が微かに曇った。
どうしたのかとレミリアが聞くと、フランは『無理やり掃除を押し付けられた』と言う部分に強い不快感を感じたため、表情が曇ったとの事らしい。
「宿題忘れて居残りかぁ。それなら仕方ないけど……もしも、無理やり掃除を押し付けられたりとかだったら、ソイツは許さない。お兄様に嫌な思いさせて、私とお姉様の気分を壊したのだから……然るべき報いを受けてもらわないとね」
「然るべき報い? フラン、貴女一体何をする気なの?」
前者の『宿題を忘れて居残り』がなかなか帰って来ない理由なら仕方ないと思っているらしいが、後者の『無理やり掃除を押し付けられた』と言うのが理由ならば、押し付けた奴には報いを受けてもらうと、静かなる怒りを見せながら宣言をした。それを聞いたレミリアが何か嫌な予感がしたらしく、フランに一体何をする気なのかと問いかけた。
「そうだなぁ……」
すると、レミリアにそう問いかけられたフランがとんでもない事を笑顔で平然と言い放ち、この場の空気を一瞬で凍りつかせた。
「半殺しだね!」
「……」
「はぁ……フラン、それはいくらなんでも過剰すぎるわよ」
『半殺し』である。どう考えても掃除を押し付けた事に対する罰としては過剰すぎる上に、笑顔で物騒極まりない発言をするとは思わなかったらしく、ドラえもんはドン引きして何も言えなかった。それに対し、レミリアは過激路線になる事を既に予想していたらしく、落ち着いて半殺しはやり過ぎだと諭す。
「駄目かぁ……じゃあ、1発殴るのは?」
「……人間と吸血鬼の力の差を考えてみなさい。どう考えても地獄絵図になるから駄目よ」
「それなら、全力で威圧して強い言葉で抗議するのは?」
「まあ、それくらいなら……」
しかし、次にフランが提案したのは『1発殴る』と言うものであった。先程の半殺しよりは幾分かマシにはなったものの、吸血鬼と人間の力の差を考えると、どう考えても地獄絵図にしかならないため、レミリアはこれも止めるように諭す。
結果、最終的には全力で威圧しながら強い言葉で抗議すると言うフランからの提案に、レミリアがそれなら良いかと同意した事で、この話し合いは幕を閉じた。
「よし! こういう時こそ、ひみつ道具で調べてみよう!」
「「ひみつ道具で?」」
そうして、レミリアとフランの話し合いが終わったタイミングで、ドラえもんが思い出したかのようにとあるひみつ道具を取り出し、のび太が今どうしているのかを調べようとした。
「えっと……これは一体?」
「『○✕占い』って言うひみつ道具でね、これに質問すれば何でも答えてくれて、しかも的中率100%って言う優れものだけど、質問の仕方が良くないと、望む答えが返ってこない特徴があるから注意しないと駄目なんだ」
「へぇ……それは凄いわね。上手く使えば、かなり良い思いはしそうだわ」
○✕占いと言う、どんな質問にも答えてくれる上に的中率100%を叩き出す高性能なひみつ道具である。質問の仕方が悪いと望む答えが返ってこないと言う欠点はあるものの、それがあっても有り余る程の利点がある。
説明をした後、ドラえもんは早速そのひみつ道具に対して、のび太が家に帰って来ないのは宿題を忘れたせいで居残りさせられているからなのかと問いかけたところ、結果は✕であった。
「そうだ。良く考えたら今日の宿題はなかったんだっけ……あっ」
ドラえもんは何となく察したものの、一応ひみつ道具に対して、のび太は掃除を押し付けられたせいで帰って来ないのかと問いかけた。すると、○が空中に浮かんで点滅し始めたため、そうだと言う事が確定してしまった。
更に細かく質問を繰り返して帰って来た答えを聞いた後、他のひみつ道具も駆使し、最終的に
「それにしても酷い……自分たちの教室の掃除を押し付けた上に、自分たちはさっさと帰っちゃうなんて」
「確かに酷いけど、どうするの? それが分かったにしても、対処の仕方が分からなければどうにもならないわよ……ってフラン?」
ドラえもんが出したその結論を聞いた瞬間、唐突に立ち上がったフランは無表情かつ無言で2階へと上がっていった。その瞳には光が灯っていなかったため、自分の気分を台無しにした挙げ句にのび太へ無理やり掃除を押し付けた事に対する怒りが、かなり強いものであると言うのを察したレミリアがフランの後を追い、ドラえもんも更に後を追った。
そうして2階ののび太の部屋に着くとフランは椅子に座り、学習机の上に置いてあった鉛筆を使い、同じく置いてあった紙を小さい四角にちぎり、何かを書き込んでいた。次にその紙を丸めると、何故かカラスを召喚して丸めた紙を持たせ、窓から解き放つと言う行動を取る。
「……フラン? 一体何をしたの?」
「あ、お姉様。えっとね、お兄様に『迎えに行くから、学校の玄関で待ってて』って手紙書いたの。私が居れば、自分たちのやるべき掃除をお兄様に押し付けた
その行動を不思議に思ったレミリアが何をしていたのかと聞くと、フランはのび太に迎えに行くと手紙を書いたと答えた。どうやら、そんな押し付けられた掃除を止めさせ、家に帰らせたいとの事だ。迎えに行くと言ったのも、仮に道中で鉢合わせした場合の対策との事。
「まあ、そうだけど……のび太の居場所は分かってるの? 手紙を渡すって事だけど、学校の中を飛んでる時に捕まったら台無しよ?」
「分かんないけど、すぐに見つかるから大丈夫だよ! それと、捕まらないように万全の対策は取ってあるから、心配はしてないよ!」
「えぇ……」
レミリアはその発言に納得しつつも、のび太の今居る場所は分かっているのか、手紙を持ったカラスが捕まったらどうするのかと聞くが、フランは対策は取ってあるから大丈夫だと自信満々に告げる。本当に大丈夫なのかと心配は拭えないレミリアであったが、飛ばしてしまったものは仕方ないと、諦める事にして結果を待つ事に決めたのだった。
「あっ……お姉様にドラえもん! のび太お兄様、もうとっくに掃除が終わってたみたい。家の近くを1人で歩いてる!」
「あら、そうなのね。変な輩が居なくて良かったじゃない」
「うん!」
すると、カラスを放ってからたった3分で戻ってきて、フランの元にのび太の居場所が家への帰り道であると言う情報が舞い込んできた。この事から、3人が色々と議論を交わしていた時にはもう既に家への帰路へと1人でついていて、学校云々の議論は無駄であった事が分かった。
「良く考えたら、最初からのび太君は学校に居るか、それとももう既に帰路へとついていたのか聞けば良かったなぁ」
「言われてみれば確かにそうかもしれないけど、過ぎた事を考えていても仕方ないわよ。とにかく、疲れているはずだから暖かく出迎えてあげましょう?」
その後、ドラえもんが質問の仕方が悪かったと少し後悔していたり、確かにそうかもしれないが過ぎた事を考えていても仕方ないとレミリアが励ましていたりと言ったやり取りを交わす事10分、2階の窓から家の前を歩くのび太の姿を見かけたため、フランが階段を駆け下り、レミリアとドラえもんがその後を追う。
「ただいま――」
「お兄様お帰りーー!! お掃除押し付けられたって聞いたけど、大丈夫だった!?」
「え!? あ、うん……大丈夫だよ、フラン。何か心配かけたみたいで、ごめんね」
「ううん、大丈夫だったなら謝らなくても良いよ!」
玄関前で待機していたフランは、のび太が家に入ってくるなり飛び付くようにして抱きつき、掃除を押し付けられたけど大丈夫であったかと、彼の身を労った。突然抱きつかれたのび太は色々な意味でとても驚いていたものの、とにかく心配をかけてしまった事だけは理解しているようで、フランに対してごめんねと謝る。
「それで、どうして僕が掃除を押し付けられたって事を知ってるの?」
「えっとね……ドラえもんのひみつ道具のお陰なんだよ! お兄様がなかなか帰って来ないから、調べてもらったの!」
「そうだったんだね。ドラえもん、ありがとう」
「どういたしまして」
謝罪を終えた後、のび太はどうして自分が掃除を押し付けられた事を皆が知っているのかを聞いたが、それはドラえもんのひみつ道具によるものだとフランが言った事により、疑問は速攻で解決した。
「さて、帰って来て早速であれなんだけど……2人とも、今から外に遊びに行かない?」
「外に? 別に良いけど……大丈夫なの?」
「私は構わないよ! でもお兄様、疲れてないの?」
すると、のび太が抱きついてきたフランをゆっくり下ろしながら、2人に向かって外に遊びに行かないかと誘っていた。それ自体は特に変わった言葉ではなかったものの、学校で掃除の押し付けなどがあったりして疲れているものだと思っていた2人は少しだけ驚き、大丈夫なのかと心配した。
「大丈夫だよ。疲れていないって訳じゃないけど、遊びに行ける位の体力はあるからね」
「ふーん……なら良いかな! お姉様も行くでしょ?」
「勿論よ。フランが行くと言うのに、私が行かないわけないわ」
しかし、遊びに行ける位には体力はあるとのび太が答えた事で安心したフランは一緒に遊びに行く事に決め、レミリアも同じく遊びに行くと言い、ドラえもんもそれを了承した。そうして2人は、居間に置きっぱなしの手提げバッグを取りに行き、のび太と一緒に家を出て行った。
「あ、そうだ! 言いそびれてたんだけど私ね、お兄様と一緒に学校に行ける事になったんだよ! いつから通うかは未定だけどね!」
「……そうなの!?」
3人で外を歩いている途中、自身がのび太と一緒に学校に通える事になったと言うのを、邪魔の入らない良いタイミングとばかりにフランは話し始めた。昨日と今日で色々驚いていたのび太であったが、まさか学校にまで一緒に行く事になるとは夢にも思っていなかったようで、大きな声を上げる程驚いた。
「うん! 1週間後に見学にも行く事になってるんだから!」
「なるほどね。と言う事は、レミリアも一緒に?」
「ええ、勿論よ。紫がどんな手を使ったか知らないけど、いつの間にか私たちに何も言わずにそんな予定を立ててたのにはビックリしたわ。まあ、お陰でフランも喜んでるし、私もその顔を見たりして良い思い出来てるからありがたいけどね」
「いやぁ……昨日と今日、驚いてばかりだなぁ。僕」
そして、フランが学校に行く事になったのなら、レミリアも一緒に学校に行くのだろうと思ったのび太がそう問いかける。当然、そうだとレミリアはのび太の問いに対して肯定の意を示した。
「レミリアやフランと学校……同じクラスになれるかな?」
「紫の事だから、そう話をつけてくれてるでしょうね。多分だけれど」
「そしたら、お姉様かお兄様の隣になれるかな?」
「僕は隣の席の人が居るから無理だろうけど、レミリアとフランは隣になれると思うよ」
「なら、嬉しいな!」
その後は3人で学校へ行った時の想像しながら話をしたり、これからのび太が遊びに向かう友達のところについて、レミリアとフランに解説をしたりしながら歩みを進めた。
「ここが『ミナモトシズカ』って女の子の家なの、のび太?」
「そう。ここが僕の友達の『源静香』って女の子の家だよ」
「そう言えば、前に来た時に唯一私が出会ってないお兄様の友達だったよね」
「うん、確かにそうだったね」
話している内に家の前に到着したため、玄関のチャイムを押した後、そんな会話を3人で交わしながら待っていると……
「あら、のび太さんいらっしゃい……えっと、初めて見る子たちだけど、知り合いなの?」
「うん。金髪の子の方が妹のフランドールって言って、こっちの水色がかった青い髪の子は姉のレミリアって言うんだ。しずかちゃんが居ない間に知り合った子たちで、紹介したくてね……もしかして、今来て迷惑だった?」
しずかちゃんが扉を開けて出てきた。調理道具を持っていたため、どうやら料理中であったらしい。タイミング悪い時に来てしまったと思ったのび太は思わず、申し訳なさそうにしながら謝罪をした。
「ううん、大丈夫よ。それよりも、家に上がってく?」
「え、良いの?」
「ええ。ちょうど今クッキーを作ってて、のび太さんとドラちゃんにプレゼントしに行こうと思ってたところだから……貴女たちもどうぞ」
「お邪魔するわ」
「お邪魔しまーす!」
それに対して、しずかちゃんは大丈夫だとのび太に伝えた後、自分の家へレミリアやフランと共に上がるように促した。クッキーを作っていて、ちょうどのび太の家へ持って行くための用意をしていたところらしく、手間が省けるのが理由との事。ちょうど遊びに来たタイミングなため、それなら断る理由などないと3人はしずかちゃんの家へと入っていき、クッキーの置いてあるキッチンへと案内された。
「結構作ったね……」
「ええ、張り切って作り過ぎて困っててね。レミリアちゃんとフランちゃんが来てくれて助かったなって」
すると、3人の目の前に現れたのはお皿に大量に盛られたクッキーであった。とても1人では食べきれない量であり、プレゼントに配る分を差し引いても余るレベルであった。このため、レミリアやフランが来てくれた事に対して拒まなかった理由の1つであるらしい。
「それと今更だけど2人の呼び方って、『レミリアちゃん』『フランちゃん』って言う風で良い?」
「のび太の友達なら、構わないわ」
「私も同じだよ! それで、貴女の事はなんて呼べば良い?」
「名前を呼び捨てで呼んでもらっても構わないし、あまり変でなければあだ名でも大丈夫」
「うん、分かった!」
そんな感じの、レミリアやフランとしずかちゃんが良い雰囲気の中、4人でのおやつタイムが始まった。
最初にクッキーを口に入れたレミリアが、咲夜の作るお菓子と良い勝負が出来る位美味しいと誉め、それを聞いたフランが続いて頬張ると同じ感想を述べた事でしずかちゃんも喜んだ。
「本当、しずかの作るクッキーって美味しいね! お兄様の友達って、皆料理が上手いの?」
「いや、それは……違うかな」
「そうなの?」
その流れで、他の友達は料理が上手いのかとフランが聞くと、のび太は顔を曇らせて違うと答えた。明らかに何かあると感じたフランが更に聞くと、のび太はジャイアンの作るシチューについて説明を始めた。
鍋から漂う強烈な異臭、何故か作っている内に紫色に変色し、入れる食材がデタラメであり、その上隠し味にセミの抜け殻を入れると言う狂気すら感じる料理だと言い終えたところで、フランとレミリアはドン引きした。しかも、のび太と友人たちがそれを食べた事があると言う事実に、2人は更に唖然とする。
「それを今考えるのは……止めましょうか」
「「「確かに」」」
あまりにも凄い話であったためか、レミリアがこの話は止めようと言い、他の3人もそれに同意したため、話題を大きく変えた。それは、レミリアとフランが実は人間ではなく、吸血鬼であると言うものである。
それを聞いたしずかちゃんは何かの冗談だろうと思っていたようだが、レミリアとフランが隠していた翼を露にして少しだけ浮かんで見せたり、魔方陣から悪魔を召喚したり、自分自身が蝙蝠になってみたりなどした事によって、信じる事となったみたいだ。
「……そんなに怖がらないのね。まあ、何となく予想はしてたけれども」
吸血鬼だと信じたのにも関わらず、しずかちゃんの態度は変わらない上に全く怖がる事はなかったが、レミリアは予想済みであったため、特に感慨もなくそう言った。
その後は特に深刻な話はせずのんびりとテレビを見たり、レミリアとフランが魔法を使った即興の芸を披露したり、姉妹の出身地についての話をしたりしながら、夕方になるまで楽しく過ごした。
「レミリアちゃんもフランちゃんも、良ければまた遊びに来てね」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「美味しいクッキーをありがとう! 私もいつか遊びに行ければ行くねー!」
帰る時間が来てしずかちゃんの家を出る時、レミリアとフランはそんなやり取りを交わしながら、のび太に連れられてこの場を後にした。
そうして楽しく話しながら歩き、家へとついた後は早めに帰って来ていたのび太の母親と一緒に、グルメテーブル掛けによって用意された夕食を食べ、それが終われば最初が姉妹、次にドラえもんとのび太と言った順番で入浴を済ませ、更にそれが済めばのび太は宿題を始め、レミリアとフランは何をするでもなくのんびりと過ごし、就寝の時間を迎えた。
こうして、驚きばかりの現代旅2日目は幕を閉じる事となった。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りと評価をしてくださった方にも感謝です。励みになります。